忘却の唄・消えかけのアルタイル   作:ツナ缶マン

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皆さん。
おはようございます。

張り切って第2話行きましょう…


02話-放浪者

 

「久しぶりだ…。それに街も前に見た時と全然違う…」

 

少年は河川敷の土手に寝ころび、川の向かい側にある記憶と違う街を見回していた。

そんな中、彼はジャケットの内に右腕を突っ込んで、内ポケットに納まっていたチェーンを引っ張ってあるものを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「時計はあっても…日付が分からないし、そもそもこの時間(・・)も正しいのか分かんないし…」

 

彼が取り出した物は年季の入った懐中時計。

何を思ったのか彼は時計が自身の顔の前に来るまで右手をあげ、空いていた左手で時計を弾いていた。

 

弾かれた時計はチェーンを掴む右手を支点にして、規則正しく彼の顔の前で左右に揺れる。

時計自体は揺られながらも針が時間を刻むが、今の彼には日付も分からなければ持っている時計の時刻があっているのかすら分からない。

 

揺れる時計に合わせるように彼の視線も左右に揺れる。

そして視線を揺らし始めてから何度目かの時に彼の視線には時計とは別のあるものが飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…シロツメクサだっけ?」

 

彼の目に飛び込んできたのは河川敷に生えていたシロツメクサ。

それを見た彼は時計を懐に戻すと、何を思ったのか彼は起き上がってからシロツメクサが生えている場所まで歩み寄り、そしてそのままシロツメクサの前でしゃがみこんだ。

 

「懐かしいな…ごめんね?たしか……こうやって…」

 

懐かしさに浸った彼は謝罪の言葉を投げかけてから生えていたシロツメクサを何本も引き抜いて何かを始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、少し経った頃―――

 

「シロツメクサの花冠…。記憶だけを頼りに作ったから時間かかっちゃったし、それに冠と言うにはちょっと小さいかな?」

 

彼の手の中にあったのはシロツメクサで作られた花冠。

傍から見たら綺麗に作られていたが、作った当人からしたらサイズが小さいと若干の後悔を覚えていた。

 

「困ったな。懐かしさで作ったのはいいけど…」

 

そして、それ以上に困るのは作った花冠をどうしようかと言う事だった。

勢いで作ったのはいいが、流石にこれを着ける訳にもいかないし、作った手前この場に置いておくのも忍びない。

 

彼は冠を顔の前まで持ち上げたが、そのタイミングで――――

 

「ん?」

 

「あっ…」

 

 

 

「あっ…その…ごめんね…?」

 

「あっ…大丈夫…です」

 

「でも、急にしゃがみこんで…どうしたの?探し物?手伝おうか?」

 

 

「石…探してて…」

 

「石…?」

 

冠の輪を通して、彼の目の前で不意にしゃがみこんだ少女と目が合ってしまった。

彼はいきなり女の子がしゃがんだことに驚いていたが、少女の方も今になって彼の存在に気が付いたのか何とも言えない空気に包まれていくが、彼の方が何とか先に再起動して謝罪の言葉を口にすると、相手からも謝罪の言葉が返ってきた。

 

そして、彼は不意にしゃがみこんだ事を質問すると、想像の斜め上を行く答えに困惑していたが、少女の方も彼が持っている花冠の存在に気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと…はい…。お兄さんのは…?」

 

「あっ…これ?昔に作ってもらったのを思い出してね。記憶を頼りに作ってみたんだよ」

 

「凄い…」

 

「はい」

 

少女は彼が作った花冠に視線を向けると、そんな彼女の姿を見た彼は何を思ったのか急にその冠を目の前の少女の頭の上に載せていた。

 

「えっ…?」

 

「それ、あげるよ」

 

「あっ…ありがとうございます」

 

少女はいきなり冠を載せられた事に驚いていたが、若干嬉しそうな表情を零す。

それを見た彼は何事も無かったかのようにそのまま立ち上がって少女に背を向けていた。

 

「それじゃ、気をつけてね?」

 

「あの…お兄さんは…?」

 

「俺?俺はいま―――じゃなかった…

 

 

 

 

 

ただの花冠のお兄さんだよ。それじゃ…」

 

彼は名乗ろうとしたが、何を思ったのか名乗りを止めてそのまま河川敷から離れると、そのまま近くの橋を渡って川の向こうに広がっている街へと歩み出していくが――――

 

 

 

 

 

 

「また迷った…。あの頃っぽいところの多いけど、少し入ると全然違うな…。

あっ…あの子に時間とか確認すればよかった…しまった…」

 

街の中を歩き始めて早々に道に迷ってしまったうえに、折角話しかけれた少女に時間を聴けばよかったと後悔し始めていた。

なかなかに面倒な状況に陥っていた彼だったが、彼は面倒ごとに愛されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「つぐちん!!おねーちゃん達が待ってるから早く行こう!!」

 

「あこちゃん!!走ると危ないよ!!曲がり角を飛び出したら―――!!」

 

「だいじょb―――うわぁ!?」

 

「おっと…!!」

 

通りを歩いていた彼だったが、目の前の曲がり角から荷物を持った少女がいきなり飛び出してきた。

 

 

 

このままでは避けるのは間に合わないが、彼からしたら衝突の衝撃は大したことはない。

だが、少女の方は荷物を抱えていたこともあってバランスが崩れており自信にぶつかれば勢いで転ぶのは必至。

 

 

 

それをほんの一瞬で判断した彼は少女がぶつかってきたその瞬間、自身が後ろに倒れながら

相手に気づかれないようにほんの少しだけ少女の荷物を引き、自身がクッション代わりになるように先に倒れると、その目論見通りに飛び出してきた少女が自身の上に倒れこんできた。

 

「いたた…」

 

 

 

 

「あっ!!あこちゃん!!」

 

本当は痛くも無いが、あえて痛がるような言葉を口にすると、少女が飛び出してきた角からは違う少女が荷物を抱えて出てくると少年の上に倒れていた少女を呼んでいたが、あこの下にいた人物に気が付くと一気に青ざめた表情に変わっていた。

 

「あのっ!!大丈夫ですか!!」

 

「あ~…うん。大丈夫だよ。驚いただけだから…退いてくれると嬉しいかな?」

 

「あっ…ごめんなさい…!!」

 

彼は上に倒れこんでいる少女に退くように促すと、言われるがままに彼女が立ち上がる。

そして、下敷きになっていた彼も何事も無かったかのように立ち上がると軽く埃を払い始めていた。

 

 

「怪我してない?」

 

「あっ…はい!!ありがとうございます!!」

 

「あの…本当に怪我してないんですか…?」

 

「大丈夫だから落ち着いて?」

 

「はい…」

 

後から来た少女は顔を青くしたままだったが、彼から優しい言葉をかけられたことで何とか落ち着きを取り戻し始めていき、彼も彼女が完全に落ち付くのを待つ。

 

そして、彼女の顔が多少戻った頃には再び彼女が頭を下げ始めていた。

 

「その…本当にごめんなさい…!!」

 

「つぐちん…。本当にごめんなさい…!!あこが飛び出したから…!!」

 

 

 

「大丈夫だから気にしないで?」

 

顔を青くしていた”つぐちん”と呼ばれた少女―――つぐみと自身の事を”あこ”と呼ぶ少女から頭を下げられるが、彼自身には全く問題はないのにここまでされると返って居心地が悪くなってくる。

だが、正直彼女達はこのまま頭を下げ続けられると周囲の視線と言う別の意味の苦痛を味わう事になると判断した彼はあるお願いを思いついた。

 

 

 

 

「そうだ…ちょっと時間見せてもらっていい?」

 

「時間…ですか…?ちょっと待ってください?…えっと、大体10時くらいです…!!」

 

「…それ見せてくれるかな?」

 

「はいっ!!」

 

彼は2人に時間を尋ねると、あこが自身のポケットを漁ってスマホを取り出してざっくりとした時間を告げたが、彼は画面を見せるように言うとあこは言われるがままに画面を彼に向ける。

スマホの画面に表示されている時間の表示を見た彼は懐の時計の時間と確認してズレがないことを確認していた。

 

 

 

「うん。ズレて無さそう…ありがとね。もう大丈夫だよ。それで2人とも荷物は大丈夫?」

 

「はい!!大丈夫です!!」

 

「私はぶつかったりしてませんから…。でも、本当にいいんですか?」

 

時間のずれがないことを確認した彼は時計を懐にしまいながら、2人が持っていた荷物を心配をするとあこが荷物を確認し始めて問題がないことを確認していたが、つぐみは未だに彼が怪我をしているのではないかと心配していた。

しかし、これ以上心配されると怪我ではなく罪悪感が出来そうだと考えた彼は2人の荷物を奪っていた。

 

「「あっ!!」」

 

「だから、大丈夫だって言ってるでしょ?ほら?」

 

「だからって荷物を急に取らないでください!!」

 

「それはごもっとも…。それじゃ、ぶつかってきたお詫びに荷物持ちと、そこまででいいから街の紹介してもらってもいいですか?」

 

 

「つぐちん!!やろう…!!」

 

「そうだね…そう言われると…断れないかな?」

 

「なんかごめんね?」

 

彼は驚いていた2人の前で奪った荷物を軽そうに持ち上げてみせたが、つぐみがその行動にツッコんでいた。

そのツッコミに対して彼は笑ってそれに答えると街の案内役を手に入れることに成功したが、つぐみの表情を見て罪悪感を覚え始めていた。

 

そうしてめでたく荷物持ちになった彼は道中では街の事を始め、あことつぐみの2人の事も話していた。

 

 

つぐみは商店街にある喫茶店の娘だという事。

2人は幼馴染で、あこの姉がつぐみと同い年だという事。

 

そして、2人がバンド―――音楽活動をしているという事を聞いた彼は目を丸くして驚いていた。

 

「えっ?私達が音楽してるのに何で驚いているんですか?」

 

「俺の幼馴染も歌…いや、音楽が好きだったので…その偶然の一致だけど驚いちゃって…」

 

「そうなんですね」

 

「あの…!!もしかしてその人の事好きだったりするんですか!!」

 

「あこちゃん!?」

 

 

 

「う~ん。好きって言っても恋愛的な感じはなかったよ?歌ってるのを見るのが好きだったって感じで…今でも続けてるかな?」

 

「ふふっ…続けてるといいですね」

 

彼は過去を思い返して遠い目をしていると、つぐみはそんな姿を見て笑みを浮かべて答えていた。

幼い頃から今まで音楽を続けている可能性はかなり低いとも思っていたが、あこもそんな彼に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「そうだったらあこ達会った事あるかも…!!今はガールズバンド時代って言って、みんなやってるし…!!」

 

「そうかもね…それだったら会った事もあるかも…。あっ…!!もし良かったらこの後のライブ見てくれませんか?」

 

「あ~…折角ならお願いしようかな?」

 

「あそこ曲がったら目的地だよ!!」

 

あこが先導して最後の角を曲がると、その視線の先にはCiRCLEというライブハウスが見え始めると、その建物の前で何人かが立っているのが見えたが、彼はそれをあまり気にしてはいなかった。

 

「あそこまでですね?」

 

「すいません。わざわざ…ぶつかったのはこっちなのに荷物まで持ってもらって…」

 

「いえ、大丈夫ですよ。こっちも帰ってきた街がだいぶ変わって迷ってしまってたので…」

 

「帰ってきた…?」

 

「小さい頃に住んでたんですけど…」

 

「へぇ~!!そうなんですね!!」

 

つぐみと何気ない話をしていた彼だったが、目的地に近づくにつれて建物の前にいる人物たちの顔がハッキリを見え始めて来る。

そして、その中の1人を見て驚いてしまったが、相手は自身の事を気にしていない様子を見て何とかその驚きを声に出すことなく誤魔化したが――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!!友希那さん!!」

 

「えっ…」

 

「どうかしましたか?」

 

彼はあこが呼んだ名前には驚かずにはいられず、思わず驚きの言葉が漏れると横にいたつぐみは彼の言葉を聞き逃していたものの、何かを感じ取って顔を覗き込んでいたが、そんなことを気にする余裕などなかった。

 

 

 

なぜなら、振り返った彼女は間違いなく自身の顔を見て驚いていており、その人物は先ほど話に出てきた少女本人だったのだから――――

 

「ゆき…ちゃん…?」

 

「えっ?なんて言いました?」

 

思わず昔の呼び方を呟いてしまった。

その声は横にいたつぐみですら聞き逃すほどに小さな声だったにも関わらず、相手の方は今の言葉を完全に聞き取っていたことは表情を見れば一瞬で分かってしまった。

 

それを理解した彼はすぐに動き出していた。

 

「ごめん。予定を思い出した…。悪いけど荷物はここまででいいかな?」

 

「えっ?はい。ありがとうございました…?」

 

彼は持っていた荷物をつぐみに押し付け、不審がられないように早足でその場から離れ始めたが―――

 

 

 

「っ…!!待ちなさい…!!」

 

「っ…!!」

 

彼の耳には昔の頃と変わらない声でゆきちゃん―――いや、友希那と呼んだ少女が追いかけてきていた。

その言葉を聞いて彼は来た道をそのまま引き返して角を曲がると彼女もすぐに追いかけて角を曲がったが―――

 

 

 

 

 

 

「うっ…!!」

 

運動が出来ない友希那は角を曲がってすぐに転んでしまっていた。

このまま放置すれば容易く逃げられるが―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?」

 

心配の余り、彼は彼女の元へと駆け寄ってしまっていた。

そして、彼は転んだ彼女を立ち上がらせようと腕を伸ばしたが―――

 

「捕まえた…っ…!!」

 

「えっ!?」

 

「あなたにはいろいろと聞かなきゃいけないことがあるのよ…!!」

 

あろうことか友希那は差し出された腕に飛び付いてそのまま腕を抱いていた。

思わぬ行動に彼は戸惑っていたが、友希那は彼を逃がさまいと抱き着いた腕に更に力を込めながら声を挙げていた。

 

「あの…誰かと勘違いされてるんじゃ?」

 

だが、捕まった彼は友希那に対してとぼけてみせた。

先ほどは昔の呼び方が口から零れてしまったが、他人の空似で誤魔化せばいい。

 

――――相手は、いや世界中の誰も自身の事を覚えているはずがない。

 

彼の中ではそう思っていたが、世界は残酷だった。

 

「私があなたを忘れる…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサの弟――――”今井 ユウ”の事を…!!」

 

「っ…!!」

 

友希那の言葉は彼―――ユウ対して放たれたその言葉は、彼の思いを完全に打ち砕くには十分すぎる破壊力を持っていたのだから。

 




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