「……待たせたな」
「ああいえ、大丈夫です」
サキトが10分程店の脇にある路地で待っていると、缶コーヒーを持ったリュウがやって来る。
「店員やってる時とだいぶ違いますね……」
「接客モードという奴だ……それくらいの切り替えは出来る」
「んじゃあ改めて。実働部隊員の護守サキト、桜龍高校2年です」
「井星リュウだ……大学で文化人類学を学んでいる」
「文化人類学、っていうと?」
「世界各地の文化や社会を比較研究し、人類の文化の共通性や多様性を研究するものだが……俺はその中でも神話関係を研究テーマにしている」
神話や伝説は世界各地に存在するが、不思議と似通ったエピソードが別々の地域伝承に存在する事がある。
例えば、見てはいけないと言われた物を見て悲劇が降りかかる「見るなのタブー」などが代表的な物だろうか。
「世界各地に伝わる神話・伝説に登場する、異形や怪物の伝承……前々からそれらを半ば趣味で調べてはいた」
「そしたら、クリーチャーの存在に行き当たったと?」
「ああ。たまたま見つけた古文書の1つに、クリーチャー絡みの物があってな」
自然現象の見間違いだの、迷信などでは片付けられない、実在した神秘……異世界の存在が記された資料。
それに邂逅した事が、彼の進路を大きく変えたと言える。
「先月に例のアプリで見出されDGAのスカウトを受けて以降は、クリーチャー絡みの疑いがある文書や資料の閲覧権を貰っている。“本物”の多くは一般人にクリーチャーの存在を秘すため極秘とされ管理されているからな」
「なるほど、そういう特権も望めば貰えるんですね」
「お前はどうなんだ?」
「へ?」
その問いかけにサキトは困惑する。
「お前は真のデュエリストとして、命を懸けて戦う事に対する対価を要求する気はないのか?」
「え?えー……欲しい物と言われると……」
給料は正直空恐ろしくなる額を貰ってこれ以上を望むのは罰が当たるというもの。
名声や権力は仕事の内用上得ることはほぼ無いだろうが、サキトには無用の物。
「正直思いつきませんね……」
「無欲な奴だな、だが他に無い報酬は得られるならば得るべきだ。モチベーションの源無くしては、どこかで虚しくなり闘志も気力も失せるかもしれんからな」
「むう……あ、一つだけあったかもしれません」
「ほう?」
サキトはデッキケースからカードを取り出す。今や彼と戦いを共にし、命を預ける相棒たちだ。
「この間から、彼らを見つめながら集中すると少しだけ声が聞こえるようになりまして。夢うつつの状態では時々会話も出来る感じです」
「……確か、『契約』に至ったらしいな」
「あ、もう周知されてるのか。はい、俺の相棒ドギラゴンと、契約を結び一つになって……」
「説明は受けたのか?」
「ええ。よ、っと」
デュエマフォン・アプリを操作し、モルナルクとの戦い以後アンロックされた情報を画面に表示させてゆく。
デュエルテクターの更なる力、解放されたその真価。
「『コントラクトアーマー』……クリーチャーと言葉を交わし、契約を結べる段階に至った者が使えるようになる形態か」
「なんでも契約代償の軽減をしてくれるとか……ドギラゴンは契約には生命を、寿命を削る程のマナによる代償が伴うと言っていましたが、これのお陰で体力消耗程度に抑えられてるらしいです」
「あちら側はその代償軽減に納得しているのか?」
「聞いてみたんですが、彼の気質的に契約者の命を削るのは本意では無かったので良い事だった、って言ってくれまして」
「ふむ……契約を交わすクリーチャーの気質次第か。俺の場合はどうなるかまだ分からんな」
今の所、DGAの実働部隊員で契約に至ったのは全国でもサキトが初の例だったらしい。
デュエルテクター自体に真のデュエリストとしての素質を成長させてゆく効果があるらしいが、サキトの成長は他より早く進行していたとの事だ。
「こうして彼と言葉を交わせるようになった事自体が今の所一番の報酬かもしれませんね。そのうちデッキや手持ちの他のクリーチャーとも話せるようになりたいかなと」
「……成程、自らの素質の成長が最大のモチベーションと言うタイプか」
「ダメですかね?」
「いや、お前なりの戦う理由があるならばそれで良かろう」
リュウは立ち上がるとコーヒーを飲み干し、腕時計を確認する。
「……そろそろ時間だ、俺は仕事に戻るとしよう」
「お疲れ様です。売り上げはどうですかね?」
「デュエマに関してはぼちぼちだな……来月出る今年度のレギュラーパック第2弾で環境がどう変わるか次第だな」
「俺は8月予定のドリーム英雄譚デッキが楽しみですね。なんせ『ドギラゴンの書』が俺の誕生日に出る訳ですから!」
「ほう、それはめでたいな。予約は済んだか?していないならうちで受け付けるが」
「では是非2箱ほど!」
3か月後には相棒が新たな姿を得て、デッキが更なる発展を遂げる事となる。その未来をサキトは待ち遠しく感じていた。
さて、3か月後と言えば。
「翌日には栗茶fesにうちの後輩達が出るらしいんで、日曜の店舗大会は出れそうにないかな……」
「この間のドラゴン娘達か?」
「ええ、うちの軽音部のバンドが割と有名で元々参加予定だったらしいんですが、チラシ見たら生徒会メンバーが出演者に入ってたんですよね」
「それは……大丈夫なのか?彼女らに音楽経験はあるのか?」
「……さぁ?まあどちらにせよ応援には行ってやりたいかなと」
「成程。まあ、好きに応援してやれ」
そうして、その日は予約を済ませサキトは帰宅するのであった。
* * *
深夜、日付も回った頃。サキトは彼の家の庭にて、デュエルフィールドを展開していた。
クリーチャーが出現した訳ではない。契約を結んで以降、彼は夜中に一つのルーティーンを設定していた。
『Contract armor awakening.』
「よし、タイマーもセット……行くぞ」
コントラクトアーマーを発動。ドギラゴンの鎧を身に纏い、剣を振るい始める。
1日置きに、この同化状態での剣の練習と、体力増強のトレーニングを彼は繰り返している。
目標は、同化状態の維持可能時間の延長である。
(現在無理なく使える時間は3分、それを超えると反動がキツくて5分を超えればぶっ倒れる。出来ればもっと戦える時間は伸ばしたい!)
デュエルのルールのみでは対処しきれない強大な相手と戦う可能性が今後もある以上、少しでもこの力の使用時間は伸ばしておきたかった。
特にゾーン内であれば、強敵を倒してもその後動けなくなっては死を待つのみだ。使いこなせるようになるのは死活問題と言える。
(……ドギラゴン、貴方から見てどうかな)
『剣筋は悪くは無い。同化時間に関しては……まだ10秒伸びるかどうかだな』
(やっぱりそう簡単には伸びないかぁ)
こうして同化している間は、夢を見る間と同様に相棒との会話も出来た。
憧れの英雄とこうして会話を交わせるのは、サキトにとって素晴らしき時間だ。
『それと、試しておきたい事がある』
(何ですか?)
『私のもう一つの力を、この同化中にサキトが扱えるかどうかだ』
(もう一つの力……ああ、なるほど!しかし、可能なのかな)
『試して見なければ始まらん。やってみよう』
(了解!……掛け声とかで息を合わせた方がいいかな)
『ああ、それは効果があるかもしれん。となれば、内容は一つだな』
すぅ、と深呼吸をする。そして、2人の声が1つに重なる。
「『革命チェンジッ!!』」
掛け声と共に、纏った鎧が変化する。より重厚になり色は蒼く、背の外套は赤く、手にした剣は反りのある刀状に。
ドギラゴン閃の力から、ドギラゴン剣の力への切り替え。進化や派生が多いクリーチャーとの契約者なればこそ可能な手法と言えるだろう。
しかし。
「ぐ、ぬぉ……っ、身体がまだ重い……!?」
『まずいな、解除するぞ!』
サキトへとかかる負担が増したためか、ドギラゴンの意志で同化が解除される。庭の芝生へとサキトは倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ……直接契約ではないからか、チェンジすると消耗が強くなるのか……!慣らしが必要だな、こりゃ……!」
その力を十全に使いこなし、自在な攻めが出来るようになるには……もう暫くの訓練が必要になるだろう。
何やら今週金曜からwebの週刊コロコロコミックにて「ドラゴン娘になりたくないっ!」のコミカライズ版が掲載スタートしていました。
小学館IDを登録しておけば他のデュエマ作品も見れるので中々ありがたいですな。