進撃の巨人〜Another Choice〜   作:赤道さとり

11 / 14
#11 いじめ

 

___834年。

 

孤独な学校生活を送り始めてから1年半が過ぎ、カイルは4年生になった。

 

この頃には、学年内にカースト制度のような暗黙のヒエラルキーが構築されていた。

 

トップにはもちろんブランカが君臨しており、リッツとオリンダという2人の女子生徒を側近に従えている。

 

成績においては相変わらずカイルが学年トップの座に鎮座していたが、落ちぶれていたはずのブランカの成績は、あろうことか学年2位まで上昇していた。

 

差し詰め、親の権力に物を言わせて他の生徒の成績を下げたといったところだろう。

 

 

 

ブランカはカイルに干渉してくることはなくとも、カイルを孤立させることだけは手を抜かなかった。

 

そのため、ブランカの思惑通り、カイルは孤独に粛然とした学校生活を送る羽目になったのだ。

 

休み時間も昼食の時間も誰とも話さず、たまに聞こえてくる陰口も気に留めることなく、ただ静かに日々を過ごす……だが、家でも孤独が多いカイルにとって、それはさほど気になることではなかった。

 

 

 

そんなある日、状況を一変させる出来事が起きる。

 

 

 

それは満月の夜だった……なんと、シャルマン牧場に泥棒が入ったのだ。

 

犯人はここ数年ガルド街を脅かしている窃盗団であり、その大半は身寄りのない少年少女で構成されている。

 

その素早しっこさとずる賢さには、憲兵たちも手を焼くほどだった。

 

しかし、カイルの活躍によってシャルマン牧場は被害を被ることなく、泥棒たちを追い払うことができたのだ。

 

さらに、窃盗団のアジトまでしっぽを掴んだカイルは、憲兵団からその功績を称えられた。

 

もちろんその事件での活躍は学校でも表彰され、カイルはまた脚光を浴びることとなった。

 

だが、それを気に食わない者がいた。言うまでもない……ブランカだ。

 

それまで手を出してこなかったブランカだったが、この事件をきっかけに、とうとうカイルへ“嫌がらせ”をするようになったのだ。

 

 

 

 

 

___ある日の放課後。

 

教室で帰りの支度をしていたカイルの目の前に、ブランカと側近の2人が立ちはだかった。

 

ブランカは腕を組み、カイルのことを見下ろしながら丁寧な口調で嫌味を放つ。

 

「これはこれは、泥棒を捕まえた英雄さん。良いご身分ね……みんなのヒーローになった気分はどう?さぞかし優越感に浸っているんでしょう?」

 

「……」

 

カイルは返事をしない。

 

すると今度は、右隣りのリッツがカイルに突っかかってきた。

 

「どうせまた()()()()を使ったんでしょ?そこまでして自分の地位を上げようとするなんて、甚だみっともないわ!」

 

「……」

 

また返事をしないカイル。

 

すると今度は、その態度に苛立ったオリンダが甲高い声でカイルを罵った。

 

「何とか言ったらどうなのよ!その澄まし顔…いつ何時でも我関せずって感じでムカつくのよ!」

 

「……」

 

カイルはそれでも返事をしないどころか、尚も身支度を続けている。

 

そこに、ブランカが急き立てるように罵った。

 

「今更足掻いたって無駄よ、カイル。姑息な手を使って評価を上げたところで、あんたの周りからの信頼までは取り戻せないわ……その証拠に、こうして表彰式を終えた後も誰一人としてあんたに寄りつこうとしない。フフッ、哀れなものね!」

 

「きゃはは!言えてるわね」

 

「ホント、憐れよねぇ~…うっふふふ」

 

側近の二人もブランカに便乗するように汚く笑った。

 

その笑い声が癇に障ったのか、カイルはブランカの顔をゆっくり見上げながらようやく口を開いたのだ。

 

「教えてくれてありがとう、ブランカ。すまない……変な誤解をさせてしまったかもしれないが、君の邪魔をするつもりはないんだ。それじゃあ、俺はこれで…」

 

そう言って軽く笑顔を見せたカイルは、鞄を手に取りその場から去ろうと踏み出した。だが、正面に立ち塞がったリッツによって、その行く手は阻まれてしまう。

 

ブランカは真顔で立ち止まるカイルを嘲笑うように静かに悪態をついた。

 

「まぁ待ちなさいよ。あんたにはまだ用があるの。……っていうか、まだ“俺”とか言ってんの?気色悪い……あんた女でしょ?」

 

カイルは立ち止まったまま、ぴくりとも反応を見せない。

 

すると、ブランカに便乗するようにリッツとオリンダも野次を飛ばしてきた。

 

「この男女(おとこおんな)が!紳士気取ってんじゃないわよ!」

 

「うっは、男女(おとこおんな)!いいわね、あんたにぴったりのあだ名じゃない!」

 

そんな野次に対してもカイルが反応を見せることはなかった。

 

その様子に、ブランカは少し苛立ちを見せる。

 

「チッ…私たちなんて眼中にないといった様子ね。でも、いつまでもそうやって紳士を気取れると思わないことよ。あんただって、()()()()()()()()()わけじゃないんでしょう?……仕方ないから心優しい私たちが、その張り付いた薄ら笑いを剝がしてあげるわ」

 

「そう…なら、どうするの?」

 

「フンッ、こうするのよ……オリンダ!そいつから鞄を取り上げなさい!

 

命令を受けたオリンダは、勢いよくカイルの鞄に手を掛けた。

 

その際、特にカイルが抵抗することはなかった。

 

オリンダが力づくで鞄を取り上げると、ブランカがカイルにある“要求”を押し付ける。

 

「私たちの要求はこうよ。あんたが『学年トップの座から降りる』こと……簡単なことでしょう?でも、そうね……何の脈絡もなしに突然成績が下がるようでは、私たちが裏工作していることがバレかねないわ。そうならないよう自然な形で成績を下げなさい。でないと…」

 

そう言ってブランカが目配せすると、合図を受けたオリンダが窓の外に向かって思いっきり鞄を投げ捨てた。

 

ドボンッ

 

カイルの鞄は、中庭の噴水の底へと沈んでいったのだ。

 

ブランカはその音を確認すると、先ほどの続きを話し出す。

 

「…でないと、あんたは来年も教科書を()()購入することになる。わかったわね?」

 

カイルは沈んだ表情でブランカの顔を見つめ返した。

 

「あぁ、よくわかったよ」

 

「あはは!いい気味だわ!!2人とも行くわよ」

 

ブランカたち3人はケラケラと甲高い笑い声を上げると、その場から去って行った。

 

 

 

カイルは3人の足音が聞こえなくなるのを待ってから、鞄を拾いに向かった。

 

拾い上げた時にはすでに教科書やノートは使い物にならなくなっていたが、カイルはそれらを渋々家に持ち帰ったのだ。

 

母親のメアリには『自分の不注意で水に落とした』と報告すると、久しぶりに罵詈雑言を浴びせられた。

 

その日、カイルは晩御飯を食べさせてもらえなかったという……

 

 

 

それからというもの、事あるごとに“ブランカ軍団”からの嫌がらせを受ける日々が続いた。

 

ブランカたちの嫌がらせはどれも陰湿で、教師たちや周りの生徒にバレない程度の工夫が凝らされている。

 

下校途中に待ち伏せして泥水と罵声を浴びせたり、体練の授業の時にわざと足を引っかけて転ばせたりと、姑息なものばかりだ。

 

…とは言え、周りの生徒たちがそれに気づかないわけもない。

 

いじめに気づいていても、自分や自分の家に火の粉が飛ばないよう見て見ぬ振りをしているのだ。

 

そうして、誰一人としてブランカに逆らえる者はいなくなり、カイルの学年はブランカの独壇場となっていった。

 

 

 

カイルはブランカの要求通りに自然な形で成績を調整していき、その年の終わりにはブランカが学年トップにまで登り詰めた。

 

当然、メアリはかいるがその座を譲り渡したことに激怒したが、相手がラング商会の親戚だと知ると文句を言わなくなった。

 

これに味を占めたブランカは、次の年もまたその次の年も同じような嫌がらせを繰り返し、カイルに成績の調整を強要したのだった。

 

 

 

無論、カイルの内心は穏やかなものではない。

 

なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのか…

 

いつになったら報われるのか…

 

その答えを見出せないまま、無情にも時間だけが過ぎていく。

 

カイルは嘆いた。

 

しかし、その嘆きとは裏腹にブランカ軍団からの嫌がらせは日に日にエスカレートしていくのであった。

 

 

 

 

 

___ある日の夕暮れ時。

 

牧場の丘の上に独り座るカイルは、沈みゆく夕日を眺めながら昔ジェイクに言われたことを思い出していた。

 

 ー"いつか君の才に気づき、目指すべき進路を示してくれる者が現れるじゃろう…その時までの辛抱じゃ"ー

 

「ジェイクさん……俺、もう辛いよ。いつになったらその人は現れるのですか?家にも学校にも俺の居場所なんてない。誰を信じたらいいのか、わからないんだ…」

 

カイルはそう嘆きながら膝を抱えてうずくまると、虚ろな目である"風景"を想像した。

 

「俺の心の眼で見える世界は、酷く淀んでいる。まるで、深く暗い()()()をずっと彷徨っているみたいに……その森の木々たちは、俺を見て薄気味悪く笑っている。その視線から逃れるようにして走ると、どんどん森の深いところへと迷い込んでいくんだ……もう帰り道がわからない。俺は、ジェイクさんみたいには…なれない」

 

その日の夕焼けは、燃えるような赤だった。

 

振り返って街を見下ろすと、すでに日の光が届かなくなったガルド街が不気味に笑っているように見えた。

 

(引きずり込まれる…!)

 

不意にそんな恐怖を覚えたカイルは、沈みゆく夕日に手を伸ばす。

 

しかし、何も掴めないままの右手は、ただ()()()()()()()()()のだった。

 

 

それ以来、カイルはこの時の光景を何度も夢に見るのであった。

 

 

 





〜後書き〜

『オリンダの肩強くね?』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

中庭の噴水までってきっと結構な距離あったと思うんですよね。
まぁ、オリンダはかなり背が高いのできっと力もそれなりだったのでしょう。

…あ、でも、リッツには無理です。小柄で出っ歯なんで。


~おまけ~

今回の話でシャルマン牧場に泥棒が入りましたが、その事件について簡単なあらすじをまとめたものをXにて投稿しております。

よろしければ、そちらもご一読(&フォロー)いただけますと幸いです!

◎著者Xアカウント:@Satory_070815
◎投稿内容:【現在公開可能な情報】6.シャルマン牧場盗難事件(投稿日:2025/02/02)
◎noteにも投稿しました⇒https://note.com/singeki_satory


〜著者の妄想:BGMシリーズ〜

話数 :第11話 いじめ
音楽 :Call of Silence
シーン:牧場の丘で独り座って夕日を眺めるシーン

■詳細
長くなるのでnoteにて投稿しました。
暇があれば覗いてやってください。
https://note.com/singeki_satory
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。