来たるクリスマス休暇。
私はペチュニアと一緒に、クリスマスケーキを買いに来ていた。
ペチュニアは上機嫌である。何だかんだ、リリーのこと好きだもんねー。私は微笑んだ。
「ケーキどれにする?」
「そうねぇ⋯⋯」
ふと、お菓子の詰め合わせセットが目に入った。
⋯⋯よし、セブルスに渡してあげよう。
夜。
家を抜け出した私は、いつもリリーとセブルスが話していた集合場所に向かった。
すでにセブルスはいて、私を見つけると嬉しそうに手を振った。
「リリー!」
う、眩しい⋯⋯!これが恋の力か。
セブリリやっぱり良いよなぁとかなんとか思いつつ、私はお菓子を渡した。
「はい、これ。ケーキは長持ちしないけど、これなら少しずつ食べられるでしょ」
スネイプ先生の親が、クリスマスにスイーツを買ってくれるような人ではないと知っている。ここはリリーさんが祝ってあげよう。
「メリークリスマス、セブルス」
「ああ、メリークリスマス」
顔を綻ばせるセブルス。
暫くは適当に喋っていたが、そろそろ私は帰らねばならない。話を切り上げようとしたとき、セブルスに腕を掴まれた。
酷く真面目な顔つきだ。
「またホグワーツに戻るとき、一緒に列車に乗ろう」
「え?それはいつものことでは」
「そうなんだが⋯⋯絶対だぞ。あの柱を超えた先で待ってるから」
「はい」
私は首を傾げつつも了承した。
*****
朧げに、誰かの姿を見た。
それは何か話しているけれど、声は上手く聞き取れない。ただ、私はなぜか驚いたような気がする。
取り出される杖。
最後の言葉だけは、はっきり聞こえた。
『オブリビエイト』
*****
「⋯⋯おあ?」
私は覚醒した。
何か夢を見たような気がするが、綺麗さっぱり忘れた。とりあえず、ぬくぬくした布団に潜るか⋯⋯と惰眠を貪ろうとしたところで、はっとした。
「ああ、今日で冬休み終わりだ⋯⋯」
私はぐぐぐっと伸びをして、それから服を着替えた。
駅までは、父が車で送ってくれる。付き添いのペチュニアはすでに起きていて、まだぼんやりしている私を見て笑った。
「休みボケしないでよね」
「うーん⋯⋯何か変な夢を見たのよねぇ」
なんだったかなぁ、うーむ⋯⋯。妙に引っかかる。
そんな感じでぼやっとしていたからだろう、駅に向かう途中で、私は杖を忘れてきたことに気付いた。
さぁっ、と血の気が引く。
「おおおお父さん!今すぐ家に戻って!忘れ物した!!」
「え!?」
「何やってんのよリリー!」
「ファァァァァァァァァ⤴︎」
「リリーが壊れた!!」
一家揃って慌て出す。冷静に考えてみれば、後からフクロウ便で杖を送ってもらうのが良かったのだろう。しかし、そんなこと思い付かないのがこの私なんですよねー。
杖を取りに戻って、法定速度ギリギリで車をかっ飛ばす。
駅に着いた頃には、列車の出発時刻ジャストだった。
うわわわわわわ〜と叫びつつ、荷物を列車に載せて私も飛び込む。その真後ろで、列車のドアが閉まった。
「あ、危なかった⋯⋯」
ぜえぜえと肩で息をし、落ち着いた頃にようやくセブルスのことを思い出した。待ち合わせ場所にはいなかったし、先に列車に乗ったのだろう。申し訳ないことをした。
セブルスを探そうと思ってコンパートメントを見て回っていたら、エマたちに出会った。人数が多いので、二つのコンパートメントに分かれている。
「あ、リリー!良かった、乗ってたんだね」
「危ないところだったけど、何とかね」
「さあハニー、僕の膝の上においで⋯⋯!」
相変わらずきしょいジェームズは無視して、私はリーマスとピーターがいる方のコンパートメントに座った。セブルスを探さないといけないのは分かっているけど、流石に足が死にそう。休憩したい。
「珍しいね、リリーがそんなに慌てるなんて」
「杖を忘れてきちゃってねー⋯⋯。もう疲れたわ」
水を飲みつつ話す。
まずい、一度座るともう立てないぞ。終わった⋯⋯と口から盛大なため息を吐き出した。それを見たピーターが言う。
「歳だね」
「え?」
「え?」
「⋯⋯え?」
微妙な雰囲気になったあたりで、突然列車が止まった。つんのめって、鼻を強かに打つ。
「痛ぁーい。何よ!」
鼻頭を押さえつつ、私はコンパートメントから頭だけ出して様子を窺った。同じように、キョロキョロする生徒が多い。
向かいにいるジェームズも顔を覗かせた。
「何だろうね」
「ええ⋯⋯ってあれ?エマは?」
先程までいたはずのエマがいない。
ジェームズは苦笑いした。
「百味ビーンズを食べてトイレに駆け込んだ」
「ああ⋯⋯」
何か良くない味のものを食べたのだろう。いい加減学習してほしいところだ。
列車が動き出す気配はない。
「まずは先生に連絡しましょうか。エクスペクト・パトローナム」
杖先から真っ白な光が放たれる。
それは徐々にまとまり、フクロウの形をとった。
私の守護霊だ。
「『メーデー、メーデー、メーデー。列車が急停止しました。原因は不明です』⋯⋯伝言よろしくね」
「⋯⋯いや⋯⋯え?何ぬるっと守護霊出してんの!?」
「は?」と私は眉を吊り上げた。
「言ったじゃないジェームズ。『アズカバンの職員になるために練習する』って」
「覚えてるけども!」
私はパンパン、と手を叩いて話を遮った。こんなこと話している場合ではない。
列車の停止。
そんなの、嫌な予感しかないわよね?
私はちら、と未来のルーピン先生を見た。⋯⋯ま、ディメンターではないだろうけど。
エマの席には、鞄と杖が放り出されている。つまり、エマは今魔法を使うことができない⋯⋯。
危険すぎだ。
「行くわよ、トイレに」
私は歩き出した。ジェームズたちも着いてこようとしたが、流石にこんな大人数でトイレに押しかけると邪魔だ。あとエマがビビる。
結果、ジェームズと私でエマを迎えに行くことになった。
トイレは最後尾にある。
いくつかのコンパートメントを通り過ぎると、ジェームズが顎に手をやった。
「おかしい。スリザリンの奴らが一人もいない」
「言われてみれば」
確かに、スリザリンがいない。見れども見れどもグリフィンドールやハッフルパフ、レイブンクローの生徒ばかりだ。偶々⋯⋯というよりは、作為的な何かを感じる。
そんなことを思っていたら。
「リリー!」
「え、あ、セブルス?」
セブルスが後方車両から走ってきた。安堵の表情で、私の腕を掴む。
「言っただろう!?どうして僕と一緒に乗らなかったんだ」
「ごめん⋯⋯。忘れ物して引き返したら、時間過ぎてた」
真面目に謝ると、セブルスはふるふると首を振った。
「でも会えて良かった。さぁ、僕のコンパートメントに行こう」
どこか焦った様子のセブルスに、ぴんときた。ジェームズと顔を見合わせてから問い詰める。
「セブルス、知っているんでしょう。──どうして列車が停まったのか」
「おい、話せよ」
「⋯⋯」
セブルスは無言を貫いた。話す気はないらしい。
くっ⋯⋯。やるしかないのか、あれを!
私はセブルスの手を握った。そして、腰を屈めて上目遣いになるように調整する。
「お願い⋯⋯セブルス」
「なっ⋯⋯!」
セブルスは一瞬で耳まで赤くなった。ふっ、リリーフェイスでこんな可愛い仕草をしたらイチコロさ!
リリーの可愛さに、セブルスの思考は停止。
セブルス・チョロイプは口を開いた。
「──この列車に、死喰い人が乗り込んだ」
言い終わるのと同時に、列車が大きく揺れた。
「おわっ!?」
足元が覚束ない。倒れ込みそうになったのをジェームズが引っ張って助けてくれた。
「大丈夫!?」
「ありがとう⋯⋯。今の揺れは?」
「⋯⋯多分、死喰い人が魔法を放ったんだろう」
淡々と告げるセブルス。その胸倉を、ジェームズが掴む。
「おい!お前知ってたなら何で止めなかった!」
「⋯⋯別に殺しはしない。それがあのお方の意向だ」
「死ななきゃいいって問題じゃないだろ!」
それはそう。
私ははっとした。
「そっか、スリザリン生を見なかったのはこの襲撃を知っていたからね?被害を受けないように、どこかの車両で固まっているんだ」
「そうだよ。だからリリー、早くここから離れた方がいい。ここは危険だ!」
「⋯⋯私だけ無事なら、それでいいの?」
「ああ」
セブルスは即答した。
こ、こいつ⋯⋯私にも友達がいるってこと、忘れてないか?
「これはまごうことなきセブカス・スネイプ!」
「セブカ⋯⋯え?」
「そういうとこだぞスネイプ先生ェェ!」
私は腕を振り回した。セブルスの手が離れる。
私はセブルスを睨んだ。
「私はエマを迎えに行く。セブカスさんは自分のテリトリーに戻ればいいんじゃない?」
セブルスはかなりショックを受けていた。だがもう知らん。
私は振り返ることなくエマのいるトイレに向かった。
セブルスが着いてくる気配は、なかった。
*****
「エマー、いる?」
私は個室トイレのドアを強く叩いた。程なくして、エマの弱々しい声が聞こえてくる。
「いるよー、リリー⋯⋯。どうしたの?」
「死喰い人が襲撃に来たっぽい。早く出てくれ」
ジェームズが急かすと、エマは「え無理そう」と即答した。
デリカシーのないジェームズ、それでも急かす。
「早くしてくれ!杖も持ってないんだろう?」
「急かさんといて!余計落ち着かないから!だって────大、だよ!?」
「恥じらいを持てエマ!」
私は叫んだ。何だ、この恥じらいのない返しは!?流石のジェームズも、これには気まずそうだ。
あーもう!こんなアホな会話してる場合じゃないのにーーー!!
とか思ったら、どこかで悲鳴が上がった。続けて、何かを唱える声。⋯⋯なるほど、もう死喰い人は進撃してるわけね。
私はドアに手を当てた。
「よし分かった。あなたの安寧のトイレは、私たちが守るわ!」
「え、う、うん⋯⋯?」
戸惑うエマを他所に、私とジェームズはトイレの車両から出た。
遠くで、真っ黒のローブに身を包んだ集団が見える。
杖を構える。
「「エクスペリアームス!」」
二人分の魔力で、死喰い人は派手に吹っ飛んでいった。よし、とガッツポーズする。
「この調子で、死喰い人をトイレから引き離すわよ!」
「合点承知!」
私たちはジャンジャン進む。だが、死喰い人の数は段々増していくばかりだ。魔法が追いつかない。幸いなのは、ベラトリックス姉貴がいないことかな?流石にこんなところで戦力は使わない模様。
「インカーセラス!」
私たちとは反対側⋯⋯つまり、死喰い人を挟んで向こうにいる人が、魔法を放った。
私は名前を呼んだ。
「シリウス!」
「おう!来たぜ」
リーマスとピーターもいた。二人とも息が荒く、いくつかの戦闘をこなしてきたことが分かる。
シリウスは拘束した死喰い人を窓から放り投げると、近くにいた下級生に優しく微笑む。
「もう大丈夫だ」
「は、はい⋯⋯!」
女の子は顔を真っ赤にした。こういうのがナチュラルにできるから、シリウスはモテるんだろうな⋯⋯。
助けはいつ来るんだろう。ゴキブリのように湧く死喰い人を見ながら、私は内心焦っていた。
率先して戦うジェームズとシリウス。だが、段々と疲れを感じてきたのだろう、しんどそうだった。まだ学生だし、当然だ。
死喰い人の一人が、手近のコンパートメントを開けた。そして杖を振るう。
「クルーシ」
「プロテゴぉ!!」
私は力の限り叫んだ。おーい、何禁じられた呪文を使おうとしてんだ。すぐさま無言で石化魔法を放ち、無力化する。
手が痺れる。先ほどの「クルーシオ」、威力が半端じゃない。
「リリー、痛むのか?」
「大丈夫よ、シリウス」
言いながら、唇を噛む。これではジリ貧だ。何か手はないのか──そう思いながら、シリウスの顔を見たときだった。
私の中に、天才的発想が舞い降りた。
そうやん、シリウス、純血やん。
「ちょっと体借りますね」
「は?」
「あ、ジェームズもほぼ純血か。よし来なさい」
「え」
「なんだろう、碌でもない作戦の気がする」
失礼だなシリウス。
私は二人の背中を押しながら、列車の中を進んだ。
ソノーラスで声を響かせる。
「ここにいるのはマグル生まれよ!私は逃げも隠れもしない。かかってきなさい」
堂々と宣言すると、他の生徒に手を出そうとしていた死喰い人が、一斉に私の方を見た。
「死にたい馬鹿がいるな」
死喰い人の一人が、杖を向ける。
シリウスを突き出して、私はにやりと笑った。
「私の前にいるのはまごうことなき純血、ブラック家の長男、シリウス・ブラックよ!いいかてめぇら、純血に傷をつける覚悟のある奴だけ私に魔法を撃ちなさい!」
この作戦は。
名付けて。
「『プロテゴ(物理)』!!!」
勝手に盾にされたシリウスはブチ切れた。
「うおおおおおい!リリーは俺を殺したいのか!?あいつらに遠慮なんてないぞ!?」
「大丈夫よ!曲がりなりにもあなたは純血。万が一を危惧しないわけがない。⋯⋯あ、死喰い人の皆さーん!ついでにポッター家の息子もいますよー!!」
「あ、僕は添え物なんだ」
一方、死喰い人。
「シリウス・ブラックは純血主義者じゃない。だったら多少傷をつけてもいいのでは?」
「何言ってんだ貴様!それはあのお方の意向に合わないだろーが!」
「あのお方の意向ってなんですか!」
「純血万歳!」
「でもシリウスは裏切り者だ!つまり敵、死ね!!」
「待て待て早まるなぁぁぁ!お前の首が飛ぶかもしれないぞ!」
「じゃあポッターはどうなんです?クルーシオしてもいいですか?」
「あいつは⋯⋯どうなんだ?聖28一族では⋯⋯ない⋯⋯し」
「いや!でもポッター家は限りなく純血だと言う学説も」
混沌を極めていた!
ヴォルデモートのアバウトすぎる思想のせいで、彼らはシリウスに手を出せない!ジェームズの方も諸説あるらしく、意見が割れる!
そこに私とリーマスは、躊躇なくステューピファイした。何これ、最強戦術すぎる。
いつの間にかホグワーツの生徒たちがワラワラ出現し、杖先に光を灯した。
「「「「「せんぱーい、頑張れ!!」」」」」
注目されていることに気分が良くなったらしく、ジェームズとシリウスは見るからに機嫌がいい。魔法を撃つたびに格好つけて髪をファサッ⋯⋯とかしてた。みんなの応援が、力になるってか。⋯⋯プリ○ュア?
狭い通路で、二人は器用にポーズを決めた。
「「二人は純血!」」
何でその前口上を知ってんだ、という疑問はさておいて。
私は高らかに述べた。
「ご唱和ください、死喰い人の皆さん。純血万歳!」
「じゅ、純血万歳⋯⋯?」
「声が小さい!純血万歳!」
「純血万歳!!(ヤケクソ)」
「純血バンザー──インカーセラス!!」
「うわああああああ油断したぁぁぁぁ!!」
死喰い人、拘束。
あとは助けが来るまで、この状態をキープしておけばいい。
数秒後、ダンブルドア含む教師陣が到着。
賞賛を受けるジェームズ&シリウス。
ルーモスしまくる生徒たち。
その影響で失明し、呻く死喰い人。
念の為に死喰い人の杖をポキポキ折る私、リーマス、ピーター。
「⋯⋯死喰い人相手に、何やったんです」
マクゴナガルは、深くため息をついた。
Q.死喰い人弱すぎじゃない?舐めとんのか?
A.たかだかホグワーツ特急を襲うのに、優秀な人材は派遣しません。