「夏休みが終わり、今日から2学期が始まります。生徒の皆さんは──────」
「ふぁ……眠い」
──────2024年9月2日。
今日から桜龍高校は、夏休みが明け2学期が始まる。始業式の挨拶を聞きながらサキトはうつらうつらとしていた。
よりによって前日の深夜、ゾーン内に迷い込んだ一般人の救助要請があったために寝るのが遅くなったためだ。
「4組の〇〇さん、彼氏出来たんだって」
「聞いた聞いた、お相手は───」
「栗茶fesの演奏、見に行った?」
「行った行った!いやー生徒会凄かったな───」
周りの生徒達は、小声で夏休みの周りの出来事を話している。栗茶fesの生徒会メンバーの演奏は大きな話題となっているようで、夏休み中でも生徒会室まで部活終わりの生徒達が押しかけて来ていたらしい。
「(会長も大変だろうなぁ、勝手に次のライブやら新曲やら期待されてるらしいし……)」
「そういや、夏休み中に学校に凶器持った不審者が入って来た事件の事聞いた?」
「不審者っていうか、変質者だよね?水泳部の1年生が襲われかけたっていう」
「そうそう、その変質者を見かけた男子生徒が取っ組み合いして、怪我させられたけどどうにか鎮圧したらしいよ」
「(うげ)」
サキトの関わった例の事件も話題になっている。あまり目立つとDGAの活動に支障が出かねないので、出来ればあまり広まって欲しくない話なのだが……。
「水泳部の子いたよね?後で聞いてみようよ」
「そうだね、裏掲示板とかにも何か書いてるかも」
「(くそ、マジで時間の問題だ……どうやってしらばっくれるか……)」
いっそデュエマフォンアプリの簡易機能に記憶操作機能が欲しいくらいであった。倫理的な問題で個人に使わせるには問題が多いから実装は一生されないだろうが。
* * *
『護守先輩、今空いている?』
「ん?ああ、丁度良かった。どっかで弁当食おうかと思ってたとこだったよ」
2学期初日は部活は無いものの、午後まで授業は行われる。昼休みが始まると、∞が教室を尋ねに来た。
「うちもおるよー」
「んじゃ3人で食おうか。どっか静かな良い場所あるかな」
『それならいい所があるよ』
「あそこやね。先輩、案内するね」
2人に案内されついて行く。どんどん人気のない所へ導かれ、辿り着いたのは大量に机や椅子が置かれた、寂れた空き教室だった。
『私達アオハル組は、以前ここでモルナルクに呼び出されていたんだ』
「ほー、校内にこんなとこがなぁ」
「一応掃除はしたけん、お弁当食べるには支障はなかはずばい」
「んじゃ、いただきますと」
それぞれ弁当や購買のパンを平らげてゆく。食事をしながら、それぞれの部活動の話題が始まった。
「ふぅ、水泳部も部活は明日からだっけ?」
「うん、21日と22日は新人水泳競技会があって、うちも出場するけん頑張らな」
「あー、そうかそっちに出場するのか。応援しに行こうか?」
「来てくれたら嬉しかばってん、先輩は文化祭ん準備とか大丈夫?」
『今年のゲーム部の出し物は、アナログゲーム体験会だったかな?』
「テレビゲーム体験会とかやるより捌きやすいからね。ルール説明役を交替でやってけば回るはず。後はクラスの出し物がどうなるかだな」
2学期には桜龍高校でも文化祭が開かれる予定だ。その準備がいずれ学校全体で始まるだろう。
「文化部は大体忙しくなるな……そういや文化部と言えばなんだけど、栗茶fesのステージは2人とも見てたよな」
『Jack-Potのメンバー、あれは5人とも……』
「もしかして、うちらと同じ?」
「ああ、全員ドラゴン娘だった。あの時の反応はそれだな。敵じゃなくて本当に助かったよ……」
『そんなに危険だったの?』
「2年の庵野さんに宿ってる力が、よりによって敵のみのドラゴン召喚封じなんだよな……俺のデッキはドラゴンクリーチャーしかいないから敵対したら冗談抜きに死ぬんだ」
「うわぁ……相性が悪かどころん騒ぎやなかね」
「今度会長に頼んで、5人に改めて顔合わせできる機会を作って貰うつもりだ。DGAへの報告もあるし」
以前生徒会メンバーとアオハル組の情報を送ったように、Jack-Potメンバー5名に関しても安全のため、DGAへと顔写真とクリーチャーのデータを送る必要がある。夏休み中は機会が無かったが、早めに済ませなければいけないだろう。
『ごちそうさま。2人は放課後予定とかある?』
「∞ちゃんからお誘い!?珍しかね」
「んー、今の所無いけど、どこかついて来て欲しいのか?」
『少し買い物、秋葉原まで足を延ばしたいかな。出来れば先輩がいてくれると助かる』
「んじゃまあついてくよ。しのぶは……」
「∞ちゃんのためなら荷物運びでも何でもするけん!」
「まあそうなるわな……んじゃあ放課後に」
そろそろ予鈴も近い、3人は食事を片付けて空き教室から出ていくのであった。
『……』
それを密かに見ていた者がいた事には、気付かなかった。
* * *
「んー、平日午後でもそこそこ人がいるな」
「ここが秋葉原かぁ、うちは来るとは初めてばい」
『2人とも今日はよろしく』
電車に揺られ1時間近く、サキト達は桜龍学門前から秋葉原へとやって来た。
「それで買い物って言うと、何を買いに?」
『パソコンの部品を少し』
「パソコンの部品?∞ちゃんパソコンの自作でもすると?」
『流石にそこまでじゃないけど、自分用のパソコンにメモリの増設とかしてみるつもり』
「デスクトップパソコンあるのか……」
PCのパーツ単位で買うなら、秋葉原の電気街は確かに適した場所だ。とはいえ女子高生一人で来るには少々危なく感じてしまっても仕方ない場所でもある。
『後はついでに外付けHDDとかを、ゲーム機用に』
「結構な出費になりそうだけど大丈夫か?」
『大丈夫、賞金なんかで予算は十分』
「∞ちゃんはゲームの大会で賞金稼いどーけんね」
「なるほど……ゲームで稼ぐってのもなんか変な感覚だよなぁ」
『デュエマで仕事して給料貰ってる先輩がそれを言うかな』
「それもそうか」
事前に店の目星を付けていたのか、∞に先導されサキトとしのぶは秋葉原の街をあちこち歩き回ってゆく。全ての買い物を済ませる頃には夕闇が近付いて来ていた。
「うーん……そろそろ遅うなって来たし、帰った方がよかね?」
『確かにこれ以上遅くなると、あれにまた出くわすかもしれないね』
「ああ、夜は出るからなあ色々」
ゾーンは基本的に日が沈むと現れる。わざわざ巻き込まれるような真似は避けるべきと判断して、買い物が終わった以上はすぐ家に帰ろうとしていた。
「おやおやそこのお3人さん。ちょっとお話どうですか?」
「へ?」
『……コスプレ?』
駅へ戻ろうとしたところで、何やら一人の男が話しかけて来る。金髪に褐色、どこぞのアニメキャラクターの着る制服らしきものを着ているが……。
「すいません、今から電車で帰るとこなんでご遠慮願います」
「まあまあそう言わずに、なんなら女の子だけでも」
『しつこいナンパなの?』
「うちは先輩のものやけん、そういうのはちょっと」
やたら体格のいいコスプレイヤーのナンパ男、という変わった相手に警戒する3人。あまりに怪しいため離れようとするが。
「いいじゃないですか、『
「!?」
「うちらの名前、何で!?」
『一体何者?』
「知りたければ少しお話付き合ってくださいな。まあ……先に君達についてきたのを追い払ってからかな」
「なに!?」
周囲を見渡すと、ビルの合間から何かが顔を出す。
『にゃぁん』
『……猫?』
「あ、あいらしか……?」
てくてくと寄って来る黒とピンクの猫らしきものに手を伸ばそうとするしのぶだが、それをサキトが止める。
「2人とも触るな!こいつ、クリーチャーだ!」
『シャァアァァァァッ!!』
いきなり爪を伸ばして飛び掛かって来るのを、サキトが紙一重で避ける。それを皮切りに、複数体のクリーチャーがぞくぞくと路地に現れる。
『よもや気付かれるとは!しかしドギラゴンの契約者!ここで会ったが100年目、ドギラゴン諸共倒してくれるゾイ!』
『にゃっはっは、覚悟するにゃあ!』
「ええい数が多い!」
猫のぬいぐるみ型のクリーチャー《ステニャンコ》2体と《デュエにゃん皇帝》に、法被を着た雪の精《雪精 キタサ・カンバY》、そしてねぶた祭りの山車灯篭のようなものが乗せられた舞台に立つ緑色の樹木人……マスター・イニシャルズ《D2Y ヨー・サーク》!
「2人とも下がれ!行くぞ……!?」
『『Duel field expansion. Dueltector summoning』』
スマホを取り出しデュエマフォン・アプリを起動する、
「あんた、実働部隊の……!」
「ヨー・サークは僕が引き受けよう。向こうは頼んだよ」
「っ、分かった!」
赤い光と緑の光、2重に光の幕が展開され、秋葉原の一角で戦いが始まる。
「「デュエルっ!!」」
4人目、登場!