ドラゴン娘と決闘者   作:偽りの名 ニーサン

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栗茶fes本番!無論、ただでは終わりません。


Ep.22:ドラゴン娘と栗茶fes

「先輩、準備はできとー?」

「大丈夫、それじゃあ行こうか」

 

──────2024年8月11日。

この日はお盆休みとくっつく3連休の中日となる日曜日、そして……栗茶市で行われるイベント「栗茶fes」の、いよいよ本番の日。

桜龍高校から軽音部のバンド「Jack-Pot」と、ドラ娘生徒会達が出演する事になっているのは以前にも言及した通りである。

護守家で一夜を明かしたサキトとしのぶは2人で連れ立って会場へ向かおうとしていた。

 

「生徒会の皆、上手うやれとーとかな?」

「んー……大丈夫なんじゃないかな、なんでもJack-Potに演奏と歌の指導受けに行ったらしいし」

「そうやったと!?そりゃ思い切ったね……」

「いやあ、共演相手であるJack-Potに教わりに行ったのは俺も本当に凄いと思うよ……」

 

言い出したのはメガだったという話だ。彼女の思い切りの良さと行動力は大したものだとサキトは感心していた。

 

「楽しみやね、先輩」

「ああ。ただ……ちょっと気にかかる事もあるんだ」

「え、何かあると?」

「ここ数か月くらい、fesの会場付近でクリーチャーの反応が出たり消えたりしてるんだよ。余程隠れるのが上手いのか現場に行っても全然見つからん」

 

サキトの懸念事項は一つ。クリーチャーの出現によるイベントの妨害だ。反応の源であるクリーチャーが何かを企んでいるのは明白だが、そいつが姿を現すまでは出来ることは無い。

 

「皆が楽しむイベントの邪魔はさせねえようにしねえとな」

「折角のイベントやけんね、皆が楽しんで終わって欲しかね」

 

 

* * *

 

 

会場に着くと、既にライブを待つ観客達が多数いる。地元住民のみではなく桜龍高校の生徒達も多く、生徒会メンバーにとっては中々のプレッシャーであろう。

 

「あ、∞ちゃーん!」

『しのぶ。それに先輩も』

「アオハル組の皆も来たのか」

「うむ、流星アーシュのお手並み拝見と思ってな」

『それでそっちは……』

 

∞は2人の様子を見て、少し怪訝そうな顔をした後得心が行ったような様子を見せる。

 

『2人ともおめでとう?』

「な、何の話かな?」

「2人とも、ずっとHolding handsしてますわよ?」

「あ……」

「えへへ……昨日一緒になったけん。あ、でもうちは∞ちゃんの忠実な犬なのも変わらんばい!」

「そこは両立するんでしか……」

『まあしのぶらしいかもだけど』

 

すぐに何があったか看破される。あまりにも分かりやすいサインを出していた事に気付き、内心浮かれていたのだろうかと自分を省みるサキトであった。

 

「まあ、昨日学校で色々とね……」

『ニュースになってたね。クリーチャー絡みだったの?』

「うん。あん不審者どげんなるっちゃろう?」

「まあクリーチャー絡みの情報を知る警察と裁判官が裁いてくれるはず……罪状は昨日の事件だけじゃねえし」

「不届き者め、儂がその場におれば畳んでやったものを」

「伍代さんならまあ特性的に有利ではありますからね……居てくれたらすんなり行ったかもしれんなあ」

 

周りを見ると、水泳部の生徒が何人か交じっており、サキト達の方を見て何やら話していた。噂が広まるのも時間の問題だろう。

カバーストーリーはDGAスタッフが広めてくれたが、どちらにせよサキトがしのぶを体を張って助けた事自体は変わらないわけで。人が寄ってきて活動に支障が出ない事を祈るばかりだった。

 

『そろそろ始まるみたい』

「何かこっちまで緊張して来たな……」

「頑張って……!」

 

『それでは!桜龍高校生徒会の皆さんです!』

 

ステージに彼女達が上がって来る。キーボード兼第一ボーカルのアーシュ、第一ギター兼第二ボーカルのメガ、ドラムのギャイ、ベースのすず、第二ギターのゼオス……。

 

「会長が歌うのか!やれるのか………」

 

少しだけ不安を覚えたサキトだが、ステージに立つ彼女の決意が籠った言葉にその不安は薄れてゆく。

そして歌が始まると、それは完全に吹き飛んだ。

 

「それでは聞いてください! 『Colorful』」

 

 

* * *

 

 

ライブ会場は歓声に包まれていた。サキト達も惜しみなく拍手と歓声を生徒会の5人に贈る。

 

「ばり凄かったばい!」

「That's a wonderful song!ジュラ子、感激しましたわ!」

『ここまで仕上がってるなんてね、驚いたよ』

「全くだ、掛け値無しにいい曲、いい演奏と歌だった!」

 

真剣に練習したのだろう、前評判ではJack-Potの前座と言う者も多かったようだが、それを覆す見事な物を彼女達は魅せてくれた。

 

「う、うむ、中々やるではないか!それでこそよ!」

「素直じゃないでしね」

「喧しいわ!?」

「いやあ、本当に来て良かったよ。良い物見せて貰った。次はJack-Potの演奏か……」

 

続けて行われるJack-Potの登場を待つ中、不意にスマホが激しく震える。

 

「ん、ちょっと失礼……っぶ!?」

「先輩、どうかしたと?……もしかして、クリーチャーが?」

「あ、ああそうなんだけど……生徒会の5人抜いても、何だこの数!?」

 

現在値から少し離れた場所に、11ものクリーチャー反応が出ている。うち5つは生徒会メンバーのものだが、残り6つが取り合わせもバラバラで傾向が掴めない。

 

「1体は……ここらで時折反応が出てた奴だ、間違いない。けど他5体は何だ……!?」

「敵やったらどうすると?」

「敵だったら……1体本気で手に負えんのがいるのが最大の問題だこれ……!」

『とにかく、先輩は現場に向かった方が良いと思う。私たちはここに残っていざという時観客を守ろう』

「分かったばい。先輩、頑張って!」

「ああ、行って来る!」

 

会場を出てサキトは現場へと向かう。この方角と距離であれば……。

 

「現場は楽屋か?関係者以外は入れないとこだが……緊急事態だ、失礼する!」

 

楽屋内の廊下に入ると、向こうから誰かが近付いて来る音がする。同時に、画面には5体のクリーチャーが近付いて来る反応があった。

 

「こっちに来る!?」

 

《「修羅」の頂 VAN・ベートーベン》、《蒼神龍アナザー・ワールド》、《水晶の王(コードクリスタル) ゴスペル》、《ボルバルザーク・エクス》、《インフェル星樹(スタージュ)》……5体とも強力だが、ベートーベンはハッキリ言って相性最悪だ。ドラゴンの召喚を封じる能力はサキトのデッキを完全に機能停止させることとなり、敵だったら拙い事になる。

 

「……ええい、ままよ!」

 

思い切って廊下の角から出て立ち塞がろうとして……やって来た5人に気付く。

 

「ひゃあ!?」

「どわっ!?じゃ、Jack-Potの皆さん!?」

「え、同学年の護守くん!?」

「なんだよ楽屋まで入って来て、こっちは急いでんだぜ!?」

「待ってくれ、てことはまさか……」

 

手元の端末の反応は、彼女達を指している。彼女達5人も……ドラゴン娘だ!

 

「マジか……!」

「ワタシたちに用があるなら、今は……」

「いえ、俺の用はこの奥、生徒会の皆さんのとこにあるんで!詳しい説明は省きますが、俺は彼女らの味方です!」

「……信じて良いの?」

「俺は怪物……クリーチャーの事もドラゴン娘の事も知っているし対処も出来る!そんじゃ……!」

「あの!」

 

駆けだそうとするサキトにメンバーの1人……1年の庵野水晶(あきら)が声をかけて来る。

 

「アーシュちゃんたちの事、手助けしてあげてください!」

「ああ、任せてくれ!」

 

サムズアップしながら駆けてゆく。控室に近付くと、徐々に廊下が闇に包まれ、闇のマナが濃くなって行く。

 

「ちっ、何だこりゃ……!道を塞いでるのか!?」

 

暗闇がサキトの行く手を阻む。濃い闇は弾力あるゴムボールの如き感覚を覚えさせ、押し返そうとしてきた。

 

「ええい、もうちょいだってのに……!」

 

その時、後ろから……歌が聞こえて来た。

 

──────~~♪

 

「これは、Jack-Potの歌……?はっ!?」

 

見れば充満した闇のマナが、徐々に消えてゆく。

 

「歌の力なのか?まあいい、この位薄れれば!」

『Duel field expansion. Dueltector summoning』

 

結界の最小展開とデュエルテクターの装着により身を守りながら、闇を突っ切ろうと前へ進んでゆく。少々時間をかけたものの、生徒会メンバーがいるであろう控室に辿り着き、扉を開く。

 

「ぬあっ!?何だこの壁!」

 

扉を開くとすぐに真っ黒な障壁が現れる。触れてみるもビクともしないそれは、通常の物質には見えない。

 

『これは……D2フィールドにも近い異空間の境界線だ』

「っ、この声、ドギラゴン!?」

 

デュエルテクターを装着中とはいえ、同化せずとも声を聴けるとはサキトも思っていなかった。

やはり、サキト自身の力も増しているということか。

 

『境界線を断ち、内部を解放するには相応の力が要る……やれるか?』

「勿論っ!」

『Contract armor awakening.』

 

コントラクトアーマーが起動し、サキトの身体をドギラゴンの蒼い鎧が包み込む。狙うは、会場から聞こえて来る歌に呼応して揺らめく、障壁の綻びやすい一点。そこへ鋭い一撃を、叩き込む。

 

「『龍剣・星王紅鬼勝ッ!!セェェェエエイヤァアァァァアッ!!』」

 

 

* * *

 

 

暗闇が斬り裂かれ、異空間に眩い光が差し込んだ。赤い光が広がって包み込んでゆく。

 

「先輩!?」

「大丈夫か皆!助けに来た……つっても、どうやらほぼ決着はついてたみたいだな……!」

『お、おのれ……っ』

 

臨戦態勢のドラゴン娘達の前に倒れ伏すクリーチャー……《ルソー・モンテス》が唸る。

 

「こいつ、モルナルク復活のためにウチらを狙ってたらしいで」

「成程……とりあえずデュエルフィールドに取り込んだ以上もう逃げられん。このままぶっ倒すか、それとも封印でもしとくか?」

「事情聴取でもするならば、モルナルクと同じところに放り込んでしまうのもいいだろうな」

『ぐぅ……っ、はっ?貴様……貴様の負の感情をよこせえッ!』

「チッ!?」

 

ルソーが立ち上がり、4本の腕でサキトへと組みついて来た。ボロボロでありながら力を振り絞って来たか。

 

「せんぱい!?」

「大丈夫だ、この程度どうにでもなる!そろそろ曲が終わるぞ、会場に行ってやれ!」

「デモ……!」

「友達なんだろう?ならちゃんと晴れ舞台は見てやらないと、な」

「……!はいっ!先輩、後はお願いします!」

 

アーシュ達はフィールドを脱し、会場へと駆けてゆく。取り残されたサキトとルソーが組みあって睨み合う。

 

『見えるぞ、お前の奥底にある()()の念!その負の感情、闇のマナさえあれば……!』

「やってみるか?手を出したら後悔するのはお前だぞ」

『ほざけ!』

 

ルソーの腕の内1対がサキトの胸に潜り込む。サキトから、マナを奪うつもりだ。

 

『これで……っ!?ぎゃぁあぁ!?』

 

何かを掴んだ、そう思った瞬間ルソーの腕が炎に包まれ、焼き焦がされてサキトの中から弾き出される。

 

『馬鹿な……っ、確かに貴様の中には後悔の念が……!』

「悪いが、もう『それ』からは闇のマナは生まれねえ。それは俺の意志を前に進める原動力だ」

 

ルソーの頭を掴み、同化によって増強された握力でミシミシと軋ませながら持ち上げる。4本の腕で掴むもパワーの差は歴然、振りほどく事は出来ない。

 

「悔やんだ過去は、2度と同じ事を起こさせないという、未来を守る決意に変える事が出来る。よく覚えておくんだな!」

『お、前の中にあるのは……火と、光のマナ……っがぁっ!!』

 

光交じりの火、太陽にも似た輝きを幻視しながら、床に頭から叩き付けられたルソーは気を失った。それを確認するとサキトも同化を解除し臨戦態勢を解いてゆく。

 

「ふぅ……さてと、校長を呼んでこいつは処理して貰うか」

 

フィールドの中にまで、観客達の歓声が聞こえて来た。Jack-Potのライブも無事終わったようだ。

 

「んじゃ、誰か来る前に裏方としてこいつを運び出しておきますかね、と」

 

ルソーを担ぎ上げ、控室を出ていく。これにて、栗茶fesを巡る騒動は万事解決を迎えたのであった。




栗茶fes開催までの話もこれにて終了!
2学期を始める前に、一つイベントを挟む事になると思われます。

前話の禁断解放パートはこちらになります。R-18注意
https://syosetu.org/novel/373431/
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