──────2024年6月23日。
前日には新弾が発売され、デュエマの新たな環境が始まったばかりの日。
実働部隊員3人でショップに集まり、軽くフリー対戦を行い……デッキを新調したアンナにサキトは見事ボコボコにされ──────。
「いかん、ハーデスに出られると死ねる……!」
「2弾続けて天門は環境上位に居続けているな……」
「ふふふ、新しいアルカディアスも戦線に加わって好調だよ」
一先ずデッキ調整なども終え、翌日も同様に交流会を行う……はずだったのだ。目が覚めたら、寝室ではなく見知らぬ草原にいたという状況で無かったなら。
「──────夢か、もうひと眠りするかな………」
『先輩、夢じゃ無さそうだよ』
「へぁ?」
頭をつつかれサキトが目を開けると、そこには∞の姿。何故かローブのようなものを羽織っている。
他にも軽装の道着にナックルガードを身に着けたドーラ、軽鎧を纏いモーニングスターを持つジュラ子、大きなとんがり帽子を被ったマロン、何故かクノイチ的な黒装束のしのぶ……と、アオハル組が勢揃いしている。
「皆なんだその格好?」
「さあの。儂らも目が覚めたらここにこの格好でおったわ」
「そういう先輩もFantasyな服装ですわよ?」
「いつの間に!?」
サキト自身も鎧に剣と盾という、いかにもな騎士的ルックスと化していた。
「何だかうちだけ恰好が浮いとー気がするっちゃけど……?」
「一人だけ和風とは、世界観を何だと思ってるでしか」
「いや蒼斬さんに言っても仕方ないんじゃないかな……最近は脈絡なく和風キャラ出て来るファンタジーもあるし」
「それで結局ここはどこで……む!?」
ともかく状況を確認しようとしたところで、足元が急に光り出す。眩しさに皆目を瞑ると、次の瞬間には神殿のような場所へ移っていた。
『転移魔法とかかな』
「∞ちゃんは順応が早かねえ」
「まあアニメやゲームで定番の展開ではあるからね……しかし自分が体験する羽目になるとは」
そんな6人の前に宙に浮く人影が現れる。球体関節を持つ、少女の姿をした等身大の人形、といった姿だ。
「ようこそ、私は神の使い。あなた達をこの世界に召喚しました」
「神の使い……ねえ」
サキトが胡散臭そうにその人形少女を見る。彼女の特徴はデュエマのクリーチャー、《神徒 メイプル-1》のもの……王来篇における敵勢力「ディスペクター」の配下種族たる「ディスタス」の1体である。
正直信頼していいのか怪しい所だ。
「我が輩たちを召喚した理由は何でしか?」
「あなた達の力でどうか魔王を倒して、この世界を救ってください。さもなくばこの世界は、あと10時間で滅びてしまいます」
「猶予が短すぎるばい!?」
「Catastrophe待ったナシですわ!?」
「ち、ちなみに滅んだ場合どうなる……?」
「元の世界には帰れなくなるでしょう」
「ふざけんな!?」
見れば全員の腕に、タイムリミットまでの時間が表示された腕輪が付けられていた。ご丁寧にデジタル表記で1秒ずつ残り時間が減っていく。
「昨日召喚した勇者たちは残り数分のギリギリで世界を救いました」
「1日で魔王が復活でもするのか?なんと物騒な世界じゃ」
「と、とにかくLevelを上げましょう!Hastily!」
「ではがんばってくださ~い」
「なんと無責任なヤツでしか……!」
ともかく、ゲームのように野良モンスターでも狩ってレベルを上げるしかない。そう思い急ぎ足で神殿を出ようとするサキトであったが……。
『先輩、少し待って。今解析してる』
「か、解析てほんとにゲームじゃあるまいし……」
『できた。まずはマップのこの場所にいくよ』
「できちゃうんでしか!?」
「本当にRollPlayingGameの中みたいな世界ですのね……」
まずは∞の指示に従い、地図に記された場所へ行くことになったのだった。
* * *
『ここだね。じゃあまずしのぶ、この岩の上に立って』
「∞ちゃんの指示ならお安い御用ばい!」
∞の指示に従い、森の中の広場にある岩の上に立つしのぶ。
『これから指示通りの方角を向いて』
「えっと、北はどっちと?」
「ふむ……あっちの山のある方じゃな」
『いくよ。北、西、東、南、北、東、北、東……』
しばし指示通りの方向を素早く向き続けるしのぶ。おおよそ10秒ほどかかっただろうか。
『そのまま一歩前に動いて』
「こうやね!」
しのぶが一歩動いた瞬間、がさっ!がさがさっ!と眼前の茂みが激しく揺れる。
「誰ですの!?Freeze!大人しく出て来なさい!」
その声に反応したのか、金色に輝くスライム?のような敵が数体現れた!
『成功。裏技ではぐれゴールドクリーチャーを出現させた』
「いいのかなぁ!?グリッチなんて使っていいのかなぁ!?」
所謂ゲームにおけるバグを利用した裏技、それがグリッチである。そんなもんが通じる世界である事にまず不安が出て来るサキトであった。
「世界がバグって帰還不能とかにならないかこれ?本当に大丈夫!?」
『影響度の低いものを使ってるから大丈夫。あ、しのぶ。攻撃する前に腕時計に何回か触れて』
「?こうすりゃよかと?」
何度か残り時間が表示された腕輪に触れる。すると何回目かの所で∞がストップをかけた。
『ストップ。その状態で刀で攻撃して』
「わかったばい!てやー!」
しのぶが斬り付けると、1発で堅そうな金スライムの身体が真っ二つになり消滅した。
「乱数調整が通じる異世界って何だぁ!?」
「さっきから五月蝿いぞ護守サキト!」
「これが突っ込まずにいられるかぁ!?」
メニュー画面の呼び出しと閉じるを繰り返し、攻撃におけるランダムな数値の発生を調節する乱数調整まで通じた事にサキトが喚く。なんて適当な世界だ!?
『みんなも指示通りに。これを繰り返してすぐにレベルと資金をカンストさせる』
「何か色々と間違ってる気がするでしが、早く帰れるならそれに越したことはないでしからね!」
「ええい、やってやる──────!!」
そうして戦闘する事3分。彼らのレベルは全員99のカンストまで至ったのであった……。
* * *
『次はここで裏クエストを出現させて究極魔法を習得する』
「情緒もへったくれもねえ……っ」
常に薄暗い秘境の地。ここに現れるクリーチャーを倒して得られる究極魔法を求めて彼らはやって来た。
『先輩はRPGはじっくり派だった?』
「そういうわけでもないけど街の人から話聞いたりとか、戦いの中での交流とかもっとこう……あるだろ!」
「ジュラ子も少し気持ちは分かりますわ……」
そんな風にわいわい騒いでいると、地響きと共に目的のクリーチャーが現れる。巨大な体躯に6本の蟲のような足、そして2本の龍の前脚を持つ異形のドラゴンだ。
『グオォオォオォォオ……』
「あれは……《傲慢の悪魔龍 スペルビア》か?」
『あれを倒せば究極魔法が得られる。いくよ』
「儂らの力を見せてくれようぞ!」
躍りかかっていくアオハル組を見て慌ててサキトも剣を構え突撃していく。
裏クエストのボスであるためそれなりの強敵ではあるのだが、ステータスカンストに加え上質なアイテムを得た彼らの前には……。
「決着でし!」
『これで準備完了。ラスボスを倒しに行こうか』
「先輩、大丈夫と?」
「ツッコミ疲れて来たよ俺は……」
戦闘以外の面で疲弊しながらも、順調に攻略を進める6人。1時間と経たずに早くもラスボス戦へと向かうのであった。
* * *
『なんと、これほど早くやって来るとは思わなかったぞ、異世界の勇者達よ……!』
「こっちもそう思ってるよ……しかし、まあ確かに魔王っちゃ魔王だが……」
最後に待ち受けるラスボスたる魔王、その姿はやはりサキトが知るクリーチャーのものだった。
《月と破壊と魔王と天使》……十王篇に登場するキングマスターの一角、月光王国の主だ。両腕の銃砲をこちらに向け、先手を打って魔力弾の弾幕を撃ち込んで来た!
「猪口才な!はぁあっ!」
ドーラが渾身の蹴りを打ち込む……が、レベル最大でありながらそれほどダメージが通らない。
「What?ジュラ子達の装備とステータスならすぐに倒せると思ってましたのに……!」
『こいつには効率よくダメージを通すための弱点があるね。今解析するよ……』
「いや、待ってくれ帝王坂さん」
「どげんしたん先輩?」
額に手を当て考え込むサキト。彼が知るクリーチャーの知識、そして背景ストーリーの知識から導き出されるのは……。
「っ!思い出した、こいつは影の中に本体がある!」
「影の中でしか!?」
「ああ、俺が知るクリーチャーよりはギミックが弱体化してるが、恐らく影の中の本体と今戦っている外側の身体、両方に同時攻撃を食らわせないと効率的にダメージを与えられない!」
『……解析できた。弱点は先輩の言う通りだね』
「Excellent!素晴らしいですわ先輩!」
「ならば二手に分かれて、影の中へ入る者とこのまま攻撃する者に分かれようぞ!」
ドーラ・マロン・ジュラ子がそのまま残り、サキト・∞・しのぶが影の中へと突入する。
暗闇の中にはネガポジ反転させたような色の魔王と天使が存在し、攻撃を仕掛けて来る!
「なんのこれしきぃ!」
『皆タイミングを合わせて。いくよ』
「「「「『「はぁあぁぁあっ!!」』」」」」
6人が息を合わせ、同時に武器と究極魔法を叩き込む。その総攻撃に、魔王はひとたまりもなく──────。
『グアアッ────!?』
* * *
『congratulation!』
腕輪のカウントダウンが止まり、祝福のメッセージに書き換わる。これで目的は果たしたということになる。
「勇者達よ、ありがとう。あなた達は見事魔王討伐を果たしました。元の世界にお帰り下さい」
「なんか声色が投げやりやね」
「まあ色々と滅茶苦茶やったでしからね……」
「結局1hourで片付きましたわね!」
「儂らにかかればこんなものよ!」
神殿へ送られた時のように光が彼らを包む。どうにか無事に、元の世界へと戻れるようだ。
「どっと疲れた……今日は予定変更して休ませて貰おう……」
『なら後でオンラインプレイでもしませんか?』
「いいけどタイムアタック系は勘弁してくれると助かるよ……」
そうして瞬きをした瞬間、サキトは自身の寝室へと戻っていた。
「ほんとに夢だった……ってわけでも無いなこの疲労感は」
スマホを見れば、早速∞からメッセージが入っている。やはり夢ではなく彼女も体感していたようだ。
「ともかく天道さんと井星さんにメールして……オンラインは午後からにしてもらうか……」
そうしてメッセージを各々に送った後、疲れを癒すため再びベッドへと倒れ込むサキトであった。