___カイルの“正体”が判明してから半年後。
学年が1つ上がったカイルは、相変わらず親孝行を理由に“男の子”としての生活を送っており、周りからは一目置かれるようになっていた。
だが、カイルが一目置かれている理由はそれだけではなかった。
なんと、学年末に発表された年間成績で、カイルが学年トップに君臨したのだ。
これにはメアリも歓喜し、嫌らしくカイルを褒め称えた。
さらには褒美としてカイルをまた市場まで連れて行くと、何でも好きなものを買わせるほどの手のひら返しを披露したのだ。
その一方で、カイルの友人ブランカは学年で3位、クラスではカイルに次いで2位の成績を残した。
仲の良いカイルと共に成績上位であることを喜んだブランカは、そのことを仕事帰りの母親に報告する。
しかし、母親のアイシャはブランカの期待とは
「私の聞き間違いかしら……もう一度言ってみなさい、ブランカ」
「えっと、だから……クラスが2位で、学年では3位だったって…」
「はぁ…ブランカ。お母さん言ったはずよね?去年、ブラッツァーシェフの御曹司との縁談が決まったんだから、こちらもお相手に見合うような評価を学校で獲得しないとって…」
「もちろんわかってるわ。だから私頑張って…」
「
「ご、ごめんなさい…」
「何度も言ってるけど、私たちはただでさえお相手よりも身分が低いのよ?現状で満足しないで頂戴……わかったわね?」
「うん、次は……もっと頑張る」
「わかればいいのよ。うちも家庭教師にはかなりの額を注ぎ込んでるというのにねぇ……まったく、学年トップはどこの金持ちの子なんだか」
「学年トップは同じクラスのカイルよ!ほら、前から話してるシャルマン牧場の…」
「何ですって!?」
アイシャは急に声を荒げた。
ブランカは突然の大声に肩をビクッとさせ、今まで見たことのない母親の表情に困惑する。
アイシャの顔は引き攣り、身体はわなわなと小刻みに震えていたのだ。
「あそこの牧場はうちの商会が王都との契約を仲介しているのよ。つまり、身分は私たちの方が上なの!わかる!?……あなたは、
「そ、そんな言い方……カイルは友達なのよ!?それに、みすぼらしくなんかないわ。身なりは整えているし、とても紳士で優しい子よ!そんな酷い言い方しないで!」
「紳士?……あっはは!笑わせてくれるわ。兄さんから聞いてるけど、そいつは“女の子”なんでしょう?
「お、お母さんはカイルのことを知らないから、そんな風に思うのよ…今度ね?カイルをうちに招待しようと思ってるの。だからそこで…」
「ダメよ!!そんな得体の知れない奴をうちに上げるなんて……冗談は寝て言いなさい!とにかく、シャルマン一家は危険なのよ。特にあの
「カイルはそんなことしない!お母さん…どうしちゃったの!?前はこんなに怒鳴ったりしなかったのに…」
「えぇ、そうね……私が間違っていたわ」
「お母さん…!」
やけに聞き分けの早かったアイシャは、またいつもの柔らかい表情を取り戻した。そんな母親の様子に一度は安堵したブランカだったが、次の一言で母親の本性を知ることになる。
「あなたがここまで
「え?今…なんて…」
ブランカは耳を疑った。
恐る恐る母親の顔を見上げると、その瞳の色が暗く沈んでいることに気づいた。
冷たい視線にあてられ、肩を窄めるブランカ……アイシャは怯える娘の肩をガシッと掴むと、まるで赤子に言い聞かせるようにゆっくりと口を動かした。
「いいこと?この世は“地位”と“権力”がすべてよ。人にはそれぞれ身分と役割が与えられていて、身分相応な生活を送らないといけないの。これは、人がこの世に生まれた瞬間に定められる、言わば
そう話すアイシャの声は低く静かでありながら、深く心に突き刺さるような鋭さも持ち合わせていた。
ブランカはまるで言葉の鎖で体を蝕まれていくような感覚になり、何も言い返すことができなかった。
アイシャはさらにゆっくりと言葉を投げかける。
「カイル・シャルマンはあなたの友達ではないわ……打ち倒すべき“
「…わかったよ、お母さん」
こうして、母親のアイシャによるブランカへの“洗脳”が始まったのである。
___数日後。
ブランカはさっそく母親の言いつけ通りに、カイルへ探りを入れる。
「ねぇ、カイル。あなたの家はどこの家庭教師を雇っているの?……あ、あのね、うちの家庭教師がどうやら兄弟で生業としてるらしいから、もしかしたらぁ~……と思って」
「え、家庭教師って何?」
「何って……家まで勉強を教えに来てくれる先生のことよ。カイルの家にも来てるんでしょ?」
「いや、そういった人は来てないよ?それに、家に帰ったら牧場の仕事があるから…」
「そう…」
帰宅後、ブランカは仕事終わりの母アイシャにそのことを報告する。
「なっ…雇ってないですって!?」
「うん、牧場の仕事で忙しいからって」
「そ、そんなはずないわ!嘘よ……見栄を張ってるだけよ!!そこまで印象操作を徹底しているとは、抜かりのない女ね……でも、いずれボロは出るわ」
「そう…かな。カイルが嘘をついているようには見えなかったけど…」
ブランカは少し悲しそうな顔で俯いた。
だが、アイシャはそんなブランカの意見など無視して、さらにカイルの別の能力へ疑惑の目を向ける。
「身体能力だってそうよ。背はあなたの方が高いんでしょ?……あなたには昔から体術系の習い事だって色々させてる。それなのに、成績を上回られるなんて絶対おかしいもの!きっと何か
「…うん。わかった」
___数日後。
体練の授業後、ブランカが身体能力の高さについて尋ねると、カイルはきょとんとした顔で聞き返してきた。
「習い事?それは……何か稽古をつけてもらうとか、そういう感じの?」
「そうそう!何かあるでしょ?だって、どんな種目でもそつなくこなすんだもの」
そう言われたカイルは、顎の下に手を当てて考え込んだ。思い出していたのは、昔メアリに無理やり連れて行かされたレストランでのことだった。
「そうだな、強いて言うなら……3つか4つくらいの時に、所作とかテーブルマナーなら習ったかな」
「いや、そういうのじゃなくて……何か体術系のものとか、今習っているものはないの?」
「今は特に。牧場の仕事以外は何も……そういうブランカは何か習っているの?」
「わ、私!?そうね、
「へぇ、すごい!今度また話を聞かせてよ」
「えぇ…気が向いたら…ね」
帰宅後、ブランカはまた仕事終わりの母アイシャにそのことを報告する。
「はぁ!?何も習っていないのに、どうしてあなたより成績が上なのよ!あり得ないわ…」
「学校以外では、牧場の仕事をしているだけだって」
「フンッ、牧場の仕事ねぇ……そう言っておけば、何でも都合良く事が運ぶと思ったら大間違いよ!どうせ隠れたところで人を雇って、何かしらの稽古をつけているに違いないわ!あそこは
「……」
「こうなったら次よ、次!」
そうして、母アイシャの指示に従い、ブランカがカイルへ探りを入れる日々が続いたのだった。
しかし、何を聞いても期待する答えが返ってこないことに、アイシャはもちろん
なぜ自分はカイルよりも劣っているのか…
こんなに努力しているのに、なぜカイルに追いつくことができないのか…
その答えを見出せないまま、無情にも時間だけが過ぎていく。
ブランカは焦った。
しかし、その焦りとは裏腹に、ブランカの成績は徐々に低迷していくのであった。
___半年後。
モンテガルド校では、一年の途中で成績の中間発表が行われることになっている。
そして、この中間発表で、カイルとブランカの友情に塞ぎきれない“亀裂”が入ることになるのであった。
〜後書き〜
『ブンッ……………ザシュッ』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
アイシャ・メシュレヒト…悪しき母親ですね。
娘のことを自分の所有物のように扱い、洗脳で意のままに操る…やってることはメアリと似ていますが、対比的なのはそれに子どもたちが従順かどうかです。
ブランカはカイルの敵(ライバル)として、対比的な人物像にしたいという想いがあります。
・母親の思想に支配され、劣等感や負目を払拭するため周囲を力でねじ伏せるブランカ
・母親の思想を拒絶し、一つの信念を胸に孤独を乗り越え自由を求めて旅立つカイル
…説明が下手ですみませんが、なんかこんな感じの話になっていきます(笑)
カイルとブランカ、それぞれの運命が交差する先に待ち受けるのは、果たして"希望"か"絶望"か…
次回の話もお楽しみ下さい!
…あ、ちなみに。
冒頭の擬音は、アイシャのセリフを書いてる時に著者の頭の中で鳴っていた音です。
自分のことを棚に上げて人を批判するようなアイシャさんには、"ブーメラン"でも喰らってもらいましょう(´-ω-`)