9月末、桜龍高校は文化祭の最中。
そこに現れるのは……未知なる邪眼の使徒!
「さあやって参りました、本日の目玉は『ス○ラトゥーン3』女子限定大会!《Eのスポーツ JKスタジアム》カップだァ!」
『……このネーミング、何とかならなかったの?』
「すまん帝王坂さん、俺がカード漁ってたのを見た企画の発起人がピンと来ちまったみたいで……」
──────2025年9月28日、11時頃。
桜龍高校の文化祭も2日目、各部活やクラスは各々の出し物で賑わっている。ゲーム部は1日目は幅広い客層をゲーム大会や部員との対戦に招き来年度に来るかもしれない新入生にアピールしていたが……2日目は、来月より新副部長となる後輩の趣味が炸裂していた。
「大会はトーナメント方式!我らがゲーム部の部長にして、高校生e-sportsチャンピオン!『エンペラー』こと帝王坂∞への挑戦権を得る、次代のe-sports界の華は誰だァー!」
『ワァァァァアァア!』
「よっしゃ、やったるで!」
『……意外に盛り上がってる……』
「地封院さんも参戦してるのは、まあゲーム好きだと聞いてたから良いとして……割と参加者がいるな……」
参加選手は16名。最初は32人でやろうとしていたようだが、試合時間の問題やそこまで選手が集まるかの懸念から半分まで減らした。8人規模でもいいのではとサキトは言ったのだが……意外にも参加希望者が20人を超え、抽選で選ぶ事となった。
『女子限定でこれだけ集まるのはやっぱり予想外?』
「あーまあ、ちょっとね。ゲームはしてもこうしてリアルで大会まがいに出たがるのは少ないかと」
「ゲーム選定のお陰ですかね?」
見た目は可愛くコミカルだが、対戦となると割とシビアなゲーム性も見えて来るのが今回の種目であるゲーム。若年層に受け、女性のゲーム実況者やVtuberがプレイする動画も多く、TPSゲームとしては異例ともいえる客層で構成されている。
「全試合タイマン、第一回戦全てが終わった後昼食休憩が入って、午後から残りの二回戦、三回戦、決勝とやって優勝者が帝王坂さんと対戦か」
「今日はお客さんとの対戦も無いですし、先輩は自由行動で良いと思いますよ?」
「良いのか?」
『先輩は今年で卒業だからね。最後の機会を楽しんで来たら良いと思う』
サキトにとってはゲーム部として、そして高校生として最後の文化祭。楽しまなくては損と言うものだ。
「まあどうせ来年は客側として顔出すだろうけどな!んじゃお言葉に甘えさせて貰うとするか。帝王坂さんの出番は14時くらいだったかね」
『1試合を余裕を見て5分、午後の部が13時から始まるから、参加者のクールダウンを入れてそのくらいにしてた』
「じゃあそのくらいの時刻には、しのぶも連れて戻って来るよ。応援したがるだろうしな」
「それじゃあこの場は任せといてください!」
∞とハヤトに送り出され、サキトはゲーム部から離れ各クラスや部活の出し物を回る事にした。クラスの出し物もあるが、今日の当番は朝9時から2時間と午後15時から夕方まで。昼間は丸々空いている。
「しのぶが空くのが12時半からだったな。あと1時間は適当に回るか?」
しのぶと文化祭デートと行くには、あちらの当番が終わる時間を待つ必要がある。それまで暫くの間、彼は様々な場所を見て回る事にした。
「漫研の部誌でも貰いに行くかな……」
漫画研究部は、毎年季刊で部誌を製作、配布している。中でも文化祭時に刊行されるものは力の入った物が多く見応えがあった。
「よし、そんじゃまずは漫研に行くか」
* * *
桜龍高校の、秋の一大イベントである文化祭。それを楽しんでいたのは他の多くの生徒も、そして地域の人々も同じである。
『ねえ旦那、この劇はアレだろ?モモキングを産む核になったっていう昔話なんだよなあ?』
「ああ、そうだな」
井星リュウはダビッドアネキを伴い、体育館で行われている演劇を見に来ていた。演じているのはアーシュ達やトウリのクラスであり、そのタイトルは……『続・桃太郎』であった。
「ああ、私は宝を取り戻すためやって来たというのに……あの方の傍にいる事が、こんなに幸せに思えてしまうなど……!」
『なんで鬼の娘がそのモモタロウに惚れる話を見せられているんだい……?』
「あー……一応元ネタというか、そういう内容で後に書かれた作品があってな」
『そんなもんあるのかい!?』
『桃太郎元服姿』という、江戸時代に生み出された桃太郎のその後を描いたという内容の物語。言わば非公式スピンオフ作品である。
桃太郎に敗れ宝を奪われた鬼達は、それを取り戻すための策として桃太郎の元へ間者を送り込む。それは、屈強な強い鬼とは正反対の、可憐でかよわい赤鬼の娘「おきよ」であった。
機を見計らい財宝を盗んで来る事が彼女の使命であったのだが、おきよは次第に桃太郎に惹かれ恋に落ち、夫婦となってしまう。
そこへ、いつまでも宝を奪って戻ってこないおきよを待ちかねて、鬼ヶ島から鬼がやって来て……という流れの物語である。
舞台の上では、おきよの役に扮する初が見事な熱演を見せていた。
「彼女、意外にこういう演技も上手いようだな」
『そういやあの娘、元はDGAの監視対象だったっけねえ……あたしは冒頭の鬼ヶ島での戦いを表現した殺陣が好きかな?ありゃ大したものだよ』
「殺陣の演技指導は蟠龍がしているそうだ。剣道だけでなくそういう指導も出来るとはな」
『その当人は見当たらないけど?』
「いやあ、恥ずかしながら自分は演技になるとどうも……」
『へぇそうなん……うぉ!?いつからそこに!?』
2人の後ろに、いつの間にかトウリが座っていた。
「客席にお2人の姿があるのを見まして。自分たちのクラスの出し物はいかがでしょうか」
「悪くは無いが……最終的なオチがアレだろうこれは。高校生が文化祭でやるものか?」
「その辺りはまあ、脚本担当が色々無茶を通したというか……」
──────舞台の上では、劇が佳境を迎えようとしていた。おきよが鬼であった事が露呈し、自ら命を絶とうとするが……桃太郎はそれを止めさせ、彼女をこれまでと変わらず愛する事を誓う。
そして鬼達には手元にある財宝は渡すが、今後人里や都から宝を奪う事があればその時は容赦しないと告げておきよと手を切らせたのであった。
『──────そうして桃太郎とおきよは、末永く幸せに暮らしましたとさ』
「なるほど……大胆に変えて来たな」
『も、元だとどうなるんだい?』
「おきよが鬼側の使命と桃太郎への愛で板挟みになった末に自害、その顛末を不憫に思った桃太郎は以後鬼退治をしなくなった……というものらしいですね」
「後味が悪い話は好みが分かれるからな……」
観客席に向かって出演者たちが一礼し、拍手喝采を浴びている。彼等の劇は概ね成功と呼べるだろう。
「さて、午後の部に向けて今の内に休んで貰わないと。この後ステージは軽音部のライブに切り替わりますけれど、お2人はどちらに?」
「ぼちぼち昼飯時だからな、模擬店にでも行くとしよう」
『食事だね!激辛があるといいんだけど』
「高校の模擬店にそんなもの期待するな」
『そりゃ残念……ん?』
「どうしました?」
『なんか一瞬変な気配が……気のせいだと良いんだけど』
* * *
そして、11時半からは体育館は、軽音部のステージ……Jack-Potによるライブが行われる。
2日間で午前の部と午後の部の計4回、更に生徒のみで行う後夜祭での演奏と中々に大変だが……水晶以外の4人は今年で卒業、桜龍高校でのライブは実質これが最後となるだろう。それを悔いなく全力で行う気構えであった。
「今日で桜龍高校での活動は一旦の締めくくりよ。ファイナル・フィーバーを巻き起こしてあげましょう!」
「最後まで、頑張ります!」
「午前も午後も、後夜祭も、ガンガンに気合入れて行こうぜ!」
気合が入っている彼女達。その中でも、しゅうらは少しばかりそわそわしていた。
「……彼が来るか心配?」
「えっと……心配とまでは言わないけど、やっぱり急に仕事が入る可能性はあるものね。今日は一応空いてるって言ってたけれど」
彼とは当然テルタカの事。昨日は用事があり来れなかったとの事だが、今日は彼女達の舞台を見に行きたいと言っていた。
「陽野さんならきっと来てくれるよ!」
「ええ、しゅうらの一番のファンだものね?」
「……そうね!心配なんてしてたらいい演奏は出来ないわ、頑張らなきゃ!」
「その意気だぜ!……あれ?しゅうらの荷物、なんかピカピカ光ってないか?」
「え?……ほんとだ」
見れば、しゅうらの荷物から赤い光が漏れ出している。急いで開いてみると、パスケースに入れていた1枚のカードが光を放っていた。
「これは、あの時テルタカさんから貰った……」
「……《超次元ボルシャック・ホール》?」
「何で急に……ん、あれ?今ちょっと揺れなかったか?」
「へ?……あ、確かに少し……」
* * *
体育館の屋根の上、そこに奇怪な影があった。
『コノ、反応……ココニ、目当テノ者ガ』
黒い装甲から青白いスパークを放つ、異様な姿。間違いなく人間ではないそれは、何かを探しているようだった。
『邪魔ナモノハ、全テ破壊スル……!』
その影が掌を開くと、黒い魔法陣が展開され……そこから一体のクリーチャーが現れる。大きく湾曲した角を持ち、胸には異形の口が大きく開く。そして体内には、無数の骸骨……死者の力を取り込んだものであるのは明らかだった。
『オォオォォオォォ……!!』
『滅ボス……!』
2体のクリーチャーが、自らが立つ建物へと力を振るおうとしたところで……空中に、空間の穴が開いた。
「──────っしゃぁぁあっ!!」
『!?』
赤い甲殻に覆われた、巨大な右腕。それが穴から飛び出し、黒いクリーチャーを殴り飛ばした。
「例のカードはちゃんと作動したな……移動中に急に転送されたのは焦ったが、やっぱり渡しておいて正解だった」
右腕の主、テルタカはそのまま2体のクリーチャーと対峙する。
……彼がしゅうらに渡したカード、超次元ボルシャック・ホールはある種のセキュリティであった。彼女の近辺に強力なクリーチャーが現れ、危害が加わる恐れがある場合そこへ彼を転送する、特別な1枚である。
「しかし……片方は《邪眼王
『グゥゥウゥウ……!』
黒いクリーチャー、《D2V2 禁断のギガトロン》に似通ったフォルムのそのクリーチャーが唸る。2体1となればパワーの差があっても油断はならないが……。
「加勢はいるかな?」
「っ!?誰だ!?」
「初めましてかな。天道アンナ、この地区の実働部隊の者だよ」
テルタカの背後、屋根の上に登って来たアンナが彼に声をかけて来た。反応を感知し現場へ向かったら、先に他地区の隊員が来ていたのは少々予想外だったようだ。
「私の後輩達の晴れ舞台だからね。今日は彼等の手を煩わせず──────早めに片付けるとしようじゃないか」
「……なるほど、それではさっさとやりますか」
『『Duel field expansion. Contract armor awakening.』』
デュエルフィールドによって体育館の上を封鎖。そして、一気に決着を付けるべくコントラクトアーマーを2人が纏い──────。
『ガァ…………ッ!?』
『グゴァ…………!』
アルファリオンの剣がB・ロマノフを瞬時に斬り裂き、バクテラスの拳がギガトロンに似たクリーチャーの腹を貫いた。
『オ、ノレ…………』
「『最後に名乗って貰おう。お前は何者だ?』」
『我ガ名、ハ、D2R2──────』
『邪眼ノ、ブラックオーバー……!』
その名を言い残して、クリーチャー……ブラックオーバーはバクテラスの炎により焼滅した。
「ふぅ。お疲れ様」
「ええ、どうも……あの見た事も無いクリーチャー、邪眼と名にあるという事は、キング・ロマノフ絡みか?」
「未来のカードというものかな?厄介だね……能力に関しては分からないままだったけれど」
あれがキング・ロマノフの配下であるとすれば、予想以上に多くのクリーチャーを自勢力へ吸収しているのかもしれない。厄介な問題が浮上してきそうだった。
「またしゅうらさん狙いだったんだろうが……あー、後で護守さんにも連絡しとかないと。イニシャルズでもあった訳だし」
「確か新宿担当の陽野くんだったね。この後はどうするんだい?」
「え?あー、元々ここに来る最中に転移されて来たんで……一旦外に出てから正式に模擬店用の金券とか貰わないと」
「なるほど、君も今日はここのお客というわけだね。それでは互いに、桜龍高校の文化祭……楽しもうじゃ無いか」
「ええ。それでは、ありがとうございました!」
テルタカはデュエラッドを呼び出すと、空中を飛んで一旦敷地の外へ出る。それを見送ると、アンナは屋根を降りてゆく。
「護守くんも今年で卒業か。最後の文化祭……しっかり楽しむんだよ」
自らもかつて経験し、今後輩達が楽しんでいる青春の一ページ。それを感慨深げに見ながら彼女は校内を歩いてゆくのだった。
作中では未来のカードをチラ見せしつつ、文化祭の話は……もう少し、続く?