休日を過ごすサキトに新たな厄介事が迫り来る。
「くぁあぁ……っ、朝か」
──────2025年9月14日。
3連休の中日である日曜の朝、サキトはいつものように自室で目を覚ました。隣にはしのぶも安らかに寝息を立てており、彼にとって普段と変わらない休日の朝……であるはずだった。
「んん……?なんか頭が重いな……まさか風邪か?しのぶにも母さんにも感染さんようにせんと」
寝ぼけ眼を擦りながら、朝食を用意しようと部屋を出ようとしたところで──────。
「がっ!?」
何かが、ドア枠に引っかかった。頭と首に衝撃を受けたサキトは思わずのけぞり、真後ろに倒れ込んだ。後頭部を打たなかったのは受け身の練習の賜物であった。
「ぐおぉ……っ!いったい何が……」
「ふぁあ、おはよう先輩。いったいどげんしたと……!?」
大きな音で目を覚ましたしのぶが、サキトの方を見て目を丸くする。その目線の先には信じ難いものがあり──────。
「せ、先輩!頭、頭の上!!」
「は?どうしたしのぶ、頭の上って…………」
頭を掻こうとしたサキトの手が、
「──────なんじゃこりゃぁぁぁぁあああ!?」
──────彼の頭頂部を覆うように、四角い箱のような機械がくっついていたのであった。
* * *
『──────それで、しのぶから私たちに救援要請が来たと』
「休日なのにほんとすまない……」
「うわー、せんぱいの頭がすごいことに」
時刻は午前10:00頃。護守家の居間には、桜龍高校のドラゴン娘達がやって来ていた。各々の用事もあり、顔を出しているのはアーシュ、メガ、ギャイ、すず、ドーラ、∞の6人である。
サキトの家族には買い物に出て貰っている最中だ。彼女らの力については未だに秘しているため、適当な理由で家を空けて貰う口実としてサキトが頼み込んだ形となる。
「サーヴァさんかJack-Potの星さんが来てくれると助かったんですが……会長の方から庵野さん経由で連絡付きませんかね?」
「Jack-Potの皆さんは今日ライブがこれからあるって事で、23区の方に行ってるらしくて……」
「姐さんは蟠龍はんとデートに行っとるで」
「うーむ、一緒にいるだろう陽野さんに連れて来て貰うのを期待するしかねえか……?」
頼みの綱であった2人が不在ということで、どうしたものかと考え込むサキト。今回の元凶が何かを考えれば、知り合いの中で解決出来そうなのはこの2人くらいである。
「キサマ自身では解決できんのか?普段使うデッキでなくとも使えるカードを探すとか」
「それが、こいつがくっついてるせいなのかクリーチャーを召喚しようとしてもうんともすんとも言わずで」
『それは仕事にも支障が出そうで厄介だね』
「ふん、この位であれば儂らでどうとでもなろう。流星アーシュ、こいつの脚を持つのじゃ」
「え?は、はい」
ドーラの言葉に従い、椅子に座っていたサキトの脚をアーシュが掴む。そしてドーラは、サキトの頭部に接続されている機械を強く掴んだ。
「おい、まさかとは思うが」
「行くぞ!せーのっ!」
「せ、せーのっ!」
「いだだだだだだだだだだもげるもげる首がもげる首がもげるッ!?!?!?!」
「ふ、2人とも先輩が苦しそうばい!」
2人がサキトの身体を思い切り引っ張り、力尽くで引き剥がそうとする。サキトの身体が悲鳴を上げるが、肝心の機械の方は全くビクともしない。
「ぬう、サーヴァ・K・ゼオスがここにいればその腕力で引き剥がせるかもしれぬか……?」
「死んでしまうわ!?というか物理でなんとかならんから2人を頼ろうとしてた訳で!」
「それってどういう……ひゃあ!?」
「うわ、なになに!?」
機械をどうにか破壊出来ないかあちこちを触っていたドーラであったが、突然そこから複数の塔のような像が現れ驚いて手を離す。見たところ、サキト達DGAが使用するホログラム映像に似たもののようであった。
「これは、建造物か?それもかなり進んだ科学技術のものに見えるぞ」
「確か、クリーチャーにもメカとか機械系得意な奴がおったっけな」
「あ、まだ何か出て来るごたーね」
空中にモニターらしきものが投影され、1つの映像が流れだす。そこに映っていたものは……。
妙に着飾った姿のドーラと。
彼女と腕を組んで歩くサキトの姿。
「──────は?」
「「「「「えっ!?」」」」」
「な──────なんじゃこの映像はぁぁぁぁ!?」
* * *
「…………こいつは《アカシック・ヴィジョン》。クリーチャー達の世界に存在するシミュレーターの一部であるタマシードだ」
『さっきの映像はあくまでシミュレーションみたい。とりあえず、端末で接続はできたから多少の操作は出来そう』
「さすが∞ちゃんばい!」
多少の混乱はあったものの、謎の機械……《アカシック・ヴィジョン》によって映し出された映像を止め待機状態にする事は出来た。いきなり覚えのない映像を映し出されたドーラはかなり取り乱していたが、それも当然であろう。
「うーん、別に赤くもシックな色合いでもないよね?」
「いやアカシックはそう言う意味やあらへんて」
「オカルト系の思想に出て来る『アカシック・レコード』というやつか?宇宙の歴史の全てが記されているとされるデータベースだとか」
「よく知ってますな。それにまつわるものです…………と言っても、超獣世界に存在するものはあくまでシミュレーターであって確定した未来を見れる物ではないんですけど」
デュエマにおけるアカシック・レコードは、背景ストーリーにて言及されている、アカシック兄弟の兄《アカシック・タレス》によって作られた装置による超獣世界の未来とその最悪の結末「審判の日」のシミュレーションを記した記録である。
「審判の日」を避けるべく《アカシック・タレス》と弟の《アカシック・ゼノン》は様々な実験を行い未来改竄を試みているというが、その結末は未だ語られていない。
「それが何故あのような破廉恥な映像を!?」
「言うほどハレンチかなぁ……?」
『先輩の頭にくっついている間、この機械は「先輩の人生シミュレーション」に機能を限定されているみたいだね。さっきのはドーラが触れたことで、2人が強く関わった「もしも」のシミュレーションが演算されてたらしい』
「どういう分岐を経てそんな事に……」
先の映像もあくまでIFの世界を演算で導いたシミュレーション。この世界であのような関係になる可能性は、今は万に1つも無いだろう。
「ドーラちゃん、先輩とああなる可能性があったと?」
「あり得ぬ!儂が交際するとしたら、儂より強い男に決まっておろう!」
「それはハードル高そうですね……」
『確かに、ドーラと恋人になる可能性はかなり低いみたいだね』
「え、もしかして他の誰かとくっつくルートと確率とかも見れちゃうの?」
「それは…………ちょっと面白そうやな」
「ちょっ……!?」
見世物にされそうな予感に後ずさるサキト。逃げようにも、頭の上が邪魔で家から出るのも一苦労な有様では、彼女らに捕まらない自信は無い。
「せ、先輩、どうにかそれ壊せんと?」
「さっきも言ったけどこいつは『タマシード』つって、クリーチャーと違って戦闘能力は無いんだが……代わりに攻撃やクリーチャー除去能力なんかは受け付けない特性がなあ……!」
「なるほど、それで力尽くではどうにもならんと」
「あ、メッセージが来ました。陽野さんがバイクで一旦増樹さんを連れてきてくれるみたいです!」
「助かった、星さんが来てくれれば彼女のドラゴンの力でカード指定除去が効くはずだ」
『タマシード』と呼ばれる種別のカードはクリーチャーではないため、除去方法が限られてしまう。現在ここに集まっている面子では、このアカシック・ヴィジョンを取り除く手段を持ち合わせていないのであった。
「じゃあ増樹はんがこっち来るまでは」
「先輩の色々、見せてもらっちゃおうかな〜?」
「た、頼むからまずそうな映像とかは無しで……!!」
そも、既に∞の端末で内容を大まかに把握されている以上逃げる事は叶わない。サキトは最低限の条件を提示して操作を委ねる事としたのであった。
* * *
『…………こんな感じかな、確率的にはしのぶとパートナーになる可能性が一番高いみたい』
「やっぱり見せるんじゃなかったか……?」
空中に投影されたホログラム映像のモニターに、ドラゴン娘達を含めた様々な人物たちの顔アイコンとパーセンテージが表示されている。これがサキトと交際する確率、であるらしい。
最も高いのはしのぶであり、シミュレーションでは4割強の確率で交際する結果が導かれるようだ。
「次点がむむりんで、3番目がゼオちかー。あ、ボクも結構ある」
「まあ∞はんが高めなんは、部活が一緒で接する機会も多いからやろうけど」
「それならなんで∞ちゃんよりうちん方が高かっちゃろう?」
「思い当たる節はあるのか?」
「んんー…………」
そう聞かれても、サキトに思い浮かぶ明確な理由は特に無いように思えた。強いてあげるとすれば…………。
「外見的な好みとかでしょうか?」
「それは…………ちょっと否定しがたいかもしれんがそれだけじゃない気がする」
「外見……」
「おい、何故わらわを見る」
…………なお、すずとの交際確率は下から数えた方が早い事をここに記しておく。
『先輩はしのぶを好きだと思うようになったのはどういうところから?』
「え?あー……そうだな、うちに顔出してる時と部活に真剣に打ち込んでる時のギャップとかがあったり……いや、それ以上にあれかな」
「あれとは何じゃ?」
サキトは当時の事を思い返していく事で、1つの理由に辿り着いた。それは、外見に関わるという点ではあながち間違いでも無く。
「よく水着にジャージ羽織っただけの格好で過ごしてたところが」
「「「そこ!?」」」
「変な意味じゃなくてな!?こう、自身の見られ方に無頓着というか、無防備そうに見えた所が心配になって見ていた間にこう、俺の心情がだんだん変化してったような感じが」
「い、今は反省しとるけん!」
「そうは言うけど、去年のハロウィンに身体に包帯巻いたミイラの扮装とかいう、ボディライン丸見えの格好してた時は気が気じゃ無かったからな?」
「うっ」
去年のハロウィンの夜、ゾーン改めロストフィールド案件の解決後帰宅したサキトは、しのぶにミイラ姿で迎えられた際にかなり動揺していた。よもやその恰好のまま家まで来ていたりしていないか問い詰めもしたほどである。
……外では流石に普通の格好であったようだが、放課後の校内では仮装したまま生徒会とプチパーティーを行っていたと聞いたため、彼女に対してその恰好がどう見られるか色々と教え込んだらしい。
「なるほど~……つまり先輩は、ほっとけないタイプに弱い!」
「ああ、それはありそうですね!」
「ウチが低めなのもそう言う事やろか」
そう言われて見れば、確率が高い交際相手の傾向も見えて来る。サキトから見て何処か心配な点がある、庇護欲のようなものを刺激される相手に結果的に惹かれやすいようだった。
「しかしこの一覧、少しおかしくないか?合計したら100%を上回っておるぞ」
『それはたぶん、複数の相手が好意を持ってるパターンがあるからだね』
「えっ!?ふ、複数ですか!?」
「……その場合の相手ってドラゴン娘の皆ではなく、クリーチャー連中だったりしないか」
『よく分かったね』
「現在進行形の問題だから……現代日本人の倫理観が通用しないんだ、特にアプルが……!」
彼女達ドラゴン娘の前に姿を現した事もある金トレ版《若き大長老 アプル》。彼女は自然文明出身というのもあってか、度々野性的な倫理観の片鱗を見せて来る事があった。
「より多く多様な子孫を残すべきとか言われても、俺の倫理観ではそう簡単に受け入れられんわ……っ!」
「や、野生の獣じみた考えじゃな。それもライオンとかの」
「ラフルル共々あの姿で実体化してしまった責任が俺にもある分放り出すわけにも行かんけど、どうしたものかと……」
「うちもたまに身体が付いていけんくなりそうで大変で……」
「そこは詳しくツッコむのはやめとこか」
『そんな感じで、私達以外でも交際してる例がいくつかあるみたい』
「あ、グラッサちゃんとQ.E.Deuxしゃんもおるばい」
「本当だ……何が起こったらそんな事に」
超獣世界へと訪れた際に出会ったグレングラッサとQ.E.Deux、彼女らの顔もある事にサキトは驚いていた。運命の悪戯次第では、彼女らと出会う機会が前倒しになっていたというのだろうか?今となってはそれは知る由も無い事であるが……。
『ドーラの時みたいに映像を映し出そうと思えば出せるみたいだけど、どうする?』
「それは……なんだか気まずくなりそうな可能性もあるので、ナシにしましょう」
「儂だけ見られ損ではないか!?それならば全員道連れにしてくれるー!」
「わぁ!?ドーラちゃん乱暴はよして!」
∞の持つ端末に触れ操作しようとするドーラ。∞としのぶは咄嗟に止めたが、その際に指の一部がタッチパネルに触れ……1つの映像が映し出された。
『やあ。初戦はどうも、新人デュエリストくん』
『こちらこそ、ありがとうございました。完敗でした』
「あっ、再生されちゃってます!でもこれは……?」
「なんや見覚えある人やな」
「あ、アンちゃんせんぱいじゃない!?」
「真久間さん天道さんの事をそんな風に呼んでたんですか」
今より少し幼さが残る顔立ちのサキトと握手を交わしているのは、恐らくは天道アンナ。DGA栗茶市実働部隊に属する女性デュエリストだ。
「キサマを新人と呼んでいるという事は、かなり前の映像か?」
『日付は、2020年11月21日だね』
「……俺が初めてデュエマのカードを買って、初陣に出た日だな」
約5年前、当時中学1年生で13歳のサキトが初めてのデッキ──────「レジェンドスーパーデッキ 蒼龍革命」を買い、デュエマを始めた日。彼が最初に対戦した相手が、アンナであった。
「でも、試合後にこんな握手した覚えは無いんだよなあ?」
「つまりこれは、先輩と……アンナしゃんが付き合うたもしもん可能性?」
「……ちょっとまて、まだキサマが13の頃の映像が流れだしているというのは……?」
『どうかな、この後時間はあるかい?勇敢な新人君に、私から手ほどきをしてあげよう』
『ほ、本当ですか?強い人に教われるなら光栄ですけど』
『ああ、教えてあげるとも。戦術に構築、他にも色々と、ね』
『ありがとうございます!』
そうして、アンナに指導を受けサキトは日が暮れた後までショップで戦術を学んでいく。
そしてその後彼女に連れられ、店を出て──────。
「……えっ!?」
「ちょっ!?」
「こ、これは……」
「い、いかん!これ以上はまずい!絶対に拙い──────!!」
* * *
──────数分後。
『皆、到着したよ』
「お待たせした、星さんを連れて来て……何だこの空気」
「え、皆揃って何かあったのかよ?」
「あれはあくまでシミュレーション!現実じゃあない!天道さんの名誉のためにも俺達は何も見なかった!!いいですね!?」
「「「「「「い、イエッサー……」」」」」」
陽野テルタカと星増樹が護守家に到着した際、彼の家の居間はなんとも気まずそうな空気に包まれていたそうな。
以上、アカシック・ヴィジョンによる騒動でありました。最後彼らが何を見たのかは、色々とお察しください。
サキトの癖というかなんというかも垣間見える回となりました。ゼオスさんが確率高めだったのは、プロット最初期段階では彼女をメインヒロインに据えようか検討していた事が影響しております。没ネタのちょっとした再利用でありますな。