「一番近そうな境界線はここらか……!」
自転車を飛ばして数分、アーシュ達が入り込んでしまったであろうゾーンの境界線へとサキトは辿り着いた。
バックアップスタッフには連絡済み、万一に備え応援要請の準備もしてある。
「よし、突入する!」
『Dueltector summoning』
デュエマフォン・アプリを起動、デュエルテクターを装着しながらゾーンへと突入する。
境界線の向こうは相変わらず、謎の鉱物結晶が所々に生える廃墟と化した街だ。
「GPSがギリギリ使えて助かった……流星さん達は、あっちか!」
薄暗い街を駆ける。目指す先には、多数のクリーチャー達が群れていた。
* * *
『グギャァァアァ』
『グルルルル……!』
異形の怪物同士が相争い、喰らい合う恐ろしい光景。その間近、廃墟の陰に彼女達は隠れていた。
「う……あ、あいつら仲間同士ではないんやな……」
「先輩はこんな所で普段クリーチャー退治してるなんて……」
言葉も発さず、動く物全てを襲い喰らわんとする勢いのクリーチャー群を見ると、普段学校に現れるクリーチャー達は遥かにマシに見えて来る。
このような血みどろの異世界が、自分たちの街と重なる場所に現れるなど想像もしていなかった。
「とりあえず、気付かれんごとここから離れな」
「き、キサマは大丈夫なのか?」
「一度先輩と一緒に入った事があるけん、えずかばってんなんとか我慢でくるばい」
「ボクらでも倒せなくはないだろうけど……」
「アレだけの数で、イッペンに襲って来られたら流石にまずいワネ」
「それに、普段のクリーチャー達と違って……」
そう、喰われたクリーチャーは
人に憑依したものが抜けて行ったり、その場で消滅する場合もある学校でのクリーチャー退治とは違い、生き物を傷つけ殺すのとほぼ変わらない事になるはずだ。
「私たちに、出来るかどうか……」
「せめて、直接触れんごと戦やあ少しは……」
「皆、足元に気い付けて。石ころとか多いから音を立てないように……」
そろりそろりと物陰に隠れながら移動していく。しかし……
『フンフン……ッグルルゥォォッ!』
「ひっ!?」
「き、気付かれちゃった!?匂いかなんかで!?」
『キシャァァアアァァ!!』
「戦うしか無さそうデスね……!」
何匹かのクリーチャーが寄って来る。様々な生物のパーツを混ぜ合わせた様な奇怪な姿のものばかりだ。
「行くばいっ!」
先陣を切ってしのぶがドラゴンの力を解放し、両手で印を結ぶ。
すると空中に陣が生まれ、そこから強烈な水流が放たれてクリーチャーを水圧で吹き飛ばす。
「しのぶさん、凄いです!」
「よーし、ボクたちも!」
「こいつらから逃げな話にならん、気合入れたる!」
メガが炎を放ち、ギャイは巨大な瓦礫を投げつけて相手を近寄らせないよう立ち回る。
アーシュは水流弾で、すずは魔力弾で牽制し、ゼオスは翼から飛ばした光剣で瓦礫に磔にしてゆく。
「これならいけるか!?」
「ダメ、あちらからまたキマス!」
より大型のクリーチャーたちが寄って来る。更に、彼女達の頭上を影が覆った。
「なっ……!」
「で、でっかぁ!?」
骨が剥き出しとなり、巨大な翼と多数の頭を持つ怪物が降りて来る。
彼女らを襲うクリーチャー達より、格段に強力だと一目でわかるものだ。
「まずいです、あんなのに襲われたら!」
「ひとたまりもなか……っぁ、いけん!」
気を取られた隙に、クリーチャーの一体が飛び掛かって来る。反応が遅れ、長く伸びた口吻と、そこに生えた牙が───。
「っ、だめ、間に合わな……っ!」
「どおらぁあぁぁっ!!」
叫びと共に、待ち望んだ助けがやって来た。
サキトは展開したシールドごと飛び蹴りをぶつけて、口吻の軌道を反らす。
「悪い待たせた!皆無事か!?」
「先輩っ!!」
「なんとか無事や!けどどないするん!?」
「わらわらと集まって来るな……一旦固まって、とにかく防戦を頼む!デカブツの注意を惹いてどうにかするっ!」
「分かったが、キサマは大丈夫なのか!?」
「なぁに、どうにかする……行くぞ!カツキングをマナゾーンへ!」
マナを溜め始めると同時に、上空の大きなクリーチャーへ向けてサキトがデュエマフォンから光を浴びせる。
人の顔に見える部位にまぶしい光を当てられ、クリーチャーはサキトへと注意を向けた。サキトはそのままアーシュ達から距離を取る様に離れる。
「こっちだ!こいつは……《超幻獣ドグザバル》、キマイラか!それに他の連中も、《ギガブランド》と《ギガゾウル》が複数体!」
ドグザバル以外はパワー5000を下回る連中ばかりだが、普通の人間には巨体の食人怪物という時点で十分な脅威だ。それが現在計6体集まってきていた。
ドラゴンの力なくては、彼女達はひとたまりもなかっただろう。
『ゴギガガガガギガ!!』
「ちぃっ!」
ドグザバルの複数の口から放たれた火炎が2枚のシールドを打ち砕く。パワー9000のダブルブレイカー、相応の力は持ち合わせている。
「トリガーなし、だがマナ加速が来たな!ボルシャック・ドラゴンをマナへ送り、メンデルスゾーン発動!」
デッキトップからドギラゴン超とバルキリールピアがマナゾーンへ送られ、更なるマナの源泉となる。
「先輩、早うしてくれな、きつかよ……!」
「もう少しだ、っくぁあ!!」
再びドグザバルの火炎がシールドを砕き、破片がサキトを傷つける。トリガーは……!
「シールドトリガー発動!光鎧龍ホーリーグレイスだ!全員動きを止めろぉっ!!」
『ギャァアァァア!?』
「皆、ドラゴンの力を全開に!」
「了解ネ!」
金の鎧を纏う龍が現れ、その輝きでキマイラの群れを怯ませる。
そうして、反撃の時が来る。
「まずは、メガ・マグマ・ドラゴンを召喚!登場時能力により、パワー5000以下のクリーチャーを全破壊!吹っ飛べキマイラども!!」
現れた赤いドラゴンが、荒れ狂う炎でキマイラたちを殲滅する。
「あのドラゴン、角がメガに似とるな!」
「え、そうかな?もしかしてボクのドラゴンの力の元?」
「まあそんなところだ……さて行くぞ!ホーリーグレイスでドグザバルに攻撃し……革命チェンジッ!!」
ホーリーグレイスが跳ぶと同時に、サキトも地を蹴り高くジャンプする。そのままホーリーグレイスに触れると一瞬にしてその姿がカードに戻り、サキトの手から新たな竜が現れる。
「蒼き守護神!ドギラゴン閃ッ!!」
『ドォォギァァアアァァァアッ!!』
ドギラゴンの背にサキトが掴まり、そのままドグザバルへ突撃してゆく。
「きた、先輩のエース……!」
「ファイナル革命発動!デッキトップ4枚を表にし……よし、こいつだ!《凰翔竜機ワルキューレ・ルピア》をバトルゾーンへ!ワルキューレルピア、皆を!」
『クァアァァ!』
赤い鎧と銃砲で身を固めた、鳥とも竜とも見えるクリーチャーがドラゴン娘たちの傍へ舞い降りる。
そのまま彼女達の傍でかがむと、背に乗る様に促した。
「の、乗ればよいのか!?こいつに!?」
「大丈夫だ、ちゃんとエスコートしてくれる……さぁ、行くぞドギラゴンっ!!」
『オオオォオォォォッ!!』
ドグザバルの巨体へ近づくと、咥えた七支刀を突き刺し斬り裂いてゆく。
刀を包み込む光炎が、斬り口を焼き血が噴き出す事を許さぬまま体内を焼いてゆく。
『ガガガガギィィイィィ!!』
断末魔の叫びを上げながら、五体を斬り裂かれたドグザバルは燃え上がり爆散した。
「うわっちゃ!?こ、これで何とかなったの!?」
「ああ、ともかく境界線から外へ……」
『オォオォォォオ……ッ!!』
異様な声がその場に響き渡った。地響きと共に地が裂け、巨大な木が生えて来る。
──────否、それは巨大な角だった。
「……っ!ドギラゴン、ワルキューレルピア!全速離脱だぁっ!!」
『わぁあぁぁっ!?』
ワルキューレルピアの背に乗った6人が悲鳴を上げる。高速で飛ぶクリーチャーの背から後ろを見れば、とんでもないモノが現れていた。
樹齢何百年もありそうな、太い木で形作られた……巨体。
四肢も、角も、身体の全てが大樹で出来た、巨大なドラゴン。
その名は──────
「こちら護守!《大樹王 ギガンディダノス》がゾーン内に出現!救援要請を求む!」
「せ、せんぱっ、あれなんなんか!?」
「大樹王ギガンディダノス!極めて強力な能力を持つ、クリーチャーだ……!ゾーン内に現れるなんて!」
「た、倒せナイの!?」
「俺のデッキじゃあ相性が悪い!今奴が出現した事で、第一の能力で俺の手札が強制的にマナゾーンに行った……!」
見れば、サキトが手元に持っていた札が無くなっている。手札というリソースはカードゲームにおいては最重要だ。
「今ので手元にあった除去札はマナにされてしまった!引き当てられる可能性は低い……!」
「せやかて、攻撃が通れば……!」
「奴の攻撃力は……50000を誇る!大抵のクリーチャーは太刀打ちできんし、一撃でシールドを全て破壊してくる!その上……もう一つの能力が最大の問題だ!」
「どんな能力なのだ!?」
「
「そんなッ!?」
「顔見知りの中では帝王坂さんに全力で戦って貰うか、天道さんが首尾よくゲンムエンペラーを引いてシールドトリガーで対処できるかを祈るくらいしか出来ん……っ避けろっ!!」
『うわぁーっ!?』
ギガンディダノスが巨腕を振り下ろして来た。余波だけでサキトの最後のシールドが砕け散る。
「ともかく救援を──────」
『安心しろ……もう到着している』
前方に、フード付きの外套を被った何者かが立っていた。手札はギガンディダノスの影響か手にないが、シールドを展開し戦闘態勢にある。
ドギラゴンとワルキューレルピアが制動をかけ、その男の後ろに止まる。
「ど、どちらさま?」
「天道はんでもない、先輩のお仲間なん?」
「……初対面になるけど、たぶん……栗茶市で活動する、3人目の……実働部隊員!」
男はギガンディダノスを見ると挑発するように手招きする。
大樹の巨竜が、再び腕を振り下ろす!
「危ないっ!?」
「問題無い……」
一歩後ろに下がると、彼のシールドは破壊されるものの余波は完全に防がれ、5枚のカードが彼の手元へ送られる。
「……シールドトリガーは無しか、だがこの5枚があれば問題無い。ちょうど5マナも奴の能力で補充されているからな」
冷静に1枚のカードをドローする。既に彼には、戦いの決着が見えている。
「マナチャージし4マナを使用、《
奇怪な絵画の姿をしたクリーチャーが現れる。その能力は、更なる魔道具を呼ぶ触媒となる。
「ヴォガイガの能力でコスト軽減、コスト2で《堕魔 グリギャン》を召喚する。登場時能力と同時に……魔道具クリーチャーが場に出た事によって、『無月の門』が発動する」
燭台のようなクリーチャーが現れると、地の底から更にひび割れたコップと注射器のような“魔道具”が姿を現した。
「場のヴォガイガとグリギャン、墓地から《堕魔 ドゥグラス》と《堕魔 ザンバリー》を指定」
4つの魔道具が砕け散ると、その破片が円を描き、紫闇の輝きを放つ魔法陣が現れた。
「
そしてそこから姿を現すは、燃え盛る黒き炎の鳳凰──────。
「無月の魔凰《卍 デ・スザーク 卍》!」
『キィィィィィィイイイイッ!!』
禍々しき炎の巨鳥は、現れるや否やギガンディダノスへと突撃する。その姿は、大樹の竜と比べればあまりに小さく見える。
「いけない!いくらなんでもあれじゃ攻撃は……」
「攻撃の必要は無い。デ・スザークの登場時能力……」
デ・スザークの身体は、不定形なる不死の炎。その形状が槍に変わり、ギガンディダノスへと突き刺さる。
「デ・スザークが場に出た時、相手のクリーチャーを1体破壊する……焼き尽くせ」
『グォォオオオォォォォオオォ……!』
黒い炎が瞬く間に全身へと広がり、大樹を灰へと変えてゆく。
それを見届けると、男が振り向いた。
「さあ、今の内に外へ出るぞ。あれを倒した事でゾーンも縮小する」
「あ、ああ。了解した」
境界線が徐々に近づいて来る。サキト達は無事外へと出ることが叶ったのであった。
* * *
「た、助かったぁ……」
「その子らがDGAからの報せにあったドラゴン娘か。貴重な存在だ、無事なのはなによりだ」
「ああ……それで、そちらは」
男がフードを取り、顔を晒す。金のメッシュが入った黒髪、そして深い紫色の瞳が印象的だった。
「DGA栗茶市実働部隊所属……
「あ、ちょっと!」
名を名乗るとそのまま彼は去ってゆく。彼もこの近くに住んでいるのだろうか。
「なんか、少し暗そうな人でしたね……」
「……まあ、俺は正式な場で会う機会もあるだろうし、人となりはいずれ知れるはずだよ」
しかし、何故かサキトは……どこかで彼を見た事がある気がしてならないのであった。
ついに出番が来た3人目の実働部隊員。
一見敵っぽいクリーチャーを使う味方がいてもいいじゃない、という事で闇魔道具使いと相成りました。