死喰い人ズによるホグワーツ特急襲撃事件。
それは大々的に報じられ、世間を震撼させた。
そんな中、ホグワーツではある言葉が流行していた。
──主に、スリザリンに対して。
「純血バンザーインカーセラス!」
それは、純血を讃えつつも攻撃する魔法。
グリフィンドールの三年生が、スリザリンに向かって杖を振るった。当然の如く怒り狂うスリザリン。躊躇なく「エクスペリアームス!」と叫び、乱戦にもつれ込んだ。
あの日、スリザリンだけは被害を受けなかった。故に他寮から恨みを買ったのである。
とはいえ⋯⋯。
私は頭を抱えた。
「なんで純血バンザーインカーセラスがこんなに流行ってんのよ⋯⋯」
適当に言葉を繋げただけなのに何故か広まり、スリザリンへの煽りとして使われるようになってしまったのだ。
発案者が私だと知られているせいでスリザリンから変に睨まれるし!私の平穏な学生生活が本当の意味で終了したんだが????
悶々としながら夕食に向かう。すると、ロックハートが自慢げに語っている場面に出くわした。
「⋯⋯そして死喰い人が私の友に向かって『クルーシオ!』と叫ぶ!私はすぐさま防御を展開し、それを跳ね返したのです!」
「ええ〜〜!?先輩、すごい。カッコいいです!」
「流石ロックハート様〜」
下級生にちやほやされてご満悦のロックハート。⋯⋯その話、本当か?
などと思っていたら、ロックハートと目が合った。
「おやリリー。あなたも私の話を聞いていたのですか?」
「ええ⋯⋯すごいわね」
とりあえず褒めた。流石に、「それ嘘だろ!!」と決めつけるのは失礼だと思ったからだ。あと、今の優秀なロックハートなら信じてもいいかな⋯⋯?とも考えた。
「そうやって他の生徒を守ったんでしょう。(嘘かもしれないけど)尊敬するわ、ロックハート」
「⋯⋯あ、ありがとうございます」
ロックハート、照れる。いつもの演技くさい振る舞いではなく、ガチの感じだ。だが、それを隠すように胸を張った。
「リリーのことも守ってあげますからね!困ったらいつでも呼んでください」
「あそれは結構です。暑苦しいので」
「急に裏切るじゃないですか」
「たはは」
私は笑って手を振ると、グリフィンドールの机に向かった。
大広間で決闘クラブの中止を伝えられた。まあ、私はすでに知っていたけど。それ以外は特に話はなく、寮に戻ろうとしたときだった。
「リリー⋯⋯少しいいか」
セブルスに呼び止められた。そのまま、人気のない廊下に誘われる。
「なあに、セブルス」
「⋯⋯この間はごめん。リリーの気持ち、全然考えてなかった」
セブルスは頭を下げた。私は大袈裟にため息をついてみせる。
「そうよねぇ、でも⋯⋯」
私の友達は無事だったし、わざわざ責めたところで得られるものは何もない。むしろここでリリーとセブルスがギクシャクすると、私の今後に影響する!
ここは大人の対応をしてやろう。
「ううん、いいのよ。謝ってくれただけで充分」
「⋯⋯」
セブルスは、嬉しいような寂しいような、そんな顔をした。最近こういう表情多いな?私は頬をつついた。
「何よー、それはどういう感情?」
「いや⋯⋯リリー、僕に怒らなくなったなって思って。ポッターにはキレてるのに」
「⋯⋯え何、怒られたい願望でも⋯⋯?」
「違う!!」
「めっちゃ食い気味やん。わ、分かったわよ」
良かった、実はセブルスも隠れ変態だったらどうしようって心配したわ。
*****
今日はバレンタイン。
チョコを期待するジェームズには、屋敷しもべ妖精に作ってもらったキッ○カットを渡した。
「ありがと⋯⋯ありがと⋯⋯!この世の全てに感謝⋯⋯!」
「重いわねぇ。ま、シリウスたちにも同じやつあげたんだけど」
「え」
ジェームズは固まった。それから杖を取り出して、悪どい笑みを浮かべた。
「つまりパッドフットやムーニーから奪えばいいんだね?そうすれば、このチョコは僕だけが貰ったことになる⋯⋯」
「やめろやめろ」
闇堕ちジェームズ、爆誕。
談話室に現れた三人に飛びかかろうとするのを必死で止めた。
「うおっ!何だよこいつ。またかよ」
「友情より恋情を取ったそうです」
「チョコを渡せえええぇぇぇぇ!!」
ジェームズは私の静止も聞かず、勢いよく駆け出した。こうなるともう手がつけられない。怖いよ、この人毎年こんなことやってるんですよ?私は『リリー』のバレンタインの記憶を見て恐れ慄いた。
「ま、そんなアホはほっといて」
「エマ、口が悪くなったわね」
誰の影響だろうか。
エマはこほん、と咳払いをして私に箱を差し出した。
「はいこれ。リリーに」
「わーい」
「リリーを見習って、私も屋敷しもべ妖精にオーダーして作ってもらったの」
エマはいつも市販のものをくれるのだが、これは珍しい。私はワクワクしながら包装を解いて、口に含んだ。うん、おいしい。ビターテイストで私の好みに合う。
「エマー、俺にもくれ〜」
ジェームズを制したシリウスが、甘い声を出してエマに這い寄る。シリウスのモットーは『想いより数』なので、チョコを貰えたら何でもいいらしい。エマは含み笑いを浮かべた。
「シリウスにはこれだよ」
私とは少し違う包装だ。
シリウスは「サンキュ」と言ってチョコを食べた。
その目が、真ん丸に見開かれる。
「こ、これは⋯⋯!」
シリウス、その場に蹲る。
様子がおかしい。
「大丈夫?⋯⋯エマ、何か余計なもの入れたんじゃないの?」
「まあ、そうだね」
認めたぞこの人。しかも堂々と。
エマは朗らかに微笑んだ。
「ちょっとヤリたくなる媚薬を、ね⋯⋯」
「おおおおおい!!犯罪定期!」
「ていうのは流石に嘘なんだけど」
嘘なんかい。良かったけどね??
「腹下しのヤクを入れておいたよ⭐︎」
「は?」
「え?」
別に良くなくて草。
「私自らがアレンジしたから、普通の解毒薬じゃ治らないよ」
「エマは⋯⋯俺が、嫌いなのか⋯⋯?」
シリウスは、お腹を押さえながら問いかけた。チッチッチと指を振るエマ。
「私思ったんだ。待ってるだけじゃ、供給は来ない⋯⋯ってね」
「きょ、供給?」
「そうだよリリー。──リーマス×シリウスが、足りないんだよぉぉぉ!」
エマは発狂した。何この子、怖すぎんだろ。腐女子がバレてるからって、大っぴらに欲望を見せるんじゃない。
エマははぁはぁ言いながらリーマスに目をやった。
「さあリーマス、シリウスの頬に手を添えて言って?『うるさい口だな⋯⋯塞がれたいのか?』って!!そして顎をくいっと!そしたら解毒薬渡してあげるからさ」
「エエエエマさん??」
「シリウスを助けられるのはリーマスだけなんだよ!!」
「リーマスの良心に訴えかける鬼畜戦法で草」
「草じゃないだろう、リリー!」
リーマスにガチで怒られた。反省したので、なぜか持ってたベゾアール石をシリウスの口に突っ込んであげた。
「え⋯⋯待って?それいつの?」
消費期限を恐れるピーターには、笑顔でサムズアップ。
シリウスは青白い顔で石を飲み込んだ。だが効かない。私は悔しいと言わんばかりの表情を作った。
「くっ⋯⋯私のべゾアール石が効かないなんて。現代のホラス・スラグホーンと呼んでも?」
「そのスラグホーンさんは現代にしかいねーよ」
「さあさあ、リーマス。やっちゃって!」
現代のスラグホーンことエマは私に構わず、ジリジリとリーマスに近づいていく。
エマとシリウスを交互に見、リーマスは深々とため息を零した。
「⋯⋯分かった。パッドフットのためだ」
隣ではわはわと顔色を変え、ピーターはそっと私たちから離れた。
リーマスは距離を詰める。
そして。
「うるさい口だな⋯⋯塞がれたいのか?」
シリウスに顔を近づけた。
勿論キスはしていないのだが、角度によってはしているように見えなくもない。
結果、
「きゃあああああああああ!」
「うわあああああああああ!?」
「ぎゃあああああああああ!!」
「やだあああああああああ!」
「あばばばばばばばばばばば」
談話室は、阿鼻叫喚に包まれた。
衝撃的なものを見せられたグリフィンドール生は大勢気絶した。無差別攻撃すぎる。つーか談話室でやらせるなよ⋯⋯。
尚この件で、新しい扉を開いた者がいたとかなんとか。
*****
無事に解毒薬を貰って復活したシリウス。
次の日、ツカツカとロックハートの元に向かった。そして、勢いよく机を叩く。
「よお、ロックハート。⋯⋯勝負しろ」
ロックハート、何かを察する。
「分かりましたよ。決闘クラブの中止で、順位を競えなくなりましたしね。その代わり、ということで?」
「おう」
二人はほぼ同時に、数字の書かれた紙を机の上に叩きつけた。
え、何の数字だって?
それは。
「貰ったチョコレートの数で競うなんて⋯⋯暇人か?」
私は呆れて呟いた。
目の前では、勝者と敗者が決まっていた。
「よっしゃ、俺の勝ち。しかも十個差!」
ガッツポーズしたシリウスは、悔しがるロックハートを煽り散らかすことにしたようだ、汚ねぇ笑みを浮かべていた。
「十個差ってwwww二桁も差ついちゃってんじゃんwwww大丈夫そ?www」
「う、う、う、うるさいですね!!」
顔を真っ赤にするロックハート。
シリウスは急に黙ると、仏の如き微笑でロックハートの背中を撫でた。
「ったくしょうがねぇな。⋯⋯ほら、これやるよ」
「え、これは?」
「俺からの気持ちってことで」
シリウスは、丁寧に包装された箱を手渡した。明らかに横流し品なんだよな⋯⋯と遠い目をした私は、箱の中身を見て仰天した。
「ちょ、シリウス?それ、エマのチョコじゃ⋯⋯」
「アホントダー、ウッカリシテタヨー」
「嘘つけぇ!ご丁寧に包装し直してるくせに!」
ヤク入りチョコを流そうとしてて草なんだ。
私は鞄をまさぐった。
「可哀想だし、私のキッ○カットをあげるわ」
自分用に保存しておいたものがまだ残っている。あんなチョコよりはマシだろう。
「⋯⋯どうやらまた、消さなきゃならない人が増えたようだね」
と、どこからか湧いてきたジェームズ。
恨みがましい目でロックハートを見つめている。
「なんですかこの人⋯⋯。目がイってる」
「ふ、ふん!リリーからお情けのチョコ貰えたからって調子に乗るなよ!」
「負け犬の台詞すぎるぞプロングズ」
「黙れ犬」
ジェームズは懐から、チャック付きポリ袋に包まれたキッ○カットを取り出した。まだ食べてなかったんかい。てか保存方法がキモい。
「だいたいね?チョコは数じゃなくて含まれてる気持ちが重要なんだぞ!」
「うーん、これは正論」
「だから、この小さなお菓子にもリリーからの宇宙より広い愛が込められているってわけさ」
「そんなもの込めた記憶はない」
「あっはー、照れちゃって〜」
「あ゛?」
私とジェームズのやりとりを聞いたロックハートは、可哀想な人を見る目をしてジェームズに言った。
「何言っているんです?そんな薄っぺらいチョコに込められた想いなんて雀の涙より少ないですよ?」
「なんだこの後輩。的確に刺してくるじゃん⋯⋯」
バレンタインと言えばロックハート。