レッドゾーンは打ち破られた。果たして、憑かれていたハヤトの運命やいかに。
「──────はっ!?」
「正気に戻ったか、赤坂?」
決着から数分、意識を失っていたハヤトが目を覚ました。体には異常が無いようだが……。
「気が付きましたか!?良かったぁ……」
「会長?それに皆さん……オレは確か、変なデュエマのカードを拾って、その後……先輩とデュエルした、ような……?」
彼がレッドゾーンに憑かれていた間の意識は曖昧だったようだ。しかし、問題はまだ残っている。
「ど、どこまで覚えていますか?」
「そういや皆さんに、角とか翼とか、尻尾とか生えてたような……」
「アカン、そこも覚えとるんか……!」
「まあそれは後で説明するとして、だ。こいつをどうするかだな」
「え?うわぁっ!?」
サキトが指す先には、あのレッドゾーンのカード……そして、その上に半透明な姿で横たわるレッドゾーンの姿があった。
『またやられちまうとはな……』
「えっ、レッドゾーン!?どうして!?」
「この状態のレッドゾーンが見えるって事は……もしかして彼にも、自分と同じように才能が?」
「かもしれん。同化している間に才能が引き上げられたのかもな」
サキトはレッドゾーンとハヤトを見ながら思案する。何かを見定めるように……。
「レッドゾーン。お前、最後に赤坂を解放したのは何故だ」
「え、あれやられたから解放されたんじゃないの?」
「いや、剣を叩き込む前に赤坂は解放されていたようだったので。こいつの意志で憑依を解いたとしか思えない」
『……さぁな』
「……禁断の星も無い今、ドギラゴンと戦う理由はあるのか?」
『そんなもん……オレが戦いたいからに決まっている。他の理由なんざ、とうに忘れちまった』
「はぁ…………」
目を閉じ嘆息した後、サキトは腹を括った。
「ドギラゴン、良いかな?」
『私は構わない。サキトの思う通りにするといい』
「分かった。それなら──────レッドゾーン、これからは俺とドギラゴンが何度でも相手をしてやる。条件付きだがな」
「えぇっ!?」
『大丈夫なの、先輩?』
サキトの発言に皆が驚く。当然だ、ここでレッドゾーンを滅ぼさないと言ったも同然なのだ。
『…………何を考えてやがる?』
「以前倒したのに復活してきたんだ、3度目が無いとは言い切れん。クローンであるレッドゾーンZも変則的とはいえ蘇って来た訳だしな……それなら、知らないどこかで復活されて暴れられるよりはマシだ」
「それはそう……なのか……?」
「でも確かに、前にメガちゃんに取り憑いたクリーチャーがまた現れた事もありましたね……」
「生半可なクリーチャーならまだいいが、お前のような強力なクリーチャーがそうなっては洒落にならないからな。だから……赤坂、お前に頼みたい」
「えっ!?オレ、ですか?」
話を振られて驚くハヤトをよそに、サキトはレッドゾーンに指を突き付けた。
「1つ、俺とドギラゴンと戦う際はデュエマでだ。真のデュエルのような命掛けのものでも無く、普通のデュエマでな」
『何だと?』
「2つ、他の人間に危害を加えることは許さん。反した時は俺達のみならず、他のDGA実働部隊と共に叩きのめす。3つ、赤坂のいう事を聞き、指示を守り、そして守り抜け」
『オレが何故こいつを守らなければならん』
「今のお前は一人で実体化も出来ないぞ。戦いたいなら、お前と波長の合うデュエリストである赤坂を大事にするんだ。さっきみたいにな」
つまりは、赤坂ハヤトをパートナーとさせる事で、レッドゾーンの行動に枷を填めようというのだ。恐らく現状のレッドゾーンは、カードとその使い手と言う媒体無くして活動出来ないのだろう。であればこれは、無視できない縛りとなるはずだ。
『断ると言ったら?』
「その時はお前の宿るカードを、マナを遮断できる何かに封じ込めた後コンクリ詰めにして海に沈める。永遠に海底で独りぼっちだな」
「ひぇっ」
『……チッ。おいニンゲン。ハヤトとか言ったな』
「あ、ああ」
『──────下手な使い方をしたら承知しねえからな』
そう言うと、レッドゾーンの姿は薄れ…………完全に、カードの中へと消えた。
「ふぅ、どうにか話は付いたか……」
「あれであのレッドゾーンとやらが本当に大人しくなるのか?」
「暫くは保護観察みたいなもんですかね……それで、だ。赤坂」
「はい、何でしょう!」
「詳しい話はこの後会長達とトウリにして貰うが……お前をDGA実働部隊にスカウトする」
「「えぇっ!?」」
トウリとハヤトは共に驚愕に目を見開いた。確かに取り憑かれていた際に真のデュエルを行えていた以上、デュエルテクターを使用する事も可能ではあるかもしれないが……。
「言ってはなんですが、栗茶市には既に自分含め4人のデュエリストがいる状態ですよ。過剰戦力じゃありませんか?」
「それはそうなんだが、栗茶市のクリーチャー案件発生率自体が高いからな……それに、栗茶市所属の俺と井星さんはデュエルマスターに任命された事で、今後長期的に市を離れる可能性も出て来るんだよ」
DGAのデュエルマスター達は、クリーチャー案件での出動回数の多さによって素質の成長が際立った者達が選ばれている節がある。都心部並にクリーチャー出現が多い栗茶市所属デュエリストが2人も選定されているのは、その表れと言えるかもしれないだろう。
そしてそれ故に、今後は市内の案件に対処する人数が不足する事態もあり得るとサキトは危惧していた。
「そ、それはいいんですけど、先輩が説明する訳には行きませんか?」
「したいのはやまやま何だけども……抜け出して来たから、早い所病院に戻らないと」
「そげんやった!先輩、どっか痛むところ無か!?」
「正直、昨日一撃貰った腹がまた傷口開きそうで……」
「む、∞ちゃん!うち一旦先輩送って来るとね!」
『分かった、気を付けて。先輩、お大事に』
そんなわけで、サキトは再び病院へ運び込まれる事となったのであった。
「とりあえず、その……赤坂くんも一度お家に帰った方がいいと思います。親御さんが心配してると思いますよ」
「え、あ……そういえば丸一日帰ってない!?すみません会長!それじゃあ失礼します!」
「放課後にまた学校に来てくださいね!」
* * *
「はぁ…………昨日から色々とあり過ぎたなあ」
すっかり日も暮れた頃、桜龍高校の敷地内をハヤトは歩いていた。
一度家に帰り親に説明した後、放課後にハヤトは生徒会室へと向かい、そこで様々な説明を受ける事となった。
栗茶市内にいるDGA所属デュエリストの面子、実働部隊の仕事内容、デュエマによるクリーチャーとの戦い方。そして──────。
「会長達がそんな事をしていたとはなあ……」
今まで秘されてきた──────ドラゴン娘達の存在。
先日見た物は見間違いでは無かった事、そしてアーシュが慌ててあの場を立ち去った理由にハヤトはようやく得心がいった。あれを普通の人間に知られたら学生生活が平穏無事とは行かないはずだ。まあ、ドラゴン娘にされた時点で既に平穏からは遠い気もするが。
「とりあえず次の土曜日には市役所にいって正式な手続きしないとな」
「あ、赤坂くん!」
「ふぉ!?」
突然後ろから呼び止められ飛び上がる。振り向けば、そこには息を切らした様子のアーシュがいた。
「す、すみません、色々あったせいで大事な事を伝え忘れてて……今大丈夫ですか?」
「は、はい大丈夫です!その、一旦ベンチにでも座りませんか?」
「は、はひ……」
近くに設置されているベンチに腰掛け、呼吸を整える。ある程度落ち着いた所で、アーシュは話を切り出した。
「あの、この前のお返事、なんですけど……!」
「え、あ、はい!正直あのまま無かった事になったかと!」
「そんなことしませんよ!その、色々事情もあって返事を悩んでたんです……」
「まあ事情があったのは、今回把握しました……そりゃ返答に困りますよね」
「それで……まず、私も赤坂くんも、互いの事を殆ど知らないじゃないですか」
「それはまあ……はい」
ハヤトは今年入学したばかりで、アーシュを知ってからまだ一月半程度。直接対面したのも先日が初めてだ。実際問題、相手の事を何も知らないに近い。
「それでも、その……私とお付き合いしたいと……?」
「はい!あの時も言った通り、一目惚れです!」
「うぇあ!?そ、その……流石に私、何も知らないままお付き合いするのは自信ないですが……」
「あ、はい……そうですか……」
「その、ですから!」
アーシュが彼の手を取る。急に彼女の体温を手に感じ、ハヤトの鼓動が急加速する。
「まずはその、お、お友達から始めませんか!?」
「え、それはその……一応、良いと言う事……ですか?」
「は、はい。一応、そういう事で……」
「……っ!はい!よろしくお願いします!」
内容を飲み込んだことで、ハヤトは頬を綻ばせてゆく。実質的にお付き合いを許されたとなれば当然の事だ。
「でもその、何だか緊張しちゃいますね。男の子のお友達なんて初めてで……」
「え、意外ですね。オレが初めてなんですか?」
「皆さん高嶺の花みたいに思ったり、持ち上げたりしてきますけど、ほんとは私結構ビビりなんですよ?」
「そうだったんですか!?」
「やっぱり誤解してた!だからその……そういう所も、お互いにちゃんと知って行きましょう。ね?」
「──────はいっ!」
斯くして、桜龍高校にてまた一つ、新たな青春の芽吹きが訪れた。どのような華を咲かせるかは、これから先の物語。
これにてレッドゾーン逆襲編は終結となります!新たに赤坂ハヤトがDGAへと加わり、ドラゴン娘達の事を知る一人となりました。
レッドゾーンのサンプルカードはこの後工場に返還され、レッドゾーンの意志自体はサキトが持つ白紙のカードのような媒体に移されてハヤトの手元に残る事となります。正式な邪道レッドゾーン発売までは、力の王道改造版を回す事となるでしょう。