前回は完全にインモラルな空気になりましたが…
残念なことに片割れの方が記憶がないのでノーカンです
という事で今回は可哀そうな人からスタートです
リサが氷川家でとんでもない告白をした翌日。
友希那の姿は授業を終えて、同じ大学に通うバンド仲間たちとRiNGのカフェに行くことになっており、彼女達は6人で集まっていたのだが――――
「「………」」
「友希那ちゃんも燐子ちゃんも…目が死んでるわよ?」
「白鷺さん。あなたも人の事を言えないわよ……」
カフェに行く前だと言うのにも関わらず、その半数の目は既に死んだような目になっていた。
こうなっているのは彼女達の前を歩く人物が原因だった。
「これが初恋って奴だって思ったよ!!それでアタシのせいで怪我したのを看病して~」
「すごーい!!かっこいいね~!!そんな初恋なんて…ドラマみたい!!」
「それは…儚いね…」
そこにいたのは昨日の出来事を嬉しそうに話すリサ。
彼女の話を聞いている彩はその話に夢中になってしまい、ドラマのようなシーンの数々に嬉々とした笑みを浮かべていたのだが、彩の横を歩いていた薫の目は徐々に死んだ魚のように光を失い始めていた。
「瀬田さんも辛そうですね………」
「薫はもう3回も聞いてるから仕方ないわよ……。私なんて2度目で聞き流してたわよ?初恋話なんて1回聞けば十分じゃない……」
「私は5回ほどで……本当に辛かったです………」
「そう考えると彩ちゃん凄いわね…。もう5回くらいリピートしてるのにテンション変わってないわよ……」
リサは昨日の出来事が余りにも嬉しかったのは何度も何度も同じ話を繰り返しており、比較的に人当たりの良い薫ですら限界が近いというとんでもない状況になっていた。
普通に人の初恋した話など1回聞けば十分なのだが、そんな事に構う事なく話をするリサについていって楽しそうに相槌を打ち続ける彩のメンタルに皆が驚いていたのだが、話を聞いていた友希那の目から更に光が消えていた。
「いいじゃない。数えられる程度なんて……私なんて昨日の晩から寝かせてもらえなかったわ」
友希那は先日の晩から今までの間。それこそ授業で別れている時以外は常に話を聞かされ続けていたのだ。
リサの初恋話―――
傍から聞いていたら、友希那の幼馴染であるリサの初恋が友希那の知り合いに初恋をしたという、何とも言えないような状況なのだが、事情を知っている友希那からしたらそんな優しいものではない。
友希那からしたら”姉が弟に初恋をしている”と言う完全に常識から外れた話を延々と繰り返されているのだが、この事を打ち明けることが出来ずに自身の中にしまい込んでいる状況で目の光が消えるだけで済んでいる方が異常。
しかし、その事情を知らない千聖は彼女を励まそうと肩にやさしく手を置いていた。
「………友希那ちゃん。今日のカフェ、奢るわ」
「ありがとう……なんだか泣けてきたわ……」
「強く生きてください……」
千聖はその想像を絶する過酷さと友希那のメンタルを気遣って、地獄のような状況を耐えた彼女に優しくし始めていたが、その優しさは過酷すぎる体験をしていた友希那にとっては劇薬も同じで思わず涙がこぼれ始めていたが―――
「あれ?ゆきちゃん?」
「中島さん?こんにちは」
「どうも…」
「ユウ…!?良いからここから離れ―――」
「あっ!!」
最悪なことにこのタイミングで
完全に想定していなかった状況に友希那が困惑するも、すぐにこの場から去るように伝えようとしたのだが既に手遅れだった。
「ユウさん!!」
「えっ…あぁ……どうも……」
友希那が逃がすよりも先にリサがユウの存在に気が付いてしまい、彼女は一目散にユウの元へと一目散に駆け寄って嬉しそうに声をかけていた。
一方でユウの方はと言えば、助けた際に出来た傷を舐めるというとてつもない暴挙をとった女性―――いや、自身の姉が何故か物凄い勢いで自分の元へと駆け寄ってくるという状況が理解出来ずに困惑しながらも何とか言葉を返していた。
「あんな今井さん…見たことありません…」
「まるで尻尾を振って喜んでる犬みたいね…」
「…あんなカッコいい人にあんなことされたんだったら、リサちゃんがああなっちゃうのも分かるかも…」
そんな光景を見た周囲は普段では見られないリサの姿に驚いた表情を浮かべていたが、彩は彼の容姿を見るとリサの行動に理解を示していた。
「えっ…まさか彼が…リサちゃんの!?」
「えっ?薫さんも知り合いなの…?」
だが、そんな中で薫だけがユウの姿を見て誰よりも驚いた表情を浮かべていた。
その様子に彩が気が付いて彼女に問いかけたのだが、その答えが返ってくるよりも先にユウが動いていた。
「あっ瀬田さん…」
「やっ…やぁ……」
ユウは薫の顔を見るとリサの横をすり抜けて、そのまま薫へ向かって歩き出していた。
その行動の意味がまるで分からない彼女達はユウに視線を向けると、彼は自身の顔を薫の顔の近くまで寄せていた。
「えっ……顔が…近…っ…!?」
「「「「なっ!?」」」」
「はっ…?」
いきなりのユウの顔が迫ってきたことに薫が困惑し、周囲の面々はその行動を取った事が信じられないと言った様子だったものの余りにも様になっていたその動きに見つめることしか出来なくなってしまい、リサはユウに顔を近づけられていた薫に冷たい視線を向け始める。
完全にカオスな状況になって収拾がつかなくなりそうになるこの状況で、ユウの手は薫の顔の横へスッと伸びていった。
「えっ…?あっ…///」
衆人環視の中でのこの状況に手が伸ばされた薫は、この状況で情熱的にキスでもされるのではないかとあらぬことを考えて顔を赤らめていたものの、ユウが伸ばした手は薫の顔に軽く触れたと思ったらすぐに彼女の顔から離れて行ってしまった。
「えっ?何を……」
「いや、瀬田さんの横髪に小さいクモがくっ付いてたので取っただけですよ?」
この状況で手が引っ込んでいく状況に思わず薫が言葉を漏らす前でユウはあっけからんとした表情で自身がやったことを白状した。
髪の毛に、虫がいたから、取っただけ―――
ただそれだけの行動をするためにユウの整った顔が近づけられたことで感じてしまった恥ずかしさと、髪に虫がついていたという悲しい事実を口にされてしまった薫は――――――
「うっ…うぅ……っ!?」
「薫!?」
「あれ…?」
「ユウ…」
その事に薫の頭の理解が完全に追いつかなくなってそのまま限界を迎えてしまい、呆然とした表情を浮かべながら立った状態で意識を手放してしまった。
そんな彼女に千聖が駆け寄っていくが事体を引き起こした本人は困惑していたところに友希那がやってくると、そこまで強くはないもののつま先で彼の脛を蹴り始めていた。
「お仕置きよ。あなた、いきなり顔を近づけるなんて何考えてるのよ」
「流石に「クモが髪についてますよ」なんて普通に言っても不味いかと思って、女の人って虫が苦手な人多いでしょ?それでパニックになったら可哀そうだし」
「虫を捕るだけなら顔を近づける必要あったのかしら?」
「いきなり手を伸ばされたら紗夜さんみたいに怖がらせると思ったから…?それと、ゆきちゃん?何度も蹴られると流石に痛いからね?」
「……お仕置きだからいいのよ」
「友希那ちゃん、もう少し強く蹴っちゃいなさい」
「あの~…白鷺さんも煽らないで貰えますか?」
ユウとしては先ほどの行動は善意1000%の行動であり、薫に顔を近づけたと言う認識が一切なかった。
しかし周囲はそうは思っておらず、現にお仕置きを称してユウに不満をぶつけている友希那の蹴りは止まることはなく、それどころか千聖からはもっとやるように煽られる始末だった。
友希那に蹴られるユウだったが彼女の力の入っていない蹴りでは何も問題もない。
それならば友希那の不満を解消させるために危なくなるまで蹴らせ続けようとすら考えていたのだが――――
「ちょっと友希那!?いくら何でもやり過ぎ~!!」
「リサ……?」
「ユウさんがケガしたらどうするの!!」
「この程度なら大丈夫ですよ」
状況が致命的になる前―――いや、すでにかなり深刻な状況になっていたのだが、このタイミングでリサが友希那を止めるために声をかけたのだが、友希那がその言葉を聞いても彼女は止まらず、ユウの方も問題がないと笑って見せていた一方で友希那は光を失った目をリサに向けてとんでもない事をぶちまけた。
「ケガなんてしないわよ。それに……
ユウにケガさせたら、リサがまた傷を舐めそうだもの」
「「「「「えっ……」」」」」
ユウが怪我したらリサが怪我を舐める。
真面目な顔をした友希那の口から飛び出した内容はあまりにも衝撃的で、それは意識を飛ばしていた薫すら元に戻すほどだったのだが――――
「アレは…その…唾つければ治るって言ったからで…」
「「「「「えっ……」」」」」
彼女は友希那の冗談めいた言葉に否定することをしなかった姿を見て、今の言葉は友希那の冗談ではなくリサは確実にヤった事だという事を彼女達は察してしまい絶句してしまった。
あの友希那ですら知っている迷信を彼女達が知らない訳がなく、その迷信通りにリサが文字通りに唾をつける事など考えていなかった。
それ以上に”他人の傷を舐める”なんて行動は完全に常人の思考ではない千聖や先ほどまでノリノリで聞いていた彩ですらリサに驚きの表情を向けていると、リサの顔がドンドンと紅くなっていき――――
「もう!!カフェ行くって言ったのにいつまでこうしてるの!!行くよ!!」
「リサ…!?」
「ちょっと離して!?」
この空気に耐えられなくなったリサは友希那に蹴られ続けていたユウの腕を掴むとそのまま彼を引っ張ってRiNGに向かって歩いていってしまうのだった。
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