ドラゴン娘と決闘者   作:偽りの名 ニーサン

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いざ行かん、鴨川シーワールド!


Ep.42:ドラゴン娘と海の水族館

「昨日の夜も凄かったけど……朝から海鮮食べ放題……ゴクリ」

「お寿司の食べ放題なんてテンション上がるよな……!」

 

──────2025年8月3日。

南房総旅行も2日目、一行は宿泊するホテルにて、朝食を楽しんでいた。

今回予約した宿泊プランには、朝夕の海鮮バイキングが盛り込まれている。

 

「皆食べすぎると後で苦しくなるから、気を付けるようになー」

『この後は車で移動?』

「その予定だけども」

『……ほどほどにしておく』

 

満腹状態で乗り物酔いになってはたまったものではない。∞は酔い止めの用意はしているが、その上で多少食べる量を控える事にしたようだ。

他の面々も、量自体は抑えながら様々な刺身や寿司を楽しんでゆく。

 

「蟠龍はん、それは?」

「マグロの兜焼きから切り取って来たものですね。中々美味しいですよ」

「兜焼きって……うわすっご、でっか!」

「頭を丸ごと焼くなんてとても豪快ネ!」

「オレもいただいて来ますかね……」

「それなら、まだカマの部分が残っておるうちに行っておいた方が良かろう。滅多に食べられぬ部位だぞ」

「良いですね!取りに行きましょう!」

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「お、お姉ちゃん達一心不乱にカニを剥いて食べてるね…………」

「カニの脚を剥いたり穿ったりするときって、皆無言になりがちだよな……あのザーナでさえ無言になってるぜ」

 

「そういえば、男子組はどうしておったのだ?」

「あー、部屋でデュエマしてましたね。総当たり戦で」

「旅行に来てまでそれでしか!?」

「折角ならtable tennis(卓球)にでも誘っていただければ、ジュラ子がお相手しましたわよ?」

『ジュラ子相手は流石に厳しくない?』

「先輩も身体は鍛えとーばってん、スポーツ的な方やなかもんね」

 

思い思いに、自分達の好みの海鮮を食して行く一行。そうして、時間一杯までホテル内のレストランで過ごし……。

 

「それじゃあそろそろ出発だけれど……鴨川シーワールドってここから車で1時間はかかるわよね?」

「車の運転免許持ってる人は……まあおらへんよね」

「大丈夫です、もうそろそろ来てますから」

「来てる?」

 

テルタカの言葉に首を傾げる彼女達であったが……ホテルのフロントを出ると、駐車場にマイクロバスが停車していた。

 

「人数と日程が決まった段階で、俺の方で事前に貸切バスを手配しておきまして。往復で予約したので全員これで行けますよ」

「おお~なるほど、タクシーを人数分呼ぶよりも圧倒的に楽!」

「だ、大丈夫ですか陽野さん?お代がかかってるんじゃ……」

「マイクロバスですからそれほどでも。それに俺達はDGAの給金が使いきれないほど貰えてますんで、こういう機会にパーッと使うくらいでちょうどいいですよ」

「いっそ皆さんの宿泊費も自分たちで全額払っても良かったくらいですが」

「それは流石に申し訳が……」

 

以前にもサキトがとんでもない給金に目を白黒させていたように、危険な任に就く彼らは皆相当額の給金が支払われている。そして、それらは普段の生活のみではかなりの勢いで溜まっていくばかりだ。

一応普通の女子高生である彼女らとは、比較にならない程に自身の資産を持っている訳で……必要なら全額奢る気でいたくらいだった。そこまでは心苦しいと彼女達は言ったものの、結局ドラゴン娘達の分の旅費をある程度負担するという事で押し切られている。

 

「さ、行きましょう。水族館が待ってますよ」

「お、おー!」

 

それはともかく。バスに乗り込んだ一行はホテルを出発し、南房総の景色を楽しみながら……今日の目的地へと向かう。

 

 

* * *

 

 

鴨川シーワールド。観光会社によって作られ開業した、千葉県鴨川市に存在する水族館テーマパーク。この施設の開園を切っ掛けに、観光地としては海水浴くらいしか無かった鴨川周辺、ひいては南房総という地域が通年リゾートへと成長したと言える。

現在は開業55周年を迎え、限定の記念グッズやメニューを提供している。そんな節目の時期に、一行はこの水族館へ訪れる事となった。

 

「うわぁ、広いですね……!」

「鴨川シーワールドは、飼育する動物の元の生息環境を再現した所が多いんだって!」

「見どころは各種ショーと、熱帯のサンゴ環礁を再現した展示ですかね」

「流石にショーをコンプリートは、移動時間も考えると難しいかしら?14時くらいまでいる予定だったわよね」

「ですね。今10時10分くらいなので直近はえー……イルカのパフォーマンスが10時半からか」

「ショーが終わったら50分からイルカに触れるみたいですよ」

「イルカに!?」

 

複数名の目が輝く。可愛らしいイルカに直に触れられる機会など滅多にない、となれば彼女らが食いつくのも当然であった。

 

「とりあえず、最初に見るショーは確定ね」

「それじゃあ今いるのがメインゲートだから……途中の施設も見ながら行きますか」

「うむ、しかしそれほど時間は無いな。寄れても一か所か?」

「行くならウミガメの浜ですかね。産卵の時以外は浜に上がらないから泳ぐ姿を少し離れた所から……という形になりそうですが」

「イルカと、シャチのショーが終わったら色々見て回りましょう!」

 

そうして一行は、この広い海のテーマパークを楽しんでゆく。

 

 

「ウミガメとは、本当に陸に上がらぬものなのか?」

『卵から孵化した直後と、産卵のためにメスが上陸する時以外は生涯ずっと海の中だって』

Rest(休憩)する時も海の中なのかしら?それとも海面に?」

「ん~……なるほど、海底やサンゴの間でじっとしてるらしいですね。1~2時間、種によっちゃ数時間呼吸を止めて水中で眠れるとか」

「数時間!?ばり凄か!うちにも真似できんばい!」

「出来たらもう人間業じゃないでしよ」

 

産卵するための人工ビーチが設置された、専用の水槽でウミガメの泳ぐ姿を見る。ゆったりとした泳ぎは時間を忘れさせそうで…………。

 

「そろそろ行かないと良い席埋まっちゃいますよー」

「あ、行きます行きます!」

「この場合の良い席とは、近い方が良いのか遠い方が良いのか……」

「遠くから全体を見るか、近くで迫力を楽しむかやね」

「せっかくだから近くで見ようよー!」

「賛成ネ!」

 

 

「はい、前列の方はこれを着てくださいねー!」

「お、レインコート貸してくれるんだな」

「それだけ、水しぶきがかかりそうって事だね」

「そろそろスタートよ!」

 

10時半からはイルカのショーだ。大きなプールが設置されたスタジアムにて、バンドウイルカ達がその高いジャンプを活かし、ワイヤーで高く吊るされたボールやフラフープの輪に触れるパフォーマンスが観客達を盛り上げてゆく。

 

「うひゃー!」

「結構波しぶきが来ますね!」

「やっぱりイルカの泳ぎとジャンプ力、それを生み出す尻尾の筋力は凄いな……」

「テルタカさんはどちらかというと、生き物の身体に興味があるの?」

「んーまあ、骨格標本とか筋肉の付き方とか見るのは割と……」

 

「さあ、パフォーマンスが終わって、ここからはイルカにタッチできる時間でーす!」

「待ってました!」

 

プールの縁にやってきたイルカの肌に、観客達は順番に触れてゆく。その感触は濡れたゴムや茹で卵に例えられるように、つるつるすべすべとしたもので中々に心地いい。

 

「おぉ~……なんか面白い感触」

「あ、あれ?ちょっと手で擦ったらこれ、なんか剥がれたみたいに……」

「あーそれは、イルカの垢というか古い皮膚ですね。イルカは新陳代謝が早くて、2~3時間で皮膚が新しい細胞に入れ替わるんですよ」

「へぇ~…………!」

「垢……垢かぁ…………」

「こうして表皮が次々と新しくなることで、常に水の抵抗を抑えられる滑らかな肌が保たれるんですよー」

 

これもまた、イルカが進化の中で生み出した戦略の一つ。この肌の構造と新陳代謝のサイクルも、海中を高速で泳ぐために特化した進化の帰結なのだ。

 

「写真も撮れたし、後で絵のモデルにさせてもらうでし!」

「素敵な絵が描くると良かね!」

「さてそれじゃ、ちょっと早足で隣のスタジアムに行くぞー!」

「おっとと、はーいっ!」

 

 

* * *

 

 

西側に少し行くともう一つの目玉スポット、オーシャンスタジアムがある。ここで見られるのは、シャチによる大迫力のパフォーマンスだ。

 

「近くで見ると、シャチって本当に大きいですね……!」

「確か背中のヒレが長い方がオスやったっけ?」

「うむ、オスのシャチの背びれは最大2mにも達するそうだ」

「水族館で飼育されてると、環境的にぺたんと倒れちゃうのが多いらしいっすね……」

「3匹もいるのネ!どれもカワイイわ~!」

「ゼオスさん、シャチは哺乳類だから『匹』じゃなくて『頭』が正しいですよ」

「そうナノ?日本語の単位ってムズカシイデス……」

 

そして、シャチによるパフォーマンスが始まった。イルカよりも数段大きな巨体が、水中から飛び出し海面に身体を打ち付けるブリーチングは、かなりの迫力だ。激しい水しぶきと波が発生し、最前列の客席では水に濡れる事は避けられない。

 

「わひゃー!すっごいしぶき!」

「大海原を背景に飛び跳ねるシャチは、なんとも迫力があるではないか!」

「さすが海のジャイアント・ハンター、見ているだけでも刺激的だわ」

 

続けて、シャチの調教師と見られるスタッフが向かい合うような形で胸鰭を掴むと、まるで踊るように円を描き泳ぎ出した。

 

「わわ、凄い…………!」

「あ、危のうなかとやろうか?」

「シャチは人を食う目的で襲ったりはしないらしいが、いかんせん体格とパワーが違い過ぎるからな……じゃれる感覚で来られても危険な可能性はある」

『素人が真似しちゃいけない』

「そうですわよね……」

 

シャチは知性が高く、同時に好奇心が強い。野生の個体が遊び目的で人間に寄って来る事もあるというが……種族としての身体能力の差はやはり大きいのだ。

そして、過去には水族館スタッフの死傷事故と言う例もある。ベテラン調教師であっても、油断は禁物だ。こうしてシャチのショーを任される飼育員や調教師は、尊敬に値する職業であると言えよう。

最後に大きくシャチが跳ねてショーは終了し、観客席からは大きな拍手が鳴った。そのままスタッフが、希望する観客をステージに上げてくれるそうだ。

 

「はー、凄かった……」

「シャチを飼育してる水族館は珍しいですからね、いいものを見れたと思いますよ」

 

直前に見ていたイルカ達の高い身体能力を技に活かすパフォーマンスと、シャチの巨体がダイナミックに躍動するパフォーマンスでは全く方向性が異なるものだった。こういった、多様な生物達による海の様々な一面を見れるのも醍醐味であろうか。

 

「あ、ふぇるがステージに上がったわ!」

「これが最後のパフォーマンスかな?……あ」

「ひゃぁ!?」

「おー、シャチにキスされてる」

 

シャチのパフォーマンス終了時には、毎回の恒例としてこの触れ合いサービスが行われる。これもまた、滅多な事では味わえない体験だ。

 

「…………ん?」

 

その時ふと、西の方を見たサキトの視界には、巨大な入道雲のような物が見えていた。

 

 

* * *

 

 

「おぉー!これめっちゃ映えるね!」

「たしかに、ええ画が撮れたんとちゃう?」

 

スタジアム周辺のアシカやアザラシ、ペリカン等が飼育されているエリアを回った後、一行は昼食を摂っていた。なんといっても彼らが居るレストランの名物は──────。

 

「わわ、こっち来ました!」

「こんなに間近でみれるのね!」

 

──────オーシャンスタジアムに隣接し、シャチの泳ぐプールが窓の外に広がるという他に無い景色である。

メガは名物メニューのシャチライス……ライスをシャチの形に整えたハヤシライス……と、本物のシャチが同時に映る瞬間を撮影しご満悦だ。

 

「後でアップしよーっと!」

「わらわ達は映っておらんだろうな?」

「だいじょーぶ!ガラス窓や食器にも反射してない!」

「ならよし」

「あ、この55周年記念プレートのお料理美味しい……!」

「ホタテにエビに……これは千葉県産の牛肉かな?かなり美味いですよこれ」

 

シャチの泳ぐ姿を見ながら食事を楽しむ皆であったが、その中でサキトは少々難しい表情を浮かべていた。

 

「先輩、どげんしたと?」

「ん、ああいや。俺らが来た方、ホテルのある方角にデカい入道雲が出てたからな。天気が荒れないかちょっと心配になっただけ」

「確かに、デカい雲が湧いてましたね」

「それは確かに心配ですけど……帰りもバスならたぶん大丈夫です!だから今は食事を楽しみましょう!」

「んー……まあそうだな。会長の言う通りか」

 

そうして彼らは、各々が注文したメニューを平らげていく。

 

 

* * *

 

 

午後は、川の源流から海まで続く水の流れや波を再現した室内展示から足を運び、この房総地域の自然に触れた後……隣接する「マリンシアター」にて、ベルーガ(シロイルカ)のショーを見る。

 

「うわぁぁ…………!すっごくカワイイぜ……!」

「確かにベルーガは可愛らしいですけど、ここの見どころはそれだけじゃないですね」

「なんだか水槽の上にモニターが置かれてるけど……?」

 

大型の三面モニターには水槽からこちらを見るベルーガの姿と共に、「イルカの特殊能力」「イルカの声、イルカの会話」といった文字が表示され──────。

 

「あ、ベルーガが鳴いたら波形みたいなのが出ました!」

「ベルーガの聴覚や超音波を使った能力を見せるために、リアルタイムで彼らが出した音をああやって音波の波形として表示するんだそうです」

「え、凄くない?」

「ヒトには聞こえない声を、『見る』ことで感じられるようにするなんて……ステキじゃない」

 

イルカ類の持つ能力、エコーロケーション。目が見えなくとも音と超音波で水中の物体を察知するその特性は有名ではあるが、こうしてリアルタイムで目に見える形にするというのは、人間の技術の進歩による賜物だ。

泡のリングを出すなどの愛嬌あるパフォーマンスと同時に、彼らの持つ本来の能力が如何なるものか見せてくれるこの施設は素晴らしい。

 

「わぁっ!他にもこっちに来ました!」

「ボール咥えてるよ!かわちぃね~!」

「皆楽しそうでなにより、ですかね」

 

ベルーガの唄に注目するもの、愛らしさに心奪われるもの、それもまた人それぞれ。どちらに優劣があるというものでもない。

 

 

* * *

 

 

「──────え、ホテルに戻れない?」

「それが、急に白浜方面に向かう道が封鎖されたとの事でして……」

 

その後もシーワールドの展示を堪能し終え、ホテルへ戻るべくバスへ乗り込もうとした一行。ところが、予想外のアクシデントが彼女らを待ち受けていた。

 

「どういうことなのだー!?」

「事故カシラ、それとも事件?」

「ニュースにはまだなっとらんみたいやね……」

 

このままでは、ホテルへ戻る事が出来ない。大きな荷物はホテルに置いたまま、別の宿を探すという訳にも行かない。

 

「どうします?」

「理由が分からんが──────どうもきな臭い感じがあるな」

「もしかして、案件ですかね?」

「こっちに情報が回って来ないのは休暇中だからとしても、流石に一般に発表が無いのは今の体制だとおかしい」

 

南西の方角を見れば、先程よりも更に入道雲は大きくなり──────なにか、渦を巻いているようにも見えた。

 

「──────行くか」

「ですね」

「すみません、俺達で少しばかり様子を見て来ます」

「ええっ!?お客様達、封鎖された所は通れな──────」

「大丈夫です、オレら、こういう者なので」

 

4人がDGAのホログラフ徽章を見せる。それにより、バスの運転手はなにも言えなくなり──────他の皆は、何が起こっているか少しばかり察してしまった。

 

「また、クリーチャー案件ね?」

「まだ予想に過ぎんけどな」

「トウリ君、ついて行ってはダメデスか?」

「ちょっと今回は情報不足なので、ここで自分達からの連絡を待っていて欲しいです」

 

サキトとテルタカが各々のデュエラッドを呼び出し、トウリとハヤトがサイドカーに乗り込む。彼らにとって、厄介な仕事の予感がしていた。

 

「陽野さん、気を付けてね」

「勿論です。まあ、任せておいてください」

「赤坂くん……まだ旅行は終わってませんから、ちゃんとこの後も楽しみましょう!」

「はい!それでは会長、行ってきます!」

 

そして、2台のデュエラッドが発進し、彼らが来た道を戻っていく。

眼前の空に立つ入道雲、そこから流れて来る様な風は、不穏な空気を孕んでいた。




3月6日をもって、ドラゴン娘と決闘者は連載1周年を迎えました!
読者の皆様、ここまでの閲覧とご声援、ありがとうございます。2部の完結に向けて走り抜けて行きたいと思いますので、これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

白浜に巻き起こる異変。そこに待つ物は……。
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