5月の恒例行事として定着する事となった、新入生交流会。その最中に──────。
「それではこれより、今年度の新入生交流会を開始します!皆さん、楽しみながら交流を深めて下さい!」
──────2025年5月17日。
桜龍高校にて前年に新たな行事として生まれた、新入生交流会。アーシュ達が成立させ成功へ導いたこの行事は、今年も無事行われる事となった。
「今年も皆さん、張り切って屋台や出し物をやってくれてますね!」
「皆楽しんでくれてるなら何よりやね」
「わらわ達も去年の反省を活かし、前回よりも早く準備を整えられたからな!」
新行事として突貫で準備が行われた去年と異なり、今年は初めから開催とその日程が決まっていた新入生交流会。更に去年は様々な要因があって準備に遅れが生じたが、今年は最初から在校生のモチベーションも高く準備はスムーズに進行していた。
2年生と3年生は様々な屋台や出し物を運営し、1年生や地域の人々を歓迎している。
「ゼオちは蟠龍くんと一緒じゃなくていいの?」
「今年は朕たちが新入生の皆サンを楽しませる番だモノ、そちらを頑張りマス!それはトウリ君も同じデスから」
「あれ……でもあそこを歩いてますよ?」
「エッ?」
アーシュが指さす先に、トウリの姿があった。彼は、スマホを片手に周囲の屋台を見て回っているようだった。
「トウリくん、どうしたのカシラ?」
「あ、ゼオスさんに皆さんも」
「剣道部の出し物はええん?」
「無理言って代わって貰いました。その、近くに反応が出ていまして……」
「クリーチャーのか!?」
トウリが言うには、グラウンドにクリーチャーの反応が感知されたとの事だ。その反応は1点から動かず、度々消えてはまた現れると言う状態を繰り返しているらしい。
「まさか今年も現れるとはな……」
「早く見つけ出して、倒しちゃおう!」
「ドコにそのクリーチャーはいるの?」
「こっちの方ですね。この位置だと、屋台の並ぶ中にいるようです」
トウリのデュエマフォンに表示される反応へと近付いてゆく彼ら。グラウンドの中心部から離れ、正門側入り口から離れた奥まった場所にそれはあった。
「……テントのようデスね?」
「こんな屋台の設営許可、出してませんよね!?」
「うむ、間違いなくここにクリーチャーがいるはずだ!」
「GAME?CASINO?よく分かんないけどいっけー!」
「あっこらメガ!!ああもう、しゃあないなぁ!」
紫色のテントの入り口から入ってゆくメガに続き突入してゆく5人。
……彼らは、そのテント周りに行列が無い事、そして先に入って行った生徒が出て来ない事に、運悪く気付けなかった。
* * *
「な、何ですかこれぇ!?」
テントの中は、なんと巨大なカジノのようになっていた。明らかにテント内に収まる規模ではない、クリーチャーの力によるものだ。各テーブルには生徒や一般客らが何人も着席し、様々なゲームに興じているようだ。
「いけませんネ、ギャンブルは出し物としては禁止したノニ」
「いやそう言う問題やあらへんて、誰やこんなもん作ったんは!」
『おや、新たなお客様ですかな?』
ギャイの言葉に応えるように、彼女達の前に1体のクリーチャーが現れる。マジシャンのような姿をした、人型ロボットのクリーチャーは6人へと恭しく礼をする。
『ようこそ我がカジノへ。支配人にしてディーラーのディールと申します』
「何故ここでこんなカジノをやっているんですか!?」
『ええええ、それは勿論、私とゲームを行ってくれる方を探していたのですよ』
「ゲームだって?」
『ええ、見ての通り、このカジノでは様々なゲームを取り揃えています。そして、私とゲームに興じていただく相手を招いているのですよ』
「うーん……良いクリーチャーなのかな?」
「……いえ、そうではありませんよ真久間さん」
警戒を解きそうになるメガをトウリが制する。相手はただのクリーチャーではないと、彼の勘が告げていた。
「それで支配人、このカジノの参加料金は?」
『なるほど、お察しが良いようですね。当カジノでお支払いいただくチップは──────皆様自身です』
その言葉と共に、周囲の客が皆彼女達の方を向く。その表情は、皆一様に虚ろな笑みを浮かべるのみ──────!
「ひぃっ!?」
「こ、こやつら全員が!?」
『はい、皆様の心は私のコレクションに。そして残った身体は、当カジノで永遠にゲームに興じていただく事となっております』
ディールが十数枚のカードを取り出す。デュエマのカードを模したデザインのそれには、各テーブルの客達と同じ顔が描かれていた。
「なんちゅう奴や!」
「許せまセン!オシオキが必要ネ……あ、アラ?」
ギャイとゼオスが身構えるが、身体に変化が起きない。ドラゴン娘の力が……使えない!
『当カジノでは暴力行為は禁じております。勿論、クリーチャーであっても例外ではございません』
「……く、自分のデュエルテクターも、コントラクトアーマーも使えませんか」
「何だとぉ!?」
「皆さんを解放してください!」
『それならば、私とのゲームに勝って頂きましょう。勝つ事が出来れば、お客様の要望にはお応えいたします』
目の前に1枚の紙が飛んできて、彼女らの前で広げられる。ここで行えるゲームの一覧表といったところか。
「むぅぅ……どうする?奴のゲームに乗らねば皆解放できんぞ」
「朕はこういうゲームはやったコト無いワ……」
「……様子見に自分が行きます。皆さんは見ていてください」
「気ぃ付けてな」
「それでは……ポーカーで勝負だ」
トウリが卓に着き、ディールと対面する。ディールはトランプのデッキを取り出し、トウリに確認を取らせた。
『いかがですかな?』
「……不審な点は無さそうに見える」
『では、参りましょうか』
トウリがディールへと返すと、素早い手付きでシャッフルされて行く。生徒会の5人がその手付きを注視している中、互いに5枚の札が配られた。
『それでは、貴方のチップは計9枚。1ゲームは降りなければチップは最低3枚必要です』
「分かった。では……いざ勝負!」
* * *
──────4ゲームを終えて。
「」
「トウリくーん!!?」
「あかん、惨敗や……!」
最初は勝ったものの、その後連続で敗北を喫し、トウリの精神はカードへと閉じ込められてしまった。抜け殻となった身体は、ふらふらと別の卓へと歩いてゆく。
「奴め、負けられない勝負だったとはいえ、引き際を見誤ったな……!」
『さて、お次はどちらのお嬢さんがお相手して頂けますかな?』
「どうしよ、ボクたちで敵う相手かな!?」
「でも皆さんを助け出さないと……!」
最初に挑んだトウリが敗北したうえ、彼女らも素人、相手の技術を見極める術もない。万事休すかと思われた。
「──────反応があったと思ったら、こんな事になっているとは」
「あっ!?先輩!!」
「うちもおるばい!」
そこに、サキトとしのぶがやって来る。トウリと同じく反応を捉えていた彼も、クリーチャーを倒すためにここへやって来たようだ。
「先輩!トウリ君が……!」
「デュエマフォンで状況は把握した。奴にギャンブルで勝たなければ人々を解放出来ない訳だな。任せてくれ」
『ふむ、次のプレイヤーは貴方ですか。ではゲームを選んでくださるかな?』
「ああ…………ブラックジャックで勝負だ」
サキトが卓に着き、チップが配られる。ブラックジャックではトランプのデッキを4つ使用するため、専用のディーラーズシューと呼ばれるデッキ保持装置も用意された。
『チェックはよろしいですか?』
「ああ」
『では──────』
「待った。お前は札に触るな」
『はい?』
カードシャッフルにサキトが待ったをかける。その表情は極めて厳しいものだ。
「シャッフルする役を俺に指定させて貰う。しのぶ、頼めるか」
「う、うち!?」
『その方は貴方の味方のようですが、信用なりますか?』
「手付きを見れば分かるさ。頼む」
「う、うん」
しのぶが受け取ったトランプのデッキを1つずつシャッフルして行くが……。
『な、なんと拙い……』
「し、しょんなかろう!?初めてなんやけん!」
「そうだ、だから任せるんだ。しのぶは技術的に全くの素人だからこそ──────イカサマなど出来ようはずもない」
『ほう……なるほど。了承しましょう。しかし、最初に4デッキを綺麗にカット&シャッフルさせていただきますよ』
「構わん。その後にしのぶに改めてやってもらう」
サキトは、相手のイカサマを最大限に警戒しているようだった。相手の領域で戦う以上それは当然の事であるが、技術的な不審点は6人の目があっても気付くことは出来なかった。厳しい戦いとなるだろう。
『では彼女には、相応しい姿になっていただきましょう』
「え?うわっ!?」
ディールが指を鳴らすと、ポンと音を立ててしのぶの服装が変わった。肩を曝け出したビスチェ状のボディスーツに網タイツ、うさぎ耳のヘアバンド……バニーガールだ!
「えええええ!?ちょっ、何こん格好!?恥ずかしか!」
「いや、正直いつもの水着姿と露出度変わらへんやん?」
「いっちょん違うばい!」
「あー、しのぶ。恥ずかしいかもしれんがよろしく頼む。後で埋め合わせするから」
「うぅ……」
恥じらうしのぶをよそに、ディールの手によって滑らかにシャッフルされた4デッキ分のトランプが手渡され、それをしのぶが改めてカットしシャッフルしてゆく。そして、それがディーラーズシューへとセットされた。
「それと、お前はホールカードを開く瞬間まで一切カードには触れない事。良いな」
『随分と慎重派なのですね。分かりました、良いでしょう。お嬢さん、お客様と私に順番に2枚配ってくださいませ。お客様のカードは2枚とも表に、私のカードは1枚を裏のままでですよ』
「わ、わかったばい」
『それでは、1ゲーム目を始めるとしましょう』
しのぶの手で、それぞれにカードが配られた。サキトの手には、ハートの5とクラブの4、ディールの手にはハートの9とホールカード。
『ステイ・オア・ヒット?』
「ヒットだ。しのぶ、カードを1枚追加で俺に」
「えっと、こうやね」
サキトの元に1枚カードが追加される。舞い込んだのはダイヤの9、これで数字の合計は18となった。
「コールだ。チップは計3枚」
『よろしい。では私のカードを開かせていただきます』
皆が注視する中、ディールが伏せられたカードを表にする──────スペードの7!
『計16ですね。ディーラーは17以上になるまでカードを引かなければなりません。1枚いただきます』
「ど、どうぞ」
しのぶがカードを引き表にする。カードの図柄は……クラブの6!
『おおっと残念、合計22でバストですね。このゲームは私の負けです』
「……よし。これでそちらは残りチップ6枚、次のゲームと行こう」
サキトが勝利を収め、2ゲーム目へと移る。配られたのはハートの7とダイヤの8、ディール側は、ダイヤのKだ。
「……これは拙いな。だが引かなければどうしようもない……ヒットだ」
「だ、大丈夫なの?」
「奴の手元に7以上のカードが来ればその時点で終わりだ。確率的には分が悪いな……!」
「先輩……!」
サキトの下へ追加でやって来たカードは……スペードの4!
「よし、これで19だ。先程と同じく3枚でコール」
「セーフです!」
「これなら行けるか!?」
『では開きます……』
再び全員が固唾を呑んで見守る。その中で、サキトが少しばかり……表情を険しくした。
『……クラブの10、これで20ですな。私の勝ちです』
「そんな!?」
「……ああ、持って行け。ただし──────2度目は無い」
『ふふ……さあ、3ゲーム目です』
3度目のカード配布、サキトの手にはスペードの6、クラブの8。ディールの手元には……クラブのQ。
「また絵札!?まずいよ!」
「……賭けるとしよう。ヒットだ」
「8以上でバストか、先程よりはマシだが……!」
「先輩、負けんとって……!」
しのぶが引いて渡したカードは……クラブの7!
「やった!これで21だよ!」
「これなら負けませんネ!」
「いや、奴の伏せられたカードがAだった場合はあちらの勝ちだが……!」
『ではどれほど賭けられますか?』
「──────手持ち全部だ。勝負と行こうじゃないか」
サキトが自身のチップ全てを上乗せする。ここで勝負に出る!
『よろしい!それでは、貴方の運命やいかに!』
ディールがその手を伏せたカードに伸ばし──────。
『ぐぁあぁっ!?』
「「「「「「!?」」」」」」
その瞬間、サキトがディールの指を掴み、捻り上げた。
『な、何を!?暴力は禁止で──────』
「これは制裁だ。しのぶ、伏せカードを開け!」
「う、うん!」
しのぶがサキトに言われるがままディールのカードを開く。そこにあったのは、クラブの3であった。
「これがどうか──────」
「そらよっ!」
サキトが掴んだままのディールの指をカードに触れさせ──────瞬間、その札がダイヤのAへと変わった。
「なっ!?」
『ぐ、ぐぅっ!?』
「ど、どういう事ですか!?」
「こいつの、能力によるイカサマだよ。なあ、《機術士ディール/「本日のラッキーナンバー!」》」
《機術士ディール/「本日のラッキーナンバー!」》……現在プレミアム殿堂に指定されている、水文明のツインパクトカードだ。クリーチャー面、呪文面は共に数字を指定し効果を発揮する強力なカードである。
「こいつは数字を指定しその数字と同じコストのクリーチャーをバウンスするクリーチャーとしての能力と、指定した数字のコストを持つ呪文とクリーチャー召喚を封じる呪文の能力を併せ持つが……ギャンブルの場において、その力を別の形で使っていたようだな」
「まさか……」
「こいつは
『な、何故それを……!』
「クリーチャーが能力を使う時は、大なり小なりマナを使用する。それをこの目で注視し続けただけだ。2戦目でお前の手と触れたカードから水のマナが見えたんでな」
サキトは自らの目じりを指で叩く。真のデュエリストとしてマナの流れに敏感になったが故、集中すれば目で相手のマナの流れや消費を読み取れるようになっていたのだ。
『いつから私が、そういったイカサマをすると考えて……!』
「
イカサマが見破られた事で勝負に敗北したという判定が下ったか、クリーチャーの力を封じる効力が消え失せていた。サキトはドギラゴンの力を纏い、ディールの顔面を鷲掴みにする!
『おらしゃぁぁぁぁああ!!』
『ぐぎゃぁぁあぁ!!』
テーブルを叩き割る勢いでディールの頭部を叩き付け──────ディールが消滅すると共に、カジノ空間も消え失せたのだった。
* * *
「面目ないです……」
「人の命がかかってたとはいえ、もうちょい相手に警戒を払うべきだったと思うぞ」
「蟠龍はんはギャンブルはやらん方がええかもね……」
トウリ以外の解放された人々は、精神を抜かれていた間の記憶は無かったらしく……意識を取り戻すと、首を傾げながらも他の屋台へ向かっていった。
トウリは元に戻った後、ずっとゼオスに抱き付かれている。もし戻らなかったらどうなっていた事か。
「本当に、助かって良かったデス!」
「先輩、ありがとうございました!」
「ウチらだけやったら、あのイカサマに気付かんで全員やられとったかもな」
「ぐぬぬ……否定できん。確率計算ならわらわは得意だが、それをひっくり返されてはどうしようもないわ」
ゲームが得意なギャイや、確率論などで考えるすずとアーシュではあのような反則的裏技に気付けたかは怪しいだろう。ゼオスとメガは言うまでもない。
「どういたしまして。あ、そういえば会長。うちの後輩が後で会長にお会いしたいって言っていました。中庭のベンチで待ってると」
「へ?わ、分かりました」
「かいちょーに用事?何だろうねー?」
「こ、告白とかやったりして?」
「ええ!?そ、そんなまさか!」
サキトから伝えられた伝言に、彼女達が沸き立つ。色恋に関わるかもしれないネタと来れば、彼女達JKにとっては絶好の話の種だ。
「でも、もしそうだったらあの親衛隊の人達、どうするんだろね?」
「うっ……ちょっと想像するのが怖いです……」
「いやぁ流石にそんな過激な真似は……真似は……」
「アーシュちゃん、大変やね……」
……アーシュ親衛隊を名乗る校内グループは、去年から色々な所で話題になっている。アーシュ本人の知らない所で監視やらストーキングじみた事も行われていたようで、彼女の悩みの種である。
「ま、まあとりあえず会ってやってください。それでは俺は持ち場に戻ります」
「それじゃあ自分も……ぜ、ゼオスさんそろそろ……っ」
「名残惜しいワ……それじゃあ、頑張ってクダサイ!」
そうして、サキト、しのぶ、トウリはそれぞれの場へ戻って行った。
「……しのぶはん、先輩にそのままついてったな?」
「∞さんもいるでしょうから、ゲーム部の所に入り浸ってそうですね……」
* * *
──────そして、日は暮れて。アーシュは中庭へとやって来ていた。渡り廊下の影からは他の生徒会メンバーも見守っている。
「えっと、もしかして……」
「あ……流星会長!来て下さったんですね!オレはゲーム部の1年生、
「やっぱり、護守先輩が言ってたゲーム部の後輩の方ですね?」
灰色の髪をオールバックに固めたその少年は、ベンチから立ち上がるとアーシュに向けて勢いよく礼をする。
「流星会長!一目見た時から好きになりました!オレと、お付き合いしてください!」
「へ、っ!?」
──────桜龍高校で、またも嵐が巻き起ころうとしていた。
そんなわけでお送りしました第二回新入生交流会とクリーチャー案件、そして……アーシュの周りにて新たな展開!
突然の告白の行方は、また次回に!