京都。1000年以上の歴史を持つ、古い時代の名残が残る都市。
平安京の都であったこの地には、かつてより多くの人が生まれ、生き、そして死んでいった。
華やかな印象で語られる事も多いこの地は、異なる側面も持つ。
疫病。餓死。野盗。恐怖。様々な悪いモノ達が跳梁跋扈する闇。
そしてそこには、呪いや怨霊と言ったこの世ならざる物の存在も多く語られる。
──────果たして、それらは本当に
* * *
「ふぅ、今夜を過ぎればひとまず安心かな」
修学旅行3日目の夜。宿へと戻って来た桜龍高校の生徒達は皆入浴を済ませ、京都最後の夜を楽しんでいた。
売店で細々としたお土産を漁るもの、卓球を楽しむ者、部屋でくつろぐ者と、その楽しみ方は多様である。
「トウリ君!今オフロ上がりカシラ?」
「ゼオスさん、原戸さんとご一緒でしたか」
「あーし達もちょうどお風呂タイム終わって、ロビー横の売店行くとこ」
「こちらは少しぶらついてた所です」
ロビー前でゼオスと初の2人に出くわすトウリ。その手にはデュエマフォンを持っており、クリーチャー反応を警戒しているようだった。
「今の所近辺にクリーチャーはいないようですが、一応気を付けておかないとですね」
「やっぱりあーしがタゲられる可能性ある感じ?」
「デモニオがいるかもしれないっていうなら、油断は禁物かなと」
「お疲れサマネ、朕が肩を揉んであげマス!」
「あ、ではお言葉に甘えて」
椅子に腰掛けたトウリの両肩にゼオスが手を添える。ありがたく厚意を受け取るトウリだったが、その後の様子は傍から見ると心配になるものだった。。
「エイ!」
「あー…………そこいいです」
「な、なんだかミシミシ言ってるけどだいじょぶ?」
「大丈夫ですよー」
「そっかー……なんていうかごめんね、どこ行っても気を張ってるでしょ」
初は、今回の修学旅行中宿以外では常にトウリと行動を共にして来た。護衛が必要であるが故という事は分かっているが、折角の行事でずっと神経を使わせてばかりではないかと考えていた。
「まあ、確かに気は張ってますが……それ自体はある意味普段通りですし、大丈夫ですよ。それに、行き先次第ではもっと大変だったかもしれませんし」
「どゆこと?」
「京都は人気の観光地な分、他と比べてDGAの実働部隊員の巡回頻度が多いようで、クリーチャーとの遭遇頻度自体は低いと言えるそうでして。会長達が出くわしたクリーチャー達の抗争も、滅多に遭遇するような事態ではなかったらしいです」
「ソウだったのネ」
そんな状況に出くわしてしまうアーシュは実に不幸であったと言うべきか。閑話休題。
「なので、一王二命三眼槍が憑いていた時期よりはそう負担も無いですし、気に病んだりしないでください」
「…………おけ、ありがとね蟠龍っち」
「で、売店でしたっけ。何を買いに?」
「食べやすいお菓子デス!お土産じゃ無くて、お部屋デ皆とイッショに食べるのヨ!」
「お金も持ってきたし……あっ」
初が財布を取り出そうとしたところで、手持ちのミニバッグから何かピンク色の玉のようなものが零れる。それは宿の入り口の方へと転がって行ってしまった。
「何ですか?」
「お守りみたいなの、ちゃっちい宝石の玉だけどね。あ、外に行っちゃう」
ちょうどロビーの出入り口が開き、玉は外に転がり出てしまう。それを追って初は宿の外へ出て…………。
「良かった、割れてな──────ぇ?」
──────拾い上げた所で、何者かに腕を掴みあげられた!
「なっ!?」
「誰!?初ちゃんを放しナサイ!」
即座に2人は反応し、その何者かに殴りかかるが──────その人影は、初を掴んだまま電柱の上へ跳躍する!
「きゃうっ!?」
「アナタ、クリーチャーデスカ!?」
「違いますゼオスさん!こいつ……クリーチャー反応が全くない!」
油断もあったが、そもそもデュエマフォンがクリーチャー反応を全く検知していない。しかし今の動きは、明らかに人間業では無かった。夜の闇で見えにくいが、相手の頭には…………角らしきものが見て取れる!
「ちょっ、助け──────」
そしてその人影は、初を抱えたまま跳び去ってゆく。
「まずい!自分は奴を追います!ゼオスさんは会長達の所へ!」
「っ、分かったワ!トウリくん、気を付けてクダサイ!」
「勿論!デュエラッド!」
『Duel field extension. Formative a course.』
トウリはデュエラッドを呼び出し跨ると、空中に走行コースを生み出し何者かを追いかけ始めた!
* * *
『蟠龍くん!大丈夫ですか!』
「こちら蟠龍トウリ、なんとか見失わずに追えています!あいつ、一体何者だ…………!」
初を攫った者は、電柱や屋根を飛び移りながら京都の西方向へ向かっている。トウリは生徒会の皆に通話を繋げたまま追っているが、デュエラッドの速度でも容易に追いつけない速度だった。
『GPSは使えるか!キサマの位置をわらわ達の方へ送れ!』
「了解です!」
すずの言葉に従い、デュエマフォンから現在地を発信する。その情報を見て、彼女らは敵の目的地を割り出そうとしていた。
『京都駅から西の方に向かっとる、何が目的なんや……!』
『えっと、このまま西に行くとあるのは……これって、「首塚大明神」?』
『それって、この前ワタナベって人が注意してたとこ!』
「それです!鬼に纏わる地となれば、デモニオが関わっている可能性も……!」
とはいえ、クリーチャー反応は依然検知されないまま。凄まじい速度の相手を追いかけ、トウリは空中を進んでゆく。
『ゴメンナサイ、先生に止められて、助けに行けそうにアリマセン!』
「了解しました、自分のみで何とかします!」
そして、10分と経たずに首塚大明神へと到達する。小さな鳥居と社の前で相手は停止し、トウリもデュエラッドを急停止させた。デュエルフィールドを展開し、デュエルテクターを纏った状態でトウリは敵と相対する。
「は、蟠龍っち……!」
「何者だ!原戸さんを放せ!」
「何者か、だと?俺を知らんか……まあ、千年もの時が経てば仕方のない事か」
何者かが振り向く。その容姿は、頭に2本角を生やし着物を着崩した男であった。その身長は、ゆうに2mを超えるだろうか。顔は整っていると言えたが、鋭く威圧的な表情と雰囲気がそれを恐ろしいものに見せている。
「まあいい、なら名乗ってやろう。そして恐れ慄け、この俺の名に」
鬼の男は凶暴な笑みを浮かべる。その口元からは鋭い牙が覗き、恐ろしい人食いの怪物であろう事を想起させた。
「俺の名は──────茨木童子」
「茨木童子…………だって!?」
その名は、トウリも知っていた。大江山を本拠とした鬼の首領酒呑童子、その配下の鬼達の中でも筆頭と言える存在が、茨木童子という鬼であった。
源頼光と四天王による酒呑童子討伐の折に茨木童子のみは逃れ生き延び、その後四天王筆頭たる渡辺綱の前に2度に渡り現れたという。
「実在したのか…………何故彼女を攫う!」
「この女の身体が必要になったのだ。俺の元に現れた、異界の鬼共が言うにはな」
「っ!」
「なに…………?」
突如デュエマフォンが警戒音を鳴らす。首塚大明神の周囲を、クリーチャーが囲んでいる!
「鬼同士、デモニオや鬼札王国と手を組んでいるのか…………!」
「彼奴等の首魁を蘇らせるために、この女の身体を使うのだそうだ。それと同時に、この女の血が俺には必要となった」
「あーしの、血……?」
「その通り。異界の鬼に憑かれ、鬼と縁のある娘の血…………少しばかり量は要るが、血を抜いた後鬼に変えるのであれば問題は無い」
茨木童子は右腕で初の腕を掴みあげ掲げる。初は抵抗し彼の身体を蹴るが、大柄で筋肉質な鬼の身体はびくともしない。
「この娘の血で…………酒呑を蘇らせるのよ」
「はぁ…………っ!?」
「そうして蘇った酒呑と俺であれば、今の京を、いや今の世などは征するも容易い!我ら鬼の世を築いてくれようぞ!」
あまりの展開に、トウリは混乱を隠せない。クリーチャーではない本物の鬼が出て来たうえ、伝説の鬼を蘇らせて大それたことをしようとは。
しかし、本当に相手が1000年以上生きて来た妖怪の類というのなら、その力はどれほどの物なのか……。
「しかし、香しい匂いだ…………酒呑を蘇らせるのに必要でなければ、俺が腹に収めたいものだが」
「ひ……っ」
「させると思うのか!」
「ふん、お前なぞの相手はこやつらがする」
茨木童子が左手を上げると、潜んでいた鬼達が現れた。鬼の顔を象った手甲を構える大鬼、《「非道」の鬼 ゴウケン齋》に、車輪の中心に鬼の頭がある《「輪廻」の鬼 シャカ車輪》、頭と背、腰から黒い翼を生やした《「
『モモキングの契約者よ、覚悟するがいい』
『この場に貴様らの首を晒してくれようぞ!』
『トウリ氏!これは少々拙いかもしれないでござるよ!』
トウリを取り囲むデモニオ達は数多く、このままでは危ういかもしれない。そして、アーシュ達の手は今は借りる事は出来ない。
「さあ、まずはお前に死んで貰おう──────」
そう言って、茨木童子が左手を下げトウリを襲わせようと──────。
「はい、そこまでや。そん子を放しや、茨木童子。」
「な──────ぐぁっ!?」
上から何者かの声が響き、次の瞬間茨木童子の右腕にどこからか飛んで来た札が張り付く。それが電撃のような光を放つと、茨木童子は苦痛に呻き初を手放してしまう。
「原戸さん!」
「ひゃっ!」
咄嗟にトウリは駆け込み、初を受け止めると後退し距離を取った。腕を抑えたままの茨木童子は憎々しげに近くの木の上を見上げる。
「何者だ……!」
「うちのご先祖様に斬られた腕にはよーきくるやろ?」
「その匂い……!そうか貴様、奴の…………!」
「時代錯誤のアホ鬼どもが、何か企んでるちゅう噂聞いて警戒しとったら……こんな大それたこと考えとったとはなぁ」
木の上から何者かが飛び降りて来る。赤いデュエルテクターを纏う彼は、腰には刀を差し右腕には弓のようなものが取り付けられており、そこには矢の代わりに札らしきものがセットされていた。
顔を上げたその男は……トウリも知る顔であった。
「渡辺さん!?」
「よう、蟠龍くん。まさかあんたも実働部隊員やったとはなあ。驚いたわ」
「うそ、一昨日の……」
「そしたら、改めて名乗らせてもらいますわ」
「DGA京都市実働部隊、及び
ドラ娘世界には度々クリーチャーではない野性の怪異などもショート動画で存在が示唆されます。
であれば──────神や仏、そして妖怪が実在していても当然というものでしょう。
京都市のDGA実働部隊員、渡辺セイジ。彼は色々な意味で、他の地域のデュエリスト達とは違った職務と使命を背負う存在なのであります。
次回、鬼と英雄、そして──────『サムライ』が激突する。