「その、事件が起こったとの事ですが、大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫ですよ、あたし達が幽霊騒ぎの原因だったクリーチャーは殲滅しましたから!探知機の感度も最大に上げて再探知しましたけど、ホテル中心に数キロ圏内にはもうクリーチャーは存在しません!」
バルクライ王とゴーストの群れを撃破後、テルタカとヨウコは取り憑かれていた人々を1階まで降ろしてからフィールドを解除し、目覚めた彼らに説明を行った。
ホテルのスタッフは不安そうであったが、クリーチャーが事件を引き起こしていた事、ホテル外の周辺地域でも目撃情報があった事、そして統率していたクリーチャー諸共幽霊型クリーチャーの殲滅が完了したとの事で一安心したようだ。
「良かった、これで噂も風評被害も解消されそうです。広報の為に写真を撮らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「あー、顔出しじゃなければ……そうだ、陽野くんは活動を公表してたっけ?」
「まあ公表はしてますが、流石にSNSでの顔出し写真は……」
「まーそうだよね。じゃあとりあえず、DGAのホロ徽章を出してるとこを撮って貰おっか」
そんな訳で、テルタカとヨウコがデュエマフォン・アプリの機能を使用し、DGAのロゴマークを宙に投影している所の写真をスタッフが撮影する。顔へのぼかしを入れ、個人情報を隠した状態で広報用SNSアカウントへ画像をアップしたのを確認した。これでひとまず、彼らの仕事は完了だ。
「それで、あの子達は大丈夫かな?」
「致命的な危害を加えられる前にどうにか間に合いましたけれど、しゅうらさんは恐ろしい目に遭わされたでしょうから……一晩ゆっくりして、落ち着いてくれれば良いのですが」
「んー、ああいう子はこういう時、辛くても我慢しちゃう時があるよ?あたしと陽野君で話聞いてあげるのも良いんじゃない?」
「そういうものですか?」
「そーいうものだよ。あの子、あの5人の言わばまとめ役で、しかもお姉ちゃんでしょ?あたしも妹が2人いるから、自分がしっかりしなくちゃって思って甘えたり頼ったりできる機会が少なくなっちゃうんだよね」
「ふーむ……」
テルタカは一人っ子であったため、そういった下の子を持つ者としての視点は無かった。彼女の言う事は一考に値するだろうか。
「それなら、一応聞くだけ聞いてみましょうか」
「あの5人は部屋かな?それじゃあ会いに行こっか」
* * *
「すみません、陽野です。こっちの事後処理は終わりました。入ってもよろしいでしょうか?」
『はーい!今開けます!』
Jack-Potの5人が宿泊する部屋を訪ねる2人。ノックして声をかけると、すぐに水晶がドアを開き中へ2人を招いた。入って来た2人を見るしゅうらの様子は、まだ少し顔色が優れないように見えた。
「あ、陽野さんと相模野さん……いらっしゃい!」
「どーも。そっちはあの後どうだったかな?」
「とりあえず、しゅうらに怪我は無し。攫われた時に口を塞がれて酸欠で意識は失ったみたいだけど、後遺症は今の所無さそう」
「念のため、簡単なバイタルチェックはさせて貰いますね」
デュエマフォンを起動させると、しゅうらの身体に翳して彼女の身体の状態をチェックして行く。クリーチャー災害に巻き込まれた被害者の様子を診るための機能も実装されており、彼ら自身も何度か世話になった事もあった。
「呼吸や声帯機能に異常は無し、意識障害の兆候も無しと。こういうのをチェックできるのは本当に便利ですね。万一被害者を救急搬送する必要がある場合も、容態を伝える事が容易になって助かります」
「しゅうらの身体は大丈夫なんだな?良かったぁ……」
「お2人とも、すぐに助けに来てくれて助かったわ。本当にありがとう!」
「お仕事だからね!それでしゅうらさん、何か言いたい事とか相談したい事があればあたしたちが聴くよ?」
「え、そんなの何か悪い気が……」
「そんなこと無いよ?他人の方が言いやすいこと、聞きやすい事もあるからね。お兄さんお姉さんに任せなさい!」
「いや、俺は同い年ですが?」
ヨウコが明るく接し、テルタカが彼女の発言に軽く突っ込む事で多少彼女の表情も和らいだ。
「私も、お姉ちゃんに無理して欲しくはないから……お言葉に甘えてみてもいいと思うよ!」
「そうね。普段からしゅうらには助けられているもの、今夜は頼れる人に寄りかかっても良いんじゃないかしら?」
「だいたい、まだちょっと顔色悪そうだぜ?スパッとリフレッシュするためにも行ってきた方がいいんじゃないか?」
「アタシはしゅうらの判断次第でいいと思うけど……相談されるのはちょっと難しいかも」
「それじゃあ……お言葉に甘えさせて貰おうかな」
皆の後押しもあり、しゅうらは2人の取った部屋へお邪魔する事を決める。少しだけ……彼女の胸は高鳴っているように彼女自身には感じられた。
「なんなら今夜はそちらに泊まっても構わないわよ?」
「その場合は相模野さんお願いします」
「えー」
「えーじゃないですよ、俺の部屋に泊める訳には行かんでしょうが!」
「まあそこはしゅうらさんが決めるとこだよ。それじゃとりあえず、行こうか!お邪魔しましたー♪」
しゅうらを連れて2人が部屋を出る。ドアが閉じるのを見届けてから、水晶は心配そうな表情で口を開いた。
「お姉ちゃん、大丈夫かな……」
「そうね……今夜のうちにこのトレジャー・チャンスをものにできるかしら」
「いや、そっちかよ!?」
「だって愛は心を癒してくれるものじゃない?」
「まあ実際、頼れる実績のある彼のとこで色々吐き出すのはアリかも。ついでに別の事吐き出してもいいし」
「ううん……本当に大丈夫かな……!」
「まあ、22時半くらいまでは待って、戻って来なかったらあちらに任せましょう?」
* * *
「はい、というわけであたし達の部屋はこの2室!」
「本当に隣り合った2部屋に1人ずつ止まってるのね……贅沢な使い方だわ」
「そら流石に赤の他人な男女が同じ部屋は問題ですから」
「じゃあ、その……陽野さんのお部屋にお邪魔して良いかしら」
「……ちょっと待っててください、着替えとか片付けますんで」
先にテルタカが部屋に入り、3分とせずに再び出て来る。服装類をとりあえず鞄に放り込んだのだろう。
「お待たせしました、どうぞ」
「お邪魔します……あ、こっちも良いお部屋ね」
「そうだね、1人だとツインベッドを持て余す以外はとってもいい感じじゃないかな?」
洋室型の一般客室は、広々とした空間にベッドが2台、背の高さが異なる2つのテーブルにソファ、更にマッサージチェアまで置いてある。和室とはまた違った形で寛げそうな部屋であった。
「それじゃあ、後は若いお2人でねー」
「ちょっ待ってください相模野さん!?ここは2人で話を聞くんじゃ!?」
「いやあ片付けてる間に、しゅうらさんから陽野くんと2人で話したいって言われちゃってね?それじゃあね~」
「んな事言われましても!?……と、とりあえずしゅうらさんも落ちつい……っ!?」
流石に急に二人きりとなり慌てたテルタカに、しゅうらが抱き着いて来る。互いに浴衣であり、彼女の身体の感触もより伝わり易くなっている状態で……。
「……大丈夫ですか、しゅうらさん?」
「あ、あのクリーチャー達……わたしの指を、壊そうとしてきて……男の人を操って、もっとひどい事を……っ」
彼女の身体は震えていた。ミュージシャンとして、そして乙女として残酷な仕打ちを受けそうになった恐怖がまだその身に残っている。テルタカは彼女を抱きしめ返し、落ち着かせるように背をさする。
「大丈夫です、もう奴らはいません。安心してください」
「でも、あのクリーチャー、主がいるって言っていたわ。またわたしたちを狙って来たら……!」
「その時は、俺がまた貴女を守ります。……これを持っていてください」
彼は懐から1枚のカードを取り出し、しゅうらに手渡した。彼の友たるボルシャックの始祖が、渦巻く炎に巻かれ力を得る様が描かれるそのカードからは、仄かな熱が感じられた。
「これは……?」
「まあ、俺が駆け付けるための目印だと思ってください。危険が迫った時は、これを持っていてくれれば何処へだって助けに行きます」
「……うん、大事に、するわ」
それを受け取ると、再びしゅうらは彼に縋り付く。しばらくそのまま身体を震わせていたが……。
「……しゅうらさん?」
「……すぅ……」
「あー、落ち着いたら寝ちゃいましたか……」
安心して緊張の糸が途切れたのか、しゅうらはテルタカの腕に抱かれ眠っていた。彼は片方のベッドへ彼女を寝かせ布団をかけると、戸締りを済ませ部屋の照明を切った。
「寝入ってしまった状態で連れて行くというのも難しいか……もう俺も疲れたし……おやすみなさいしゅうらさん、いい夢を」
そして自身ももう片方のベッドに身を沈めて目を閉じ、眠りに着いたのだった。
* * *
──────翌朝、午前7時。テルタカの部屋にスマホの目覚ましアラームが鳴る。枕元に置いたスマホに手を伸ばそうとして、何やら身動きが取りにくい事に気が付いた。
何か暖かな物が布団の中にあり、彼に絡み付いていた。
「……うん、まさか。いやまさかな……」
少しばかり顔を青褪めながら、顔を横に向け──────。
「──────○×%&#$¥!!?!??!?!!!?!?」
隣を見るとそこには、いつの間にか彼のベッドに潜り込んでいたしゅうらがいたのだった。
……浴衣は2人とも来ていたため、未遂であることはまだ救いであった。
かくして、彼らの距離は大きく縮まったのであった。
X指定パートの出番はまだ無いです。