___年が明け、新学期が始まる日。
カイルのクラスでは、朝礼時に転校生の紹介があった。
担任教師のエーレ・ヴィクターは転校生の名前を黒板に書くと、クラスの全員に向かって紹介した。
「今日からこのクラスに新しく生徒が一人増えます。さぁ、ブラッツァー……挨拶なさい」
「転校生のアデル・ブラッツァーです。シャルツガルド校から来ました。どうぞ、よろしくお願いします」
そう挨拶するのは、なんと……カイルが隣町で会っていた
そう、少年の引っ越した先はまさしく、モンテガルド校区内だったのだ。
驚くべきは、少年が同じクラスに転校してきたという単なる偶然だけではない……その少年の
隣町で遊んでいた相手は、シャルマン牧場が日頃お世話になっているブラッツァーシェフの御曹司だったのだ。
どことなく見覚えがある気はしていたが、まさか、歓迎パーティーで出会ったツンケンした子どもがあの少年だとは夢にも思わなかった。
カイルがそうやって昔の記憶を思い出しながら目を見開いていると、アデルと目が合った。
すると、アデルもまた開いた口が塞がらないといった表情で硬直したのだ。
この時、担任のヴィクターが何か話をしているようだったが、2人の耳には何一つとして入ってきていなかった。
「……というわけですので。皆さん、彼をこのクラスの一員として快く受け入れるように。いいですね?」
「「 はい、先生 」」
「おや、ブラッツァー……どうされたのです?」
「い、いえ。なんでも…ありません」
「あなたの席はあちらです。荷物はロッカーにしまうのですよ?」
「…はい」
アデルはカイルから目を離すと、ぎこちなく自分の席に着いた。
カイルもなるべくアデルの方を見ないように、黒板の名前を見つめている。
そんな2人の様子に不信感を抱いたのは、他でもない……ブランカだった。
___1限目の授業終わり。
アデルはすぐにカイルの元へ駆け寄ろうとしたが、ブランカによってそれは阻まれた。
「アデル。私の友人を紹介するわ……こっちよ」
「ブランカ。君と同じクラスなのは君の計らいかい?」
「そうよ。あなたが転校してくると聞いて、すぐ学校側に掛け合っておいたわ。もちろん、私たちが“婚約関係”にあるってことも伝えてある。教師たちはみんな喜んでいたわよ?ライバル校の学年トップを我が校に引き入れたってね」
「なら、これからは君と学校内でライバルってことだな」
「心配ないわ。将来の婿であるあなたの顔を立てないわけないでしょ?」
「…それはどうも。すまないが、俺ちょっと用があるから……君の友人には後で挨拶するよ」
アデルは無理やりブランカを振り切ったが、すでにカイルの姿はなかった。
カイルはブランカが自分の席に近づいてきたため、距離をおこうと教室を出ていたのだ。
すぐに教室を出て辺りを見渡すも、カイルの姿は見当たらない……アデルはしばらく周辺を探してみたが、結局カイルを見つけることはできなかった。
始業のベルが鳴ったため仕方なく教室に戻ると、どこから戻ったのかカイルはすでに着席していたのだった。
それからというもの、カイルは授業が終わる度にどこかへ姿を消すようになった。
アデルはその姿を目で追うことしかできず、避けられている理由はわからぬまま……
『自分のことなど当に忘れてしまったのか』_アデルの脳裏にはそんな不安がよぎったのだった。
___下校時間。
カイルはまるで尾を踏まれたトカゲのように逃げ帰って行った。
アデルは黙ってその後ろ姿を目で追いかけると、ブランカに声をかけにいった。
「ブランカ、1つ教えてほしいことがあるんだ」
「何かしら?この学校のことなら何でも教えてあげるわ」
「あそこの……端の列の前から2番目に座っている男子生徒について、聞きたいんだ。彼は、教師から“シャルマン”と呼ばれていたが、まさか
「え、えぇ…そうよ。でも…」
「やっぱりだ!それで、下の名前は!?」
アデルは興味津々に身を乗り出したが、ブランカは顔を引きつらせながら答える。
「…か、カイルよ」
「カイル!そうか、思い出したぞ……俺たちは過去に一度会っていた!どうして気づかなかったんだ…」
「
「実はカイルとは去年の半ばに街で出会って、それからは毎週のように遊ぶ仲だったんだ。互いに素性を隠したままだったから、名前を知らなくて…」
「え…遊ぶ…仲?」
「あぁ。少し前、ブランカの家がうちに高級なワインを差し入れに来てくれたことがあっただろ?ほら、俺が泥だらけで出迎えた……ちょうどその日は、ブランカたちが来る前に川辺でカイルと綺麗な石を探していたんだ。いやまさか、あの少年がブランカのクラスメイトだったとは……すごい偶然だ!」
「なっ…」
ブランカは驚きのあまり言葉が出なかった。
そして、アデルの次の言葉がブランカの逆鱗に触れることになる。
「なぁ、カイルを俺に紹介してくれよ!俺、カイルとまた友達になりたいんだ。ブランカも
バン!!
突然、ブランカが机を強く叩いて立ち上がった。
急な物音に肩をびくつかせたアデルが目を見開いていると、机に両手をついたままのブランカがこちらをキッと睨みつけてきた。
「あいつには近づかないで!!」
「え、
「あいつは
ブランカはまるで理性など吹っ飛んだのかのように、勢いに身を任せてアデルを怒鳴りつけた。
あまりの興奮状態のためか、肩を大きく上下するほどに呼吸も荒くなっている。
しかし、ブランカの必死の訴えは裏目に出てしまう。
アデルはブランカの期待通りの反応をするどころか、何故か目を輝かせていたのだ。
「
「え…あなたまさか、それをわかってて…!?」
「あぁ。確信はなかったが……しかし、なるほどそうか。
「わ、私が何よ…」
「とぼけないでくれ。君なんだろ?カイルをいじめている張本人は。まさか、許嫁の君が俺の友達を足蹴にしていたとは……非常に残念だ」
「ち、ちが…だって、それは…!」
「それに君の成績だって怪しいところだ。カイルが君に負けるとは思えない……これも調べれば簡単に真相がわかることだ。この学校の教師共は騙せても、俺の親父はどう思うだろうね……ブランカ、俺の言いたいことがわかるか?」
ブランカはアデルの鋭い問いかけに、目を泳がせながら答えた。
「…わ、わか…らない」
「これ以上、俺の
アデルは冷淡な声でそう言い放つと、ブランカを残してその場を立ち去った。
「ま、待って…」
涙ぐんだ声で引き留めようとするブランカ……だが、すでに教室を出て行ったアデルには届かなかった。
教室の中で一人立ち尽くすブランカは、悔しさのあまり肩を震わせながらこぶしを強く握りしめる。
静まり返った教室には、ブランカのすすり泣く声だけが響いていた。
そんな2人のやりとりを教室の後ろの扉からこっそり目撃していた生徒がいた。
「お、おい、ウッド……こいつはすげぇもんを見たな」
「うん。あのブランカをあそこまで言いくるめるなんて……これはもしかすると、本当にカイルへの疎外がなくなるかもしれないぞ!」
「かもな!だが、そうなったとして……あいつは俺たちを許してくれるだろうか…」
「君が弱気なんてらしくないよ、エルリク!カイルはきっと僕たちを信じてくれている。僕たちもそう信じて、ここで見聞きしたことをカイルに話してみよう!」
「そうだな。思い立ったが吉日だ……今からあいつん家に行くぞ!」
「それがいい!……で、カイルの家はどこか知ってるの?」
「いや、お前なら知ってるだろ?」
「「 …… 」」
2人は互いに目を合わせて瞬きすると、職員室を目指して駆け出したのだった。
___その頃。
帰宅途中のカイルは、いつもは駆け足で走り抜ける街中を今日はとぼとぼと歩いていた。
すると突然……
パシッ…
何者かに後ろから腕を掴まれた。
カイルが驚きながら振り向くと、そこには息を切らしたアデルがいたのだ。
「捕まえた!なぁ、話を聞いてくれないか?俺たち……もうルールは解消だろ!?」
「確かにそう言った。でも、ごめん……どうやら君とは友達になれないらしい。君はブランカの知り合いなんだろ?話しているのを見た」
「あぁ、ブランカに聞いたよ。君がシャルマン牧場の子だって。それから……君をいじめていたのがブランカだってこともさっき分かった。まさか、あいつだったとは……すまない!俺が謝ったところで、君がこれまでに受けてきた仕打ちのすべてを打ち消すことはできないだろうけど……でも、安心してくれ!これからは俺がそんなことさせない!すでにブランカには手を打っておいた。……君は自由だ!!」
「ブランカに話を聞いたのなら、俺の”正体”も知ったはずだ。俺の……
そう言ってカイルは、自分の手のひらを見つめた。
『また友達を失う』_カイルの脳裏にはそんな不安がよぎった。
だが、次のアデルの言葉でそれは杞憂に終わるのだった。
「俺はそんな奴らとは違う!君を恐れたことなんて一度もないだろ?それに、君がものすごい
「え…まさか、気づいて…」
「そりゃまぁ……眼を見ればわかる。でも、ルールがあるから事情は聞けなかっただろ?君は賢いのに、そういうところは鈍感なんだな」
その言葉に少し目を潤ませたカイルは、まっすぐにアデルを見上げた。
純粋無垢な瞳を向けられたアデルは、カイルの顔を直視できない……照れ臭さを隠すように目線を下に外すと、カイルの左腕で光る何かに目が止まった。
「あ、それ……着けてくれてるんだな」
「うん。だって、初めて
そう言って微笑みながらブレスレットを眺めるカイルの表情は、あまりに可憐だった。
思わず感情が込み上がりそうになったアデルは、手の甲で口元を隠す。それから感情を押さえ込むように声を張り上げながら話題を切り替えた。
「よし!こんな辛気臭い話、やめだ、やめ!とにかく、俺たちは約束通りに今日から
「でも、今日は牧場の仕事があるから…」
「他にも従業員がいるんだろ?父さんから聞いてる。今日くらいサボったって平気さ!」
「まぁ、今日は母さんも仕事関係で帰りが遅いって言ってたから…」
「なら決まりだ!そこは夕日が落ちる時間帯が一番綺麗なんだ。だから、今から向かえばきっとベストタイミングなはず!ほら、つべこべ言わずに行こう!」
「あ、ちょっ…待って…」
アデルはカイルの腕を掴んで引っ張った。
「俺たち、いつだってこうしてただろ?……山の麓まで競争だ!」
「ははっ、まったく……君には適わないな」
そうして、2人の少年は駆け出した。
しかし、その様子を物陰から妬ましげに眺める者がいた……ブランカだ。
ブランカはあの後、すぐにアデルを追いかけていたのだ。
だが、向かった先がカイルの元だと気づくと、物陰に隠れて2人の会話を盗み聞いた。
目の前で仲睦まじいやり取りを見せつけられたブランカは、嫉妬心に駆られ、物陰から動くことができないでいる。
「な、なによ、あれ……わ、訳が分からない……
ブランカは自分の首にぶら下がっているネックレスを手に取り、石留めの装飾を確認した。
「似てる……いや、あいつの方がより華やかに見えたわ!そんな……何でよりによってあいつなのよ!!アデルのあんな表情見たことない…」
悔しさのあまりボロボロと涙を流すブランカの顔には、憎悪と妬みの念が渦巻いている。
完全に開き切った瞳孔に、赤く腫れあがる目元。そして、異様なほどにひきつっている口元……その表情はまるで
ブランカはネックレスを力強く握りしめる、震える声でカイルへの憎しみを吐き散らす。
「許せない……許せないわ!!人から許嫁を奪うなんて……あの泥棒猫め!そうよ……きっとアデルは、あいつに
この時、ブランカの体は、嫉妬心に蝕まれたように小刻みに震えていた。
そして、震える足で路地裏から飛び出すと、何か思い立ったのかのように自身の家の方角へと走り出したのだった。
___その頃。
学校では、教師からシャルマン家の住所を聞き出したエルリクとウッドが、カイルの家に向かって出発しようとしていた。
「ふぅ……いやぁ、なんとか
「よく言うよ!エルリクがずっと挙動不審だったから、怪しさ全開だったじゃないか!?おかげで手こずったよ……君、嘘つくのが下手なんだね」
「なっ…喧嘩売ってんのか!?」
「しっ!……ブランカだ!」
2人が校門に差し掛かった時、おどろおどろしい表情で横切っていくブランカの姿が目に入った。
エルリクとウッドは思わずその場に硬直したが、ブランカは2人に気づくこともなく、そのまま走り去って行った。
「び、びっくりしたぁ……心臓がまろび出るかと思ったよ!」
「あ、あぁ……あいつ、ひでぇ顔してたな。それに手に
「ひどい顔って……女性に失礼だよ。でも、確かに只ならぬ様子ではあったね。何かあったのかな?」
「さぁな。けど……何かすげぇ嫌な予感がするぜ」
「ぼ、僕も……急いでカイルに会いに行こう!こっちだ!!」
「あぁ!」
ウッドに続くようにエルリクも走り出した。
2人はブランカが走り去った方角とは逆方向に向かって行ったのだった。
こうして、方々でそれぞれの意志が動き出した。
ある者は『信頼』を得るために。
ある者は『裏切り』を示すために。
ある者は『歪んだ正義』を振りかざすために。
そして、それらが交わる時……運命の“嵐”が巻き起こる。
夕暮れに染まった街に山颪が吹き下りた。
その冷たい風は、ひた走る少年たちの
〜後書き〜
『今更ですが、主人公のプロフィールを紹介します』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
【進撃の巨人】のキーナンバーと言えば『13』ですよね…
そして、今回は記念すべき(?)第13話!
ここでは、物語における『13』という数字にまつわる設定をちょこっと紹介します。
◼︎主人公:プロフィール
※850年時点の情報です※
・名前:カイル・シャルマン
Kile Charman
・誕生:5月26日
・年齢:26歳
・血液:B型
・身長:166cm
・体重:54.4kg
・出身:ウォール・シーナ西区ガルド街
誕生日、身長、体重はシンプルに数字を足し算したら「13」になります。
血液型は、「1」と「3」をくっつけて「B」というカラクリです。
年齢は13年×2ですね。13年というのが節目となり、その年にカイルにとって大きな出来事が巻き起こります。
※プロフィールの詳細(キャラデザのイラストもあり)は、Xにて投稿しています。よろしければ、そちらもご一読(&フォロー)いただけますと幸いです!
◎著者Xアカウント:@Satory_070815
◎投稿内容:【現在公開可能な情報】3.主人公のプロフィール(投稿日:2025/01/18)