ドラゴンはカードゲームの花形だが、海外でもそうであるとは限らない。扱いの差異はどこから生まれた物なのか?
「《邪帝斧 デッドアックス》と《爆銀王剣 バトガイ刃斗》を装備した《最終龍覇 グレンモルト》で《暴嵐竜 Susano-O-Dragon》を攻撃!パワー12000が倍加して24000で、粉砕だッ!!」
『シャオラァァァッ!!』
──────2025年10月13日。
桜龍学門前駅の付近に、複数の強力なクリーチャーが出現していた。偶然ゲームショップへと寄っていたサキト、そして職場へ向かう途中であったリュウがこれに対処している。
敵は4体ものキング・コマンド・ドラゴン。それも、古に五大龍神と戦ったとされる蒼狼の一族が呼び出したドラゴン達──────。
「《呪烏竜 ACE-Curase》の攻撃によりシールドが全損するが……よし、トリガーが3枚発動。《堕魔 ドゥグラス》が2体に、《逆転の影ガレック》だ。ガレック登場時にカード3枚墓地肥やしを2回行い、コスト3以下のクリーチャーを墓地から出す事を選択。……よし、《堕魔 ドゥポイズ》を復活。そしてドゥポイズの登場時能力により、ドゥポイズ自身とガレックを破壊しそちら側のクリーチャーを1体破壊させる」
『ドゥポポポポポ!』
『ギャァァアァアア!』
「《八頭竜 ACE-Yamata》を犠牲にしたか。これにより3体のクリーチャーが破壊されたため《破壊の儀》が達成され、墓地から《卍夜の降凰祭》を回収する。……最初のターン、ACE-Curaseの能力により手札が0枚となって達成されていた手札の儀、《仙足竜 ACE-Murked》により手札5枚が超次元送りされた際のデッキ破壊により達成された墓地の儀、無月の門・絶により《卍月 ガ・リュザーク》を墓地から場に出した際に達成された復活の儀も合わせ、全ての儀式が完遂された。卍誕せよ、《零龍》ッ!!」
『これで終わらせてあげるよ!』
『──────!!?』
サキトが呼び出したモルトが剣と斧の二刀流で巨大な剣を持ったドラゴンを叩き斬り、相手の能力を逆用してリュウが儀式を完遂させ、姿を現した零龍がその力で残るドラゴン達を消し飛ばした。
「完・全・決・着!」
「消滅、完了だ」
「うひゃぁ……うちらん手助けはいらんやったね」
『そうだね…………』
サキトと共に居合わせていたしのぶと∞が呟く。もし危機となれば2人はサキト達に加勢するつもりであったが、彼らはシールドトリガーによって見事な逆転を果たしたのであった。
「まさかこいつらがまとめて現れるとは……本当に3体任せて大丈夫かと思いましたが、杞憂だったみたいですね」
「そちらは手札を消し飛ばされると辛いだろうからな。対応するなら俺の方が良いと思ったまでだ。さて、まだあれの発売までは数日あるが、寄っていくか?」
「んー、それでは折角なので」
戦いは無事終わり、元々今日は暇であったサキトはカードショップ・クラインスペースへ向かう事にしたのだった。
* * *
「今回は相場の動きは少ない感じかね……」
「先輩は何か欲しかカードはあると?」
「本命は今週土曜発売のパックだからな……いよいよ新しいモルトやQ.E.Deuxが来るから楽しみだ」
10月18日には今年のデュエキングパックが発売となる。ドリーム・クリーチャーとなったグレンモルトやデュエマGTで登場したQ.E.Deuxにグレンフルール・キング・ロマノフの使用した魔弾などが収録されている。
更にはLOST第3章に登場する予定の……サキト達が夏休みに遭遇したクリーチャー達「ミズガミ」も新たにカードとなる。
「…………」
「ん?どうした帝王坂さん?」
『ここは色々なカードを扱ってるね』
「まあ、そうだな」
∞が見ていたショーケースには、海外産のカードゲーム……デュエマの親、もしくは兄弟分と言える、世界初のカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」のカードが収められている。流石にコーナーとしては国内でメジャーなタイトルよりは小さいが、この近辺では貴重なMTG取り扱い店であった。
『少し興味を持って調べてみたんだけど』
「お、何か入門するのか!?」
『そういう話じゃなくて。…………メディアミックス系じゃないカードゲームって、大抵ドラゴンがいるよね』
「確かに、やっぱり人気ん題材なんやろうか?」
『でも…………元祖といえるこのゲームだと、なんだかあまりキャラクターとして目立っていない気がする』
「あー…………そういう方向の興味か」
∞の言わんとするところがサキトには分かった。カードゲーム作品にはドラゴンは付きもの、主役のエースであったり、逆にライバルのエースであったりと、作品の看板キャラを担う事は数多い。しかし、MTGにおいてはそういった印象は確かに薄い。
「まあMTGはアニメやマンガの展開をほぼしてないってのもあるが……」
『それにしても印象が弱い気がする。どうしてだろう』
「それじゃあ……その辺詳しく説明出来そうな人に聞いて見るかね」
「へ?」
サキトの目線の先には、本日の店舗大会に参加希望する客への対応を行うリュウの姿があった。
* * *
「…………えー、それでは大会開始までの時間で少しばかり、カードゲーム及び創作文化における、ドラゴンの扱いについての解説を一席設けさせて貰う事となった」
「おー」「なんだなんだ」「面白そうな事やってんな」
クラインスペースのデュエルスペースにて。大きなモニターを背にしたリュウが指示棒を手に解説を始めようとしていた。
最初は店の裏ででもやって貰うつもりであったが、サキトが話した内容に食いついて来た他の客が集まって来たため……急遽講義のような形で大勢を相手にする事になってしまった。
「すんません何か大事になって……」
「まあ、いずれ論文の発表などもしなければならん、その予行演習みたいなものと思えば……まあ良かろう」
モニターに繋いだ端末を操作し、リュウは様々なドラゴンや龍の姿を映し出してゆく。
「さて、今回の一席の切っ掛けたるそこにいる彼女の疑問、MTGにおけるドラゴンの扱いだが。このカードゲームを代表するドラゴンと言えば、この一体だろう」
1枚のカードが大きく映される。巨大な翼を広げ、前方に湾曲した角を持つ古のドラゴン──────《ニコル・ボーラス》。
「このカードはデュエマにも登場しているためそちらで知っている者もいるだろう。ニコル・ボーラスはMTGの世界観における『究極の悪の黒幕』『最古にして邪悪なプレインズウォーカー』として知られる存在だ」
「あ、悪役ね?」
「そう。登場する全てのドラゴンが悪役というわけではないが……代表的な存在である彼が悪役であり、味方寄りの著名な存在でも長命故に他の存在と価値観が違い過ぎたり、問題を起こしやすい存在と語られたりする。これは偏に西洋の、キリスト教文化圏の影響が大きいと言わざるを得ない」
一時画面が切り替わる。表示されたのは、1つの文章である。
『さて、天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである。竜とその使いたちも応戦したが、勝てなかった。そして、もはや天には彼らの居場所がなくなった。この巨大な竜、年を経た蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は、投げ落とされた。地上に投げ落とされたのである。その使いたちも、もろともに投げ落とされた。』
「これは新約聖書、ヨハネの黙示録の12章における記述だ。見ての通り、サタンと天使たちの戦いについてなのだが……この記述こそが、西洋世界におけるドラゴンがしばしば邪悪の化身として扱われる原因と言えるだろう」
『なるほど。ドラゴンはサタンや悪魔と同一視されがち、と』
「この他にも聖ジョージの竜退治の話に代表されるような、聖人や英雄がドラゴンを殺す伝説は数多い。邪悪な者、英雄に退治されるべきもの。近代以前における、西洋におけるドラゴンの立ち位置は概ねそういったものと言えるだろう」
「対して、日本産のカードゲームだとそうでもないよな?」
「ああ。強大な存在である事は同様と言えるが、その扱いは主役やそれに準じるものであることもあったり、神に等しい神聖なるものとして扱われる場合もある。これは東洋における龍の扱い、立ち位置が西洋と大きく異なる事と無関係ではないはずだ」
今度は古代中国や日本の絵画が画面へと表示される。細長い蛇のような身体を持つ、日本人にとっては慣れ親しんだ龍達の姿だ。
「古代中国においては、龍は神獣や霊獣として扱われたり、水神と結び付けられる事が多い。天の四方を守る四神の1つである青龍等が有名所だな。また、龍が姿を現す事は良い事が起こる前触れ、瑞兆であるともされていた」
「ほーん、西洋と違ってだいぶポジティブなイメージだな」
「これは日本でも同様であり、水の神として龍神を祀る神社等は今でも多い。そして、仏教が伝来してくるとまた別の要素が付与される事となる」
新たに映し出された1枚の絵。そこには、燃え盛る炎を纏った龍が剣に巻き付いている様が描かれている。
「えっと……これって」
「ドラゴン剣キーホルダーっぽい何か?」
「違うわ。これは奈良国立博物館に収蔵されている文化財『倶利伽羅龍剣二童子像』だ。俱利伽羅剣について聞いた事のある者は?」
「えー……あ、青エ○で見た!」
「まあ、その作品でも不動明王に関わる物だからそう間違ってはいないか……不動明王が右手に持つ剣の事であり、これに巻き付いている龍もまた不動明王の化身であり、俱利伽羅龍王と呼ばれる」
不動明王の名は流石に聞いた事がある者も多い。ちなみにこの不動明王、アジアの仏教圏の中でも特に日本での信仰が根強い尊格であるらしい。
「この俱利伽羅龍王としての姿は、悪縁切りや厄除け、守護の力を持つとして信仰されている。悪しき者や災厄から人々を守る者、というイメージが龍へと加わったわけだ」
「はー……」
「こういった東洋と西洋でのドラゴンへの印象や扱いの違いが、創作の世界におけるドラゴンの扱いにも影響を及ぼしていると言えるだろうな。そしてそれはカードゲームでも同様となり、国産TCGにおける看板クラスのカードにドラゴンが据えられる事が多い一因となっているのだろう……といったところで、今回の語りは終わりにしたいと思う」
デュエルスペースに集まった客達が拍手する。あくまで彼の持論ではあるが、話としてはそこそこに説得力があったとサキトらは感じていた。
「さて、こんなもので良かっただろうか」
『ありがとう。まあまあ納得は行ったよ』
「ドラゴンにも歴史ありやねえ……」
「ありがとうございました井星さん、無茶ぶりに応えてくれて」
「何、構わん。さて、この後はどうする?」
「んー、今日の大会はデュエマではないし、ぼちぼち帰ります。それでは、また土曜に」
「ああ、またな」
リュウは店員の仕事へと戻っていく。そしてサキトも、今日はこれ以上店には長居せず帰ることにした。
「2人共今日はどうだった?」
『ゲームも買えたし、少し面白い話も聞けた。良かったと思うよ』
「∞ちゃんが楽しそうで良かったばい!」
「そりゃまあ何より。それじゃあ帰るとしようか」
そうしてサキトは2人を家へ送って行くのであった。
というわけで、ドラゴンについての小話でした。実際日本のTCGでドラゴンの扱いが良いのは文化的な面は多大に影響していると思います。