サキトの過去、そしてそこからやって来る刺客たち。
『こちらをご覧ください。先日、北海道・新潟・広島の3県で確認された、強力なクリーチャーの反応です』
「ふぅむ………」
──────2024年9月26日、現在時刻20:15。
DGAより連絡が入り、東京都各自治体の実働部隊は緊急のオンラインミーティングを行っていた。
『これらは出現後移動を開始しており、それぞれ速度は異なりますが、全てが同じ地点を目指しているようです』
『ふむ、これは……』
『東京を目指しているように見えるね?』
3体の移動経路を直線にして、その延長線上で重なる地点を見ると……ほぼ間違いなく、これらは東京を目指していた。
『明日の午前中には東京で合流する可能性が高いと見ています。このため都内の実働部隊員は警戒を厳にし、戦闘に備えるよう本部から通達がありました』
「なるほど……気を付けます。とはいえ明日は登校しないとならんのですが……」
『こちらはいざとなれば抜けても問題ない授業ばかりではあるが……ともかく、警戒はしておこう』
『それと、この3体の出現に伴い現地で行方が分からなくなっている人物3名の情報を入手しました。全員16~17歳の男性で、彼らがクリーチャーに憑依されている物と思われます』
『ほうほう。この3人ね……』
3人の顔写真が表示される。見覚えは無かった……が。広島在住:
「こいつらか……」
『知り合いなのかい?』
「……小学生時代同級生だった連中です。ある意味因縁があるにはあるという感じですかね……」
『………ふむ、ならばより警戒しておくべきだな。理由は聞かんが、何らかの狙いを持って、栗茶市に戻って来るという可能性があるだろう』
「そうですね……」
嫌な予感がするサキト。こういった予感は、往々にして的中するものであった。
* * *
「ひ、やめ、化け物………っぎゃぁあぁぁぁああ!!」
栗茶市内のとある家。人々が寝静まった深夜、一人の男性が何者かによって惨殺された。
翌日通報により駆けつけた警察は、散々に荒らされた部屋と、壁に残された巨大な爪痕を見たという。
「ひ、ひひ、アイツらが合流したら、次はてめえだ……待っていやがれ」
仕留めた獲物の血が滴る、異形の左腕。紫色の装甲を纏う何者かは、狂気に歪んだ笑みを浮かべていた。
* * *
翌日、9月27日。いよいよ明日明後日の2日間、私立桜龍高校では文化祭が開かれる事となっている。
最後の飾りつけを完成させるべく、生徒達は各教室、各部室で作業をしていた。
「副部長どうしたんですか?作業に集中してくださいよ」
「あ、ああ……」
「まあ、あんなニュース流れてきたら気が気じゃないのも分かりますがね」
昨日……いや、今日の夜明け前と言うべきか。市内で起こったという殺人事件、世間には明らかにされていない部分として、現場にクリーチャーの反応があったらしいという報告がDGAからサキトへと入っていた。
例のクリーチャー憑きが起こした事件とみて、ほぼ間違いないだろう。なぜ被害者を襲ったかはまだ定かではないが……。
『先輩、そういう浮かない表情をしてるのは……もしかしてあっち絡み?』
「まあうん、そういう事だよ……厄介な問題が起こってる」
『手伝おうか?』
「場合によっては頼むかもしれないな。今回は想定が最悪の方に行くと、数が問題になって来そうだ。無論、何事も無ければ良いけれど……」
そうなる可能性は望み薄だろう。サキトの予想通り、既に事件は起ころうとしていた。
* * *
「オーライオーライ、この辺りまで運んでー!」
正門前では、生徒会メンバーと一部運動部の生徒達が正門にベニヤ板などで作ったゲートを設置する作業をしていた。力のある運動部の男子生徒達による手伝いは作業効率を大幅に上げている。
「手伝ってくれてありがとうねー!」
「いつも頑張ってる生徒会の頼みだからな!これくらい軽い軽い!」
「アリガトウネー!後は組み上げて完成……アラ?」
ふと、ゼオスが正門の前に立つ一人の男を見つけた。
「どちらサマかしら?」
「あのー、文化祭は明日からなので、一般の人は……」
「護守サキトはどこにいる?」
その言葉に、後ろで見ていたすずとギャイは不穏な空気を感じ取った。目の前の男は何か危険だと、彼女達の感覚が訴えている。
「……護守先輩に何か用なん?」
「気を付けろ。こいつ、何か様子がおかしいぞ……」
「……ひひ、ハハハハハハ!!」
「な、何ですか!?」
急に笑い声をあげる異様な男に警戒度を高める5人。その目の前で、男が異形へと変わってゆく。
『みぃつけたかぁぁぁあぁあっ!!』
「ひぃっ!?」「ば、化け物!?」
「あかん!皆逃げて!」
紫の装甲に身を包んだ男は、右脚を踏み込むとすさまじい速度で校内へと突っ込んで行った。衝撃波が生まれ、男子生徒達が吹き飛ばされゲートが倒される程の速さだ。
「うわぁあっ!?」
「皆さん、ダイジョウブですか!?」
「何あのスピード!?早く追いかけないと!」
その瞬間、奇妙な悪寒が彼女らを襲った。何らかの力場が、桜龍高校を覆ってゆく。
「うっ、何ですかこの感じ……!」
「うっ、ぁ、苦しい……っ」
「力が、抜ける……っ」
「どうした!?しっかりしろ!」
男子生徒達が苦しみを訴え始める。何らかの力が、彼らから奪われてゆくようだった。
「皆さんを安全な所に運ばないと……っ」
「何が起こっとるんや……!」
* * *
「う、っ!?」
一瞬頭痛と悪寒を感じたサキト。見れば、周囲の生徒達が∞を除いて次々と不調を訴えてゆく。
『なんだか、嫌な感じがする』
「く、帝王坂さん、皆をどこかに……!?まずい、皆伏せろっ!」
部室から見える中庭に、何かの影が見えた。直感で警告するが、直後、何かが窓を突き破りガラスが砕け散った。
「うわぁぁっ!?」
『くく、ははは!ヒャハハハハハァ!』
紫の装甲に身を包み、異様に大きくなった左腕を振りかざす男。両肩と両脚、そして左腕には車輪が備え付けられている。
『久しぶりだ、なぁっ!?』
「どぉらっしゃぁ!!」
何かを言わんとしたその怪物相手に、先手必勝とばかりにサキトがドロップキックを叩き込む。窓枠に掛けた手の力を緩めた瞬間を見計らったためか、サキト共々窓の外へ落ちて行く。
『先輩!』
「帝王坂さん!皆の様子を見ていてくれ……っっだぁ!」
敵をクッションにし、中庭のタイルに落下したサキト。そのまま広い場所を目指し、グラウンドへと駆けてゆく。
『ッッチィ!ヤロウ逃がすかよォ!』
起き上がった怪物はそのまま、サキトの後を追った。
『皆は……気を失ってる、それにだんだんと衰弱してる?』
携帯を見ると、電波も通じなくなっている。何らかの手段で、桜龍高校は外への連絡を遮断された。
「……∞ちゃん!クラスの皆が!」
『分かってる。こっちも同じ状況だよ。クリーチャーが現れて、先輩が身体を張って追い出したけど……』
明らかにあのクリーチャーはサキトを狙っていた。一体、何のために?
「うちらも、先輩ば助けに行かな……」
『待って。裏門の方から何か聞こえる』
「えっ!?」
廊下に出て窓から裏門を見る。そこには……。
「な、何なんあん数!?」
何体ものクリーチャーが、桜龍高校の柵を超え敷地内へ侵入しようとしていた。
* * *
サキトはグラウンドにて、クリーチャー憑きの男と対峙していた。
「こいつ……見た目はデッドゾーンっぽいが、クリーチャー情報がバグって見える……どういう事だ」
デュエマフォン・アプリを起動させても、正常な敵のデータが見えない。かろうじて分かるのは、《S級不死 デッドゾーン》に酷似している事くらいだ。
「フィールドが展開出来ん、何の妨害だ……っうおっ!」
『避けてんじゃねえよ護守ィ!』
「避けるに決まってんだろうが……お前、やっぱり烏丸か!」
『ああそうさ、テメエへの恨み、忘れた事は無かったぜ……!』
広島で行方知れずとなっていたサキトのかつての同級生、烏丸諒一。それが目の前の男の正体であった。
『オレの人生を台無しにしてくれた恨み、晴らさせて貰うぜェ!』
「ふ……ざっけんな、お前が落ちぶれたのは全部お前の責任だろうが……この
相手の攻撃自体は単調なもので、デュエルテクター装着の暇も無いが、ギリギリでサキトは避け続けている。応援を期待したい所だったが、ドラゴン娘の皆は……。
「先輩が危ない!助けに行かないと!」
「そんな事言うても、こいつら相手にしてたら……!」
見える限りでは、何体ものクリーチャー達による、校内への侵入を防ぐので手一杯のようだった。
「くそったれ……っ!?ぐぁっ!」
突然、別方向から飛来した石槍がサキトの左腕をかすめ、血が噴き出す。
「今の攻撃は、っ、うぉっ!?」
更に、光のリングのような物が上から投射され、サキトの身体が宙に浮かび上がる。
『おーいおい烏丸クン、一人で行かないでくれよー』
『全くです、こちらが来るまで待ってて貰わないと』
「三原、宇野……っやっぱりお前らもか」
動物の頭骨を鎧のように纏った毛むくじゃらの巨漢……《S級原始 サンマッド》らしき特徴。
銀色の装甲に背のブースター、そしてUFOのような手甲を付けた男……こちらは《S級宇宙 アダムスキー》らしき特徴だ。
どちらもやはり、行方知れずとなった三原太作と宇野天志がクリーチャーに憑りつかれている。
「ばらばらに引っ越した癖に、今でも腰巾着かよ……」
『黙って下さい。さ、烏丸さん。これで護守は避けられません』
『たっぷりと礼をさせて貰うぜェ、なあ護守ィッ!!』
「が、っ!?」
両手足で身体を庇うものの、加減された拳でもクリーチャーの膂力となれば強烈な衝撃を受ける。サキトの身体が校舎へ向けて吹き飛ばされた。
「先輩っ!はぐっ!」
「しのぶっ!?がっは……っ!」
壁へ叩き付けられる寸前で、しのぶが間に割って入った。受け止めようとするが、勢いを殺し切れず壁に2人で衝突する。
「ぐぁ、う……っ、しのぶ、大丈夫か……っ」
「平気ばい。それより、あいつらは……?」
「小学生時代の……悪縁って奴だ……っ、いっつっ!」
「先輩!左腕が……!?」
左腕の骨に罅でも入ったか、鋭い痛みが走った。この状況は拙い。
『んだよ、そんなにダメージ入ってなくねえか?』
『無重力状態にして宙に浮かせたせいでしょうか』
『なーら次はオレがやらせてもらうよー』
「ち……っ、学校の皆は……?」
「失神しとー人が多かよ、ばってん体力ある人はまだ動くるかも……」
「そうか……っ、皆が戦ってるところ、見られなきゃ良いんだが……っ」
サンマッドの力を得た三原が、石造りのカートのような物に乗り突進してくる。避けようが避けまいが、このままでは校舎に……!
『くぅらえ、ぇぇえっ!?』
突撃して来るカートに、横から自動車が体当たりしてきた。大きく体勢を崩し転倒したサンマッドが驚愕の表情を見せる。自動車はサキト達の目前に停車し、中から見知った顔が現れる。
「……護守、無事か?」
「井星さん!?てことはあれの運転手は!?」
「私だよ、護守くん。いやぁ間に合って何よりだ、新装備様々だね」
『アンだぁこいつらァ?』
デュエルテクターに身を包んだリュウとアンナの姿にデッドゾーン達は怪訝な表情を見せた。実働部隊に出くわしたのも、これが初めてらしい。
「簡易治癒を行うよ……うん、これでよし」
「助かりました……2人とも、こいつらは」
「把握している。やはり行方知れずの3人がクリーチャー憑きか」
「現在この学校全体が、妙な力場のドームに覆われているようだね。デュエルフィールドは展開出来ないが、この中ならデュエルテクターは使えるようだ」
『やっちまえテメエら!何だか知らねえが、人間を超えた俺らに敵う奴なんざいねえ!!』
サンマッドとアダムスキーが飛び掛かって来る。シールドを展開すると、アンナがサンマッドを、リュウがアダムスキーを受け止め押し返した。
『ぬぉおー!?』
『何です!?』
「こちらは俺が引き受けよう」
「こっちの脳筋君は私が。護守君にはあのガキ大将を任せるよ」
『クソが、邪魔しやがってっ!!』
デッドゾーンが火花を散らしながら、サキト達へ突進して来る。生徒に見られる可能性がまだあったが……サキトは腹をくくった。
『Dueltector summoning』
「シールドオンッ!!」
『がっは!?』
不意打ち気味にシールドを蹴り上げ、デッドゾーンの顎をかち上げる。怯んだ隙に蹴り飛ばし、しっかりと距離を取った。
「相も変わらず、自分が特別だから何やっても良いって思っていやがるな……反吐が出る」
「先輩、あいつなんなん……?」
「小学生ん時の同級生……
「だった?」
「奴は小学四年生の時、
その言葉にしのぶは目を見開く。一体、彼らに何があったというのか。
『テメエ、んだぁその姿は!』
「しのぶ、下がってて……お前だけが特別だと思うなよ。クリーチャーの力が使えるのはお前らだけじゃない!」
『ほざけ!』
『オレらの邪魔するならー、お姉さんでも容赦はしないぜ……!』
「そうかい。もう被害を出している以上、こちらも容赦はしないよ」
『どうやらデュエマを実際に戦闘に使えると……なら乗ってあげましょう、こちらも必勝の策ありというもの』
「……見物だな、その策とやら……行くぞ」
「「「デュエルッ!!」」」