「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
「インカーセラ⋯⋯」
「ステューピファイ!」
「プロテゴからのエクスペリアームス!」
「くっ⋯⋯俺の⋯⋯負け、だ⋯⋯」
サムズアップしながら吹っ飛んでいくシリウス。それを見て、私とセブルスはハイタッチを交わした。
「ほんとに狡い。スニベルスのくせにリリーを味方に引き込むなんて⋯⋯」
「スニベルス言うな」
ジェームズは相変わらずセブルスを嫌っている。そしてセブルスも同じく。互いに対抗心をメラメラさせている。
これは良くない。
なので、二人の緩衝材に私はなる!
「4対1って構図がイジメなの、いい加減気付いて?」
「だからって君がスネイプ側について4対2にする必要はないよぉ⋯⋯。僕がリリーには魔法を使えないの知ってるだろ?」
「知ってるわよ。血の付いたローブはナニかに使うけど魔法は使わないってことを」
「その話初耳なんだが」
かいつまんで教えてあげると、セブルスはがしっと私の肩を掴んだ。私を後ろに隠して、ジェームズを睨み付ける。
「おいポッター。貴様は超えてはならない一線を超えた。ここで死ね!」
「私も助太刀しよう」
心の底から同意するわ、セブルス。
ぴしっ、と杖を突き付けると、蘇ったシリウスが、「まずいぞプロングズ!リリーはガチの目をしている!」と叫んだ。当たり前だろ。
「前までは止めに入ってたのに、リリー生き生きしてるね」
「ね⋯⋯うん」
「他人事のリーマス&ピーター!あなた達もイジメに加担していたのよ。責任から目を逸らすな!」
仲良くしてくれるジェームズ達に強く言えないのは分かるけど、なあなあで済ませてはならない。そういうところは良くないぞ!
「「は、はい」」
ビクつく二人。「分かればよろしい」と私は腕を組んだ。
「というわけで、あなた達もジェームズに魔法をぶっ放しなさい」
「それはちょっと話が違うな??ねぇムーニー、ワームテール。僕たち、仲間だよな?」
「圧をかけるなシレンシオ!」
「リリーも圧かけてるけどな」
正論シリウスは無視して、私はセブルスの横に立った。
別に、セブルスとジェームズを無理やり仲良くさせたいわけじゃない。だが、ここの確執を少しでも薄くできたら、セブルスは死喰い人にならないんじゃないかと思うのよね。そういうわけで、セブルスたちの喧嘩に私も加わっている。私の知らないところで暴れられるよりは、監督の元でやってもらう方がいい。
セブルスは優秀な人材だ。原作一の活躍をしているだけある。
だから、是非不死鳥の騎士団に入ってほしい。
私の生存のために。
というような致し方ない理由があったけれど、激おこマクゴナガル先生の前では、それも無意味だった。
まあ、あれっすよね。魔法をバンバン使ってたら当然怒られますよねぇ。
「全く信じられません!六年生にもなってこんな⋯⋯こんな!△$♪×¥●&%#!!」
怒りのあまり後半何を言っているのか分からない。
いや、本当すみません⋯⋯。
「Ms.エバンズ!いつものあなたなら止めていたでしょう!?なぜ今日は悪ノリしたのですか」
「魔が差して⋯⋯。すみません、次はバレないようにします」
「反省してます?」
「悔いはないです」
マクゴナガルは卒倒した。
*****
「リリー、どうしてあんなことを言ったんだ」
部屋を出たらセブルスに問い詰められた。私は軽く謝る。
「ごめん。でも、この辺りで私の『真面目』レッテルを剥がそうと思って」
「リリーは真面目だろ⋯⋯?」
それが違うんですよねー。中身の方は阿保なので、いい子ちゃんのフリをすると疲れる。あと、「Ms.エバンズがポッターたちを何とかしてくれる」っていう先生の甘えをなくしたい、ってのもある。
「⋯⋯君は今すぐポッターから離れた方がいい」
「え?」
「おおい、何勝手なこと言ってんだスニベルス」
オラつくジェームズを綺麗に無視して、セブルスは真摯に私に向き合う。
「リリーはこいつらから悪い影響を受けてる。そうでなくとも、ポッターは捕まっていないのが不思議なくらいの犯罪者だ。そうだろ?」
「それはそう」
「否定してやれよリリー」
確かにそうだ。
『リリー』はジェームズのことが好きになりつつあったけど、『私』はそうではない。むしろこんな変態、早く警察に突き出したいくらいだ。それなのに、どうして私は何だかんだ彼といるのだろう。
「絶対に離れた方がいい。誰でもそうするよ」
「そう、なんだけど⋯⋯」
なぜか、言葉が出てこない。
開いた口からは、ただ息だけが漏れた。
「え、まさかリリーって⋯⋯」
「静かにしようか、パッドフット」
何かを察したリーマスが、シリウスの口を塞いだ。
セブルスが悲しげに目を伏せる。
「やっぱりリリーは、あいつを選ぶのか」
「違いますけど」
「だったら、どうして!今何を躊躇っているんだ」
私たちの発言を聞いて、そわそわし出すジェームズ。
「え?え?そういうこと?」
ハシバミ色の瞳が、私を捉えて。
そっか、そういうことなんでしょうね、と。
ようやく一つの解答を得た。
「私は⋯⋯ジェームズのことが──」
「恋愛的には絶対に好きになれないけど、一人のファンとして見限ることができないのよ!!」
夕日が差し込む廊下で、魂の絶叫が響き渡った。
ずるっとずっこけるセブルスたちに構わず、私は言い募る。
「こいつがどんなにカスでも、変態でも!げんさk、ゲフンゲフン、な、長い付き合いで色々なことを知っているから!振り捨てることができないのよ」
「お、おう⋯⋯」
「なる、ほど?」
「⋯⋯はい」
私の剣幕に後ずさる一行。あぶねー、つい『原作』って言いそうになったわ!!でもしょうがないやん!だって私、ポッタリアンなんだもん!
「そう、だからね?私にとってのジェームズは、一応、友達では、ある、と、思われる。⋯⋯ぐぎぎぎぎぎぎ」
「めっちゃ歯食いしばってて草」
「⋯⋯良かったね、プロングズ。友達だって認識はされてるみたいで」
「そ、そうだよ⋯⋯うん」
「ぐぎぎぎぎぎ」
ポッタリアンとしての私と、変態ジェームズを知っている私が、内部抗争をしている。顔をピクピクさせていたら、ジェームズは何とも言えない表情になった。
「何だろ⋯⋯友達だよって言われて嬉しいような、悲しいような」
「喜べ。纏わりつくカスではなかったんだからな」
シリウスがトドメを刺した。
項垂れるジェームズ。
「何だよ⋯⋯てっきり告白してくれるのかと思ったのに。⋯⋯雰囲気がそうだったじゃん⋯⋯ もぅマヂ無理。 リスカしょ⋯⋯」
「秘めていた思いを明かしたんだから、これも告白でしょーが」
「ぴえん」
ジェームズは泣いた。
「そういうわけでセブルス。私はこれからもジェームズと話すわ。勿論、あなたともね」
「ああ⋯⋯うん」
セブルスは、安心と不安が混じった顔をしていた。
その表情の意味を私が理解するのは、まだ先のことだ──。
*****
ここのところ、ヴォルデモート一派の活動が盛んだ。
新聞片手に、私は唸る。
「うーん⋯⋯これ私は大丈夫なんだろうか」
もうそろそろ冬休みだ。実家に帰った途端死喰い人にアバダされる可能性もなきにしもあらず。⋯⋯いやまあ、原作でリリーはまだ死んでないし、そう怯える必要はないとは思うけどねぇ。
「エマも気を付けてよね。怪しいところには行かないこと!」
「分かってるよ。⋯⋯でも、決闘クラブのお陰で魔法の腕上がった気がするんだよね〜」
「油断大敵!」
私の中のムーディがそう叫んだところで、ふと思い出した。
「そうそう、先生が話しているのを聞いたんだけど」
「うん」
「決闘クラブ、中止になるらしいわよ」
すると、エマは目を丸くした。
「本当に?結構楽しかったのにな」
「仕方ない気もする」
私は数多の試合を思い返した。
まあ、全部スリザリンのせいである。
「セクタムセンプラの乱用で、スリザリンばかり勝ってしまったものね」
「それはそう。『闇の魔術ではない!』って言い張ってたけど、信じられないよね」
実際には闇の魔術だけど、それを知るのはスリザリンと私だけ。先生方も怪しいとは思っていたようだが、このご時世、純血主義の生徒たちに強く問い詰めることはできない。何かあったら死喰い人の親が乗り込んでくるかもしれないからだ。
「はー、なぁんか嫌な時代になったね」
「そうね」
私も同意した。親世代はヴォルデモートの全盛期だし。⋯⋯大丈夫かな?これ私、ヴォルデモートを倒せるのか?原作知識があれば問題なしか?
ヴォルデモートの最期は、ハリーとの一騎打ち。そこに至るまでの過程を全て踏んでいけば可能だろうけど。
「⋯⋯ハリー、何をしたんだっけ」
私は頭を抱えた。
そう、なぜか私はその大事なところを忘れてしまった!!
賢者の石を守って、秘密の部屋でバジリスクと戦って、アズカバンの囚人と話して、炎のゴブレットでセドリック死んで(マジで殺されたの許せねぇ⋯⋯)、不死鳥の騎士団でやべー教師が来て、それから⋯⋯。
思い出せない。
そこからは、断片的にしか記憶がない。
「なんで⋯⋯」
「リリー、大丈夫?」
エマが顔を覗きこむが、それどころではない。
血の気が引く。
恐怖を覚えた。
思い出せないこともそうだが、一番怖いのは。
『記憶がないこと』を、今まで何とも思っていなかったことだ。
私は確かにポッタリアンだ。原作を忘れるわけがない。それなのに、どうして。
ふと、鼻腔を掠めるコーヒーの匂い。誰かがコーヒーを淹れたらしい。
その香りが、いつかの出来事を思い出させた。
校長室。
カップ。
受け取った、コーヒー豆。
「ダンブルドア⋯⋯⋯⋯?」
*****
「やはり厳しかったようじゃのぅ。前世の記憶は、脳ではなく魂が持つ。忘却魔法が効きにくいのも仕方ない」
体が動かない。それなのに、思考だけはクリアだ。
この声は、ダンブルドアだ。
「⋯⋯意識が醒めたようじゃの」
はい、と返事をしようとした。しかし、声が出せない。何これ、どういう状況?
「ここは医務室じゃ。消した記憶を思い出そうとしたから、負荷がかかってお主は倒れたのじゃ」
け、消した記憶?なんかその言い方だと、校長が消したみたいだけど。
「正解じゃ。儂が忘れさせた」
衝撃的な告白だった。
WHY?
「未来のために」
曖昧な言い方ですね。
「詳しく言っても仕方がないのじゃ。また記憶を消すしのぅ」
え?
「『記憶がないこと』を、何とも思わないように細工するわい。今回は、前回よりも強く。まあ、お主のことじゃ、数年後にまた疑問を持つようになるじゃろうが⋯⋯」
待って?
「待たない。⋯⋯本当は、前世の記憶全てを忘れさせたいんじゃが⋯⋯お主の人格を消すことになるから、流石にやめておくわい」
なんか怖いこと言われたんだが!?
「しないから安心しなさい。さあ、心の準備はいいかね?」
待ってください、記憶消さないで──!
「オブリビエイト」
*****
目が覚めたら医務室だった。
「あれ⋯⋯?どうしてここに?」
頭がぼんやりする。とりあえずベッドを囲むカーテンを開けた。
「まぁ、気がついたようですね!」
「ま、マダムポンフリー」
「覚えてますか?あなたは突然倒れたんですよ!」
「はあ⋯⋯」
そういえば、エマと話したのが最後の記憶だ。多分、彼女がここに運んでくれたのだろう。
私は頭を押さえた。なんだろう、何かを忘れたような気がする⋯⋯。何か、衝撃的な話を聞いたような⋯⋯。
「んー?⋯⋯まあ、いっか」
倒れるなんて、私は余程疲れていたのだろう。もうすぐ帰省できるし、そこで疲れを取ろう。
私は欠伸を噛み殺した。