新入生交流会もほど近く、ストーリー編のラストが近付いて来ています。
「ヤバい、残高がエライことになってる……!」
──────2024年5月16日。新入生交流会まであと2日。
一先ずの作業を終え、部の出し物が用意されたテントの側でDGAから来た給与明細をメールで見ていたサキトは……半ば腰を抜かしていた。
「ひ、一月で……100万超え……!」
高校生が持つには恐ろしい額だ。どうやら先月戦ったクリーチャー数、その内容により基本の金額に上乗せがかかっているらしい。
手取り100万、月収150万は一般的な高収入職でも上澄みレベルになってしまう程だ。目を疑うのも無理はない。
「危険手当とかも入ってるとはいえ一介の高校生には怖い金額だ……母さんに言える仕事でもないし」
自分の子がこんな危険な仕事をしていると知ったら心労は計り知れないだろう。
かと言ってサキトが辞める訳にも行かない。真のデュエリストたる素質を持つ人間に代わりは効かないのだから。
「でも流石に母さんには折を見て話さないと……しかし、今月に入ってから妙にクリーチャーと出くわすな」
そう、GW以降サキトの周囲でクリーチャーが出現する事が多くなっていた。
それも、闇文明のクリーチャーに偏っているように思える。
「ただの野良じゃなく、何者かが意図的にやってるとまで思えて来たぞ……っ、何だ?」
突然、耳鳴りを感じて苦しむサキト。見れば周囲の皆も耳を押さえている。
「まずい、これはただの耳鳴りじゃ……!」
膝をつくサキト。気を失いかけたその時……。
側にあった鞄から、光が放たれた気がした。
* * *
「どうして、こんなことに……」
──────翌日。2024年5月17日。新入生交流会まであと1日。
流星アーシュは疲弊していた。
昨日の夕刻、急な耳鳴りに倒れ、目を覚ましたら……彼女の事を皆が忘れ去っていたのだ。
「生徒会の皆も、学校も、家族にも………」
あったはずの彼女の痕跡もほぼ無く、不審者として学校を追われ、親に忘れられ家にも帰れず。
絶望感が彼女の心を苛みつつあった。
「どうしよう、泊まる場所とか……定期券も使えなくなってるし……」
学校にも行かず公園で途方に暮れる彼女。そこに……誰かが近付いてきた。
「……うちの学校の制服?そんなとこで何してるんだ」
「え……」
聞き覚えのある声。顔を上げると、先月知り合ったばかりの先輩の顔がそこにあった。
「護守、先輩……?」
「あー……うん。とりあえず話でも聞こうか。ついでだ、食うかい?」
戸惑うような顔をしながらも、コンビニで買ったのか、パンを差し出しながら彼は話しかけて来た。
* * *
「なるほど、周りの皆から忘れられ、痕跡すらも見当たらないと」
「その……先輩も、私の事は………」
「流星さんか………ごめん、ちょっと分からないな」
一応聞いてみたところ、やはりサキトもアーシュの事を覚えてはいないようだ。
それでも、不審者として通報せず真剣に話は聞いてくれた。
「ともかく冷める前に食べなよ。カレーパンはいいぞ、食べると力が湧くからね。具体的にはパワー+1000000」
「あはは、何ですかそれ」
揚げたてなのか、カレーパンは温かく口に含むとカリカリの食感が心地よいものだった。
「あ、美味しい……」
「店舗で揚げたてのものをタイミングよく買えたからね。俺もこいつはお気に入りだよ」
「コンビニで揚げてるんですか?」
「そうそう。そこのコンビニのホットスナックコーナーに売ってるから今度見てみると良いんじゃないかな」
暖かい食事のお陰か、アーシュの身体に少し活力が戻って来た。
「それじゃあ、ありがとうございました……そういえば、今は放課後だけれど新入生交流会の準備中ですよね?先輩はこんなとこで何してるんですか」
「あー、ちょっとばかし買い出しでな。それになんか妙な視線を感じるんだよ」
「視線ですか?」
「校内だけじゃなく外に出ても感じるんだ。誰が尾けてるやら」
クリーチャー絡みだろうか、という言葉をアーシュは飲み込む。
今の彼女を忘れたサキトにそれを言えば怪しまれるかもしれない。そう思うと迂闊な事は言えなかった。
「さて……そんじゃ戻らないと。気を付けてな」
「あの、お気を付けて!ご飯、ありがとうございました!」
「良いって良いって。それじゃあね」
駆け出してゆくサキト。まだお礼を言いきれてないと感じたアーシュはそれを追おうとする。
しかし。
「……あれ?いない?って、角が!?落ち着いて、隠さないと……!」
公園の入り口を出て、曲がり角を見ると……そこにサキトはもういなかった。
* * *
「で、お前が俺を尾けてたわけか」
公園からほど近い路上。デュエルフィールドの中で、デュエルテクターを纏ったサキトがクリーチャーと対峙する。
ムカデの胴体に、ジャケットから飛び出す6本腕を持つ上半身。ジョー編でデュエルマスター達の前に何度も現れ暗躍した闇のクリーチャー《阿修羅ムカデ》だ。
『悪いがオマエは俺と遊んで貰おうじゃないか』
「そんなこったろうと思ったよ。この間から出くわす連中も、生徒会にちょっかい出してる奴の差し金だな。今回のターゲットは
『ああ?貴様記憶が……!?』
サキトが鞄から光り続けているカードを取り出す。
《完全防御革命》。予備カードの中になんとなく入れていた、ドギラゴンの力を示したカード。それが、彼を犯人の力から守っている。
「ドギラゴンのお陰かな。全く、悪趣味な物見せやがって」
『ちぃっ!なら猶更ここで足留めしなければならないか!』
「言っておくが」
シールドを展開したサキトが、阿修羅ムカデを怒れる瞳で睨みつける。
「後輩をこんな理不尽な目に遭わせたんだ……覚悟は出来てるだろうな!」
『ぬかせェッ!!』
サキトがマナを溜めると同時に、阿修羅ムカデの6本腕がそれぞれに生やした武器をシールドへ叩き付ける。
2枚の盾が砕け散り破片が飛ぶが、彼は怯まずカードをプレイする。
「シールドトリガー発動!光鎧龍ホーリーグレイス!」
『はっ!動きを止めるドラゴンのようだが、俺一人相手じゃぁ効果は薄いようだな!』
「だがこいつは呼び水にもなれる。ドロー!サイバーエクスをマナゾーンへ送り……ホーリーグレイスで攻撃!革命チェンジだ!」
金の鎧と武装で身を包んだドラゴンが飛翔し、バトンタッチする。2ターン目にして、彼のエースが戦場へ舞い降りる。
「《蒼き守護神 ドギラゴン閃》!ファイナル革命発動、山札から仲間を呼ぶ!」
4枚のカードがめくれ、そこから1体の鳥が飛び出して来る。
「コスト3のボルシャック・栄光・ルピアを1体場に出す!その能力により山札の一番上をマナゾーンに送り、それがドラゴンなら追加でもう1枚!」
送られたカードは《ボルシャック・ドラゴン/
同時にドギラゴンの刃が阿修羅ムカデの上半身を斬り飛ばす。
『うぎゃぁあぁあぁああ!!お、のれ……』
「小芝居はやめろ。俺はお前の能力は知っているんだ、
『く……はははは!知っているなら話が早い!』
千切れた胴体がくっつき傷が塞がる。これが阿修羅ムカデの能力、破壊されても墓地からタップ状態で再生する!
『そして同時に俺の毒がお前のクリーチャーを襲う!』
『ぴぃぃー!?』
「ちっ……!ありがとう栄光ルピア、役目は果たしたぞ」
そして復活すると同時に、相手のクリーチャーのパワーを9000も下げる事が出来る。
パワーが0以下となったクリーチャーは破壊されるというのが、デュエマのルールの一つだ。
『さあ、くらいなぁ!』
「おっと、ドギラゴンは俺のターンを終えると同時にブロック可になる。もういっぺんくたばれ!」
襲い掛かるムカデを再びドギラゴン閃が両断する。そして、阿修羅ムカデは再び復活し、ドギラゴンの力を毒で削ぐ。
『ご自慢の僕もたっぷりと毒で弱らせてやるぜ……!』
「だがそれはお前のターンの終わりまでだ。俺のターンになれば、再びドギラゴンはパワー13000に戻る……さて、お前はお仲間は呼べるのか?」
『っ!?』
驚愕に目を見開く阿修羅ムカデ。そう、クリーチャー戦を繰り返し気付いたことがある。
「憑依型になって来なかったのが最大のミスだな。仲間を呼べない以上お前は……ドギラゴン閃を越えられない。そして……」
その眼光は、闇から生まれたクリーチャーをも怯ませた。
「お前を破壊以外で除去する算段が付くまで、お前を何度でも破壊する!」
「ドロー!マナチャージ!タップ状態で復活している阿修羅ムカデを攻撃!」
『ぐああああ!?』
『ちくしょうっ!!』
「ドギラゴン閃でブロック!破壊だ!」
『ぎぃいいぃいぃ!!』
「ドロー!……サイバーエクスを召喚し効果でお前を破壊!」
『ひ、ひぃ………っドギラゴン閃を毒で侵す!』
「ち、ならばターンエンドだ。これでまたドギラゴン閃の攻撃力は戻る」
『ひ、ぃ、ひぃ………っ』
「攻撃してこなくなったか。そうすればタップせず攻撃されないと気付いたようだな」
『くそ………っ!ここまでやるか!?』
「原作でのお前というかゲジスキーの出番もしぶといわしつこいわで辟易してたんだ、一切の容赦はしねえ」
阿修羅ムカデは完全に圧倒されていた。不死身であっても傷を負った時の痛みは感じる以上、何度も苦しみを味わう羽目になっている。
『だ、だが貴様も俺を倒さない限りはここから出ないだろう………っ!ならば………』
「いや、もう………このターンで終わりだ」
たった今、引き当てたカードが戦いの終わりを告げる。
彼のデッキを形作る、3体のドギラゴンの1体が現れる。
「《蒼き王道 ドギラゴン超》!登場時能力発動、相手のクリーチャー1体を選び……
『ひぃっ!?い、いやだっ!』
舞い降りたドギラゴン超が剣を振るうと、斬撃が飛び阿修羅ムカデを真っ二つにする。
そして、斬られた場所からムカデが黒い粒子へと変わってゆく。
「マナに還元してしまえば……お前はもう、蘇れない」
『うわぁあぁぁあぁぁぁあっ!!』
そうして、サキトへの刺客は完全に消滅した。
* * *
「……良かった、なんとかなったみたいだな」
サキトがデュエルフィールドを解いて学校へ戻った頃にはだいぶ時間が経っていたが、その間にそちらも決着がついていたらしい。
学校の皆も記憶を取り戻し、アーシュを中心に作業が再開されている。
「ふー、これで一安心と」
「あー、先輩どこ行っとったと?∞ちゃんたちが探しよったばい」
「
「ごめんごめん、ちょっとトラブっただけだよ」
作業は大詰め、いよいよ明日は新入生交流会本番だ。
「とはいえ何か嫌な予感がするな……明日は早めに来るとするか」
そして、運命の1日がやって来る。