まあ格安でカツキングやデドダムが4枚入った邪王門が手に入ったのは嬉しいところ。
文化祭編後半戦!ドラゴン娘達と決闘者達の文化祭は、平穏無事に終わるのか!
「お待たせ先輩!やっと着替えられたばい……」
「ん、お疲れ。この後はしのぶの当番は?」
「ずっと空いとーばい!」
12時半、しのぶ達のクラスの出し物……なんとメイド喫茶であった……そこで軽食と飲み物を提供していたしのぶの当番時間が終わり、フリーとなった所でサキトが合流した。
サキトも折角の機会なので接客して貰った後、彼女が仕事を終えるまで近くで待機していたようだ。
「メイド服ん下にはいつもの水着が着れのうて、ずっと変な感じやったばい……」
「いやまあそりゃ普通着ないわな……競泳水着とメイド服同時に着るのは方向性が迷子だろうし。じゃあ、流石に普通のを?」
「ううん、ビキニで」
「結局水着じゃないか。いや、しのぶらしいけど」
苦笑するサキト。まあ水着なら安心……安心か?安心して良いのだろう。
「とりあえずお昼を調達に行くかな。何にする?」
「3年1組の焼きそばが良かって聞いたばい!」
「んじゃ今日はそこにするか。食べ終わったら美術部の展示見てからゲーム部かな?」
「うん!」
美術部は部員たちが生み出した作品を展示している。部長となったマロンの作品が中心に据えられ、訪れた客を唸らせているようだ。
「ドーラちゃん達も、クラスん出し物で大変そうやね」
「運動部は文化祭となると部でやる事が無い分、クラスの方で多めに作業振られがちだからな。後は準備時に力仕事やらされたりとか」
「運動部で一括りにしゃるーとは勘弁して欲しかよ!うちん水泳部んごと力仕事に向いとらなこもあるとに!」
重い物を持ち上げる瞬発的な運動と、水泳のような持久力が必要とされる運動では使う筋肉の種類が異なる。所謂速筋と遅筋というものだ。一般的に分かりやすく例えるなら、ヒラメの白身とマグロの赤身と言ったところか。
「先輩は15時から当番だっけ?」
「ああ。後で来るか?」
「えっと、先輩達んクラスん出し物は……お化け屋敷?」
「まあまあ好評貰えてるよ」
「そ、それじゃあ……ドーラちゃんも誘って行くね」
「…………万一壊したりしないよう言い聞かせておいてな」
流石に彼女もそうそう自制が出来なくなることは無いだろうが、作られた迷路や仕掛けに何かあっては大変だ。後は、驚いた拍子のドラゴン化にも注意しなくては。
「それじゃあ行くか!」
「うん!」
* * *
「凄い人だかりだ……っ、失礼、ちょっと失礼……っ!」
午前中のライブを終え、ファンに囲まれているJack-Potの面々の元へテルタカがやって来た。
「お疲れ様です、Jack-Potの皆さん。新曲も良かったですよ」
「あ、こんにちは陽野さん!」
「やっぱり来てくれたのね!」
「わっと!?」
しゅうらに満面の笑みを向けられながら、押し合いするファン達のの前へと押し出されたテルタカ。彼と彼女の様子を見たファン達の目に、敵意の炎が灯るのをテルタカは見た気がした。
「わ、悪目立ちしますからそういうのはここでは……っ」
「誰だこいつ……!」「しゅうらさんの何なんだ……!」
「ああやっぱり……っ」
にじり寄ってくるファンの壁。しかしそれを、増樹と栄久が前に出て制した。
「はいはーい、それ以上オレらのパトロンにバチバチすんのはやめろよー?」
「うん、大事なお客さん」
「ぱ、パトロン?」
「そうね……本当は後で発表するつもりだったけれど、先にこちらでも言っておくとしましょうか」
ザーナが一歩前へ出ると、ファンのざわめきも一瞬止む。
「ワタシ達が軽音部を、そして桜龍高校を卒業した後もJack-Potの活動は終わらないわ!そして、今後の活動を支援してくれるのが、ここにいる陽野さんとそのご家族よ!」
「えーまあ……今後確かに俺も必要な資金とかは出すつもりなので間違ってはいない……か?」
「折角だし、あっちの事も母校では公表してるなら、ここで言っちゃっても良いんじゃない」
「あー……ううん。ご紹介に預かりました、DGA新宿区実働部隊員、陽野テルタカです」
「DGA!?」
ざわつく生徒達。サキトの存在もあり、DGA実働部隊員の職務や生活事情に関してはある程度桜龍高校の校内でも噂が広まっている。
「結構な高給取りだって話が……」
「危険手当とかも込みだって話でしょう?」
「家族で支援って、実家も太ければ本人も太い……?」
「……そこ、その言い方だと俺が太ってるように聞こえるからやめてくれないか?」
「と、とりあえず今後の話とかあるみたいなので、失礼しますね皆さんっ!」
水晶が話を中断する方向に持って行き、テルタカも連れてその場を後にする。一応は難を逃れ、人が少なめの場所まで来たところで彼は一息ついた。
「ふぅ……いや、やっぱり校内の人気が凄いですね皆さん」
「あはは、ちょっと厄介なファンもたまにいるけどね……」
「それじゃあオレらは昼ご飯調達して来るなー」
「陽野さんの分入れて、6人分でいいかな」
「あ、じゃあ金券先にお渡ししておきます」
増樹、ザーナ、栄久が模擬店を出している店まで昼食を買いに行き、庵野姉妹とテルタカが残される。ベンチなどは近くに見当たらないため、壁にもたれかかった状態で3人の帰りを待っていた。
「最初は差し入れでもと考えたんですが、文化祭に外部から食べ物持ち込むのは衛生的に問題ありますし仕方なく手ぶらで来ましたよ」
「うちの学校は、テルタカさんから見てどうかしら?」
「まあ何というか、色々な意味で生徒に活気がありますね。皆さん含め個性的な生徒も多いみたいですし」
「あはは……色々と変わってますよね」
「その分色々と引き付けやすい所もあるんでしょうかね……?」
相変わらず栗茶市と桜龍高校周辺は、人口密度が高い都心部に比肩する程にクリーチャーの出現頻度が高い。この土地自体に特別な所以があると見た方が良いのだろうか。
「んー……午後のライブの準備が始まるまでは一緒に回ってもいいかしら?」
「また絡まれそうな気もしなくは無いですが……まあ、良ければご一緒させてください」
「やった!」
ライブを見た後はテルタカは適当にぶらつくつもりであったが、誘われては断る理由は無い。しゅうら達と共に行動する事を決めたのであった。
* * *
「しのぶ達も来たでしか!」
「おー、これは……この前撮ったイルカやシャチで新たに書いたんですね」
「なんだかばり綺麗ばい!」
美術部の展示を見に行くと、美術室の中心にはマロンの新作が置かれていた。何頭ものイルカやシャチが、現実にはあり得ないような色遣いの海から大きく跳び上がる様。跳ね上がる飛沫は彼女のセンスらしく様々な色で描かれ、大きく描かれたシャチはまるでキャンバスから飛び出して来るかのようだ。
「あ、先輩も来てましたか」
「奇遇デス!」
「おお。そっちは今は空きか」
「うむ、それと少しばかり教室から離れたくてな……」
見ればトウリとゼオス、そしてすずの姿もあった。何やらすずはだいぶ疲れた表情をしている。
「何があったんですの?」
「えーまあ、熊田さんの身内が……」
『すーちゃ~ん?どこですか~?』
「っ!?く、来るな、こちらに来るなよ……?」
何やらふんわりとした雰囲気の声が廊下から聞こえて来たと思うと、すずはゼオスとトウリの陰に隠れ入り口から見えない位置に立とうとする。声の主が遠ざかっていくと、ようやく安心したように一息ついた。
「何だったんですか一体」
「あー、熊田さんが苦手意識を持ってる従姉妹の方が来てまして……」
「イイ人デスよ?」
「わらわはあまり会いたくないわ!」
「???」
その従姉妹という相手に会った事が無いため、現在のサキトにはピンと来ない話であった。
「それはそうと、キサマの方はなぜここにいるのだ」
「ジュラ子の事ですの?
「いやまあクラスの仕事が無いタイミングなら良いですけど……流石に受付をしてるとこの横にずっといるのは暇を持て余しません?」
「作品を見ているお客を見て表情をコロコロ変えるマロンを見ているだけで楽しいですわ!」
「さいですか」
個人の楽しみは人それぞれの形がある、という事でサキトはそれ以上突っ込むのをやめた。時計を見れば、そろそろ良い時間になりつつある。
「よし、そろそろゲーム部の方に戻ろう」
「∞ちゃんの出番の時間やね!」
「もうそんな時間でしか。我が輩も遅めのお昼に……」
「それでは一緒に行きますわよ!Let's go!」
「ちょっ待つでし~~~!?」
「廊下は走るなよー!!」
マロンの手を引いて、ジュラ子は足早に行ってしまった。
「行ってしまいマシタね?」
「まあ、模擬店の食べたい物が売り切れていないか心配なのかもしれませんし……」
「さて、わらわ達も応援に行くか」
「お、そうなると勝ち残ったのは地封院さんで?」
「うむ、今回こそは勝つと息巻いておったわ」
* * *
「JKスタジアム決勝戦を制したのは、桜龍高校生徒会庶務!地封院ギャイ選手ー!」
「よっしゃ!これで∞はんと勝負出来るな!」
「やたー!さっすがギャイ!」
「皆さん凄い熱気でした……!」
決勝戦の決着が付き、ギャイが大きく拳を振り上げる。応援していたアーシュ達も嬉しそうだ。
「いいですねえ……JKスタジアムって響きも……!」
「あー会長?大会名の元ネタの方は女子高生のJKじゃ無かったりするのであまりそこに興味を持たれましても……」
「えっ、そうなんですか!?」
「元はジャンケンです」
「ジャンケン……?」
「じゃんけんなんだ?」
「そういうデュエマのカードでして……」
《Eのスポーツ JKスタジアム》。ジャンケンに関わる能力を持つクリーチャーをサポートするD2フィールドである。数は少ないが、デュエマにはジャンケンの勝敗で能力の成否が決まるクリーチャーが存在していた。今の所彼女らもサキト達も出くわしたことは無いが……。
「お、やってるな。決勝に勝ったのは地封院さんか」
「先輩おかえりっす。蒼斬さんもご一緒ですね」
「∞ちゃんの出番なら、うちも応援するのが当然ばい!」
「ふっふっふ、今回のギャイは一味違うよ~?」
「むっ。∞ちゃんは絶対負けんばい!」
「ふ、ふたりとも……」
戦う当人たちではなく、メガとしのぶが火花を散らし始める。対戦カードの内容が内容だけに当然ではあるが、外野がヒートアップしすぎるのはあまりよろしくない。
「まあまあ、ひとまず行方を見守るとしよう」
「それでは我らがゲーム部部長、帝王坂∞の入場です!」
歓声を浴びながら∞がやって来る。いつも通りの無表情に見えるが、ギャイを見ると少し雰囲気が引き締まったように見えた。
『よろしく』
「よろしくな∞はん。今回は負けへんで!」
『……楽しみ』
2人が席につき、スクリーンに2つの画面が映し出される。武器の選定も即座に終え、戦いの準備は万端だ。
「それでは!王者帝王坂∞対、チャレンジャー地封院ギャイ!試合開始です!」
「行くで!」
「……!」
火蓋が切って落とされた。互いにインクの銃を撃ち合い、フィールドをそれぞれの色で染めてゆく。
単純に相手を撃ち倒すのみならず、インクで染めた自身の領土を広げる事が重要なこのTPS。両者とも順調に、塗りつぶした場所を増やしてゆく。
「ギャイー!負けるなー!」
「∞ちゃんファイトー!」
互いにこのゲームは熟練している。やがて、互いの塗りつぶした面積を上書きし合う戦いが始まる。インクで塗りつぶした範囲はより素早く、自由に行動できるのを活かし、ギャイが強襲を仕掛けた。
「貰った!」
「…………!」
不意を撃つべく放たれたギャイの攻撃。しかし──────。
「なっ!?」
読んでいたのか、それとも驚異的な反応速度なのか。∞はその攻撃を見事に躱し…………逆にギャイへと反撃を撃ち込んだ。
「アカン!やられた……!」
「あれを避けれるんですか!?」
「このまま一気に行くばい!」
リスポーンによるタイムロスがギャイに重くのしかかる。復帰後すぐに動き出し、塗りつぶされた陣地を取り返して行くが…………。
「Winner!帝王坂∞!!」
「…………」
「ぬあー!やっぱりさすがやな∞はん……!」
善戦したものの、差を取り返しきる事は出来ず…………最終的に∞が勝利を収めた。控えめにVサインをする∞の姿に訪れた観客達も沸いていた。
「惜しくも敗れた地封院ギャイ選手にも、皆様大きな拍手を!」
「楽しかったで∞はん。また勝負しよな!」
『いつでも挑戦は受けるよ』
握手を交わす2人の様子に、大きな拍手が沸き起こる。戦いを終えた∞に、しのぶが抱き着きに行った。
「流石∞ちゃんばい!」
『しのぶ、応援ありがとう』
「うん!」
「うーん、惜しかったねギャイ」
「でも、いい勝負でした!」
「応援ありがとな。はー、清々しいわ!」
「お2人ともお疲れ様でした。飲み物でも要ります?」
ハヤトが部で用意していたペットボトルを2人に渡す。集中すると体力も使うし喉も渇く、そのためこうして事前にクーラーボックスとペットボトルを確保しているのだ。
『先輩も応援ありがとう。楽しかった?』
「ああ、楽しませて貰ったよ。この後はうちの出し物の当番なんで良ければ来てくれ」
「確か護守先輩のとこは、お化け屋敷やったな?」
「うっ……わ、私は遠慮しておきますね」
「えー?いっしょに行こうよー」
「まあ、文化祭のお化け屋敷だから大規模なものほどじゃないかと……」
そうして、もうすぐ15時。サキトの当番の時間がやって来る。
* * *
暗幕が張られた教室。暗く締め切られたその中から、女子生徒の悲鳴が聞こえて来る。サキトのクラスのお化け屋敷は、そこそこに好評のようだ。
「ほ、ほう。なかなか雰囲気は出ておるな……」
「ドーラちゃん大丈夫?」
『先輩はどの辺にいるんだろうね……』
『い゛やぁあぁぁあぁああぁあ!?』
『か、会長落ち着いて!』
聞き覚えのある声の悲鳴が鳴り響く。それを聞いてドーラは引きつった笑いを浮かべた。
「ふ、ふん。流星アーシュめ、この程度の事で悲鳴を上げるなど……」
『あ、順番が来た』
「それじゃあ行こ!」
小さな懐中電灯を渡され、暗い闇の中に彼女達は足を踏み入れるのであった。スマホ等の端末の画面から放たれる光はご遠慮くださいと言われ、∞は仕方なく端末を切った。
冷房を強めにかけているのか、真っ暗な教室の中はどことなく肌寒い。暗い布で覆われた順路には、不気味な写真や赤い手形の付いた書類らしきものがいくつも貼られている。
「うわぁ……結構不気味やね……」
「こ、こちらだな。行くぞ……」
「…………」
懐中電灯の光は弱く心許ない。ゆっくりと進む彼女達の耳に、妙な音が聞こえて来た。
「な、なんかぴちゃぴちゃって…………」
「…………」
「あ、足音?なんかな……」
「落ち着くのだしのぶ……む、ここを潜れというのか」
長机などを使っているのか、しゃがむなり四つん這いになるなりをして通らなければならない通路が現れる。
「さ、最初に儂がゆくぞ」
「∞ちゃんが真ん中で、うちが最後に回るね……」
3人は這いつくばって小さなトンネル状の通路を進む。その最中、上や横の壁から、うめき声のような物が聞こえて来た。
「ひぇぇ……!」
「な、なに、こんなもの所詮はまやかし……」
ぐにゃり、と。トンネルの出口に出たところで、ドーラの手が何かに触れた。
「へ?」
濡れた生暖かい感覚。見ればそれは──────人の腕。
それが、急に暴れるよう動き出した。
「うわあああ!?」
「!?」
「ど、ドーラちゃん落ち着いて!」
慌ててトンネルから抜け出した彼女らは驚き戸惑うドーラにしがみ付き落ち着かせる。いつの間にか腕はどこかへ引っ込み、姿を消していた。
「あ、ああいう不意打ちは心臓に悪い……!」
「…………」
「これで半分、もう暫く行きゃあ出口だって!」
不気味な雰囲気は更に増してゆく。金属製のロッカーが擦れるような音がどこからか聞こえて来て、更なる気味の悪さを生み出していた。
「ひゃっ!?」
「ど、どうした!?」
「ちょっと水みたいなのが……」
少量の水らしきものがかけられる。ただの水ではあるようだが、やはり不気味だ。先を急ごうとすると──────。
「ひぇ……っ」
進む道の先には、包帯に覆われた腕が壁から何本も生えており。異様な光景となっていた。恐る恐る近付いて見るが、特に腕は動く様子はない。
「ま、マネキンではないか…………?」
「そ、そうだよね…………」
道を進んで行くと──────不意に、しのぶと∞が、肩に触れられた。
「──────!?」
「ひぃやぁっ!?」
「わっ!?お、押すな!押すでないわ!」
中に動く腕が紛れていたようだ。驚き跳び上がった彼女達はドーラの背を押して順路を一気に進もうとする。もう少しで出口…………というところで、ドーラは誰かにぶつかった。
「す、すまぬ。急いで──────」
両腕ががらんどうとなった、病衣を着た恨めしげな表情の女性──────。
『──────わ、タシの。うデを、かエして──────』
「「ひきゃぁぁああぁぁあああ!?」」
──────ドーラとしのぶの悲鳴が、シンクロして響いたのであった。
そんなこんなで、彼等の文化祭の話は一先ず完了となります。
中々難産でした…………