「うーん……登山電車とケーブルカーと比べてだいぶ高いわね……1駅でも往復3000円かあ」
「俺が出しましょうか?」
「大丈夫、その分の予算も事前に用意してあるから問題は無いわ。行きましょう!」
昼食を済ませた後、彼女達は強羅からケーブルカーで更に山を登り、早雲山へと辿り着いた。ここから更にロープウェイで大涌谷を目指すのだが……ロープウェイは、ここまでの交通機関と比べ費用が跳ね上がるのが最大の難点である。
「今の噴火警戒レベルは1と。一応大丈夫そうではありますかね」
「警戒レベルが上がるとロープウェイが止まっちゃうからねー。前に警戒レベルが上がったのは19年だったかな」
「すぐ乗れそう、早く行こう?」
そして忘れてはいけない事が、箱根は活火山地帯であるという事だ。近年も度々火山活動が活発化し、入山禁止となる年があった。火山性地震などが観測されればたちまちロープウェイは運行停止となるだろう。
幸いにして、今現在は地震等の火山活動活発化の兆候は無く、彼女達の観光に支障は無さそうであった。
「ロープウェイか、ワクワクするな!」
「うん、普段は乗る機会なんて無いもんね……うわぁ~!」
ロープウェイのゴンドラに乗り込んだ7人は、早雲山を出発し空中を進んでゆく。空は晴れ渡り、彫刻の森で見た物よりも更に広々とした、箱根の山々の景色が彼女達の前に見えて来る。
「とっても綺麗……!」
「こっちの谷越えの景色も凄いよー?」
「うわ、こんな高い所を行くのか。高所恐怖症の人にはキツそうだな」
早雲山から大涌谷への間には、地上130mの谷を超える個所がある。眼下には蒸気の噴き出す谷底が広がり、ここが温泉の源たる火山地帯である事を示していた。
「修学旅行で行った雲仙地獄も凄かったけど、ここも迫力ある光景ね……」
「あ、皆さん修学旅行では九州に行ったんですね」
「陽野さんはどうだったのかしら?」
「俺の学校では近畿でしたね。神戸・姫路・大阪・京都を巡りました」
「へー、あたしが学生だった時は沖縄だったかなぁ。学校によって様々だよねえ」
「定番は戦争関連の学習だけど、近畿行きだと何を学んできたの?」
「歴史も勿論ですけど、俺らは戦争より災害に焦点置いた感じでしたね。阪神淡路大震災の記録とか体験学習とか」
「なるほど……」
そうして修学旅行の思い出に花を咲かせている間に、ゴンドラは大涌谷の駅へ到着しようとしていた。
* * *
「さーて、まずは黒たまご館に行こうか!」
「黒たまご館ですか?」
「定番のお土産屋ね!名物の黒たまごをいただきに行きましょうか!」
大涌谷駅に着いた彼女達は、まずは何は無くともこの地の名物である温泉で茹でた卵……黒たまごを買いに行く。
「4個入り500円になりまーす」
「それなら2つ買えば、1個余りで皆食べられるわね」
「では2つお願いします。余りは誰か食べたい方がどうぞ」
「1日は保つみたいだし、持ち帰ってから食べても大丈夫みたいだぜ?」
「でも、出来たての温かいうちに食べた方が美味しいんじゃないかな!」
「とりあえず、食べるなら外に行こうか!」
ヨウコに先導され、大涌谷の景色を一望できる展望台へ足を運ぶ。購入した黒たまごの袋を開けると、中から殻が真っ黒に染まったゆで卵が顔を出した。
「うわぁ、本当に真っ黒!」
「どうして黒くなるんだろう?」
「確か温泉の硫黄と鉄分が殻にくっ付いて硫化鉄になるからとか聞いた覚えがあるかなぁ?」
「あ、それ少し前に別の要因もあるって研究結果出たらしいですよ」
「そうなの!?」
「なんでも、メイラード反応で出来る有機物によるものも含まれるんだそうで」
「めい、らー?なんだそれ」
「えっとですね、肉を焼いたり玉ねぎを炒めると茶色く変わるでしょう?あれをメイラード反応と言って……」
他にも様々な食品の加熱時や、醤油や味噌の熟成時に起こるこの化学反応は、香ばしい香りを生み出し食品の美味しさに関わっている。
「へぇ、卵の殻の表面でそんな事が……」
「それにしてもこうして外で見ると、大涌谷の白い岩肌と対照的な色で画になるわね」
「食べる前に写真でも撮ります?」
「賛成です!」
各々が谷の風景をバックに黒たまごを手に持ち、スマホで撮ってゆく。そうした後に殻を割り中身を口に運んで行くと……。
「……んん~!おいひい!」
「ほんとだ、めちゃめちゃ美味い!普通のゆで卵よりググっとうまみが詰まってる感じがするな!」
「茹でる環境が違うだけなのに、こんなに……凄いね」
「特にこの黄身が絶品ね!」
温泉の成分によるものか、それとも茹で方の影響か、黒たまごは通常のゆで卵よりも非常に美味である。TV番組で科学的な成分分析をしてみたところ、実際に黄身のうまみ成分が通常より20%も高かったという結果が出ていたようだ。
「食べると7年寿命が延びるなんて言うけれど、この美味さは身体に効きそうな感じは……うん?」
そんな風に卵を味わっていると……テルタカは何か、振動を感じた気がした。
「今、ちょっと揺れませんでした?」
「え?私は特にそんな感じは……っ!?」
しゅうらもそれを感じ取る。他の皆も、そしてその場にいる観光客の多くも揺れに気付き、多くの者が地面にしゃがみ込んだ。
「な、何これ!?」
「地震!?でもスマホに速報は来てないぞ!?」
慌てふためく観光客達。振動は徐々に強まってゆくが、この揺れ方は何かがおかしかった。その時、テルタカとヨウコの携帯から警報が鳴り響いた。
「っ!?陽野くん!」
「こっちもです!クリーチャー反応……下から!!フィールド展開っ!!」
『Duel field expansion.』
感知した反応に合わせ、谷全体を覆うように巨大なデュエルフィールドが展開される。直後──────。
『ギィィイィイイィイイォォォオオオォオォオオォン!!』
大涌谷の地の底から、赤い巨大な龍が姿を現した。東洋龍のような細長い身体には1対の腕が生え、その背には甲虫を思わせる翅と水晶のような結晶体が生えた蒼い翼が伸びる。そして頭部には、クワガタムシの大顎を思わせる2本角が生えていた。
「な、何ですかあれ!?」
「《
『ギギィ……!』
現れたルカニドは周囲を見回すと、彼らがいる展望台を睨む。ギチギチと音を立てて翅と角を蠢かせ──────直後、勢いよく突撃して来た!
彼らの背後には観光客も多数、このままでは危険だ。
「うわぁぁぁああ!?」「こっちに来る!?」
「ええいくそ、展開範囲が大きすぎるうえこの地形、一般人強制退去も意識停止もさせられていないかっ!!」
『Contract armor awakening.』
テルタカがボルシャックの鎧を纏い、突っ込んで来たルカニドの前に立つ。ルカニドの双角はまさにクワガタムシの如く、開閉可動してテルタカを挟み潰さんとして来た。
「『ぬぅあっ!!今の内に、退避をっ!!』」
「分かったわ!皆さん、今の内に駅の方へ!」
テルタカがボルシャックの両腕で角を掴んで止め、暴竜爵の剛力でそれ以上の進行を阻む。その間に、いち早く落ち着きを取り戻したザーナが観光客達を誘導し始めた。
しかし──────。
『カァァァァ……!』
「『まず……っ!』」
ルカニドの口が開き、中からオレンジ色の光と高温の吐息が漏れ出す。高熱のブレスを吐くつもりだ。クリーチャーのパワーは上回っていてもこの距離で直撃すれば負傷は避けられない。そのうえ、マグマ並の高温が撒き散らされれば周囲の人間も危険だ。
「陽野さん!」
「皆は色々危ないから、ここはあたしに任せてっ!そおれっ!!」
この場で助けに行こうとすれば、水晶たちはドラゴンの力が強まり変化した姿を一般人に見られてしまう。それを避けるべく、ヨウコがテルタカを助けんと何かを投げた。大きく長い金属製の物体……ゴルファンタジスタのゴルフクラブ?
『ガガッ!?』
「『ぬぉあぁああ!?』」
口につっかえ棒の如く投げ込まれたクラブを不快に思い、ルカニドが大きく身を捩り暴れる。大きく振り回されながらも、テルタカは角の力が緩んだ隙に脱出に成功する。
『Contract armor awakening.』
「『行くよっ!』」
「『了解!』」
ようやく口からクラブを吐き出せたルカニドが展望台にブレスの狙いを定める。そして灼熱の炎が放たれようとした瞬間……。
「「『『どっせいっ!!』』」」
『ゴギュ!?』
ルカニドの頭部を、上下からボルシャックの拳とゴルファンタジスタのクラブが挟み撃ちにする。脳天を揺らす衝撃に朦朧とした龍の口内で、ブレスが暴発、炸裂した。
「『これで……とっどめぇ!!』」
煙を吐いて倒れ込もうとしたルカニドの首元に、ヨウコが手にしたドライバーによるフルスイングを叩き込む。その一撃で頸椎を折られたルカニドは完全に絶命し、赤い火のマナに分解されていった。
「『よし、倒した!』」
「『あとは地表の修復と……あ、まずいかも』」
ヨウコが谷底に降り、ルカニドの出て来た穴の縁に立つ。そのまま大地に手を着くと、身体からマナを流し込んでゆく。
「『おっけー、修復を働かせてー!』」
「『了解です。これで……っと』」
デュエルフィールドの力によりルカニドが空けた穴が塞がってゆく。巨体であったために相応の穴の大きさであったが、3分とかからずに元に戻すことが出来た。
跳躍して展望台へ戻って来たヨウコは、同化を解くと同時に地べたに座り込んだ。
「ふー、つっかれたー」
「お疲れ様。最後は何してたの?」
「いやー、あいつが出て来た穴からマナが乱れて、放置したら噴火しそうだったんだよねえ」
「とんでもない大惨事じゃんか!?」
何故この地の地底に潜んでいたかは不明だが、ボルケーノ・ドラゴンであるルカニドの力は火山帯の活動を乱し、災害を誘発させるには十分な規模であった。今回のタイミングで対処出来たのは幸運であっただろう。
彼女らが話している所に修復を終えてデュエルフィールドを解き、テルタカも展望台へと戻って来る。
「なので、マナの蓄積や操作に長ける自然文明の力、ゴルファンタジスタのパワーで正常な流れに戻してから修復させたと。お疲れ様です」
「陽野くんもお疲れー。いやー危なかったよ」
「あっ、最後の黒たまご食べますか?きっと疲れに効きますよ!」
「ありがとうね水晶ちゃん!……んん~!おいひ~~!!」
最後の黒たまごを口にして破顔するヨウコ。その様子を見ながら、テルタカは少々考え込んでいた。
「どうしたの陽野さん?」
「いや、あのルカニドというドラゴン、本来親玉がいまして……こんな所で出て来るとは」
「確かに。ルカニドはアンノウンを持ち合わせる、蝿の王の尖兵だものね?」
「ザーナ、知っているの?」
「勿論!プレイヤーとして、デュエマのクリーチャーに関してはそれなりに詳しいもの」
「……あ、そう言えば去年辺りに、クリス=タブラ=ラーサの撃破報告があったか」
去年8月半ば、サキトが平行世界のデュエリスト、
「主が倒されて、野生化したのかしら?」
「他にもあちこちに潜んでいたら嫌だなぁ……」
「まあ、火山や噴気孔にも異常は無さそうで良かったわ。落ち着いたら、お土産を買って帰りましょう?」
「そうしましょうか」
その後、その場にいた観光客への説明や気象庁の観測所への連絡を済ませた後、黒たまご館の売店でお土産を買い込んでから彼女達は大涌谷を後にした。
ケーブルカーと登山電車、そこから見える登りと下りでまた異なって見える景色を楽しみながら、7人はホテルへの帰路へ就く。
そんなこんなで2日目は終わりとなります。
芦ノ湖まで足を延ばすのも検討はしましたが、ホテルに戻るまでの時間を考慮したのと、芦ノ湖を出したらビ○ランテポジションの何かを出してもう1本怪獣バトルじみた戦いを挟みたくなってしまうのでカットとしました。これも特撮オタクの性か……。