過去語りだけにほとんどデュエマ要素がありませぬ。ご了承ください。
蒼斬家、しのぶの私室にて。サキトは小学生時代の記憶を紐解きながら、少しずつしのぶへ明かしていた。
「俺が小学四年生の頃……もう7年も前になるが、当時俺のいたクラスでガキ大将やってたのがアイツらの1人───デッドゾーン、紫色のクリーチャーに憑かれてた烏丸って奴でな」
当時、2017年のサキトはクリーチャー達の世界も知らず、ただ健やかに過ごしていた少年であった。テレビのヒーローに憧れ、友達と遊び、些細な喧嘩なども絶えなかった、そんな小学生時代。
「アイツ、裕福な上父親が市議会の議員で、母親がPTAの会長だったかで……自分が偉い訳でもないのに偉そうにする、はっきり言って嫌いなタイプだった」
「あぁ……先輩はそげな人んこと好かんそうやね」
「んでまあ、取り巻きの2人とつるんで気に入らない奴を虐めてたりしてたんだ。しかも母親がダメな方向に過保護で、金と権力でその辺の揉め事を表沙汰にさせなかったりしたせいで更に増長してた訳だ」
何をやっても怒られない、という状況は容易く子供の価値観を歪ませる。そういう意味では彼も被害者と言えるかもしれないが、サキトは烏丸諒一に同情する気は起きなかった。
「それで、ある日アイツの矛先が向いた生徒が聖也くん……星野聖也という、優しいけれどちょっと気の弱い男の子だった」
「……あれ?その名前どこかで」
「やっぱり知ってたか、ニュースにもなってたはずだしな。それは後にしておいて……その子を助けたのが、ある意味運命の分かれ道だった」
* * *
「返して!返してよっ!」
「へっ、誰が返すかバーカ!」
──────2017年6月14日。
栗茶市内のとある小学校、四年生の教室で、3人の悪ガキが1人の少年から物を取り上げて弄んでいた。
「お母さんのお守り、返して……っ!」
彼の母親が作ったらしい、手製のお守りペンダントを3人はパスを回すように投げあっていた。半泣きの少年、星野聖也を見て烏丸は意地の悪い笑いを浮かべた。
「そぉらいく───へぶっ!?」
「烏丸くん!?」
烏丸が助走を付けて廊下の窓の外へそれを投げようとしていた所で……サキトが突き出した脚が引っかかり盛大にすっ転んだ。
手から離れ宙に舞ったお守りを、そのままサキトはキャッチする。
「て、っめえ何すんだ!」
「ちゃんと足元見て歩かねえのが悪いんだろ、てか教室で走んな。ほい、星野君」
「あ、ありがとう……!」
「くそ、やっちまえ三原!」
「こんのぉーっ!」
邪魔をされた事で苛立った烏丸が三原をけしかけ、サキトへと殴りかからせる。しかし、サキトは咄嗟に近くの椅子を持ち上げた。
「「っっつ~~~~~!!」」
木製の座面を殴った事で三原は手の甲を抑え悶絶するが、パンチの衝撃を受け止めたサキトも手がじんじんと痛んでいた。
「っあ~……っ、星野君、一緒に図書室にでも行こうぜ」
「えっ、う、うん」
「てめ、待てよ!オレをこんな目にあわせやがって!ウチはすげええらいんだぞ!」
「えらいのはお前のお父さんであってお前じゃないじゃん。自分じゃえらいこと何もしてないくせに威張んなよ」
「んな……っ!!」
「そんじゃあな」
顔を真っ赤にした烏丸をほっといて、サキトは聖也を連れてランドセルを背負い教室を出て行く。
「あ、ありがとう護守くん」
「サキトでいいよ。あんなのの事は気にせずしたい事しようぜ」
「うん……っ」
* * *
「そんな感じで聖也くんと仲良くなった訳なんだけど、連中の狙いがしばらく俺にシフトしてなぁ」
「先輩は大丈夫やったと?」
「んーまあ、当時は神経が図太かったからなぁ。直接やってきた時は極力自分からは手を出さずにどうにかしたし、小さな嫌がらせはやり方が分かりやすかったから回避もし易かったよ」
小学生の考える嫌がらせのレベルなぞ高が知れているうえ、狙われているのが分かっていれば当時のサキトでも回避や些細な反撃は容易い物だった。
「でも、そうして仲良くなって1月後の事だった……あの事件は」
* * *
──────2017年7月14日。
前日に風邪で学校を休んでいたサキトは、一日ぶりに登校し聖也を待っていたのだが……朝の会が始まる時間になっても、彼は教室にやって来なかった。
「聖也くん……?どうしたんだろ、風邪かな」
訝しんでいたが、朝の会が始まると先生が暗い顔をしていて………サキトは、嫌な予感を覚えた。
「───今日は悲しいお知らせがあります。星野聖也くんが……学校に来られなくなりました」
「──────え?」
先生の言葉に固まる。何故?何の前触れもなく、彼が学校に来れなくなるという意味が理解出来なかった。家の事情なんてものも聞いた覚えはなく、突然の事過ぎた。
ふと、教室内を見れば三原と宇野の2人はどこか縮こまったような様子。そして、烏丸は──────何故かニヤニヤと嗤っていた。
──────それを見た瞬間、サキトの中で何かが弾けた。
「──────お……まえっ!!何、しやがったぁぁぁあぁッ!!」
「あ───がぎゃ!?」
席から立ち上がり、烏丸の襟首を掴みあげて殴り付けた。床に倒れた烏丸にマウントを取り、そのまま顔面を殴り続ける。
「お前が、お前が……っ!!」
「護守くん!?」
「なぁにしてんだお前っ!」
「邪魔、すんなぁっ!」
「ぐげ!?」
引き剥がそうと掴みかかって来た三原を張り倒すと、再び烏丸を殴り倒す。怒りのせいか、普段とは比べ物にならない程の腕力をサキトは発揮していた。
「護守くんやめなさい!こんな事して……!」
「離せ、離せよ先生っ!!」
担任の先生に脇を抱えて持ち上げられ止められる。それでも怒りに染まったサキトの思考は収まらない。
「あぐ、ひ……っ!よ、よくもこんな……っ!ママがだまっちゃいないぞ……っ!」
「ママママとうるせえんだよ、自分じゃ何にもできねえくせに偉そうに……っ!」
「んだとぉぉぉぉっ!!」
「オラぁぁっ!!」
「げぶっ!?」
殴りかかって来た烏丸を、先生に抱えられたままなのを利用し……両足でドロップキックをかますような形で反撃し蹴り飛ばした。
そのうち、隣の教室から騒ぎを聞きつけて来た先生達により彼らは引き剥がされ……それぞれの母親が学校へ呼び出される事となった。
「………っ」
怒りがまだまだ燻る中、サキトは母に持たされていたスマートフォンでニュース等を検索していた。聖也くんに何があったのか、手掛かりを探し──────。
ある、一本の動画に辿り着いた。
* * *
「……はい、もしもし」
しのぶに話している途中、サキトに電話がかかって来る。アンナからのものだった。
『護守くん。例の烏丸という少年だけどね、目を覚ました後色々喋ったそうだよ。どうやらクリーチャーの力を使っていたからか、自分は司法では裁かれないと舐めているようだね』
「はぁ……あの馬鹿の態度はともかく、何が分かったんですか?」
『今日未明に起こった殺しも、彼の仕業だと確定したよ。動画がどうとか言っていて、恨みを持っていたことは間違いないね』
「動画……そっか、被害者はあの時あの動画を撮った人か」
『心当たりがあるのかい』
「ええまあ。後で報告書にでも纏めておきます。それじゃ」
通話を切ると、しのぶが心配そうに顔を覗き込んで来る。サキトに自覚は無いが、眉間に皺でも寄った不機嫌な顔をずっとしていたせいだ。
「先輩、ほんとに大丈夫?」
「ああ、大丈夫。んでまあ今の連絡……話そうとしてた『動画』に関する情報もあったようだ」
「一体どげん動画ば見つけたと?」
「まあ………動かぬ証拠というか、その動画がアイツの一家を破滅させたと言っていい代物だな。まあ父親に関しては気の毒だが、母親とアイツ自身に関しては自業自得だと思ってる」
* * *
その後、鐘凜と烏丸家の母が学校に着き、教員を交えて話し合いが行われた。と言っても、相手の親はサキトと親を糾弾する気満々であったが。
「うちの諒一くんをこんなにするなんて、お宅の教育方針はどうなってるのかしら!」
「うぅ、すみませ……」
「やめて母さん。こんな奴の親に謝る必要なんてない」
「ンだとっ!」
「悪いのはこいつなんだ、聖也くんを『殺した』こいつが」
その言葉に教師と鐘凜はぎょっとする。真相を知ったが故か、サキトは怒りがある種の限界を超え逆に落ち着いたように見える態度を取っていた。
「んな……っ何を訳の分からないことを!そんな荒唐無稽な──────」
烏丸母が喚き出したところで、サキトはスマホを取り出して動画を再生する。画面の中には、近所の河の様子が映されている。
『オラよ!泣き虫野郎ー!』
河の中で何かを拾おうとしている聖也に向け、橋の上から河原で拾った石を烏丸達3人が投げつけている。離れた所から故か聖也の様子は分かり辛いが、石をぶつけられながらも必死に何かを探していた。
『ほら、お前らも狙え狙え!』
『おー、喰らえよこのー!』
『ここまでやって大丈夫ですかね……』
そして、聖也が何かを拾い上げた瞬間──────3人の投げた石が、連続で彼の後頭部に直撃する。
河の中に倒れ込んだ聖也は、うつ伏せの状態で浮いたまま……徐々に流されていく。
『え……っ』
『や、やばくないかー……これ』
『チッ、つまんねー。ほっとけよ。それより俺んち行こうぜ』
『う、うん』
3人が橋の上を走り去っていく……という所で、動画は終わった。
「こ、これは……っ」
「な、何でこんなもん撮ってんだよ!どこから!どうやって!」
動画には、3人の顔や服装も判別できるレベルで映っていた。烏丸の母は顔から血の気が引いている。
「わ、渡しなさいっ!」
「嫌だ」
スマホを取り上げようとした烏丸母の手を逃れ自分の手元に確保する。サキトの眼は完全に冷え切っていた。
「い、いくら欲しいのかしら?こんなもの見せるって事は見返りが欲しいって事でしょう!何でも言って良いわよ!」
「烏丸さんあなた……っ!」
「護守さんは黙ってなさい!さあ、言いなさい───」
「俺がとったわけじゃないから無駄だよ」
動画を映した画面から、戻るボタンをタップし………『匿名掲示板』の画面が映し出される。そう、その動画は既に世に出てしまっていた。
「俺は昨日風邪ひいて学校休んだし、病院にも行ってる。母さん、病院でお金払った記録あるよね」
「え、ええ」
「その後はずっと家で寝てたから、俺はこんなの見てないしとってない……さっき知ったばっかりだよ」
掲示板内では、既に3人の顔、本名、住所、家族の顔と名が割れていた。下へスクロールさせて行く事に、烏丸母の顔が真っ青になってゆく。
「父さん母さんに何度も聞かされたけど、一度ネットに流されちゃった情報はどうやっても消す事は出来ない……んだよね?」
「あ、あぁあ……っ」
「先生、すみませんでした。それじゃあ。母さん、行こう」
「え、あ、ちょっと……護守くん!」
あまりの事に呆然としていた先生を他所に鐘凜の手を引いてサキトが教室を出る。残された烏丸母はヒステリックに喚き散らし続けていた──────。
* * *
「──────そんな訳で、あの3人はネットに全部晒されて連日家に誹謗中傷の手紙が来るわ人が押しかけて来るわで……夏休みが終わったら、もう全員遠くに行っちまっていたよ」
「……うわぁ」
あまりに誰も幸せにならない顛末にしのぶも言葉を失う。所謂デジタルタトゥーの深刻さ、人々の攻撃性という物が垣間見えた。
「で、でも……それで先輩ば恨むとは、お門違いばい」
「あいつはそういう奴なのさ。自分は何でも思い通りになる、反抗する奴や思い通りにならない奴は許せねえ……そういう考えを拗らせたガキだった。ガキのまま進歩せずに恨みだけ膨らませてたとまでは思わなかったけどな」
出来れば思い出したくない悪縁を語り終えたサキトは渋い顔だ。同時に、当時の後悔も色濃く思い返される。
「……あの日俺が学校を休まなければ、今でも聖也くんは元気に生きてたかもしれない。そう思うと、肝心な時にそこにいなかった事をどうしても悔やんでしまうよ」
「そんな、そりゃ先輩ん責任やなかやろ?」
「それでもさ……大事な友達が、そんな風にいなくなっちゃったのは辛いんだ。でも、だからこそ」
「わっ」
しのぶを抱き寄せ、胸の中に掻き抱きながらサキトは語り続ける。
「家族も、友達も、好きな人も……そんな悪意と理不尽に晒させたくない、もう2度と。だから、頑張って守りたいと思うんだ」
「先輩……」
そう語るサキトの背は少し震えていた。しのぶは、静かにその背を抱きしめ、労わる様に撫で続けるのだった。
* * *
S級侵略者──────『サンマッド』『アダムスキー』『デッドゾーン
何という事だ、ドギラゴンの契約者に引き寄せられるように因縁ある者へ憑依したうえ、纏めて人間たちの手で排除されるとは。
一度不完全な天災とはなったようだが、あれでは『アレ』に対抗することは不可能だ。
やはり──────先にドギラゴンの契約者を、消さねばならないか。そのための準備を、進めなければ。