──────5月27日。
今のところは何も無い、平和な月曜の午後。昼休みに入り、サキトは昼食を取ろうとしていた。
「さーて、今日の弁当は……っと」
毎朝弁当を拵えてくれる母には感謝してもし足りない。サキトは金の余裕もあるので今度から買って食べると言ったのだが、バランスのいいものをと言って結局作るのをやめないでいる。
「んじゃいただきま──────」
「す、すみませんっ!護守先輩はいらっしゃいますか……っ」
「あ、生徒会長だ」
「ん?」
ちょうど手を付けようとしたところで、アーシュが教室まで訪ねて来る。
「急にどうしたのかな会長、今お昼なんだけども」
「ちょっと、ご相談したいことがあって……」
「えー……他の友達じゃだめな感じの相談で?」
「そうなんです……っ」
周囲を見渡すサキト。友達がダメならほとんど面識ない者ばかりのこの教室でもダメだろう。
「……うーむ了解です。んじゃ場所を移しましょうか。」
「おいおい会長から相談って随分仲いいじゃないの?」
「生徒会の業務を手伝ったことがあるだけだよ。んじゃな」
実際嘘は吐いていないが真実全てというわけでも無い言い方で追及を断とうとするサキト。
弁当と鞄を手に教室を後にし、人が少ない場を目指してゆく。
「あれ?先輩とアーシュちゃん?」
『屋上に向かってるのかな』
「ほう……?」
* * *
「──────という事になっちゃったんです」
「あー……フェスの手伝いと聞いてたのに出演者にされてたと」
アーシュからの相談内容は、栗茶fesの事についてだった。弁当のおかずを咀嚼しながら聞いていたサキトも少々頭を悩ませる。
「校長は相変わらずだな……」
「それで、皆はもうノリノリなので、出演者として話を受けるつもりは無かったって言い出せなくて……」
『なるほど、大変だね』
「ひぃ!?」
屋上の塔屋の陰で話していた所に聞き覚えのある電子音声で声がかけられる。
見ればドーラ、∞、しのぶの3人が顔を出していた。
「すまぬな流星アーシュ、聞き耳を立てるような真似をして」
「び、び、びっくりしました……っ」
「アーシュちゃん、角が出とーばい!他に生徒来たら大変やけん早よ戻して!」
「うえぇ!?はっはい!落ち着かないと……っ」
『それでどんな相談がしたいのかな?出演辞退を切り出すわけじゃないんでしょう?』
アーシュが深呼吸し落ち着くのを待つ。飲み物を一口飲みようやく角が引っ込むと、彼女が話を切り出した。
「う、歌や演奏についてのアドバイスとか、何か無いでしょうか!?」
「「『「無理」』」」
「即答!?」
4人揃って首を横に振る。友達の力になりたくとも、こればかりは難しかった。
「聞いてやりたいとは思うけど、俺は音楽じゃ座学も実技も平均点程度でなぁ……」
「右に同じばい」
「儂も空手一筋じゃったから、人様に歌を教えるほどの腕前ではないな」
『ゲーム音楽はよく聞くし音ゲーは出来るけど、実際の楽器を演奏できるかは別問題』
「あぁ、そうですよねぇ……」
「俺の母さんは昔合唱部だったって聞いたことあるけど……バンドは別物だろうしなぁ」
その上共演者が校内で有名なJack-Potともなれば、素人の助言がアテになるはずもない。
「他にアテになりそうな人も……あー、ダメ元で当たってみるか」
「む、電話か?」
スマホを取り出すと、アドレス帳から番号を選び電話する。スピーカーモードにして全員同時に聞ける状態にもしているようだ。
『──────もしもし、護守くんかな?』
「お昼中だったらすみません天道さん。ちょっとお聞きしたい事がありまして」
『おやおや。何が聞きたいのかな?デュエマの話かそれとも───』
「ああいえ、相談したいのは俺では無く後輩がです」
『ふむ?』
電話の相手は、同僚となった天道アンナだ。経験の有無とは別に、大人の方が有用なアドバイスをくれるかと踏んで連絡を入れたようだが……。
『どちら様?』
「学外の知り合いか、DGAとやらの仲間じゃな」
『おやおや……新しい護守くんの知り合いかな。私は天道アンナ。護守くんの……ふふふ』
「えっ、なんなん?どげな関係と!?」
「意味深に濁すのやめてくれません?ただの同僚かつ初めての大会での対戦相手なだけだから」
『ははは、すまないすまない。それで誰が相談したいのかな?』
「わ、私です!流星アーシュです!」
かくかくしかじかと、栗茶fesとバンドの事を伝えてゆくが、相槌を打つアンナの声色はあまり良くないようだった。
『なるほど……残念だが、私も力になれそうにない。歌うのは嫌いではないが私は所謂、音痴というやつでね』
「え、そうなんですか?」
「それはちょっと意外だな……普通程度にはこなせそうなイメージありましたけど」
『ふふ、一度聴いてみるかい?驚くよ』
「それじゃあ、試しに……」
この選択を、サキトは後悔する事となる。
『すぅ……──────』
〇×△□#$%──────!!
「「「「「!!?!?!??!?!?!!?」」」」」
* * *
『ふぅ。さて、私の腕前を分かってくれたかな?』
「痛いほど良く分かりました……!」
「く、くらくらするばい……」
『歌でダメージを受けるなんてゲームだけだと思ってたよ』
調子外れなうえ裏声がキンキン響いて、本気で聴覚にダメージを受けそうな始末であった。
流石にこれ程のレベルだとは予想だにしていなかった。
『いやあ、生まれてこの方、カラオケで30点以上取ったことが無くてね』
「それはある意味凄いな……」
「む、無理言ってすみませんでした……」
『ともあれ、何事も上達するには練習と他人の模倣が第一歩といった所だろう。頑張りたまえよ』
そう言って電話は切れた。耳が落ち着いてきた所で、中断していた昼食を再開しながら話を続ける。
「最後の言葉はもっともらしい感じでしたけど……参考になりますかね?」
「上達した事が無さそうな者の助言か……」
『酷い言われようだけど、あれを聴いた後だとちょっと否定し辛いね』
「あ、あはは……結局んところ、上手か人に教わるとが一番やて思うばい」
「上手な人、かぁ……」
結局悩みが解決しないままだ。どうしたものかと考えていると……
「Hey!そこのyou!歌が上手くなりたいのかい!?」
「うえっ!?なんです!?」
いつの間にか塔屋の上に男子生徒が立っている。耳には金色のヘッドホンを装着し、何故か6個ものスピーカーを背負っていた。
「ならば♪オレと♪練習だ♫オレのsongを♪真似なきゃ損々♫『♪古池や 蛙飛び込む スパイラル』♪」
「えっえぇえ!?ちょっ、いきなり言われても!」
「というか、ラップやなかとこれ」
「最後のは俳句の改変ではないか、なんなんじゃこやつは」
ツッコミを入れる彼女達を他所に、無言でサキトがアプリを起動させてゆく。
『先輩、もしかして』
「ああ、そういう事だよ。会長!そいつクリーチャーに憑かれてます!!」
「えぇっ!?」
『Duel field expansion. Dueltector summoning』
赤い光の幕が広がり、屋上が完全に隔離される。敵のデータが表示されると、サキトは舌打ちした。
「《
「なんじゃその珍妙な名前は!?」
「デュエマでも比較的新しいカード……俳句を元ネタにした特殊な呪文『マジック・ソング』の使い手です!そしてこいつの能力は……!」
サキトがボルシャック・栄光・ルピアをマナに送ると同時に、ドーラが仕掛けてゆく。
「速攻で倒せば問題無いわ!」
「おっとBadな攻撃♪but俺の反撃♫『♪五本まで 集めて林 森ジャングル』♪」
DJと化した生徒がハイクを詠むと、ドーラ達の身体に浮遊感が襲い掛かる。
「なっ!?」
「ちょっ、吸い込まれてます!?」
「なんが起こっとーと!?」
「……!」
空中に現れた穴へと4人が吸い込まれていく。その向こうにはそれぞれ別の景色が──────。
「……ええい!
敵とサキトのみがフィールドに取り残されてしまうのであった。
* * *
「あいたぁっ!?」
アーシュは生徒会室へと。
「ぐえっ!」
ドーラは空手部の道場へ。
「がぼごぼぼ!?」
しのぶは屋外プールへ。
「……!」
∞はゲーム部部室へと。各々の縁深い校内の場所へ一瞬で飛ばされてしまったのだ。
* * *
「攻撃するたびに5体までバウンス出来る、厄介な能力だ……!」
サキトのシールドは残り3枚。D-Jealousy-灰撫はWブレイカー持ちの上、攻撃時にバトルゾーンにある自分のツインパクト・クリーチャー1体の呪文側を、バトルゾーンに置いたままコストを支払わずに唱える事が出来る。
自身がツインパクトクリーチャーであるが故に、バウンス効果を使い放題というわけだ。
「トリガー無し……まあまだ問題は無い、メガ・マグマ・ドラゴンをマナへ送りメンデルスゾーン発動!」
捲れた山札の上2枚からドラゴンをマナゾーンへ送る呪文、だが。
「げっ!?ここでか!?」
捲れたのはメメント守神宮と、2枚目のメンデルスゾーン。現在のデッキ構成で完全なる不発はそう起こらないはずであるというのに!
「ハッハッハァ!Bad luckなbad boy!」
「誰が不良だしばき倒すぞ!」
「マジなbattleを飾るのは♪Magicなsongの他に無し♪」
「ええいうざったい!」
更にシールドを叩き割られる。再びトリガーは無し、だがチャンスは来た。
「俺のターン!手札のホーリーグレイスをマナへ送りボルシャック・栄光・ルピア召喚!マナをチャージしろ!」
『お安い御用っぴー!』
デッキトップからカツキングが、更にバルキリールピアが送られた。これでマナは5点、いよいよ準備は整った。
「Let's協演♪最後の狂宴!」
『Whoooooooo!!』
「ちっ、ここに来て増援出して来たか……!」
更なるクリーチャーが呼び出される。現れたのは《
『オレの歌を聞きなぁ!』
「ちぃっ!」
シールドが破砕され、最後のトリガーは……なし!
「これでlastさ♪ド派手にthrust!」
ダイレクトアタックがサキトに迫る──────。
「その攻撃、ちょっと待ったぁ!」
「なにぃ?」
「《ボルシャック・ドギラゴン》の“革命0トリガー”……発動っ!!俺がダイレクトアタックを受ける時こいつを発動し、山札の1番上によっちゃぁ……ボルシャック・ドギラゴンを場に出す事が出来る!」
これが、彼に残された最後のカウンター手段。盾を失った状態でのみ発動できる、不利な状況をひっくり返す革命の力。
進化でない火文明クリーチャーがデッキトップにあれば、ボルシャック・ドギラゴンが場へと降臨する!
「行くぞ!デッキトップ、オープンっ!!」
運命の1枚は──────。
「……来たぜ!《ボルシャック・サイバーエクス》!火/水の多色クリーチャーなので、こいつを場に出し……ボルシャック・ドギラゴンに進化するっ!!」
赤と青の巨大な手甲を身に着けた竜が現れ、瞬時にその姿が変わる。赤い装甲に蒼い炎の翼、両腕の手甲に輝くは、拳を突き上げる革命軍の印。
『オォォオオオォオォッ!!』
「サイバーエクスの登場時能力と、ボルシャック・ドギラゴンの登場時能力が発動っ!まずはサイバーエクスの能力で、お前はそちらの一番パワーが低いクリーチャーを選んで破壊しなければならない!当然、その対象はNapo獅子-Vi無粋のみ!」
『おあああああ!?』
Napo獅子-Vi無粋が粉砕される。場を離れた時に自身のツインパクト呪文効果……相手のコスト2以下のエレメントをすべて破壊するものが発動するが、サキトの場にはコスト2を下回るカードは無い。
「そして、ボルシャック・ドギラゴンが場に出た時、相手クリーチャーを1体選び……強制的にバトルさせる!」
『返り討ちだっ!!』
「俺が退場!?この世は無常──────!!」
ボルシャック・ドギラゴンの拳が叩き込まれ、D-Jealousy-灰撫に憑りつかれた男は宙を舞い……屋上の床へ叩き付けられるのであった。
* * *
「先輩、大丈夫ですか!?」
「あー、どうにか終わったよ。クリーチャーの憑依も解けた。そっちは大丈夫か?」
「幸い全員、人のおらぬ場所へ飛ばされたからな。ドラゴンの特徴も見られずに済んだ」
「うちはプールに落とされて、ジャージがびしょ濡ればい……」
『災難だね』
「とりあえずこいつ保健室に連れてって……終わったら昼休みもそろそろ終わるな」
騒動のせいで、アーシュからの相談も結局半端に終わってしまった。サキトにとっては少々歯がゆいばかりだ。
「すまんね、あまり力になれなくて」
「いいえ、皆さん聞いてくれてありがとうございました」
「うむ、頑張るのだぞ。本番は部活の関係で聴きに行けそうに無いが……」
「うちは大丈夫そうやけん、応援に行くばい!」
『成功を祈ってるよ』
「は、はいっ!」
一応気力は湧いたようで何より……だろうか?
本家のストーリーはJack-Potメンバーがドラゴン娘となりましたが、果たして校長か別の龍神の仕業なのか次回の更新が気になるところ。
あと、会長たちのMVはたいへん良かったです。