「随分急な呼び出しですね」
「そうだな、いよいよ全員の派遣でも決まったか?」
──────2025年7月20日。
この日護守サキトと井星リュウは、DGA総本部の海底施設へと招集されていた。どうやら今回は、デュエルマスター全員が招集されているようだ。
「新環境、どう見る?」
「単体カードの評価はまあ色々ありますけど、全体の纏まり方だとサイバーデッキがヤバそうですね……」
「ループコンボでデッキデスさせてた試合を昨日見たぞ」
「うわぁ……」
先日デュエマの新作特殊弾……『愛感謝祭 ヒロインBEST』が出たばかりのこの時期、彼らのデッキにあまり強化は入らなかったが、環境は激変している。
この時期の特殊弾は2年連続で環境を破壊し尽している感があるが、本当に大丈夫だろうか?
「もうすぐ殿堂発表もありますけど、どうなるんですかね」
「まだショップ側にも告知は来ていないから何ともだな。大幅に手が入りそうな予感はするが……」
「新たなサイバーはともかく、ファイアーバード辺りは追加規制来ますかねぇ?」
8月の頭には、新たに殿堂入りするカードや逆に殿堂指定を解除されるカードの発表がある。今回の新弾と合わせて、大会の環境は大きく変わるだろう。
「失礼しまーす……っと、もう皆来ていたか」
「お久しぶりです、護守様」
「やっほー!元気してた?」
「俺は先月ぶりですね。プレゼントはどうでした?」
「喜んでもらえたよ」
以前と同じく、特別会議室に5人のデュエルマスターが集う。そして時間となり、部屋の中心にヴォルジャアクとクリスドも現れた。
『ようこそ諸君。集まってくれて感謝する』
『む、しかし残る一人が到着していないようだな?』
「え、もう1人いるの?」
「という事はつまり……ようやくご紹介いただけるのですね」
『そうなのですが……』
すなわち、6人目のデュエルマスター……水文明を担当する者が、ついに正式に任命されるという事だ。しかし、肝心の当人がまだ到着していない。さて、どうしたものかと考えていると、いきなり会議室の扉が開き1人の少女が入って来る。
「やあやあやあ先輩方、お待たせしましたー!いやー急にハッキング対応の仕事が入っちゃいましてー!」
「うぉ、騒がしっ」
「あー……お前が最後のデュエルマスターか?」
「イエス!DGA電脳対策班所属、
中々にテンションの高い人物のようだ。電脳対策班ということは、サキトが以前遭遇したジョーカーズ使いの同僚と言えるだろう。
「初めまして水原さん。失礼ですが、ご年齢は?」
「16歳の高1!ここにいる皆さん全員先輩ですね!」
「16歳でハッカーとは、随分な腕前だな」
「相棒のお陰でもありますけどね!契約してから、その恩恵なのかコンピュータやプログラムの扱いが更に上手くなったんですよ!」
「へぇ……で、その相棒は?」
「こちらです!さ、出て来て!」
セイカがカードを取り出すと、彼女の背後に半透明なクリーチャーの姿が現れる。人型の上半身が生えた、巨大な翼と機械の4本腕を持つ、異形のクリーチャー。他の5人も、その姿はつい最近目にしたものだ。
「《愛銀河マーキュリー・スターフォージ》!!なるほど、以前言っていたカードとなっていない契約クリーチャーとは、こいつだったか」
「昨日公式にカードが世に出たので、ようやく先輩方と肩を並べて戦えるようになりました!まあ、陽野テルタカ先輩とはちょっと前に任務をご一緒しましたけどね?」
「そうなの?」
「ええまあ、先々週ちょっとばかり、海外にまで行く羽目になった時に世話になりまして」
現在DGAの活動は、限定的な海外派遣を行うまでに至っている。海外においてはデュエマは知名度と普及度が低く、クリーチャー災害に対処出来るノウハウが育っていないが故の措置だ。また、クリーチャーを悪用する人間の摘発等も少数例だが行われている。
「いやー大変でしたねー。で、その時関わった相手がサイバー・ウイルスを使って日本政府の方にクラッキングを仕掛けて来たので、撃退と反撃しておきました!」
『ふむ、折角です。皆さんに戦闘記録を見せても構いませんか?貴女の戦術を周知して貰う良い機会です』
「わっかりましたー!それでは、こちらを!」
大型のホログラフモニターが展開され、そこに映像が映し出される。先程行われたという、政府にハッキングを仕掛けようとした者達との戦いの様子である。
* * *
「はいはい、お待たせしましたねーっと。まずはデータの暗号化改変を修正と、敵の把握からいきますよっと」
「お願いします!」
映像内のセイカが複数台のモニターを前に笑みを浮かべ、コンピュータにデュエマフォンを接続し素早くキーを叩いてゆく。
「暗号化パターン解析、修復開始っと!相手は《エレガント・ランプ》2体、《キャンディ・ドロップ》、《ツクモ・スパーク》3体ね。キャンディのブロックされない能力を応用して通常のファイアウォールを越えて来たかな?とりあえず、暗号化解除しつつ侵入経路の逆探するよー」
この手のハッカーの常套手段は、侵入したサーバーからデータを盗んだ上で元データを暗号化し、解除の代償に金を要求するという物が多い。しかし、彼女の相棒たる強力なサイバー・コマンドの補助が加われば、暗号化されたデータを即座に解析、修復が可能となる。
「はいはい、複数の海外サーバー経由で侵入して来てるね。それじゃあ通常のウイルスプログラムは停止させつつ、クリーチャーをこちらの端末に誘導開始ー!」
「大丈夫なのですか?」
「大丈夫大丈夫、私達に任せなさいっと!よしよし、餌に食いついて来たね」
サイバー・ウイルスのクリーチャー達と同時に送り込まれて来たウイルスプログラムの全てが、瞬く間に書き換えられ機能を停止してゆく。そして、敵のクリーチャー達はサーバーに繋がれた1台の端末へと誘導されてゆく。
「よしきた!退路を遮断、後は私が駆除するね。サイバーマット展開、セキュリティシールドオンっと!」
彼女のデュエマフォン、並びに展開できるデュエルフィールドは特別製だ。サイバー系種族の力を借り機能強化されたデュエマフォンは、彼女がプレイしたカードのクリーチャーを全て電脳空間内に送り込む事が可能となる。現状、彼女のみが可能な芸当である。
「デュエマスタート!《猛菌 キューティ-2》をマナにして、《フラワー・ハート》召喚!」
花弁のような形状のサイバー・ウイルス、フラワー・ハートが電脳空間に送り込まれる。コスト1で呼び出せる最軽量のブロッカーであり、ヒロインBESTで新登場したばかりの新カードだ。
突然現れたシールドとブロッカーにも怯まず、サイバー・ウイルス達は攻撃を仕掛けて来る。
「それじゃあツクモ・スパーク1体をフラワー・ハートで止めてと。破壊された時に1枚ドロー!更に2体目の攻撃から……やったね、シールドトリガー!《猛菌 キューティ-2》が場に出て、登場時能力でキャンディ・ドロップをこのターン攻撃不可にしちゃうよ!」
現れた愛嬌ある見た目のサイバー・ウイルスが触手を振るい、青・緑・ピンクの透き通った体を持つ敵のサイバー・ウイルスを雁字搦めにして動きを止める。だが残る4体の攻撃が、またシールドを破りに来る。
「シールドゾーンから加わった《マクスハト》を捨てて、《挑戦の決闘》のストライク・バック!攻撃前のエレガント・ランプをバウンス、更にカードを2枚ドロー!あ、バウンス時にプログラム実行っと」
ヒトデを思わせるような形状の、6本の触手を広げたクリーチャーの1体が強制送還されてゆく。
「プログラムとは、何をしたんです?」
「んー、バウンスでクリーチャーの世界に送り返す前に、送り込んで来た相手のパソコンを経由するようにしてね。相手のパソコンを過負荷かけて破壊するウイルスを逆に送り込んじゃいました!」
「良いんですかそんなこと!?」
「クラッカーやってるなら逆にやられる覚悟ぐらいして貰わないとねー?さてと、それじゃあ残る2体の攻撃が通ってと……おっと、エレガント・ランプの攻撃でトリガー発動!ブロッカーの《アイドル・ハート》が場に出てこれで最後のツクモ・スパークの攻撃をブロック!」
キューティ-2と似た別のクリーチャー、アイドル・ハートが場に現れ球体状のクリーチャー、ツクモ・スパークによる最後の攻撃を身を挺して防ぐ。パワーはたった1000でありツクモ・スパークに破壊されるが……それ自体がこのクリーチャーの役割だ。
「アイドル・ハートがバトルゾーンから墓地へ送られた事で、サイバー・メクレイド8する!デッキの上から3枚見て、その中からコスト8以下のサイバーをコストを使わず実行!……よしよし、来たね」
あえて倒される事で、後続を呼ぶのがアイドル・ハートの能力。そして、彼女のデッキが回り出す。場に現れたのは、初代デュエマの女性キャラクターと共に描かれた機械的なクリーチャー……!
「《黄昏ミミ&トワイライトMk.3 -挑戦のヒロイン-》をメクレイドで召喚!進化せず場に出た事で、更にサイバー・メクレイド5する!きたきた!手札の《
連鎖的にメクレイドが発動し、手札のクリーチャー3体を糧として──────彼女のエースたるクリーチャーが現れる。水星の名を冠する、愛のイデアより生まれし新たなる異形の不死鳥!
「《愛銀河マーキュリー・スターフォージ》!!」
『ハァァァアァァッ!』
マーキュリー・スターフォージの降臨と同時に、トワイライトMk.3の身体が発光する。電脳空間にゲートが展開され、ツクモ・スパークがそこに吸い込まれて消える!
「トワイライトMk.3の能力、各ターンに1度、他のサイバー・クリーチャーが出た時にクリーチャーを1体選びバウンスするよ!これで私のターン、ドロー!《アストラルの
これで残るクリーチャーは3体。彼女は全てを送り返し、ウイルスで相手方を再起不能にするつもりだ。
「さてと、これで決まり!スターフォージで最後のツクモ・スパークに攻撃時、進化元になっている3体の超魂X能力が起動するよ!フラワー・ハートで1枚ドロー、昇カオスマントラとアレクサンドルの能力でそれぞれ手札と墓地からクリーチャーを出す!手札から《マクスハト》、墓地からアイドル・ハート!」
破壊されたアイドル・ハートが復活し、更に手札からは翼が生えた低等身の人型サイバー・クリーチャー、マクスハトが現れる。これで勝利は確定した。
「そして、スターフォージのメテオバーン発動!下にあるフラワー・ハートを墓地に送って、攻撃対象のツクモ・スパークとアンタップされているキャンディ・ドロップをバウンス!そして、マクスハトの登場時能力!自分の他のエレメントを1つ手札に戻して、サイバー・メクレイド5!手札に戻すのは……マーキュリー・スターフォージ!」
「ええっ!?」
マーキュリー・スターフォージが彼女の手札へと戻り消える。それは同時に、スターフォージの進化元となっていた残る2体も手札に戻る事を意味する。
「なんで戻したのです!?」
「まあ見ててね。そして、メクレイドで3枚を見る……そのうち2枚は、さっきデッキの上に戻したカードだよ」
「はっ!?」
そう、アストラル・ハートの能力は非進化時にはデメリットが生じるが……メクレイドの手段を確保している場合、好きなクリーチャーを呼び出せるメリットとなり得る!
「というわけで、さっき手札から戻したうちの1体……再びおいで、昇カオスマントラ、アレクサンドル、キューティ-2で手札進化GV!マーキュリー・スターフォージ!」
2体目のマーキュリー・スターフォージが現れる。残るサイバー・ウイルスは1体、最早為す術はない。
「マーキュリー・スターフォージの攻撃時、メテオバーン!キューティ-2を墓地へ送って、最後のエレガント・ランプをバウンス!ウイルスのおまけ付きで、ね!」
最後の敵も送り主の元を経由して超獣世界へと帰される。プログラムの修復も並行して完了、セキュリティも更新が掛けられた。
「防衛終了!お疲れ様でしたー!」
* * *
「……なるほど。これだけの展開力と除去、更に十二分な高パワーを確保できる新たなサイバーデッキの成立こそが、水文明のデュエルマスターが本格的に活動するために必要となったわけか」
「ていうか、スターフォージすっごいね。条件付きで3マナに軽減出来て、種族と文明を問わず手札のクリーチャー3体で出せるうえ、メクレイド5対応かぁ」
環境においてはループコンボで今後猛威を振るうであろうデッキだが、対クリーチャー戦にも対応が可能となるとは恐るべし。使い手共々、デュエルマスターとして申し分のない力を持っていると言えよう。
「契約した私に力をくれているのも本当にありがたいですよ!今の私はウィザード級ハッカーに匹敵するとお褒めの言葉を頂きました!」
「ウィザード級……とは?」
「コンピュータシステムを魔法使いのように自在に操る、熟練のハッカーの事ですよ」
「そう、私はマーキュリー・スターフォージの力を借りた魔術師。言うなれば水星の魔──────」
「やめい!そのワードはタカトミのライバル会社からどやされそうだ!」
随分とテンションの高い変わり者、それが水原セイカという少女に抱いた印象であった。
『さて、それでは本題に入るとしよう』
「おっとそうだった、重要なのはこれからか」
『デュエルマスターがこうして6人揃った事で、十分な戦力は整ったと我々は判断しました。これにより、予てよりの計画を実行に移す事が出来ます』
ホログラフモニターの映像が切り替わり、地球ともう一つの世界──────超獣世界が映し出される。
『作戦の発動は1週間後。お前達には全員で超獣世界へと向かい、まずは自然文明の代表と接触して貰う』
「自然文明か……見た所新章世界に近い世界だ、となればまだ分かりやすい相手ではあるか?」
『ええ、ジャオウガとの戦いを経た後の世界。彼の世界であれば、ある程度の力さえ示せば話は分かる方でしょう』
まあ、軽い戦いは避けられないだろう。それがクリーチャー達の本能でもあるが故に。
『これが人間世界側から行う、超獣世界への最初の本格的な接触となるでしょう。諸君の活躍を期待しますよ』
「お任せを。必ず成功させて、双方の世界を安定させてみせます」
ついに……デュエルマスター達の新たな任務が、ここに始まろうとしていた。
水文明のマスター、水原セイカが登場となりました!
使用デッキは所謂【水単サイバー・メクレイド】となります。対クリーチャー向けに調整は施されていますが、現在でも環境でバリバリ活躍中の恐るべきデッキが本作にも参戦です。
キャラ設定ページも更新しておきましたので、そちらもご覧ください。
次回からは──────新章突入!