【完結】リリー・ポッターの存在否定   作:夜風ミシェル

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05.黙ってれば楽だったのに⋯⋯

 

 私たちの決闘クラブ初戦が終了した。

 ピーター以外は生き残った。

 予想できた結果ではある。元々ピーターは出るつもりもなかったしね。

 

「ったく、ピーター!もっと頑張れただろぉ」

「え⋯⋯ぼ、僕には無理だったよ⋯⋯」

 

 ダル絡みシリウス。そうやってピーターを追い詰めるんじゃない、可哀想でしょ。

 私は腕を組んだ。

 

「まぁまぁ、無事あなたは勝てたわけだし。それで充分でしょ」

「俺が初戦敗退になるわけないだろー。ロックハートに馬鹿にされる」

「ああ、まだ対抗意識を燃やしてんだ⋯⋯」

 

 ちなみにロックハートは、学年ブロック内で3位という好成績を残した。シリウスと直接戦う機会はないのが残念だ。元カノ云々で競うより、魔法でやり合う方がよっぽど健全なのになぁ⋯⋯。

 「そうだ、君たちに嬉しい話があるよ」とジェームズが指を鳴らした。

 

「何よジェームズ」

「んふふ⋯⋯。ちょいと耳を近づけてよ、リリー。これは極秘情報だから、さ♡」

「ふーん⋯⋯」

 

 私は素直に、ジェームズの口元に耳を寄せる──。

 

 

 

 

「────わけないだろ!アグアメンティ!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 ジェームズの口内めがけて、水を噴射した。勢い余って鼻にも入ったらしく、ジェームズは涙目になって鼻を押さえていた。地味に不快なやつだ。

 

「大丈夫かジェームズwwwい、今楽にしてやるよ⋯⋯だはははははははっ!!!」

 

 ひぃひぃ言いながら杖を振り回すシリウス。よく分からん呪文を唱えて、鼻の水を全て外に出させた。が、鼻水をぶち撒けてるようにしか見えない。私は呟いた。

 

「悲報:学内でハンサムと名高いジェームズ・ポッター、廊下で鼻から水を噴射する」

「悲しいかな事実」

「ホグワーツ中に広めてやろうかしら」

「流石にやめてあげなよ⋯⋯」

 

 リーマスに止められたのでやめます。

 止まリーマス、なんつって。あはは⋯⋯。

 なんだか悲しくなってきたので、再びジェームズに訊いた。

 

「それで、極秘情報ってのは何なのよ。普通に教えなさい」

「教えるから、耳を僕に近づけて?」

「うーん、水はやったし次は火でもつけようかしら?」

「話します」

 

 降参のポーズを取るジェームズ。

 今度はすぐ(、、)に喋ってくれた。

 

「次の試合、なんと闇祓いの人が見に来るんだって!」

「どうして知ってるのよ」

「父からの手紙に書いてあったんだ」

 

 そういやポッター家も貴族か。色々知っていることも多いのだろう。

 エマがワクワクした様子で聞いた。

 

「現役の人が来るの?」

「そうらしいよ。だから、これはアピールチャンスなんだ!」

 

 ジェームズはぐっ、と拳を握りしめた。

 

「将来闇祓いになりたい僕たちにとって、ここで優秀な結果を見せることは就職に直結する!」

「え、ジェームズは闇祓いになりたいの?初耳なんだけど」

「前も言ったよ⋯⋯それに、君もでしょ?」

「え?」

「うん?」

 

 身に覚えがなさすぎて首を傾げたら、同じようにジェームズも「?」を浮かべた。

 

「僕のことを忘れるのは⋯⋯そりゃ勿論悲しいけど仕方ないとして、自分の将来の夢は覚えてるはずでしょ⋯⋯。リリー大丈夫?最近変だよ?」

「あなたに変って言われたくはないわよ⋯⋯。それに問題ないわ、ちゃんと覚えてる」

 

 『リリー』の記憶を辿れば、すぐに見つかった。

 (リリー)は闇祓いと、魔法薬学の研究者になるかで迷っている。

 

「スラグホーン先生にも相談していたしね」

 

 そう付け加えると、ようやくジェームズは安堵の表情を見せた。うむうむ、心配をかけたわね。

 

「まだ悩んでるんだよね、リリーは」

 

 エマが背中を叩いた。かく言う彼女は、卒業後はマグルの世界の出版社で働きたいと言っていた。多分、BL漫画を産み出す側の人間になりたいんだろう。

 ジェームズ、シリウスは闇祓い志望。

 リーマスは、どこでもいいからとにかく就職したいと言っていた。人狼は就職難だからね、苦しいわね。

 ピーターも、特定の仕事に就きたいとは思っていないらしい。

 

「正直もう6年生だし、就職先をしっかり決めないといけないとは思うんだけど⋯⋯やっぱり何もなくて⋯⋯」

「一緒に闇祓いを目指そうぜピーター!!」

 

 「あの夕日に向かって走ろうぜ!」的なノリのシリウス。でも、ピーターに危険な仕事は向かないと思いますよ。裏切って敵側に付いてしまう!そして無様なおっさんになってしまう!だったらせめて自宅警備をしてくれ!

 

「でもな〜、リリーが毎日命の危機に晒されるのは心配だよぉ〜」

「うーん⋯⋯」

 

 大袈裟に眉を下げるジェームズは無視して、私は唸る。

 確かに闇祓いは危険だ。そんな仕事に就きたいなんて、今の私は思えない。福利厚生とかどうなってるんだろう。

 じゃあ研究者か⋯⋯と思ったけど、あんまり儲からないんじゃね?とか考えてしまう。楽しそうだなーとは思うんだけどね。まずいわ、前世の価値観が引っ掛かってる。

 

「うーん⋯⋯」

「めっちゃ悩んでる⋯⋯」

 

 エマが呟いた。

 駄目だ、『私』の存在のせいでどっちの仕事も魅力的に思えん!

 前世の私の夢が、脳にチラついてくる。

 

「不労所得⋯⋯」

「え?」

「働きたくない」

「(何言ってんだこいつ⋯⋯?)」

 

 シリウスの心の声が聞こえたような気がした。

 

「労働はクソって、金髪呪術師も言ってたし。働きたくないわ」

「そいつ誰だよ⋯⋯」

 

 と、シリウス。

 ジェームズはふっと笑って髪を撫でつけた。

 

「リリー、僕のところに永久就職って選択は!?」

「あるわけないだろ」

「はい⋯⋯」

 

 しおしおと萎れていくジェームズ。そのまま消えてくれないかなー。

 はぁー、と私はため息をついた。

 

「ジェームズはいいわよねー、魔法界生まれで家はとんでもなく裕福だし。魔法界の一等地とか、持ってるんでしょ?収入が勝手に増える」

「僕の家はあんまり⋯⋯。聖28一族に含まれる家は凄いらしいけど」

 

 羨ましい。魔法界の土地の値段がどんなものかは知らないけど、マンションとか建てたらガッポガッポじゃない?

 私はシリウスを見た。となると、彼は私の理想ってことか。

 私からの視線の意味に気付いたのだろう、シリウスは首をぶんぶん振った。

 

「確かにうちは一等地を持ってるけど、俺はその恩恵受けられないぜ?こんな自由奔放だし」

 

 まあ確かに。

 

「あの親に従うとか、そんなの俺のプライドが許さねぇよ」

「子供ねぇ」

 

 お金がなくてバイトを掛け持ちしていた私からすれば、それは贅沢な話である。 

 私はクックック⋯⋯と薄汚れた笑みを浮かべた。

 

「両親の言うことには適当に頷いて、反抗しなければ楽な将来が待っていたのに⋯⋯」

 

 そんなことを言ってみたら、

 

「ちょちょちょちょちょ!!リリー、それは不味い」

 

 なぜか慌てるジェームズ。リーマスも「あちゃー」と言わんばかりの顔をしている。ピーターはいつも通りびくびくしている。エマは何も分かっていなさそうだ。

 

「え⋯⋯なんか私やっちゃいましたか?」

 

 私がジェームズにそう問いかけた時だった。

 

 

 

 

 

「⋯⋯リリー

 

 めちゃめちゃドスの効いた声が、耳を貫いた。

 シリウスだった。

 彼はガチギレしていた。

 

「俺が?あんな親の言うことを黙って飲み込む?⋯⋯そんなこと、するわけねぇだろーーが!!!」

 

 原理は不明だが、窓ガラスがぱりん、と割れた。

 シリウスの影が、揺らめく。

 怒気に当てられて、ピーターが泣き始めた。

 

「金があれば、自分の生き方だって曲げれんのかお前は!もっと誇りを持てよ!!あと俺を舐めんじゃねーよ!」

「ごごごめんなさい!!」

「謝るくらいなら最初っから言うな!てか分かるだろ!!言われたら嫌だろうなって」

「ひぇっ⋯⋯⋯⋯」

 

 心臓が縮み上がる!怖すぎる!でも悪いのは私なのでなんも言えない!ごめんね!!(半ギレ)

 最終的には和解できたが、私は深く心に刻んだ。

 余計なことは言わない。黙ってれば楽です、はい。

 

 

 

 

 

「ねぇ知ってた?アズカバンの職員って、結構給料高いんだって」

「まあ、色々大変そうだしね」

「てことで、私、アズカバンで働こうと思うの」

「は???????」

「頑張って守護霊の呪文を使えるようになってみせるわ」

「は???????」

「一気に金を稼いで、早期退職。それが私の目指す未来よ」

「は???????」

「駄目だ、ジェームズが『は?』しか言わないbotになっちゃった⋯⋯」

 

 

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