それを対処すべく駆け付けたサキトの前に、奴が再び現れる。
「こちら護守、桜龍学門前駅付近にクリーチャー反応を検知。現場へ向かっています!」
『対象の反応は、近似するものはありますが未知のクリーチャーです。お気を付けて』
夕暮れが迫る街を、デュエラッドに跨るサキトが駆け抜ける。この日はゲーム部の活動は無く、しのぶの部活終わりに迎えに行くつもりで待機していた所に、クリーチャー出現の報せが入った。
『それと、本日午前中にDGAに通報がありました。タカラトミーの所持する自社工場から、新カードのサンプルが紛失したそうです。なんでも、カードがひとりでに動いて工場の外へ消えるのが監視カメラに映っていたとか』
「……アレですか、クリーチャーの意志が宿ったと。確かに身近に前例がありますが……来月のエキスパンションのカードですか?」
『いえ、更に先、9月発売予定のエキスパンション収録のカードです』
「マジで!?第3弾のカードが!?むしろサンプルの現物既に刷ってたんですか!!」
一般的に、カードゲームにおけるカードの開発期間は発売より半年から1年ほど前から始まっていると言うが、この段階で既に試作品のカードが印刷されているとはサキトには予想外であった。
『もしその紛失したカードと同一であれば、強力なクリーチャーであると予想されます。ご注意を』
「今の時点で作られてるならそりゃ目玉となるカードか……了解です」
そうして反応の近くへとやって来る。まだバックアップスタッフは到着していない。先に件のクリーチャーを発見し、デュエルフィールドで隔離しなくてはならない。
「こちらか……む?」
反応のあるビルの屋上へ向かうと、そこに桜龍高校の生徒が1人立っていた。足音に反応して振り向いた彼の顔に、サキトは驚いた。
「……赤坂か?ここで何をしてる」
「先輩……」
サキトは問いかけながらデュエマフォンとデッキを構える。間違いない、クリーチャーの反応は赤坂ハヤトから出ている。取り憑かれているようだ。
『──────オレと、デュエルだ』
「何!?」
ハヤトがデッキを取り出すと赤い火のマナが噴き上がり、サキト達実働部隊がクリーチャーと戦う際に生じる物と同様の光の盤が形成された!
「赤坂お前……っ!」
『デュエルだ、その命を懸けてな!』
「ちぃッ!!」
『Duel field expansion. Dueltector summoning.』
サキトもデュエルフィールドを展開し、デュエルテクターを身に纏って応じる。野良のクリーチャー憑きが、デュエルという形で挑んで来た事は今までに無い。取り憑かれたハヤトの意識によるものか、判断材料が少ないが……今はやるしかない。
「シールドオン!」
『シールドオン……!』
「『デュエル!!』」
* * *
『オレの先攻!《冒険妖精ポレコ》をチャージし、タマシード《ヘルコプ太の
「早速か、俺のターン、ドロー!カツキングをマナゾーンに!」
ジョーカーズの姿が描かれたスケッチブックが実体化する。サキトの知る限り、ハヤトのデッキは「いきなりつよいデッキ 力の王道」を改造したものであるはず。速攻戦術ではサキトのデッキと同等か、更に上回る速度でリーサルを取って来るだろう。
『オレのターン、ドロー!《
「アポロヌスではない……?いや、シールドに埋まった可能性もあるか……!」
通常であればアポロヌス・ドラゲリオンを確実に手札へと持って来るための呪文であるが、現在デッキ内にはアポロヌスは入っていないようだった。シールドに埋まっていて引き込めなかったのであればサキトにとっては僥倖ではあるのだが……。
「俺のターン、ドロー!モルトNEXTをマナゾーンに送り、メンデルスゾーン発動!王道の革命ドギラゴンと栄光ルピアがマナに!」
『さあ行くぜ、オレのターン、ドロー!《ストリエ雷鬼の巻》をチャージし、ヘルコプ太の心絵をオンソク童子にスター進化ァ!登場時能力により、手札から進化設計図を捨てて2枚ドロー!』
「来るかっ!」
『オンソク童子で攻撃時……侵略!発動ッ!!駆け抜けるぜ、《
オンソク童子が姿を変え、レッドゾーンの進化形態、レッドゾーンFが殴りかかる。サキトのシールドが2枚叩き割られ、その破片が彼の身を傷つけて行く。
「ちぃっ!シールドトリガーは、無しだ!」
『レッドゾーンFの能力発動ッ!攻撃の終わりにアンタップし、自身の1番上のカードを破壊!オンソク童子に戻る!そして再び攻撃し……再度侵略だッ!《轟く侵略 レッドゾーン》ッ!!』
レッドゾーンFが吹き飛ぶと爆炎の中からオンソク童子が現れ、再び侵略によって原初のレッドゾーンへと進化する。破壊効果は意味を成さないが、これでトリプルブレイカーへと変わった事により、サキトのシールドを全て破壊する事になる!
『更に!手札から《龍装者 バルチュリス》の能力発動!2度目の攻撃時に手札から使用宣言し、攻撃の終わりにコイツをバトルゾーンに出す!さあ、砕けろ!!』
「ぐぅあっ!これでシールドは0か……だが、シールドトリガー、ダブル発動っ!!」
サキトのシールドが全損する。一気に追い込まれたが、反撃のカードがそこから現れる!
「《切札勝太&カツキング -熱血の物語-》!《王道の革命 ドギラゴン》!2体をバトルゾーンへ!カツキングの登場時能力、デッキの上から4枚を見て……モルトDREAMを手札に!火のクリーチャーを手札に加えたため、レッドゾーンを手札に戻す!更に、王道の革命の効果でデッキから2枚をマナへ送り、クリーチャーをマナから手札へ戻す!グレンリベットとドギラゴン剣がマナへ送られ、ドギラゴン剣を手札に!」
『そのドギラゴンは盾役か……バルチュリスは場に出すが攻撃はしねえ、これでオレのターンは終了だ』
なんとか耐え凌ぐことが出来た。一気に反撃で倒さなくては拙い、ハヤトを正気に戻さなくては……!
「俺のターン……ドロー!《新世代龍覇 グレングラッサ》をマナゾーンに送り……ツインパクト呪文《「助けて!モルト!!」》を発動!手札からドラグナーを1体バトルゾーンへ!来い、《夢双龍覇 モルトDREAM》!登場時能力により……超次元ゾーンからコスト5のドラグハート、《爆銀王剣 バトガイ刃斗》と《闘将銀河城 ハートバーン》をバトルゾーンに!」
『決着を付ける!!』
サキトのもう1体の相棒、モルトDREAMが戦場へ駆け付ける。彼が手を翳すと、時空を超えて一振りの剣と巨大な城郭が現れる。龍を呼ぶ剣バトガイ刃斗と、神速の加護を与える城ハートバーン!
「モルトDREAMで攻撃!この際バトガイ刃斗の能力発動!デッキの1番上を表にして、進化でないドラゴンならばバトルゾーンへ!それ以外なら山札の下に!……チィッ、メンデルスゾーンか!」
『不発だったようだなァ!』
「だがモルトDREAMは、ターン中初めてタップした時アンタップする!これにより、ドラゴンがアンタップした事でハートバーンが龍解する!《超戦覇龍 ガイNEXT》!」
『ガイ!NEXTォッ!!』
巨大な城郭が姿を変え、大剣を構えた赤と青の巨龍……ガイNEXTとなる!
『ぞろぞろとドラゴンを増やして来たな……!』
「モルトDREAM、シールドをトリプルブレイク!」
『トリガーは……《未来設計図》ッ!山札の上から6枚を見て、その中からクリーチャーを1体表にして手札に加える!レッドゾーンを手札に!』
「もう一丁!カツキングで攻撃時、革命チェンジ!《蒼き団長 ドギラゴン剣》!!ファイナル革命発動!手札から2体目の王道の革命をバトルゾーンに!登場時能力により山札から2枚をマナへ送り……ドギラゴン天を手札に戻す!そしてこのターン2度目にドラゴンが場に出た事で、龍解!《爆熱王DX バトガイ銀河》!」
『バァトガイ……ギンガァッ!!』
現在はプレミアム殿堂に指定されているドラグハートクリーチャー、バトライ武神とガイギンガの力を併せ持つ龍が姿を現す。これで更なるドラゴンを呼ぶことが出来る!
「ドギラゴン剣で残るシールドをブレイク!これで──────」
『……残念だったなァ!スーパーシールドトリガー《SMAPON》!!』
「何っ!?」
スマホとダイヤル式電話が合体しているようなジョーカーズのクリーチャー、SMAPONが飛び出して来る。このクリーチャーはシールド0枚となった時にシールドトリガーとして発動した場合、強烈な効果を発揮する!
『パワー2000以下のクリーチャーを全て破壊する効果は不発に終わるが……スーパーシールドトリガー能力によって、このターンオレはデュエルに負けねえッ!!』
「く……っ!エボリューションエッグでのデッキ確認時、そいつがシールドにある事も確認済みか!」
『その通りよ!』
「やむを得ん、ダイレクトアタックしても決着は付かないが……バトガイ銀河で攻撃!攻撃時能力により1枚ドローし、手札から進化でないドラゴンを1体バトルゾーンに出せる!……まあよし、《蒼き王道 ドギラゴン超》をバトルゾーンへ!登場時能力によりバルチュリスをマナに!」
バトガイ銀河が剣を振るうと同時に、ドギラゴン超が飛び出してバルチュリスを消し飛ばす。しかしバトガイ銀河の剣はハヤトに憑くクリーチャーを倒すことは出来ず……あちらのターンがやって来る。
サキトの盤面は7体のドラゴンが揃い、2体の王道の革命が守りを固めている事で、ある程度ならば攻撃を防げる態勢は整っている。
──────未知のクリーチャーという、イレギュラーさえ無ければ。
『オレのターン、ドロー!……どうやらこれで終いだな、ドギラゴン!』
『何っ!?』
『SMAPONで攻撃!そしてこの瞬間火の4マナを支払い──────
「な……っ!?」
『見せてやるぜ……蘇ったオレの新たな姿ッッ!!』
ハヤトが盤面にカードを叩き付けると共に、身をひるがえしてSMAPONへと跳び乗り──────マナに分解されたSMAPONを纏い、その姿が変貌してゆく。
赤い装甲、金色の車輪、バイクのマフラーのような機構を備えたその姿は……紛れもなく、ドギラゴンの宿敵たるレッドゾーンであり。
それでいて、サキトはまだ知らない未知の姿だった。新たなる、レッドゾーン。その名は──────。
『轟く邪道ッ!!レッッドゾォォォォォォ──────ンッ!!』
「新たな、レッドゾーン!?まさか、ナイトメアクリーチャー……っ!?」
『奴は新宿で倒したはず……!』
『蘇ったのさ……邪道の力を得て、お前達を倒すためになァッ!!』
レッドゾーンが戦場を駆け巡り、その神速の炎が──────守りを固めた、2体の王道の革命を吹き飛ばす。
「なっ!?」
『オレの力だ!お前の従えるクリーチャーのうち、最も弱いパワーの物を全て破壊する!更にオレがいる限り、こちらのクリーチャーは俺を含めて、攻撃制限じゃあ止まらねえッ!!これで邪魔者は消えたァッ!!』
「まず──────!!」
『サキトッ!!』
レッドゾーンの拳が──────サキトに、叩き込まれた。大きく吹き飛ばされたサキトはそのままデュエルフィールドの外へ弾き出され、道路を挟んで反対側の建物へ叩き付けられる。
デュエルに敗北した事で、デュエルフィールドもサキトが召喚していたクリーチャー達も消え去り──────レッドゾーンを阻む者はいない。
『チッ、浅いか。ならトドメを……っぐぅッ!?』
レッドゾーンが、いや、ハヤトが頭を抑え苦しみ始める。その間にも、ビルの壁面からサキトが落下し──────。
『サキト!一時……撤退するっ!』
サキトのデュエラッド、そこに宿るレッドゾーンZが間一髪サキトを受け止めた。機体から固定用のベルトが生じ、サキトを固定するとそのまま全速力で去ってゆく。
『クソ、逃がしたか……まだこいつとの同化は完全じゃねえ、ドギラゴンと契約するヤツと関りがあるせいで追撃を止めやがったか……!』
今の状態では、さしもの最速の侵略者も全速力は発揮できない。デュエラッドを見失った以上、更なる追撃は不可能だった。
『まあいい、もう少し馴染んだらひと暴れしてやるとするか。そうすればヤツもいずれ来るだろうよ』
そして、レッドゾーンは建物の上を跳び回り、何処かへと去って行った。
* * *
「あぅっ!?」
同時刻。水泳部で練習中のしのぶは、急にスイミングゴーグルのバンドが切れるというトラブルに見舞われた。
「ごめん、うちちょっと上がるね」
「あれ、トラブルですか?気を付けてくださいね部長ー」
何か嫌な予感に襲われながら、一度更衣室へ向かうしのぶ。すると、彼女のスマホが着信音を響かせていた。
「先輩?どげんしたっちゃろう……もしもし?」
『しのぶ?大変、サキトが……!』
電話口の向こうからは、レッドゾーンZの声。彼女の言葉を聞き──────しのぶは、手にしたスマホを取り落とした。
邪道、襲来。サキトの命運やいかに。