ドラゴン娘と決闘者   作:偽りの名 ニーサン

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作中時間は7月に入り、終業式へ。
話全体における2度目の区切りも近くなってまいりました。


Ep.18:護守サキトと終業式

「えー、今日は1学期の終業式じゃ。4月から始まった今年度の授業も一区切りとなり、明日からは皆が待ちかねた夏休みの始まりじゃ」

 

──────2024年7月22日。

桜龍高校はこの日、1学期の終業式を迎える。明日からはついに夏休みだ。

かなり遅れた梅雨も先週にようやく明け、日々気温が増して来ている。遅れたとはいえある程度ちゃんと雨が降ったのは僥倖だ。もし本来梅雨の時期に雨が降らなければ、東京は深刻な水不足に陥ったであろう。

校長の長い話を聞きながら、サキトはそんな事を考えていた。

 

「(明日からやっと夏休みかー)」

「(どっか行くの?海とか?)」

「(いやー、暑すぎてそんな気力ないかも……)」

 

周囲ではひそひそと他の生徒達が話す声も聞こえる。いよいよ始まる夏休みにワクワクする者、暑さに気が滅入る者、様々な生徒がいる。

 

「(今年は焼き鳥の夏かねえ……)」

 

などとサキトは思考を巡らせる。焼き鳥と言っても食べ物の話ではない。デュエマの話、「ファイアー・バード」デッキの話である。

《コッコ・ルピア》等を代表としたファイアー・バード達は、「ドラゴンの友」と称される事もあるドラゴンサポート種族として長い歴史を持っていた。

それが、2日前に発売された特殊弾で強力な新規を多数得た事により、ドラゴン抜きでも暴れ倒し始めたのだ。いや、ドラゴン複合のファイアー・バードも多く存在してはいるが。

既に各地で上位入賞の報告もあるらしく、環境が大きく変動し始めていた。

 

「(とはいえ今のデッキの形を崩すのはなんだし、クリーチャー戦には向かないデッキっぽいから試運転止まりかね)」

 

そう、環境上位のデッキがクリーチャー戦にも優位とは限らない。なにせ除去以外の妨害……手札を捨てさせるだの、コスト踏み倒し無効化だのの妨害は対人では強いが、最初から高コスト高パワーのクリーチャーがいる状況では有効にはならないのだから。

手札もデッキも持たずシールドも無い、「相手プレイヤーがいない」クリーチャー相手の戦いはセオリーが全く違うのだ。

 

「──────というわけで、夏休みの間怪我や病気に気をつけ、羽目を外し過ぎないよう。以上じゃ」

「(っと、話も終わりか)」

 

校長の話が終わり、生徒達は礼をする。一旦教室に戻れば後は部室で部員達に挨拶してから帰るのみ、ゲーム部であるサキトは夏休み中の活動も特にない。

定期的な備品チェックのため登校する日以外は、ほぼ学校に足を運ぶ事はないだろう。

 

 

* * *

 

 

「お疲れ様でした部長、2学期はまたよろしくお願いします」

「ああ、また9月に会おう」

 

ゲーム部の活動も一旦の締めくくりだ。部員達は集まって夏の予定などについて駄弁っている。

 

「部長は夏休み中の予定は?」

「コミケの一般参加くらいかな、今のところは。ネットの知り合いが本出すらしいからな」

「ほー、それは精力的な」

「エッチな薄い本ですか!?」

「こら18歳未満!」

「副部長はそっち行ったりはしないんですか?」

「デュエマは公式の規約で有償二次創作出しちゃいかんからなー、健全不健全に関わらず本は出せんから行って漁るような事も無いよ」

「なるほどなぁ」

 

無償で配布するという形式にしても、転売する輩が出てトラブルになりかねないので物理書籍で出さない方が無難である。ネットでの無償公開以外は基本NGなのだ。

 

「特に旅行の予定も無いし、オンラインで何かやるかカードショップの行き来くらいかね」

「なんて言いながらデートの1つや2つ……」

「相手がいない。以上」

「そんな事言ってるが、生徒会の子達と仲いいらしいじゃないか」

「部長まで……生徒会の皆さんとはそんなんじゃないですから」

 

仲がいいとしてもあくまで友人としてのものであって、男女の云々はサキトと彼女達の間には存在しない。

それに最近の彼女達はJack-Potに直接バンドの指導を受けていると聞く。部外者のサキトが遊びに誘うなどの時間を取らせて練習の邪魔をしたくはなかった。

 

「まあ副部長はデュエマ一筋で女子に興味は無いと。面白みのない答えですなぁ?」

「失敬な奴だな。まあいいや、俺はとりあえずこの辺で失礼するよ」

 

帰り支度を済ませ、サキトは一足先に部室を出て行こうとする。

 

「あと、告白予定は無いが一応好きな子くらい俺にもいるわ。そんじゃ」

「「「「え゛」」」」

 

扉を閉じる間際にそう言い残し、サキトは去って行った。

 

「副部長!?その辺詳しく……!」

「あっもういねえ!逃げたなあいつ!」

「あの副部長に恋バナとか気になり過ぎるわ!?」

「夏休み過ぎたら突っ込まれないだろうからって置き土産していきやがって!!」

 

ぎゃーぎゃーと喚きながらゲーム部員達の何人かは彼の行方を追うのであった。

 

 

* * *

 

 

『しのぶ』

「なあに∞ちゃん?」

『護守先輩、好きな子がいるんだって』

「え゛っ」

 

帰り道を共にする∞としのぶが、先のサキトの発言に関して話していた。しのぶはそれを聞くと誰が見ても分かるレベルで驚いている。

 

『気になるんだ?』

「べっべべべ別にそげんこと無かよ!?うちは∞ちゃんの忠実な犬やけん、先輩のことも良かなんて」

『先輩の好きな人が気になるか聞いただけだけど』

「うぐっ……」

『先輩のどの辺が良いの?』

 

完全にそういう前提でしのぶに話を振る∞。なんだかんだ長い付き合い、彼女には誤魔化せそうもない。

 

「その……戦ってる時の真剣な先輩はばりかっこよかし、普段は……最近なんかよく部活の帰りに付き合うてくれて」

『そうなんだ?』

「うん。その時自然に車道側に先輩がおって、そんな気遣いもできる人なんやなって」

『そういう所もあるんだ。部活中の先輩からはあまり想像つかないね』

「それに、先月は気温が低か日の部活終わりにぬくか飲み物ば用意してきてくれて」

『何度か給湯室を借りてたみたいだったね』

 

少し考え込み纏めてみると、∞も一つの可能性に思い当たる。

 

『それだけしのぶに構ってるのは、先輩もしのぶの事が好きって事なのかな』

「そうなんやろうか……この間聞いてみた時はよう分かっとらんて感じやったけど」

『自覚ができたのかも。でも、それなら告白予定は無いって言ってたのが気になるね』

「そげなこと言っとったん?」

『フラれるのが怖い……なんてことは先輩に限って無いかな。ゲームやってる時はチャレンジャーだから』

 

ゲームのマルチプレイ中や卓上ゲームに参加する時のサキトは、失敗のリスクを恐れず踏み込んだプレイをする事が多い。故に戦績にムラはあるが、そこも含めて楽しんでいる節がある。

デュエマではビートダウンに寄ったデッキを握るのも、その表れであろうか。

 

『先輩自身に聞いてみるしかないけど、私が聞いても誤魔化されそうだね』

「うーん……夏休み中に会えるか後で聞いてみようかな」

『流石にしのぶ自身から聞かれたら逃げも隠れもしないとは思うけど、しのぶ自身も練習とか大会とかあるよね』

「うん……時間ばとれるかな」

『DGAの仕事次第だろうね。夏場の夜は特に忙しくなりそうだし』

「とりあえず、機会を伺ってみるばい。それじゃ∞ちゃん、ならね~」

『うん、またねしのぶ』

 

 

* * *

 

 

『クハハハハハ!ワシの拳を喰らえい!』

「ちぃっ!」

『ぴぃいぃぃー!』

 

同時刻。燃え盛るリングの中で、サキトとクリーチャーが戦っていた。

D2フィールド《Dの炎闘 アリーナ・カモーネ》を扱う、炎を動力に動くロボットのようなマスター・イニシャルズ《D2G ゴッドファーザー》が、サキトが召喚した《友情地龍 ルピア・ターン》を殴り倒すと同時に、フィールドの効果で最後のシールドが打ち砕かれる。

シールドトリガーは無し、その上ゴッドファーザー自身の効果が発動する。

 

『ワシは勝てば勝つほど体が温まり、より鋭く動ける!これで貴様も終わりよ!』

 

ゴッドファーザーの能力は、クリーチャーとのバトルに勝てばアンタップし再度攻撃出来る力。がら空きのサキトへとその巨腕が振るわれようとする。

 

「ただでさえクソ暑いのにこんなフィールド展開しやがって……!だがそれもここまでだ!ボルシャック・ドギラゴンの革命0トリガー、発動っ!」

『ふん!知っておるぞ、そやつが登場できるかは運次第!』

「そうでもないんだな、これが……!先のターンに召喚したルピア・ターンの能力がある!」

 

ルピア・ターンはある意味特殊な、マナからのカード回収能力を持つ。

登場時にデッキの上から2枚をマナへと送り、その後()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものだ。

次のターンのドロー内容が確定する事になるが、マナへと送られた必要なカードを手札に持って来る貴重な手段となる……そして、今この場ではもう一つの意味を持つ。

 

「デッキの一番上は、さっき俺がマナからデッキトップへ戻したメガ・マグマ・ドラゴンで確定している!そのため、ボルシャック・ドギラゴンは確実に場へと現れる!」

『しまっ!?』

「リングの周りにいるGのイニシャルズ達を、メガ・マグマが焼き払い!ボルシャック・ドギラゴンで……クロスカウンターだっ!!」

『オォォオオオォオォッ!!』

 

火炎がリング周囲と観客席を薙ぎ払い、ゴッドファーザーの配下達が全て焼き尽くされる。そして、ボルシャック・ドギラゴンの拳が、ゴッドファーザーと交差し──────。

 

『み、ごとなり……ドギラゴンの契約者……っ』

 

ボルシャック・ドギラゴンが天高く拳を突き上げ勝利の咆哮を上げる。

支配者が倒れる事でD2フィールドも消え去り、元の工事現場へと風景が戻って来る。

 

「あっっっちい……!ったく帰り際に出くわすとはついてないな……」

 

学校帰りに通りがかった工事現場でクリーチャーが暴れていたのを見かけたのは幸運なのか不運なのか。ともかく、被害が大きくなる前に仕留めることが出来たのは僥倖であった。

 

「しかし、侵略者やらイニシャルズやらと多く出くわしてる気がするのは気のせいか……?」

 

そう、最初の遭遇と言いこの数か月、ちらほらと「侵略者」や「イニシャルズ」といった特殊種族のクリーチャーとサキトは遭遇している。

アンナやリュウ、そして他自治体での遭遇情報を聞く限り、サキトのみがこれらに多く遭遇しているようだった。

 

「何かの偶然なら良いんだが……っつう、明日から夏休みだってのに羽を伸ばせるか分かったもんじゃないな」

 

ぼやきながら帰路に就く。夏休み中は夜中に出歩く人が増え、ゾーンへ迷い込む者も相応に多くなる事が予想されている。

彼にとって、これまでになく忙しい夏休みが待っていそうであった。

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