「ふむふむ、了解。それではお疲れ様でした」
『状況終了か。それではこちらも通常勤務に戻らせて貰う。お疲れ様』
桜龍高校の校舎屋上にて、天道アンナはDGA本部からの連絡を受けていた。上空に開いた超次元の穴が閉じた後、この場に集った実働部隊の面々は敷地内の破損した個所を修復していたところであった。海原コウジはその連絡を受けると、本来の警官としての仕事に戻って行った。
「向こうも決着が付いたようだよ。デュエルマスターの皆も、全員無事に任務を果たしたようだね」
「良かったぁ……陽野さんも無事なんですね」
「少し戦いの様子は見たかったけれど……流石に巻き込まれたら大変かしら」
「いやいや、まず向こうに行く事自体が普通は大事だろ!?」
Jack-Potメンバーも、その報せを聞いて一先ず安心している。万一向こうで何かあればしゅうらも大変な事になるだろうし、あの凶暴なクリーチャー達の親玉がこちらに来たりしていたら一大事だ。
「しゅうら、良かったね」
「ええ、流石はテルタカさん!」
「そう、彼も戦いを終えたのね」
「あ、天さん……」
しゅうらと命の間に、少しばかり緊張するような空気が流れる。命の方はともかく、しゅうらは彼女に対する接し方を決めかねていた。
「テルタカさんはこちらにすぐ戻られるのかしら?」
「ええと……どうなのかしら」
「ああ、システムの都合上彼らがこちらの世界に戻るまではこちらを出てから3時間後程になるらしいからね。あと2時間以上はかかるそうだよ」
「そうなると、時間的には放課後ね。折角ならこちらで迎えようと思っていたけれど、一旦戻ってからこちらに来れるかしら……」
「お?なんだヨ天、気になる相手でもいるのカ?」
「ええ、そうよ」
「え゛」
少しばかり揶揄うつもりで話をふっかけた哲人であったが、あまりにストレートな返事が返って来て逆に驚かされる。命の様子が以前と異なるのはなんとなく分かっていたが、DGAに想い人がいるとは思いもよらなかったようだ。
「この間哲人も会ったでしょう?」
「あ、あア……テルタカって、あの時会っタ……え、マジなのカ」
「とりあえず、そうね……彼は戻って来た時こちらに来られるでしょうから、私の方も授業が終わり次第またこちらに来させて貰うわ。では哲人、皆も拾って送って行くわよ」
「お、おう分かっタ。お前ラ、またナ!」
そうして、2人は去っていく。このまま残るPENTADRÉの3人と合流してそれぞれの学校へ戻るのだろう。
「な、なんかすげー人らだったな……」
「陽野さんを巡るライバルなのかしら!?」
「え、ええとライバルというか……もっとややこしい関係になりそうな人なのよね…………」
「…………どういうこと?」
「陽野さんと天さんって人に何があったの……?」
「そ、それより生徒会の皆と合流しましょ!後片づけの話もあるでしょうし!」
「ちょっ、教えてよお姉ちゃん!」
* * *
「な、何とかなったみたいですね……!」
「空の穴が塞がった後も、地震みたいなのが続いてどうなるかと思ったよ~……」
グラウンドに出ていた生徒会メンバーとアオハル組の面々も、ようやく一息付ける状態となっていた。超次元の穴は塞がれたものの、ジャオウガの力で再び無理矢理こじ開けられる可能性もあったため暫くの間緊張状態が続いていたが、撃破の報が入った事で一安心できるようになったのだ。
「様子を見て来ましたわ!ジュラ子達のBattleを見ていた生徒はいないようですわね!」
「それに、クリーチャーの力が空間に影響を及ぼしていたせいか、戦闘が続いていた間の記憶も曖昧なようでしね」
「それは僥倖じゃな、これだけの事件であっても儂らの事を知られずに済んだのは助かったわ」
『後はしのぶが先輩と帰って来るのを待つだけだね』
同様の例は何度かあったが、クリーチャーの力同士が大きく干渉するとデュエルフィールドに近い特殊な領域が生まれ、普通の人間に記憶の混乱等の影響を及ぼす事がある。結果としてドラゴン娘達の正体が一般生徒に露見せずに済んだのは幸運であった。
「クリーチャー達の世界へ行った奴らは無事なのだな?」
「はい、連絡が来ました。戻れるのは少し後になりそうだけれど、全員無事らしいです」
「そら何よりやね…………はー、今回はちょっと疲れたわ……」
連絡を受けていたハヤトの言葉に彼女らもほっとする。超獣世界へ向かった4人の事は当然心配であったし、安否の確認がすぐに取れた事で安心できるようになっただろう。
「やっほ、お嬢さん方。お疲れさんやね、今日は大変やったなぁ」
「あ、京都の……渡辺さん!」
「僕はすぐ帰らなあかんから、蟠龍くんによろしく伝えといてな」
「はい!今回はありがとうございました!」
「前に攫われてたお嬢さんも鬼の悪影響は無さそうやし、一安心やわ。ほな、またね」
『えー?主殿、あたしはドラゴン娘ってのに興味あるし少し──────』
「一般の人にお前の姿見られたら大変なことなるで!さっさと帰ろうや!」
『うわーん!主殿のいけずー!』
救援にやって来た渡辺セイジも役目は終え、市役所の方へ向かってゆく。本部経由で再び京都へ戻るのだろう。
「それで、先輩達はいつ帰ってくるん?」
「ええと、だいたい2時間半くらい後みたいっすね」
「先輩達も、ゼオスさんもしのぶさんも、午後の授業には出れなさそうですね……」
「……仕方あるまい、ノートは取っておいてやろうではないか」
『私もしのぶの分のノート取っておかないと』
「大仕事だったみたいだし、帰ってきたらパーティーでもしよっか!」
かくして、超獣世界の異変に伴い、桜龍高校に降りかかった危機は去った。彼女らの少し変わった日常が、また戻って来る。
* * *
──────そして、超獣世界にて。
「そういえば、先輩の助太刀に来てたグレンモルトは?」
「ああ、戦いが終わったらすぐに自分の冒険に戻って行ってしまって……」
「まあ、仕方ないか。あちらにもあちらの戦いがある」
ジャオウガ撃破から数時間。彼らがいる新章世界では元の人間世界へ戻れるようになるまでの時間が経過し、帰る支度をデュエルマスター達は整えていた。
「うちらん行ったグラッサちゃん達ん世界では丸1日必要やったばってん、こっちでは早かばいね」
「世界ごとにどうして差が生まれるのか、少し興味深いですね!」
「今後は少しずつ改良して、帰れるまでの時間も短縮して行くのかなぁ?」
「そうなればわたくし達にとっては助かりますが……どうなるでしょうね」
世界間の移動が再度可能になるまでの時間は、やはり各超獣世界毎に大きく異なるようだ。このような違いが生まれる原因の究明も、今後彼らの活動に関わって来るであろう。
「皆、挨拶は終わったか?」
「勿論、火文明の皆はまた来いと快く言ってくれましたよ」
「まあ、こちらに来るときはトラブルがまた起こっているだろうが……」
「あはは……まあ、それがあたし達の仕事だもんねえ」
彼らデュエルマスター達の超獣世界での仕事は、人間世界に渡航しトラブルを起こすクリーチャーを減らすべく世界観の行き来を管理する事。現地との連絡手段の確立は進んでいるようだが、なにせ暴れる事や性質の悪い悪戯を好むクリーチャーは多い。今後も忙しい日々が続くだろう。
「あ…………ジョニーとジョラゴンの契約者の方!ありがとうございました!」
「……ああ、そちらも協力感謝する。モモキングの契約者」
『ジョニー殿、ジョラゴン殿!久方ぶりの共闘、心震えたでござる!』
『ああ、モモキングも無事復活が出来て何よりだ』
『ジャオウガの奴も今度こそ完全に倒せたようだしな!』
そして、裏方仕事を終え再合流した東木スミトとトウリが握手を交わす。互いにジョーカーズのエース達と契約した者として、通じ合う所があるのだろうか。
『ジョニー殿達はどうするでござるか?まだジョー星は……』
『ああ、あの時破壊されたままだが……人間世界のマナとカードの力で、将来的に復活するかもしれないようだ』
『本当にござるか!?』
『ああ!だから今後も、スミトの所で世話になりそうだぜ!そのうち遊びに来いよ!』
彼らジョーカーズの住まう小さな星、ジョー星はかつてジャオウガの手で破壊されている。ジョニーとジョラゴンはモモキングの解放と星の復活手段を探していたが、モモキングの方が解決した事によって今後の活動は楽になるだろう。その上、星の復活もある程度の目途が立ったという喜ばしい状況のようであった。
「ゼオスさーん、そろそろ帰れますよ……何してるんですか?」
「このドラゴンに、力の入る体操ヲ教えて貰っていマス!」
「ホントに何してんだ」
見ればゼオスは、見送りに来たらしいサッヴァークの動きを真似てポーズを取っていた。彼女に宿るドラゴンの力、そのオリジナルと会う事で何か通じたのだろうか?
「さて、それでは戻るぞ」
「また来るよー、超獣世界!」
「今度は人間世界の色々持って来ますねー!」
「光文明の方々とは、いずれまた共に研鑽したいと思います」
「その前に俺達は受験もやり遂げないと、ですね」
『Hyper dimension hole open.』
超次元の穴が出現する。人間世界へ続く道が開かれ、そこへデュエルマスター達は飛び込んで行く。
「ここが、先輩がこれから守っていく世界なんやね」
「んー、まあここだけじゃあないけれどな。前に行った世界もそうだが、超獣世界は1つじゃない。まだまだ訪れた事のない所もあるよ」
「大変そうデスね……」
「その分、栗茶市の方は自分達がこれから守って行きますよ」
「頼もしい後輩で助かるよ。それじゃあ……帰るとするか!」
そして、穴へと入りながらサキトは振り返り、超獣世界へ向けて手を振る。彼が背負う使命、そして責任を強く心に刻みながら…………帰るべき日常へと、彼は戻っていく。
* * *
「ふぅ、無事に戻って──────」
「おかえりなさい、先輩!」
「うおわ!?何だ!?」
サキト達が降り立ったのは、桜龍高校の屋上。戻って来た途端、彼らはドラゴン娘の皆に囲まれ出迎えられた。
「な、何で俺まで……!?何かに引っ張られるみたいな感じはあったけど……!」
「テルタカさん!こっちに来てくれるなんて!」
「まさか本当にこちらに出て来るなんて……予測が当たったとはいえ、驚いたわ」
他の面々は超獣世界へ行く前に居た場所に戻ったようだが、テルタカのみ何故か桜龍高校組と同じ場所に来てしまっていた。愛の力というものか、はたまた以前しゅうらに渡したボルシャック・ホールの影響であろうか?しゅうらと命に両手を取られ、目を白黒させていた。
「蟠龍くんもゼオスさんも、怪我とか無いですね!良かったです!」
「この通り、ピンピンしてマス!」
「全く、一緒に行くと言った時はどうなるかと思ったが……まあ無事で何よりだ」
『先輩、無茶はしなかった?』
「あーいや、ちょっと……」
「ちょっとどころじゃなかよ!うちば守ってくれたけんとは言うたっちゃ、ほんなこつ心配したんやけん!」
「まあまあ、その辺は後で話すとしましょうよ。それよりも…………」
ハヤトの言葉を聞き、集まった彼女達は戻って来たサキト、しのぶ、トウリ、ゼオス、テルタカの手を取って校舎内へと導いてゆく。
「ちょ、どこに行くんですか?」
「近くのお店に!私達、このために皆さんを待ってたんです!」
「皆で一緒に──────お疲れ様パーティーだよ!」
「ぶ、部外者の俺も参加なんですか?」
「ドラゴン娘の皆さんと無関係ではないのだから、大丈夫でしょう。それと、会場には私からも費用を出させて貰いました」
「じょ、常識的なレベルのパーティだといいなあ……!」
わいわいと騒ぎながら、彼女達はサキト達を連れてゆく。部活が中止となったのか、生徒達の居ない校舎に一行の声が響いてゆく。
「…………んじゃまあ折角だし、楽しませて貰おうか!受験前の息抜きに、1日くらいはしゃいでもよかろう!」
「うん、そうやね!いっぱい楽しもう、先輩!」
皆に囲まれながら廊下を歩むサキトとしのぶ。その顔は、とても晴れやかな笑顔を浮かべていた。
かくして、超獣世界と人間世界の危機は去った。
しかし、これからもドラゴン娘と決闘者たちの、波乱に満ちた日常は続く。
超獣世界には、まだまだ幾つもの危機の火種と、闘いの物語があるのだから。
それでも──────彼らはそれを1つ1つ、乗り越えて行くのだろう。
これにて第2部も終幕、本作は一応の完結となります。読者の皆様、一年以上に渡るお付き合い、ありがとうございました!
設定補足等を今週中にでも投稿させていただく予定でございます。