「とうとう来たな……」
「ええ、来ましたね先輩…………!」
──────2025年9月20日。
2学期も始まって暫くした時期。文化祭の開催を控えた桜龍高校は、文化部系に所属する3年生にとって最後の大仕事という時期だ。
──────にも拘らず、サキトは現在ハヤトと共にカードショップ・クラインスペースに赴いている。
「予約分は受け取ったな?」
「バッチリです」
「それじゃあ楽しい楽しい──────開封の時間だ!」
「今日の日を相棒も待ってましたよ……!」
この日は、王道W編のレギュラーパック第3弾……「邪神vs時皇」の発売日であった。今回の収録カードは、2人にとって縁深いクリーチャーが存在する。購入しないという選択肢は無かった。この店舗で予約できるのは1人3箱、サキトとハヤトもその上限数予約したものを手にしている。
「とはいえドリームレアは封入率が低めだからな、最終的にデッキを組むなら、シングルで買うのも視野に入れた方が良いぞ」
「了解です……お、早速相性良さげなのが」
レッドゾーンの進化前として認識される事が多い《轟速 ザ・レッド》のリメイク版と言える《轟速 ジャ・レッド》がハヤトのパックから顔を出す。火・自然・闇の3文明持ちという事で、運用するにはマナの置き方と使い方も重要となるだろう。
「先輩は今回どれを目当てで?」
「せっかく縁も出来た事だし、テクノ・サムライでもと思ったが……なんというか弾ごとに方向性がとっ散らかってる気がするんだよな」
「あー、推したい能力や面子の方向性とかそういう……?」
「サムライと言いつつ、旧サムライデッキとの相性はなんともだな。クロスギアを使う訳でも無いし……あと新しいプリン姫は結構なパワカだと……お、出たな」
《
クリーチャーを出す際のコスト軽減や踏み倒しを封じマナゾーンへ送る上、相手の場にタップされたクリーチャーがいなければ自身のマナ加速とマナからのカード回収を行うという、強力なメタ能力持ちクリーチャーである。
「対クリーチャー戦では使えんが対人戦では猛威を振るいそうだ。ともかく、タレットを軸にD・D・Dで戦うのが今回の弾のテクノ・サムライデッキになりそうだ……おっ!?」
「どうしました?……おお、グラッサのシクレアじゃないですか!」
シークレットレア仕様、絵違いのグラッサがサキトの手元にやって来た。ゼノテクアーマーを纏い、サイバーガイサーガを手にするその姿は凛々しく、あの後彼女が歩むであろう冒険と成長の物語を感じさせる。
「これも縁という奴なんですかね?」
「かもしれんなあ……ん、こっちは新しいディアスΖか」
「お、レッドゾーンの方に相性良い奴じゃないですか。いいなあ……あ、こっちにも来た」
「まあ何ならSR同士でトレードも視野に入れとくか」
2人で雑談しながら開封を進めて行く。ちなみに、1箱に1枚封入されている今回の看板クリーチャー《
また、下にあるカードが7枚を超えなければバトル出来ないという制約が、DGA実働部隊に求められるデッキとは致命的に相性が悪かった。クリーチャーとバトルを行い破壊する事を重視しなくてはならない以上、通常のデュエルでは強力であっても対クリーチャー戦の軸とするのは厳しいのだ。
* * *
「そういえば先輩のとこにも来ましたよね?『PENTADRÉ』の話」
「ん?ああ……まさか他校にも『ああいうの』がいるとはなあ」
他の客もいるため言い方はぼかしながらであるが、これは勿論PENTADRÉメンバーがドラゴン娘である、という情報の話である。直接面識あるメンバーが少なく、5人全員への接触・情報提供の交渉が遅れたため情報が行き渡ったのも最近の話である。
「彼女らについては、『引継ぎ』がある可能性が少し面倒な所だな」
「あちらさんも先輩と同じく今年で卒業ですからね……」
「ある程度こちらとの協力体制とかを今の内に築ければ最適なんだが……おいおかしいぞ、何で全部の箱からグラッサのシクが出てんだ」
「え、マジですか?なんというか……好かれてますね先輩」
「縁があるのは嬉しいが、好かれてると表現されるとQ.E.Deuxが突っかかって来そうで困る」
シークレットレアは基本1箱に1枚あるかどうか。それが3箱連続で出た上極めて偏っているとは、何らかの意思でも介在しているかのようだ。
「レッドゾーンは出ました?こっちは1枚通常版が」
「俺の方には縁は無さそうだな……まあひとまず今回の弾で欲しいのは揃ったな。これで開封終わりだ」
「こっちもそろそろ……おお!」
「どうし…………!出たのか!?」
「でっ、出ました!テキストが読めない奴!」
「しまえ!すぐスリーブにしまえよ!」
縁が引き寄せていると見るべきか、ハヤトが最大のレアものを引き当てる。轟く邪道レッドゾーン……そのシークレットレア版である。既にネット上でも相場は高騰しており、凄まじい売値が付いている代物だ。
「お……っ、鞄がなんか震えて」
「もしや、あの白紙のカードじゃ無いか……?」
鞄を開くと案の定、ハヤトが所持していたレッドゾーンの意思を移していた白紙のカードが飛び出て来て、シークレットの邪道レッドゾーンのカードと一体化する。これで、正式にレッドゾーンの意志はカードへ宿り、ハヤトにとっての相棒となったと言えよう。
「他のSRとかはどうだ?」
「ディアスΖも無事揃いましたし、後は……必要カードの買い足しですかね。とりあえず事前に仮組みしてきたリストはこんな感じで」
「なるほど、とりあえずストレージとかも探して組むぞ。邪道レッドゾーンは……2枚買い足しだな」
ハヤトが見せたリストは、少しばかり高いカードも含んだものであるが……幸いにして給金のお陰で購入資金は充分。在庫も足りていたため支障無く組むことが出来た。
サキトは手持ちのカードから必要なものをピックアップして来たため、一足先にデッキを調整する。
「出来ました!」
「それじゃあフリプでも……今回は他の人に頼むか」
今日は発売日だけあって、パックを購入しデッキを組んでいる客も多い。折角の機会、彼らは普段とは違う対戦相手を求め卓を見回す。ややあって、2人とも対戦相手を見いだせた。
「それでは対戦よろしくお願いします」
「お願いしまーす」
「よろしゃーす」
「どうぞよろしくお願いします」
先攻後攻をじゃんけんで決める。結果……サキトとハヤト、どちらも後攻となった。これが吉と出るか、凶と出るか。
「それでは……」
「「「「デュエマ・スタート!」」」」
* * *
「ではこちらのターン、《ストリエ雷鬼の巻》をマナ置きして、《凶戦士ブレイズ・クロー》を召喚で」
「伝統と実績の速攻カードか……」
所謂『
「俺のターン、ドロー!《
「なるほど……こちらのターン、ドロー。《ロウゴク童子》をマナ置きして2マナで《
「トリガーもGストライクもなしだな」
「ではこれで、ターンエンドで」
ブレイズ・クローは毎ターン攻撃しなければならないデメリット能力を持つ。しかしそれは、速攻を目指すデッキにとっては極めて薄い制約だ。
「俺のターン、ドロー!《
「そう来ますか。こちらのターン、ドロー。《奇跡妖精マルス》をマナ置きして、ブレイズ・クローで攻撃時……D・D・D発動!必要コストをトップギアの能力で1減らし、3マナで……《轟く邪道 レッドゾーン》!」
「早速入れて来たか……」
新たな能力、「D・D・D」は攻撃時にコストを払ってカードを「実行」するものであり……それ故に、召喚コストを軽減する能力の影響を受ける。邪道レッドゾーンのD・D・Dコストは火のマナ4点だが、トップギアが存在する事により3点に軽減して登場することが出来るのだ。
「登場時アンタップして、相手の一番パワーが低いクリーチャーを全て破壊!」
「コハクは次の俺のターン初めまで、場を離れない」
「っと、そうでしたね。それではレッドゾーンで、トリプルブレイク!」
サキトのシールドが一気に残り1枚となる。G・ストライク持ちが2枚手札にやって来るが、邪道レッドゾーンがいる限りG・ストライクによる攻撃不可効果は無力と化す。残る1枚は……。
「《王道の革命 ドギラゴン》の革命2、発動!シールドトリガー化して、バトルゾーンへ!登場時能力により、山札の上から2枚をマナへ。《PP-「P」》と《蒼き守護神 ドギラゴン閃》がマナに。その後、マナからクリーチャーを1体手札に回収。ドギラゴン閃を手札に」
「むう……もう一度レッドゾーンで攻撃!そちらの最もパワーが低いクリーチャーはコハクなので破壊は出来ず。そのままブレイク!」
「その攻撃は通そう。最後のシールドは……シールドトリガー、《怒像アゲ》!」
「!」
「登場時、合計コスト9以下になるよう2体までのクリーチャーを破壊!トップギアとレッドゾーン合わせて8マナ分を破壊!」
「レッドゾーンは進化元を墓地に送って生き残りますが、トップギアは破壊ですね。ターン終了です」
どの道ドギラゴンがいる以上攻撃は通らなかったであろうが……ともあれ、3ターンキルは阻止された。サキトの反撃が始まる。
「俺のターン、ドロー。《
「これで5マナ……」
「王道の革命ドギラゴンでレッドゾーンに攻撃し、革命チェンジ!ドギラゴン閃が登場し、ファイナル革命発動!デッキの上から4枚を表にし、その中からコスト6以内の範囲で進化ではない多色クリーチャーを出す!」
表となったのは《PP-「P」》、《
「よし、来てくれたか。《「
「新しいタレットですか……!」
「ドギラゴン閃の攻撃が続行!邪道レッドゾーンをバトルで破壊!ここで《「GT」-002》の能力が発動!デッキの一番上を見て、それをマナゾーンへ置くか手札に加える!《
「ぬう……何も無しです!」
「BEN-Kの下にあるデスモナークの超魂
ここで、最初のブレイク時にサキトの手に加わっていた……新たな仲間がその力を発揮する!
「攻撃中の怒像アゲから進化……《「
ゼノテクアーマーを纏った新たな姿のグラッサは、高パワーにより一気に4枚ものシールドを砕く事が出来る。同時に、強力なトリガー獣封じの能力も持つテクノ・サムライデッキの新たなるエース!
「シールドチェック……《
「皮1枚で凌いだか、ターンエンド。ターンの終わりに、ドギラゴン閃はアンタップする」
「ドロー!トップギアをマナに送り、《炎怒の夜 アゲブロム》を召喚!スピードアタッカーにより攻撃し……侵略発動!《轟く侵略 レッドゾーン》!」
「そちらも入れていたか」
「アゲブロムの攻撃時能力と、レッドゾーンの登場時能力が──────」
「それは残念だが通らん。グラッサが進化クリーチャーである時……相手クリーチャーは出た時と攻撃時に発動する能力が発動しなくなる」
「うっ!?」
「破壊効果もアンタップも無力化され……ドギラゴン閃でブロック!返り討ちだ!」
相手の反撃をグラッサとドギラゴン閃が凌ぐ。これで相手は打つ手なしだ。
「ターンエンド……!」
「ではこちらのターン、ドローして……そのままグラッサでダイレクトアタック!」
「これはどうしようもない!対戦ありがとうございました!」
サキトが対人用に組んだ、テクノ・サムライのデッキ。その初陣はまずまずといったところであった。
* * *
「俺のターン、《~
「スチーム・ナイトデッキか……」
ハヤトの対戦相手は、「スチーム・ナイト」を使うデッキのようだ。この種族は、王道Wになってから登場した新たな種族であり……GTでの展開から、キング・ロマノフが生み出した新たな手駒である事が判明している。テクノ・サムライと同様、変則的なネーミングが特徴である。
「オレのターン、ドロー!《魔誕幻獣ボンメェ》をチャージしてターンエンドっす」
「ふーん……俺のターン、ドロー。《奇跡妖精メルクリ》をマナゾーンに、2マナで《~
「オレのターン、ドロー!……《忍蛇の聖沌
「俺のターン、ドロー……《~
「む……!」
「《
出て来たのは、今弾の看板たるオーバーレア、新たなスチーム・ナイトの切り札……《ARC REALITY COMPLEX》!
「進化したのでそのまま攻撃、現在は下のカードが7枚になっていないため、1枚のみブレイクで」
「厄介なのが早速出て来たっすね……よし、シールドトリガー、《忍蛇の聖沌 c0br4》!」
「むっ」
「登場時に山札から2枚を墓地に送り、その後墓地からコスト5以下のクリーチャーを出す事が出来る!墓地へ落ちたのは……よし来た、《アーテル・ゴルギーニ》と《轟速 ジャ・レッド》!コスト5のアーテル・ゴルギーニを蘇生し、登場時能力!4枚墓地肥やしとコスト4以下蘇生を1回ずつ選択!《フェアリー・ライフ》、《禁断の轟速 ブラックゾーン》、《
「一気に来たなー……ターンエンド。この時サーガの超魂Xにより1枚引いて《理想と平和の決断》を捨て。手札を捨てた事でCOMPLEXの能力により、山札の1番上をこいつの下へ。《
結果場に新たに2体のクリーチャーが展開出来たが、油断は禁物。COMPLEXが動き出せば一気に猛威を振るうだろう。
「オレのターン、ドロー!……っし、《フェアリー・ライフ》をチャージし、手札から2体目の《轟速 ジャ・レッド》を召喚!」
「これは……来るか」
「ジャ・レッドでシールドに攻撃!攻撃時にマナが4枚アンタップされ……墓地からS級侵略[轟速]!更に手札からD・D・D、3マナ使用し《
ジャ・レッドがブラックゾーンへ進化し、同時に手札から新たなる呪文が解き放たれる。
「《弐闘路と轟点火の決断》の効果は、マナのアンタップと墓地肥やしからの回収を選択!マナが回復し、デッキから3枚を墓地へ送りクリーチャー1体を手札に!ボンメェ、ジャ・レッド、《魔誕の封殺 ディアス
「マナがどんどん回復するなぁ……」
「そして、ブラックゾーンの能力により……COMPLEXを封印!場を離れないなら、封じるまで!」
「……っ、ヤバいなこれは」
「ブラックゾーンがトリプルブレイク!」
「……メルクリのG・ストライクが1枚。2体目のジャ・レッドを攻撃不能にしとこう」
残る攻撃可能なクリーチャーは2体、一気にハヤトが攻め立てる!
「トップギジャで攻撃時……4マナでD・D・D!これでお終いっすよ……トップギジャから進化、《轟く邪道 レッドゾーン》!!」
「っ、うっそ!?シク版!?」
ハヤトが繰り出したシークレットレア版の邪道レッドゾーンに目を疑う対戦相手。そして、この一手が勝負を決める。
「邪道レッドゾーンが場に出た時アンタップ!更にレッドゾーンがいる限り、G・ストライクによる攻撃不可は無効となる!」
「まずったか……!」
「レッドゾーンで残るシールドをブレイク!」
「シールドトリガー……《理想と平和の決断》!これでシールド化を2回選択し、ゼロになったシールドを2枚に!」
「では再度、レッドゾーンで攻撃!」
「っ、運が良い……再度理想と平和の決断!2枚シールド化!」
有効な守りが理想と平和の決断しかない状態で、対戦相手は粘る。しかし、それも長くは続かない。
「2体目のジャ・レッドで攻撃!マナが回復し……もう一丁D・D・D!《魔誕の封殺 ディアスΖ》!ダブルブレイク!」
「く……トリガーはもう無い!」
「攻撃終了時、ディアスΖの能力によりマナか墓地からコスト5以下のクリーチャーをバトルゾーンへ!甦れ、3体目のジャ・レッド!そのまま……ダイレクトアタック!」
「ぬぅうぁー……対戦ありがとうございました……!」
「ありがとうございました!」
ハヤトの激しい猛攻。それに耐えきれず、ダイレクトアタックが通り決着が付いたのだった。
「ん、そっちも終わったか」
「先輩!勝ちました!」
「よしよし、良い感じのようで何よりだ。後は家で回す練習もしとくか」
「はい!」
こうして、ハヤトは新たな戦力を手に入れた。相棒たるレッドゾーンもこれで万全、ここからが彼の本領発揮と言えるだろう。
そんなわけで、ハヤトの手に邪道レッドゾーンがついに渡りました。
そして、サキトも新たな対人用デッキとしてテクノ・サムライデッキを導入。機会を見て使う事となりそうです。
……しれっとスチーム・ナイトもデッキに混ざっている?いやその、ホーリーグレイスよりも超魂Xがある分こちらのデッキに合いまして……。まあ陣営を超えた共闘はカードゲームのデッキ作成ではよくあるということでひとつ。