今回は本家のプール掃除回。ただし本家では夏休み前の時期と言われているところを、5月半ばにずらしています。
「暑い……まだ5月だぞ……!」
──────2024年5月20日。
土曜に行われた新入生交流会を終え、桜龍高校の生徒達は平常通りの授業へ戻っていた……が。
その日は、真夏に近い暑さの日であった。既に夏用制服を引っ張り出して来た生徒も多い状態である。
『流石にここまで暑いのは想定外。ゲーム機やパソコンの温度に気を付けないと』
「5月でこんなんじゃ夏本番はどうなるんだ……」
放課後のゲーム部部室でも外の暑さでぐだっている部員が多数いる状態だ。
冷房が使える分運動部よりはマシな状態ではあるが。
『副部長は何をしているの?』
「あー……ちょっと次の土曜辺り生徒会の人らとアオハル組にこの間の顛末に絡む事とか説明しようと思って。部活休みのタイミングが良さそうだし」
小声に切り替えて、いくつかのカードを見せながらサキトは∞に説明する。
手にしたカードは……。
『《黒龍神モルナルク》』
「ああ、そしてその仲間達に関する事とかね。後でアオハル組の皆に声かけて貰えると助かるんだけど」
『分かった。伝えておくよ』
「うちからもドーラちゃんに伝えとくね」
机の陰からしのぶがひょっこりと顔を出す。いつの間にかこの部室にいるのも相変わらずであった。
『しのぶ、水泳部は?』
「そういやそっち練習時間のはずだよなぁ……?」
「それが聞いて欲しかとばい!例年やったらうちら水泳部がGW明けにプール掃除して水泳練習始めるっちゃけど、今年はなしてかプール掃除は生徒会に一任して一般生徒はそれまで入れんって言いよーんばい」
「あー、それで予定がずれたと……」
水泳部の活動は4月までは走り込みなど陸上での体力作りを行い、5月頃から9月まで水泳練習を本格的にやるというのが一般的だ。
新入生交流会で多少ずれ込んだとはいえ、そろそろ水中練習を始める時期と言える。
「……生徒会役員しか入れられない理由があるわけだよな」
『先輩、顔が面白がってない?』
「いやぁ……これは仕事だから、うん。あっちの案件かもしれんし見に行ってもバチは当たるまいよって」
「あ、それならうちも行くけん。∞ちゃんは……」
「……」
「ゲームしよるとね。じゃあ先輩、一緒に行こ」
「おうよ」
暑さによるフラストレーション解消も兼ね、暇を持て余したサキトはしのぶと共に屋外プールへと向かうのであった。
* * *
「うええ、こりゃひどかね」
「あー……そりゃ一般生徒には誤魔化しようがないわこれは」
冬の間も水が張られ続けていた屋外プールには、大量の植物型クリーチャーが蔓延り埋め尽くしていた。
「《ロータス・ミントγ》……強いクリーチャーじゃないがこんな大増殖してるとは」
「あれ、護守先輩?」
「あ、生徒会ん皆が来たね」
声をかけられ振り向くと、こちらも夏の装いをした生徒会メンバーがブラシ片手にやって来ていた。
「うわぁ……凄いことになってます……!クリーチャーがこんなに……!」
「なるほど、確かにこれはうちらにしか掃除できんな……」
「でも見たところ、アブナクはなさそうデス」
「それでキサマらはなぜここに?」
「いやぁ蒼斬さんから水泳部の話聞いて、クリーチャー絡みの可能性あるかなとやって来たとこで」
「ほんとならうちの部の仕事やけん、手伝うばい」
「ホントー!?助かるよ2人とも!」
念のためサキトがデュエルフィールドを展開し、他の生徒に見られない状態にしておく。
そして各々がデッキブラシを手に、掃除にとりかかる。
「小学校や中学校の時は、プール掃除はついでに水生昆虫の観察とかも出来て楽しかったんだがね、っと!」
「へーせんぱい、虫とか好きだったの?」
「ああ。ヤゴとかミズカマキリとか、たまにゲンゴロウとか珍しいのがいてなあ。流石にこいつらが蔓延ってちゃ今日は期待できそうにないけどね」
パワーの低いクリーチャー故か、素手とデッキブラシという装備でもサクサク駆除が進んでゆく。
メガ・マグマ・ドラゴンで一掃!というのも一瞬考えたようだが、ただでさえ暑さで気が滅入る日にプールの水を高温の水蒸気に変えかねない行動は流石に躊躇ったサキトであった。
* * *
30分程の格闘の末、ロータス・ミントγは駆除された。
「よーし、終わった終わったー!」
「楽勝デシタ!」
「とはいえ数だけは多かったなほんとに……」
「これで終わりなら楽な仕事なんだがな……」
「まだプール本体ん仕事が残っとーもんね」
「せやな……汚れはまだ残ってるし」
「一旦水を抜く必要があるので、それまでは休憩にしましょう」
プールの壁や底に生えた藻を取るにも泳ぎながらというわけには行かない。
水が全部抜けるまでは少々時間がかかりそうだった。
「あ、せんぱい達もアイスどうー?」
「よかと?」
「二人に分けても十分な量あるみたいやし、手伝ってくれたお礼って事でな」
「ありがとう、んじゃ折角だしご厚意に甘えていただくよ」
校長が用意したというアイスは棒アイスにかき氷、缶ジュース他色々と用意されていた。
「そんじゃこいつにするかな」
「おお、せんぱいはパ〇コがお好み?」
「好みというか一番よく食べるアイスはこれだな。手が汚れにくいから食いながらでもゲームやカードをいじれるし」
「なるほど、納得デス」
「∞ちゃんもおんなじ感じでそれば好いとったね。あ、先輩それ半分貰うて良かと?うちの方も半分あげるけん」
「チョココーヒーとホワイトサワーは味混ざるとイマイチになりそうだな……まあいいけど」
互いのパ〇コを分け合う2人。それを見た生徒会メンバーが、ひそひそと話し出す。
「なんだかあの2人、距離感近くない?」
「わらわたちの前で味の違うアイスを分け合うとは……」
「オツキアイしてるのカシラ?」
「お、お付き合いですか!?」
「いやーどうやろ……しのぶはんは∞はんに色々とお熱みたいやし」
「そこー聞こえてるぞー」
「そ、そげなとやなかばい!」
少しだけ顔を赤くしながらもしのぶが否定する。
「身体張って誰かば守っとー時ん先輩はかっこよかて思うばってん……」
「ほうほう、結構な好感触だねー?」
「はいはいそこまで。そっちのアイスが溶けるぞー」
「おっととそうだった……んー美味しい!」
「センパイはオツキアイしてる人はいるのカシラ?」
「いいや全然。カードゲーム趣味に理解ある彼女とか出来ればそりゃありがたいけどね……まあ望み薄だよ」
そうして色々と駄弁りながら時間が過ぎて行き、プールの水も徐々に抜けていった。
* * *
「それじゃあプールで遊ぶためにも掃除を終わらせましょう!」
「ちょうど水も抜けたし、ブラシで磨いて……あれ?」
見ればプールの中には、なんとまだロータス・ミントγの姿が1つあった。
「なんかいる!?」
「まだ残ってやがったか……!」
「深い場所にいて気付けなかったのネ」
「まあええやん、さっきのと同じくサクッと倒してまえば……」
他の個体が楽に駆除できたので、はっきり言って彼女達は甘く見ていた。
……が。
「うわぁ!気持ち悪っ!」
「うわキッショ!触手の動きキショい!」
「あいつ、陸のほうが俊敏に動けるんかい!」
乾ききっていない汚れと藻類により足場が悪く、逃げるクリーチャーを相手に悪戦苦闘する生徒会+α達。
「ひい!?こっち来んとって!」
「んの野郎いい加減にしやがれ!」
「ぅわー!?今度はこっちに来たぁぁ!?」
「すずちゃんをイジメないで!許しまセン!」
ゼオスのデッキブラシによる一撃が叩き込まれる。
そうして大騒ぎの末に、最後の1匹を無事仕留めたのであった。
* * *
「はー……あいつ陸だと素早いとか初めて知ったぞ……!」
「先輩も、クリーチャーについて知らない事あるんですね……」
「とにかく、きつかばい……!」
「けほけほ……でも、いつの間にかプールがピカピカになってるよ!」
「あいつを追いかけとる内に、ブラシで掃除も出来てたんやな」
汚れも藻もこそげ落とし、屋外プールはこれで無事使える姿となった。
「これで明日からちゃんと練習できそうばい!」
「すみません、水泳部にだいぶ影響出しちゃって……」
「まああげんことになっとったらしょんなかって」
「そういえば蒼斬さん、ドラゴンの力ってモルナルクに回収されたんじゃ?」
「それが……あん校長に押し付けられてしもうて」
『もうドラゴンの力は戻らんのかな』
『やはりドラゴンの力が欲しいようじゃな?』
『えっ……ど、ドラゴン娘になりたくなか~!?』
「元通りになってしまったのか」
「アオハル組の皆もドラゴンの力が戻ったようばい……」
「校長も相変わらずデスね」
本当に相変わらず、人の都合とかを考えない校長であった。
上位クリーチャー故の感覚の違いと見るべきであろうか?
「折角ですし、この後皆でご飯食べに行きませんか?」
「うちもご一緒してよかと?」
「もちろん!先輩はどーする?」
「あー……男1人いても混ざって出来そうな話とか無いでしょ。今日は俺は遠慮させて貰うよ」
「そうデスか、残念ネ」
女子生徒6人に対して男子1人では、話題の出し方もサキトには分からない。
趣味もセンスもまるで違う以上、彼女達の楽しい会話の場を白けさせたりはさせたくなかったようだ。
「とりあえず、今度の土曜午後にアオハル組も交えて色々これまでの事話したいから、そこで時間取って貰ってもいいかな?」
「んー、ええんちゃう?うちらも予定無いし」
「良かった、そんじゃお疲れ様。あんま遅くなるなよー」
完全下校時刻も近い。今日はこれでお別れとなるだろう。
一足先にサキトは荷物をまとめ家路に就くのであった。
* * *
──────が、しかし。
『先輩、助けてくださいぃ!駅前にいたはずなのに変な廃墟に……!』
「ええい今日は厄日か!?とりあえずGPSで現在位置の情報を出し続けてくれ!今からそっちに行く!」
その日の夜、駅前での外食後に彼女達は……運悪く
母に後輩から相談に呼ばれたと言って家を出て自転車を駆り、サキトは夜の街を駆けてゆく。後輩たちを救うために。
「彼女達ならドラゴンの力があるから多少自衛は出来るはずだが……頼む、間に合ってくれよ……!」