修学旅行も3日目。彼女達は南都・奈良へと向かう。
「全員バスに乗ったな?それでは出発するぞー」
──────2025年11月20日。修学旅行3日目。
宿の駐車場に停まる大型バスに乗り込んだ桜龍高校の生徒達は、京都から南を目指す。向かう先は、奈良。かつては平城京と呼ばれ、また京都から南に位置する事から「南都」とも呼ばれた奈良時代の都だ。
「今日行くのはどこだっけ?」
「東大寺に奈良公園、あと奈良国立博物館だったかと」
「うーん、流石にあーし退屈しそう」
「言っておきますけど、本来は勉強のための旅行ですからね?」
自由行動範囲が少なく、寺社見学が主となる奈良行きの行程は、流石にテンションが昨日一昨日より低い生徒も多い。とはいえ学生の本分を果たさなくては修学旅行の意味は無いのだ。
「奈良公園内の散策に重点を置いたり、お昼を美味しくいただくという形なら楽しめるんじゃないでしょうか」
「映える食べ物とかありそ?」
「奈良公園内か付近の食べ物屋で……ブックマークしてたのはと。これとかどうですか」
「お、ありかも」
「お~?ふたりともどこ行くの~?」
トウリが事前にピックアップしていた昼食の候補先を見せていると、そこに後ろの席からメガが話しかけて来た。
「真久間さん。自分達はここ行こうかと思いまして。奈良公園内にある食事処で……」
「おお~、このカレーライスの盛り方、かわちいね~!」
「へー、バンビカレーねえ、おもろいやん。カレー染みには気を付けなアカンけど」
メガの隣に座るギャイも乗り出して来る。画面に映る、可愛らしい鹿の顔のフォルムに盛られたライスが特徴の「バンビカレー」に2人も食い付いていた。
「予算に余裕があればこっちのうなぎ専門店とかも行ったんですが」
「稼いでる蟠龍っちならともかく、あーしにはレベチの高さだし」
「ご、5000円近くかぁ……流石に手ぇ出せんわ」
「お店の位置も結構遠めだしねー。それじゃあボク達もお昼はここにしよっか!」
メガがすぐさまその店のサイトを生徒会メンバーでシェアして行く。どうやら彼女達の行先も決まりそうだ。
「着くまであと30分くらいですね」
「景色ばっか眺めててもね~……なんか歌っちゃおっかな」
「お?カラオケバトル~?いいねえやっちゃおう!」
「採点機とかあらへんけどな」
そんな風に、奈良へ向かうバスは賑やかに進んで行くのであった。
* * *
「うわぁ~、おっきい!」
東大寺南大門。駐車場でバスを降りた桜龍高校の生徒達は、東大寺大仏殿正面にあるこの門にまず圧倒される。
「金剛力士像、やっぱり凄い迫力ですね……」
「朕、事前に勉強シテ来マシタ!確か、『悪運の捕球』?の元なのヨネ?」
「『阿吽の呼吸』だぞ」
「息ピッタリって意味だっけ。なんで呼吸?」
「息を吐く時の口の形が『阿』と言う時の形に、吸う時の形が『吽』と言う時の形に似ているかららしいですよ」
「へぇー……」
南大門に立つ国宝・金剛力士像を眺める一行。この像に限らず、この周辺には国宝や文化財が幾つも存在する。
「今日も色々みれそうだね!」
「はい!今日も一緒に回りましょう、水晶ちゃん!」
「次はこのまま大仏殿に向かうんだっけ」
「ええ、大仏はもっと大きいですよ」
「昔の人はようあんな大きな像作れたなあ……」
教師の先導で歩いて行き、生徒達は大仏殿へと到着する。見どころとなるのはやはり、全高15mもの大きさを誇る大仏像、盧舎那仏坐像だ。
「はぇ~…………すっごい大きい」
「モシ立ったら、どのくらい高いのカシラ?」
「ざっくりとした計算でも、30m近くはありそうだな……」
「こんなのどうやって作ったんだろ」
「あー、基本的には鋳造らしいですね」
熔けた金属を型に流し込み、意図した形を作り出す鋳造。当時の技術の粋を結集させ年月をかけて完成させたのが、この巨大な銅製の仏像である。
「型を作り始めてから完成まで約1年強、その後1年間を置いてから鋳造を開始して、そこでも2年強かかってるとか」
「ひぇえ、とんでもなく時間がかかってますね……」
「途中で1年置いたのは、材料になる銅の調達とかなんかな」
「後は、縁起のいい吉日を見計らってという方向でしょうか」
特に当時は、そう言った吉凶に関して人々は敏感であった。この大仏自体、仏法の力で国を守り、社会的・政治的不安を人々から取り除くべく作られたものである。その建立開始の時期も入念に吉凶を占い選定したはずだ。
さて、一通り拝んだところで、アーシュ達はこの大仏殿のもう一つの見どころへ向かうが……。
「どうしたんですか一体」
「ちょ、ちょっと穴に引っかかりそうったい……」
大仏の右手後方の位置には、穴の開いた柱がある。この穴は大仏の鼻の穴と同じ大きさであると言われている。そしてこの穴をくぐり抜ければ、無病息災や願いが叶うといったご利益があると言われているのだが。
『しのぶ、大丈夫?』
「も、もうちょっと……!」
「もしや、余計な肉でも付いたのではないか?」
「そげんことなかよ~!」
しのぶがその穴をくぐり抜けるのに悪戦苦闘していた。身体を何度も捩った末に、なんとか通り抜ける事に成功する。
「やっと通れたばい!」
「Congratulation!これでしのぶも
「お疲れでし。擦れていたくないでしか?」
「た、たぶん大丈夫やけん!」
アオハル組は全員通れた様子。他にも生徒達や他の観光客がくぐり抜ける事に挑戦していた。
「朕も挑戦しマス!」
「やめておけ、ヤツが苦戦したとなるとキサマでは抜けなくなるかもしれぬぞ」
「ゼオスさんは身体が大きいですからね……」
「それにそんな事しなくともゼオスさんは日頃から健康ですからね」
* * *
大仏殿を見終えた後は、昼食時間も兼ねた自由行動の時間になる。一行は昼食を摂るべく食事処へ向かった。
「おぉ~、映え写真にはいいねこれ」
「だね~!」
「朕は大盛の大仏カレーネ!」
「大仏殿を模しておるのか……」
奈良公園内の有名店「あぜくらや」。鹿の顔を模したライスの盛り付けが特徴の「バンビカレー」、東大寺大仏殿を模した「大仏カレー」と言った見た目の楽しいものや、特産の大和牛を使った丼に肉うどん、奈良の郷土料理である大和茶粥等のメニューが店の特色だ。
「んー、この肉たまごうどんいいですね。牛肉の味が実に良いです」
「そばの方もええ感じやな」
「甘味も充実してますし、食後に頼んじゃいましょう!」
「うん!和風か洋風か迷っちゃうな~!」
「トウリ君、少しダケそちらも貰ってもイイデスカ?」
「カレーとは合わないんじゃないですかね?まあ良いですけど……空いた小鉢お借りしますね」
そうして奈良の味覚を堪能し終えると、一行は次の目的地へ向かう…………。
食事処から次の目的地へ向かう道の間、彼女らは奈良公園内の鹿と戯れる……のだが。
「ぎゃ───!」
「すずちゃん!タイヘン、鹿に埋もれてマス!」
「鹿せんべいを手放してください!」
奈良公園の鹿はとにかく好奇心と食欲旺盛で、鹿せんべいを持った人間を目ざとく見つけると一気に群がって来る。小柄なすずは体格の大き目な鹿に殺到され、もみくちゃにされていた。
「少しこっちに注意向けないと。ほらほらこっちっち」
「皆で鹿せんべいを分けて持って、分散させましょう!」
「って、ひゃああ!どんどん寄って来るぅ~!」
分ける傍から群がって来る鹿をどうにか引き剥がし、彼らはすずから鹿の注意を反らす事に成功する。危うく鹿の臭いと毛に塗れるところであった。
「ひ、酷い目にあったわ……」
「大変だったねーすずぽよ」
「まあ、あっちの方よりはマシやろな」
「え?あっちって……」
「ぎゃぁああ!やめろ、俺の服を噛むなぁあぁ!」
別クラスの男子生徒が、ひたすらに鹿に群がられ食まれていた。どうやら、男子同士の悪ふざけで砕いた鹿せんべいを振りかけられたらしい。良い子は真似しないように。
「どーする、助ける?」
「あんなんまで構ってられません、次の集合場所に行きましょう」
「まあ、サブちゃん辺りに怒られて終いやろね……」
自分達の悪ふざけで起こった災難にまで面倒は見ていられない。彼らはスルーして先を急ぐのだった。
「うわー、仏像がいっぱいだ」
「みんな貴重な品なんですよね……」
奈良国立博物館。奈良公園や、東大寺南大門から南西の方向にあるこの博物館は数多くの仏像や仏教絵画を収蔵している国内有数の博物館だ。国宝や重要文化財に指定されている物も多く、見学する生徒達の様子も流石に真剣だ。
「仏像って言っても色々あるよね、優しいのからおこ顔のまで」
「えっと、その仏様の役割で色々変わって来るみたいです。人を救う時は穏やかで、悪いモノと戦う時は怖い顔って感じで」
「さっきみた南大門の仁王像も、番人としてお寺の入り口を守る役目やから怖い顔やったもんな」
如来や菩薩は穏やかな表情を、明王のような戦う尊格であれば険しく威圧感のある表情をしている。そのように、一目でどのような神仏であるかを理解できるようにすることは一般庶民への理解度を高めさせ布教するにも重要と言えた。
「絵画とかは新西館って方だっけ?」
「そうですね、後はより古い時代の発掘品とかもあるみたいですよ。縄文とか弥生時代のものがあるみたいです」
「一通り見たら行っテ見マショウ!」
ある程度メモを取った所で別の展示物を見に移動する。やはり彼ら若い学生には多少退屈な場であるのは仕方ないだろうか。
「∞ちゃん∞ちゃん!これ、この前見た!」
『本当だ、そういえばここに収蔵されてるって言ってたね』
新西館に入ると、アオハル組の声が聞こえて来た。どうやら一つの絵に注目しているようだ。
「どうしたんですか?」
「おお、流星アーシュか。しのぶと∞の奴がこの絵に食い付いてな」
そこに飾られていたのは、燃える剣に巻き付いた龍の姿が描かれた仏教絵画……『倶利伽羅龍剣二童子像』だ。
『この前、先輩とカードショップに言った時この絵を絡めてドラゴンの話を聞いて』
「そうだったでしか。一体どんな話を?」
『ええと……』
先月、カードショップ「クラインスペース」にて聞いた洋の東西によるドラゴンの扱いの違いの話。それを覚えていた∞は、多少噛み砕いて他の皆に説明した。
「へー、そんな話を……」
「確かに、ドラゴンに
「魔よけの龍か……わらわ達のドラゴンの力もそうなればよいのだがな」
「むしろクリーチャー絡みの災難が寄って来てる気がしますよね……」
「あはは……確かに」
彼女達に宿るドラゴンの力は、基本的にトラブルの種となることばかりだ。まあ、巻き込まれた場合に自力で解決できる手段でもあるため、必要となる事も多々あるのは確かなのだが……。
「折角だし、魔よけとして売店に絵のレプリカとかあったら買う?」
「こ、効果あるかなあ?」
「さあ……どうでしょう」
そんな風に駄弁りながら、この博物館見学の時間は過ぎて行くのであった。
奈良見学パートは一気に消化いたしました。土地柄もあって兎にも角にも歴史学習の事ばかりになってしまう!
修学旅行篇はあと2話ほどで終える予定となります。一番大きな出来事は、この3日目の夜に。