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「しゅうらさぁ、昨日帰って来た後も今日ここに来るまでも、歩き方おかしかったよな?」
「えっ!?そ、そんな事ない、わよ?」
「ううん、お姉ちゃん何だかお腹を庇ってるみたいというか……何かあったの?」
──────2025年5月5日。
Jack-Potの箱根旅行は今日が最終日。昨日と同様、バイキング形式の朝食を終えた後、11時までにはチェックアウトしてホテルを立つ予定だ。
朝食が提供されるラウンジにて、席に着きながら増樹と水晶はしゅうらに疑問を投げかけていた。
「しゅうら──────おめでとう」
「おめでとう」
「ちょっと!?」
「え、えと、どういう事ですか?」
「それはね……ごにょごにょ」
水晶と増樹に、昨日彼女の身に何があったか耳打ちするザーナと栄久。それを聞き、2人の顔はたちまち真っ赤に染まった。
「ひ、ひやぁあ……っ」
「な、なんでそんな事分かるんだよ!?」
「ワタシ自身経験あるわけじゃないけれど、はじめての後は身体に違和感が残って上手く歩けなく──────」
「それ以上言わないでぇ~~~~~~っ!!」
昨夜の出来事を察したザーナ達に揶揄われるしゅうら。色恋に関わる話ともなれば、年若い彼女達にとっては格好のネタである。合掌。
「はー、ともかく、今日で旅行も終わりかぁ」
「まあ、色々とトラブルはあったけど、楽しかったわね」
「うん!」
「おや、おはよう皆ー」
「あ、陽野さんに相模野さんね」
「どうも、おはようございます」
テルタカ達も朝食のためラウンジへとやって来た。先に入浴してきたのか、ヨウコの肌は少しばかり火照った状態だ。
「早起きして朝一番の露天風呂も堪能したし、気持ち良かったわ~」
「そういえば、そっちはいつまで滞在の予定なの?」
「んー、あたし達も今日チェックアウトの予定だよ。初日にこのホテルの案件は終わったし、長引かなくて良かったかな」
「相模野さんは小田原経由で普通の電車、俺は特急で新宿までですかね」
彼ら2人も、今日付けで今回の出張任務は終わりとなりそれぞれの住む担当地域に戻る。貴重なオフの日、最後は土産物を買って帰るつもりだった。
「折角だもの、皆で一緒に駅前商店街でお買い物とかどうかしら?」
「おっ良いねぇ!お昼はどうするの?」
「特急の時間次第かな?帰りは予約取ってたっけ」
「ザーナ、確か取って無かったよな?」
「それなら、お弁当を買って帰りの電車で食べるか、お食事して行くかの2択だね。どっちがいい?」
彼女達は少し考え込む。地元の店で食べて帰るか、地元の食材を使った弁当を買うか。どちらも捨てがたい魅力がある。
「うーん……折角だから、相模野さんも一緒にお昼出来た方が良いかしら」
「それならお店が良いわね。相模野さんだけワタシ達と乗る電車が違うでしょう?」
「ありがとね!それじゃあネットでおススメのお店に行こうか!」
「それじゃあ、朝ご飯を済ませちゃいましょう!」
そうして和洋バイキングを楽しんで行く7人。それぞれ自身の好みで選んだ品を食べ、時にはその場でシェアしたり。和やかな時間が過ぎて行った。
* * *
「それでは、お世話になりました」
「またのお越しをお待ちしています」
時刻は10時半。食事を済ませた後、荷物を纏め彼らはホテルをチェックアウトする。駅までは行き同様送迎のマイクロバスで移動する事になっていた。
「荷物や貴重品の紛失も無いわね?」
「大丈夫です!」
「バッチリ」
「じゃあ行こうか!」
全員のスーツケースと鞄を荷台に乗せ、運転手と彼女ら7人を乗せてマイクロバスが発進する。駅までは10分とかからず到着し、駅前のロータリーで降車した。
「それじゃあ駅前商店街巡り、行ってみよーう!」
「相模野さんなんかずっとテンション高いなあ……」
「あれが彼女のリズムって事でしょう。さぁ、何を買って行こうかしら!」
そうして7人は駅周辺の商店街を歩いてゆく。店頭の商品や看板で目立つのは温泉饅頭や和菓子、そして小田原名物のかまぼこ等だ。水晶や増樹は早速、そのようなお土産の食品を買い足している。
「黒たまご館でもいろいろ買ってたけれど、大丈夫なの?」
「ええと、アーシュちゃん達にもお土産として色々持って行きたいから……それに、あっちでは化粧品とかも買ったもんね!」
「温泉水使ったスキンケア商品とか、色々ありましたからね……お?」
テルタカの足が止まる。そこは観光協会でも紹介されている有名な土産屋であり、そこに飾られた木の製品に彼は目を惹かれたようだ。
「お、陽野くんは寄木細工に興味が出た感じかな?」
「これも箱根の名産品だっけ?」
「そうですね。なるほど、文房具とかもあるのか……」
箱根の伝統工芸品、寄木細工。高価なイメージを持つ者も多いが、近年は観光客向けに安価なキーホルダーやボールペン等の日用品として作られた物もある。
「……少しばかりお高いけど、万年筆もあるのか……ふむ」
「テルタカさんは自分用に買うのかしら?」
「ああいえ、父が少し前にそろそろ買い替え時かって言ってたのを思い出しまして。そろそろ誕生日なので贈るのもありかと」
「わぁ、良いですね!」
「ここはクレカ使えたかな……よし、とりあえずこれと、他にも買って来ます」
万年筆以外にも、自身用に寄木細工のボールペンを1本とかまぼこを幾つか買い物籠に入れレジへと持って行く。彼が戻るまでの間、彼女達も他の商品を見て回り……。
「むむむ……これどーやって開けるんだ?ぜんぜんビクともしねえよ」
「『秘密箱』というやつね!これは表面のどこかにスライドしたりする部分があって……やった、開いたわ!」
「へー、意外な所が動くようになってるね」
寄木細工の代表、開くまでの手順が少ない安価な『秘密箱』などを彼女達も買うのであった。
* * *
「それじゃあ良い時間になってきたし、ここでお昼ご飯にしましょう!」
「ここは……お蕎麦屋さん?」
「有名店の1つだよ。さ、並んで入ろうか!」
駅から少々離れた場所にある蕎麦の店。ヨウコの案内でここへやって来た彼女達は、30分ほど並んだ後に店内に案内される。メニューを見て、テルタカは驚いた。
「ここの蕎麦、自然薯と卵で打ってるってありますけど……水は?」
「全く使ってないよ。そこがこの店の売りである独自製法だって!」
「へぇ~……」
蕎麦打ちにはそば粉とつなぎ、そして水を使うのが一般的だが、この店では一切の水を使わずに作っているという。代わりに使われているのが……。
「自然薯ってなんだっけ?」
「山芋の一種ね。天然物はなかなかの高級食材よ?」
「それをお蕎麦の生地に……ごくり」
「オススメはなにはなくともこれね、貞女そば!美味しいよ?」
早速7人分の『貞女そば』を注文する。ややあって、彼女達の前にそれが運ばれて来る。
「おお~~……!」
「言うなれば冷やし山かけそばというところかしら。自然薯のとろろがこんなに……!」
「それじゃあ、皆でいただきます!」
器の中には、冷たい蕎麦とつゆの上にかけられた自然薯のとろろと卵。それらをかき混ぜ、絡ませてから口に運ぶと、豊かな風味が口の中に広がった。
「おお、美味……っ」
「すご、美味しい!」
「蕎麦自体も甘みを感じるのに、そこにつゆと山かけが絡んで……凄いわね、これは」
「……うん、濃厚だけどペロリと行けちゃう。ほんとに美味しい」
箱根旅行におけるグルメの締めに、老舗の店が誇る伝統の味、それを彼らは存分に堪能するのだった。
「そういえばお食事中に聞くのもなんだけど、相模野さんはどうしてデュエマを始めたのかしら?」
「ん?んー、あたしは小学生の頃けっこうやんちゃでねえ。男の子達の遊びに混ざるのも多かったんだけどその時にデュエマに触れたんだよね」
「結構歴が長いんだな?」
「いやー、当時は本当に少しやって、その後あまり触れて来なかったんだけど……大人になってゴルフをやるようになってから、デュエマでもゴルフモチーフのカードが出てるってたまたま知ってねー」
彼女は大人になってからの趣味が導線となり、デュエマに復帰するという形で現在のデュエマに触れ……相棒たるクリーチャー、ゴルファンタジスタと出会った。ジャシン帝と配下のアビスロイヤルに一矢報いんとする様や、その豪快な力に惚れ込んだのだ。
「それでカードを買い揃えて復帰して、たまの休日にショップに行ったら実働部隊員に見出されたって感じかな」
「やっぱり、好きな物がモチーフになったりすると興味を惹かれるものなのね」
「まあ、触れる切っ掛けや復帰の切っ掛けも人それぞれと言えますかね。俺の場合は、何かに呼ばれた気がしてパックを買って、そこからでした」
「それも結構運命的だね」
クリーチャーとデュエリストの出会いは正しく運命。中でも彼らデュエルマスターは、特に運命的な導きがあったと言えるかもしれない。
* * *
「さてと、それじゃああたしはこっちのホームだね。皆お疲れ様ー!」
「お疲れ様でしたー!」
「機会があればオレ達の歌を聞いてくれよなー!」
いよいよ箱根湯本に別れを告げる時が来た。ヨウコは小田原行きの箱根登山電車へ、Jack-Potとテルタカは新宿行きの特急へと乗り込んでゆく。土産を増やし詰め込んだ鞄とスーツケースを抱えた6人は、それぞれの指定席へと腰掛ける。テルタカは、気を回されたか二人掛けの座席で、しゅうらの隣となっていた。
「もう、皆してこんな……その、嫌じゃないし、少しドキドキするけど」
「まあ、俺としても……悪くないです、こういうのは」
「それなら……良かったわ」
互いに小声で話しながら、座席の肘掛けに手を置くテルタカに、しゅうらが自らの手を重ねる。一瞬テルタカは驚いたが、手のひらを返して彼女の手を握り、指を絡めた。
「ん……っ」
「楽しかったですか?」
「ええ……大変な目にも遭ったけれど……とても良い3日間だったと思うわ。何より……」
しゅうらは彼に肩を寄せ、体重を預けた。それが、彼への愛と信頼の証と言うように。
「テルタカさんと一緒に過ごせて、とても嬉しいわ」
「……光栄です。近々、また2人で過ごせますか?」
「ええ、喜んで!」
そうして話していると、特急列車が動き始める。彼女らの旅行という非日常は終わりを告げ、再び日常が待つ東京の地へ向けて列車は走り出した。
これで箱根編は終了となります!
次回は……少々投稿が遅れるかもしれません。ちょっと採集決戦に行かねば……!