ドラゴン娘と決闘者   作:偽りの名 ニーサン

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撤退も敗北も、決して許されぬ決闘。
状況は、極めて不利。
一筋の活路を、掴み取れ。


Ep.20:護守サキトと絆の光

『オレから行くぜぇ!D2フィールド《Dの悪意 ワルスラー研究所》を展開ィ!』

 

D2フィールドの出現により、デュエルフィールド内の空間、更衣室の内部が拡張される。

巨大なフラスコが床からせり出して来て、その内部には毒々しい緑色の粘液が蠢いている。

 

「当然出して来たか……」

『これでオレの場はより盤石!D2フィールドある限り、オレとオレのクリーチャーは呪文の効果で選ばれねえ!そして……攻撃はまだしねえ!テメエのターンを回しな!』

「チッ……ドロー!」

 

舌打ちをしながらカードを引く。初手としてはまあまあだが、決定打が現状は足りないと言える。

 

「はぁ、っ先輩、何であいつは攻撃してこんと?」

「奴はどうやら、デュエマのセオリーを良く知っている……野良クリーチャー共は本能のまま攻撃してくるが、奴は一気に攻め込むまでの“溜め”を重視している」

「溜め……?」

「ああ。積極的に攻め込むスタイルもあるが、基本的に相手への攻撃は、“相手に手札を与える”事になるからだ」

 

相手のシールドへ攻撃すれば、そのシールドは手札に加わる。手札は「選択肢」だ。決闘中に自分が起こせる行動の、より多くの可能性をプレイヤーに示す。

 

「その上奴の能力は俺とは相性が悪いからな……厳しい戦いになる」

「そんな……っ、なして相性が悪かと?」

「さっき奴が言った通り、奴に憑いたクリーチャーの能力は、自軍のクリーチャーを相手から攻撃されなくする能力だ。これが普通のデュエルなら攻撃先が相手プレイヤーになる、が……!」

「……あっ!」

 

そう、この戦いは相手プレイヤーが存在しない、つまり()()()()()()()()()()()()()。奴自身を除去しない限り、革命チェンジは封じられたも同然だ。

 

『ヒヒヒ、そいつにも今の状況が分かったようだなぁ?』

「打開策を引くしかない、って事だ。俺は《王道の革命 ドギラゴン》をマナゾーンへ送り、ターンエンド!」

『あぁ……?何だぁそのカードは?』

「今のデュエマは追ってねえようだな……こいつは今日世に出たばかりのカードさ」

『ハッ、しゃらくせえ!オレはオレのしもべを1体呼び出す!来やがれ!』

 

ワルスラ男の声に応じて次元の穴が開き、そこから王冠を被り豪奢な衣装を着けた、大きなスライムが現れる。

《ワルスラ・プリンスS》……皇帝ワルスラの眷属の1体だ。

 

「早速ダブルブレイカーが1体追加か……」

『効果以外では1ターンに1体とはいえ、こうして大型を最初から呼び出せるってのは楽しいなぁオイ!さあ、じっくりとオレの軍団を揃えてやるぜ』

「俺のターン……!ハムカツマンをマナへ送りターンエンド!」

 

新たに組み込んだカード……《風波の1号 ハムカツマン》。これもドギラゴンの書で登場した、優秀なカードの1つだ。

 

『そいつも新カードってかぁ?気に入らねえなぁ……来やがれ!2体目のワルスラ・プリンスS!』

 

ワルスラ・プリンスSがその数を増やしてゆく。男を含め、ダブルブレイカーが既に3体場へと現れている。

 

「俺のターン!よし、バルチュリスをマナへ送り、3マナで《友情地龍 ルピア・ターン》を召喚!登場時能力により、デッキの上2枚をタップ状態でマナゾーンへ送り、その後マナゾーンから1枚をデッキトップへ置く!」

 

マナへ送られたのは、《革命の絆(マスター・オブ・レボリューション)》とボルシャック・ドギラゴン。どちらも防御手段足り得るものだが……。

 

「ここは……ボルシャック・ドギラゴンをデッキトップへ!」

『ハッ、革命0トリガーを仕込んだようだが、それがどうしたぁ?オレのターン開始時に、ワルスラー研究所は真の力を発揮する!(デンジャラ)スイッチ、オン!』

 

地響きと共にフィールド中央に置かれたフラスコが上下反転し、大量のスライムがそこから流れ出る。床全体を埋め尽くすそれは、サキトとしのぶの脚にも絡み付いてゆく。

 

「ひっ、気持ち悪か……!なんなんこれ!」

「D2フィールドは1度上下を逆さにする事で、特殊な能力を発動する!こいつの能力は……!」

『当然知ってるよなぁドギラゴンの契約者ァ!オレの場のクリーチャー1体につき、同じコストのクリーチャーを1体バトルゾーンに呼び出す事が出来る!来いよ、もう2体のワルスラ・プリンスS!!』

 

床に広がったスライムが盛り上がり、新たに2体のワルスラ・プリンスSが現れる。顔はユーモラスでも、これだけの巨体のスライムが4体も揃えば威圧感すら感じるだろう。

 

『さあもう用済みだぁ、オレは新たなD2フィールド《ユニバーサル・鮫・アンド・シー》を展開する!』

「来たか……!」

 

フィールド内が一気に海へと塗り替えられる。鮫を始めとした海生生物が泳ぎ回る海の上、岩礁の上にサキト達は立たされる。

 

『D2フィールドはフィールドに1枚しか存在できねえのでワルスラー研究所は破壊される!そしてこいつがある限り、オレとオレのしもべ達は、ブロックされなくなる!』

「それって、クリーチャーで防御出来んってこと……!?」

『ご名答ゥ!このターン出したワルスラはまだ攻撃出来ねえ、テメエのターンだぜ』

「俺のターン……!」

 

ドロー内容はボルシャック・ドギラゴンで固定されている。現状の手札では……!

 

「ドギラゴン閃をマナゾーンへ送り……ボルシャック・栄光・ルピアを召喚!デッキトップからマナを補充!」

 

デッキの1番上は、2枚目の王道の革命ドギラゴン。ドラゴンであったため、更に1枚……龍装チュリスがマナへ送られる。

 

『7マナか、順調に溜めやがったなぁ。だがテメエはもう終わりさ!オレのしもべは2度のダイレクトアタックを可能にする数、ボルドギじゃぁ防ぎきれねえぜぇ!』

「そんな……!」

『さ・ら・にィ?ダメ押しだ!来やがれ、《奇天烈 シャッフ》!』

 

他とは毛色の異なるクリーチャー、ディーラーの姿をしたロボット、シャッフが現れる。

 

『登場時能力でェ、お前の使えそうな怖えトリガー呪文……《アポカリプス・デイ》でもあれば危険だろうからなぁ?数字の6を選択!これで6コスト呪文は次のオレのターンの初めまで発動しねえ!』

「安心しろよ、俺のデッキにトリガー呪文は無い……」

『ああ?そうかよ、無駄に出しちまったか。だが……これでテメエは終わりだぁ!オレとワルスラ・プリンスS達でシールドを全て砕く!』

 

ワルスラ男が触手の如く粘体を振るい、2体のワルスラ・プリンスSがメイスのような杖を振るい攻撃して来る。サキトは一瞬自身を守ろうとするが……それを止め、逆に大の字に四肢を広げた。

 

「ぐあぁあぁああぁぁあっ!!」

「先輩!」

 

シールドの破片が後ろにいるしのぶへ振りかからぬよう、その身で全てを受け止める。デュエルテクターによって重要な臓器や部位は守られるが、その体が斬り裂かれ血に塗れてゆく。

 

「っ、シールドから……、《風波の1号 ハムカツマン》のG・ストライク発動!ワルスラ・プリンスS1体を、このターン攻撃不可にする!」

『チッ!だが残りはどうするぅ!?』

「がっ、ぐぅぁっ!シールドトリガー、は……!」

 

トリガーは、来ない。打開の1手もシールドには無く、最後の1体がサキトへ迫る。

 

「《革命の絆(マスター・オブ・レボリューション)》とボルシャック・ドギラゴンの革命0トリガー、発動っ!まず革命の絆はデッキトップを確認し、それが進化でない火か光のクリーチャーなら場に出る!同じくボルシャック・ドギラゴンは、進化でない火のクリーチャーであれば、場へと呼べるっ!」

『はっ、だが成功するかぁ?テメェのそのデッキで!』

「信じるっきゃねえさ……!来いっ!!」

 

運命を決める2枚。開かれたのは……。

 

「順番が逆だったらあの世行きだったな……!1枚目は《光鎧龍ホーリーグレイス》!光のクリーチャー!2枚目は、ドギラゴン閃!火を含む非進化クリーチャー!よって両方の効果が有効となる!」

『チッ、最後の幸運が働いたか!』

「ボルシャック・ドギラゴンでワルスラ・プリンスSを迎撃ッ!」

 

ボルシャック・ドギラゴンによる強制バトルは、皇帝ワルスラの効果でも防げない。燃える炎の拳が、ワルスラ・プリンスSを蒸発させ消し飛ばす。

 

「更に、ホーリーグレイスの登場時能力でお前の場は全員タップされる……!」

『よく防いだと褒めてやるぜ。だがこうなる事を見越して、オレ自身がボルドギの効果に引っかからんように最初に攻撃した……テメエは結局オレには攻撃を届けられん運命なのさ!』

「く、ぁ……っ」

 

サキトが膝を付く。普段であれば末端以外が傷つかないよう守る所だが、今はほぼ無防備に全身に破片を浴び、流血による痛みが全身を苛んでいる。

 

「先輩!もうこれ以上は身体が持たんばい!」

『その子の言う通りだぜ?テメエが降参すりゃ命だけは見逃してやんよ、ヒヒヒヒヒ!』

「黙れ……そしたら蒼斬さんをひでえ目に遭わせるだろうが……っ」

 

嘲り笑うワルスラ男に否を叩き付け、両足に活を入れて立ち上がる。退く選択肢は、あり得ない。

 

「第一に、俺の愛するデュエマのクリーチャーの力で、俺の仲間の命を脅かした……第二に、何人もの被害者の、心身と尊厳を傷付けた……!」

『あァ?それがどうした?』

「第三に……俺の大事なものを、毒牙にかけようとした!絶対に許さねえし、逃がさねえ……もう2度と、大切なものを悪意と理不尽には晒させねえっ!!」

 

怒りに燃えるサキトの叫び。その敵意に晒されても、男は余裕の表情を崩さない。戦況は圧倒的優位なのだから。

 

『そうかそうか、そんなに大事ならテメエの死に際に、目の前でソイツを味わってやるよぉ!!』

「嫌……っ先輩!」

「蒼斬さん……頼みがある」

「なん!?なんすりゃよかと!?何でもするけん、死なんとって!」

「大丈夫だ……ただ、信じてくれ。俺の逆転を、俺の勝利を」

 

デッキトップへサキトが指を置く。その手は痛みに震えながらも、決してカードから目を逸らさない。

 

「白状すると、俺の手札には奴を討つ手段はまだない。全ては、このドローにかかってる」

「そんな……っ」

「だからこそ、信じて欲しい。君が信じてくれるなら……俺はきっと、引き当てられる」

『理屈にもなってねえなぁ、痛みでボケてんのか?』

「俺はそう信じているっ!!」

 

確かに理屈にもならない、だが、最後に人の運命を動かす物は──────。

 

「……分かった。信じるけん……うちの、大好きな先輩を!」

 

その言葉と共に、サキトの右手に光が灯る。それは鼓動と共に、大きく強く輝きを増してゆく。

 

『……オイオイ、何だぁそりゃ』

「行くぞ!俺の、ラストターンっ!敗北の運命を………!」

 

力を込めて、その右手が──────運命の1枚を引く!

 

 

「──────ひっくり返したれやぁぁぁっ!!」

 

 

引き当てたそのカードは、紛れもない、彼の切札。

 

「……俺の、勝ちだっ!6マナを支払い現れろ!」

 

赤と緑、火と自然のマナが吹き上がり海を割る。そこに、彼の相棒たる英雄竜が降り立つ。

 

「蒼き王道!ドギラゴン超ッ!!」

『ギァァアアァアァァッ!!』

『な、んだそいつはっ!!またオレの知らんドギラゴンだと!?』

 

ドギラゴン超の登場に、ワルスラ男が思わずたじろぐ。男の命運はこの瞬間に尽きていた。

 

「ドギラゴン超の登場時能力、発動!相手クリーチャー1体を、マナゾーンへ送るっ!」

『何だと!?』

「攻撃されず、ブロックされず、呪文に選ばれないお前もクリーチャーの能力による指定除去には抗えねえ……お前のその身を、マナに還元してやる!」

 

ドギラゴンが咥えた剣を振り上げる。その様に、男は恐れ慄いた。

 

『ま、まてよ!そんなのどうなっちまうんだ!』

「世界を作るマナに還元されれば……存在の痕跡も残さねえだろうな」

『ひぃっ!嫌だ、助け──────』

「報いを受けろッッ!!」

『ぎゃぁああぁぁぁっぁああ!!』

 

ドギラゴンの斬撃が飛び、逃げようとした男を、その背中から……斬り裂いた。

 

「……まあ、消えるのは憑りついたクリーチャーだけだがな。だがある程度痛みは受けて貰う」

 

憑りついていた皇帝ワルスラが消え去り、後には気絶した男が倒れるのみとなったのであった。

 

「や、やった……っ!」

「んじゃ後始末だ……こいつに加担しといて逃げられると思うなよ」

『!!?』

 

主を失ったワルスラ・プリンスS達とシャッフが逃げようとするが、逃がす気は毛頭ない。

 

「ボルシャック・栄光・ルピアをタップし、ドギラゴン超のハイパーモード発動!全クリーチャーにスピードアタッカーを付与し、ドギラゴン超自身もスピードアタッカーとなる!ワルスラ・プリンスSに攻撃っ!!」

 

ドギラゴン超の剣が1体のワルスラを両断する。更に、そのハイパーモードの能力が更なる援軍を呼ぶ。

 

「ハイパーモード時の能力!多色クリーチャーの攻撃時、マナゾーンからそいつのコストを下回るクリーチャーを場に出す!来い、王道の革命ドギラゴン!」

『ギァアァァァッ!!』

「登場時能力でデッキトップから2枚マナゾーンへ送り、クリーチャーを1体マナから手札へ……そして、王道の革命ドギラゴンの革命0!シールドが1枚も無い時、バトル中のパワーを10000アップし、バトルに勝つたびにアンタップする!トドメだっ!!タップされた3体、全てに攻撃!!」

 

赤い炎の翼を広げ、ドギラゴンが残るワルスラ・プリンスS2体とシャッフを捉える。全身の装甲が展開し、レンズ状の砲門に青白い光が収束していく。

 

「ドギラゴン、フルバーストォォォォォッ!!」

『ドギァァアアァアァァッ!!』

 

放たれるは、多数の超高温レーザー。幾筋もの光条が、ワルスラ達に襲い掛かる。それを阻む者は、最早存在しなかった。

 

 

「──────完・全・決・着!」

 

 

* * *

 

 

デュエルフィールドが消え、更衣室の空間も元に戻ってゆく。倒れた犯人の男と、サキトとしのぶのみがその場に残される。

 

「奴が鍵を開けたままで助かった……っ、応急処置だけしねえと……」

 

フィールドが完全に消える前にデュエマフォンの特殊操作をすると、画面から小さなスノーフェアリー……《霞み妖精ジャスミン》が現れて癒しの力を振りまく。

以前ゾーン被害者を強制的に眠らせたように、簡易的だがクリーチャーの力を使い様々な事が出来るのだ。

サキトの全身の切り傷は流血が止まる程度に塞がり、これでひとまず大事には至らない……はずだ。

 

「蒼斬さん、大丈ぶっ!?」

 

しのぶに声をかけた瞬間、彼女はサキトへと抱き着き床へと押し倒して来た。彼女の呼吸は荒く、蕩けた目でサキトを見つめて来る。

 

「先輩───っ」

「ちょっとま、蒼斬さん、落ち着……っむぐぅ!?」

 

しかもそのままサキトに口付けし、抱き着いた身体を擦りつけて来た。これは非常に拙い!

 

「(んの野郎蒼斬さんに何飲ませやがった!?いかん、血が抜けたせいか力が……っ)」

「──────キャァアァァァァァアッ!?」

 

女子の悲鳴が響く。プールから降りて来た水泳部の女子生徒達が、女子更衣室の出口に何人も集まって来ていた。

 

「(あ──────いかん、終わったかもしれん)」

 

面倒な事になる……そう思いながら、サキトは気が遠くなってゆくのであった。




勝ったッ!第2章完!……となるには、まだ後始末パートがありまする。もうしばしお付き合いくださいませ。

あと前回今回と皇帝ワルスラ好きの方がおられました場合は本当に申し訳ございません!
スライムがそっち系に使いやすい属性なのと耐性による搦手で調子に乗るボスとして都合が良かったんです……!
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