私たちの決闘クラブ初戦が終了した。
ピーター以外は生き残った。
予想できた結果ではある。元々ピーターは出るつもりもなかったしね。
「ったく、ピーター!もっと頑張れただろぉ」
「え⋯⋯ぼ、僕には無理だったよ⋯⋯」
ダル絡みシリウス。そうやってピーターを追い詰めるんじゃない、可哀想でしょ。
私は腕を組んだ。
「まぁまぁ、無事あなたは勝てたわけだし。それで充分でしょ」
「俺が初戦敗退になるわけないだろー。ロックハートに馬鹿にされる」
「ああ、まだ対抗意識を燃やしてんだ⋯⋯」
ちなみにロックハートは、学年ブロック内で3位という好成績を残した。シリウスと直接戦う機会はないのが残念だ。元カノ云々で競うより、魔法でやり合う方がよっぽど健全なのになぁ⋯⋯。
「そうだ、君たちに嬉しい話があるよ」とジェームズが指を鳴らした。
「何よジェームズ」
「んふふ⋯⋯。ちょいと耳を近づけてよ、リリー。これは極秘情報だから、さ♡」
「ふーん⋯⋯」
私は素直に、ジェームズの口元に耳を寄せる──。
「────わけないだろ!アグアメンティ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ジェームズの口内めがけて、水を噴射した。勢い余って鼻にも入ったらしく、ジェームズは涙目になって鼻を押さえていた。地味に不快なやつだ。
「大丈夫かジェームズwwwい、今楽にしてやるよ⋯⋯だはははははははっ!!!」
ひぃひぃ言いながら杖を振り回すシリウス。よく分からん呪文を唱えて、鼻の水を全て外に出させた。が、鼻水をぶち撒けてるようにしか見えない。私は呟いた。
「悲報:学内でハンサムと名高いジェームズ・ポッター、廊下で鼻から水を噴射する」
「悲しいかな事実」
「ホグワーツ中に広めてやろうかしら」
「流石にやめてあげなよ⋯⋯」
リーマスに止められたのでやめます。
止まリーマス、なんつって。あはは⋯⋯。
なんだか悲しくなってきたので、再びジェームズに訊いた。
「それで、極秘情報ってのは何なのよ。普通に教えなさい」
「教えるから、耳を僕に近づけて?」
「うーん、水はやったし次は火でもつけようかしら?」
「話します」
降参のポーズを取るジェームズ。
今度は
「次の試合、なんと闇祓いの人が見に来るんだって!」
「どうして知ってるのよ」
「父からの手紙に書いてあったんだ」
そういやポッター家も貴族か。色々知っていることも多いのだろう。
エマがワクワクした様子で聞いた。
「現役の人が来るの?」
「そうらしいよ。だから、これはアピールチャンスなんだ!」
ジェームズはぐっ、と拳を握りしめた。
「将来闇祓いになりたい僕たちにとって、ここで優秀な結果を見せることは就職に直結する!」
「え、ジェームズは闇祓いになりたいの?初耳なんだけど」
「前も言ったよ⋯⋯それに、君もでしょ?」
「え?」
「うん?」
身に覚えがなさすぎて首を傾げたら、同じようにジェームズも「?」を浮かべた。
「僕のことを忘れるのは⋯⋯そりゃ勿論悲しいけど仕方ないとして、自分の将来の夢は覚えてるはずでしょ⋯⋯。リリー大丈夫?最近変だよ?」
「あなたに変って言われたくはないわよ⋯⋯。それに問題ないわ、ちゃんと覚えてる」
『リリー』の記憶を辿れば、すぐに見つかった。
「スラグホーン先生にも相談していたしね」
そう付け加えると、ようやくジェームズは安堵の表情を見せた。うむうむ、心配をかけたわね。
「まだ悩んでるんだよね、リリーは」
エマが背中を叩いた。かく言う彼女は、卒業後はマグルの世界の出版社で働きたいと言っていた。多分、BL漫画を産み出す側の人間になりたいんだろう。
ジェームズ、シリウスは闇祓い志望。
リーマスは、どこでもいいからとにかく就職したいと言っていた。人狼は就職難だからね、苦しいわね。
ピーターも、特定の仕事に就きたいとは思っていないらしい。
「正直もう6年生だし、就職先をしっかり決めないといけないとは思うんだけど⋯⋯やっぱり何もなくて⋯⋯」
「一緒に闇祓いを目指そうぜピーター!!」
「あの夕日に向かって走ろうぜ!」的なノリのシリウス。でも、ピーターに危険な仕事は向かないと思いますよ。裏切って敵側に付いてしまう!そして無様なおっさんになってしまう!だったらせめて自宅警備をしてくれ!
「でもな〜、リリーが毎日命の危機に晒されるのは心配だよぉ〜」
「うーん⋯⋯」
大袈裟に眉を下げるジェームズは無視して、私は唸る。
確かに闇祓いは危険だ。そんな仕事に就きたいなんて、今の私は思えない。福利厚生とかどうなってるんだろう。
じゃあ研究者か⋯⋯と思ったけど、あんまり儲からないんじゃね?とか考えてしまう。楽しそうだなーとは思うんだけどね。まずいわ、前世の価値観が引っ掛かってる。
「うーん⋯⋯」
「めっちゃ悩んでる⋯⋯」
エマが呟いた。
駄目だ、『私』の存在のせいでどっちの仕事も魅力的に思えん!
前世の私の夢が、脳にチラついてくる。
「不労所得⋯⋯」
「え?」
「働きたくない」
「(何言ってんだこいつ⋯⋯?)」
シリウスの心の声が聞こえたような気がした。
「労働はクソって、金髪呪術師も言ってたし。働きたくないわ」
「そいつ誰だよ⋯⋯」
と、シリウス。
ジェームズはふっと笑って髪を撫でつけた。
「リリー、僕のところに永久就職って選択は!?」
「あるわけないだろ」
「はい⋯⋯」
しおしおと萎れていくジェームズ。そのまま消えてくれないかなー。
はぁー、と私はため息をついた。
「ジェームズはいいわよねー、魔法界生まれで家はとんでもなく裕福だし。魔法界の一等地とか、持ってるんでしょ?収入が勝手に増える」
「僕の家はあんまり⋯⋯。聖28一族に含まれる家は凄いらしいけど」
羨ましい。魔法界の土地の値段がどんなものかは知らないけど、マンションとか建てたらガッポガッポじゃない?
私はシリウスを見た。となると、彼は私の理想ってことか。
私からの視線の意味に気付いたのだろう、シリウスは首をぶんぶん振った。
「確かにうちは一等地を持ってるけど、俺はその恩恵受けられないぜ?こんな自由奔放だし」
まあ確かに。
「あの親に従うとか、そんなの俺のプライドが許さねぇよ」
「子供ねぇ」
お金がなくてバイトを掛け持ちしていた私からすれば、それは贅沢な話である。
私はクックック⋯⋯と薄汚れた笑みを浮かべた。
「両親の言うことには適当に頷いて、反抗しなければ楽な将来が待っていたのに⋯⋯」
そんなことを言ってみたら、
「ちょちょちょちょちょ!!リリー、それは不味い」
なぜか慌てるジェームズ。リーマスも「あちゃー」と言わんばかりの顔をしている。ピーターはいつも通りびくびくしている。エマは何も分かっていなさそうだ。
「え⋯⋯なんか私やっちゃいましたか?」
私がジェームズにそう問いかけた時だった。
「⋯⋯リリー」
めちゃめちゃドスの効いた声が、耳を貫いた。
シリウスだった。
彼はガチギレしていた。
「俺が?あんな親の言うことを黙って飲み込む?⋯⋯そんなこと、するわけねぇだろーーが!!!」
原理は不明だが、窓ガラスがぱりん、と割れた。
シリウスの影が、揺らめく。
怒気に当てられて、ピーターが泣き始めた。
「金があれば、自分の生き方だって曲げれんのかお前は!もっと誇りを持てよ!!あと俺を舐めんじゃねーよ!」
「ごごごめんなさい!!」
「謝るくらいなら最初っから言うな!てか分かるだろ!!言われたら嫌だろうなって」
「ひぇっ⋯⋯⋯⋯」
心臓が縮み上がる!怖すぎる!でも悪いのは私なのでなんも言えない!ごめんね!!(半ギレ)
最終的には和解できたが、私は深く心に刻んだ。
余計なことは言わない。黙ってれば楽です、はい。
「ねぇ知ってた?アズカバンの職員って、結構給料高いんだって」
「まあ、色々大変そうだしね」
「てことで、私、アズカバンで働こうと思うの」
「は???????」
「頑張って守護霊の呪文を使えるようになってみせるわ」
「は???????」
「一気に金を稼いで、早期退職。それが私の目指す未来よ」
「は???????」
「駄目だ、ジェームズが『は?』しか言わないbotになっちゃった⋯⋯」