「──────とまあそういう事がありまして、翌日に組織の説明を受けて……俺はDGAの実働部隊員として雇われています」
手始めに、自身に起こった事を校長とドラ娘生徒会へ語り終えたサキト。
信用して貰えるようありのまま体験を伝えたつもりであるが………。
「えっと、それで結局、なんで護守先輩はドラゴンを呼び出して従えられるんですか……?」
「あ、そこをまだ説明出来てなかった」
アーシュが出した疑問に答えるべくサキトは自らのデッキを机の上に出し、スマホの隣に置いてから再び説明を始める。
「まずこの『デュエル・マスターズ』というカード、これを生み出した原作漫画に『真のデュエリスト』という概念が登場します」
「あー、昔クラスの男の子が読んでたねそれ!」
「あぁあったあった。ほんで、それはどんな物なん?」
「簡単に言ってしまえば『実際にクリーチャーが実体化するデュエルを行える実力者』ですね。彼らが行う真のデュエルは、危険を伴います」
デッキに手を置くと、上から5枚のカードを裏向きのまま並べていく。普段のデュエルと同じく、シールドを置く手順だ。
「デュエマのルールは、こうして最初に並べた5枚のシールドを互いにクリーチャーの攻撃で破り、最後に直接攻撃を通した者が勝つわけですが」
「ちょっと待て、さっき言った者達の対戦ではクリーチャーが実体化すると言っていたな」
「ええ、真のデュエルでは実体化したシールドが割られる度にデュエリストは傷を負い、敗者は実体化したクリーチャーに直接攻撃され……最悪死にます」
「そんなゲームが存在していいのか!?」
「まあ原作で語られた作中の成り立ちとか、兵器として利用してたって話とかありますが、カードゲーム物ではよくある事なんで……」
「それをよくあるで済ますのは色々麻痺してへんか?」
至極真っ当なツッコミに目を逸らしながら答える事しか出来ない。
「ソレで、アナタが実際にクリーチャーを実体化出来るノも」
「はい───クリーチャーが異世界に実在したように、現実の人間にもごく稀に『真のデュエリスト』の素質を持つ人間がいるというわけです」
「それ、色々と危なくないですか……?もしたまたまその素質持ち同士が大会とかで対戦してたら……」
「そこは問題無い。素質があると言っても大抵は微弱な者ばかり、何も無しに実体化させられる者はほぼおらんからのう」
「……校長もその辺ご存じだったと」
「まあの。それで、どうやって君達はクリーチャーを実体化出来るようにしておるのかのう?」
校長の疑問に答えるため、今度はスマホの画面をタッチする。アプリの「裏説明書」に書かれた図解が、3Dホログラムとして現れる。
「まずこのスマホ端末は、俺が真のデュエリスト候補である事をアプリが感知した時点で不可逆的な改造が施されたらしいです」
「えー?見た目は普通のスマホにしか見えないけど」
「水文明……デュエマのクリーチャー世界における、高度な科学文明を持つ勢力が作り出したアプリがそういう機能を有してるそうで……中身はもはや別物レベルみたいですよ」
「それ大丈夫なん?」
「まあちょっとやそっとじゃ故障しなくなったでしょうし修理がいるときはDGAがやってくれる……はず」
映し出された像自体に触れると、その部分が動作する。ここまでの高度な3Dホログラムは現代科学では未だ不可能な技術であろう。
「俺たちがクリーチャーと戦闘に入る時、通常は最初に『デュエルフィールド』と呼ばれる隔離エリアを作ります。これが展開された範囲は一般人は認識出来ず、同時に無意識的に避けるようになっています」
「……校長先生、私たちにも一般人にバレないようこういうバリアー張れる能力が欲しいんですけど……?」
「ほっほっほ、無理じゃな☆」
「「このクソ校長!」」
「……続けて説明しますよ?」
「さっき朕タチが見た空間がソレナノね?」
「ええ、そうなります」
光の幕によるエリアが展開される映像が流れ、それが広がりきるとエリア内にクリーチャーの像が配置される。
「このエリアは隔離以外に、俺たちがクリーチャーを実体化させる助けをしてくれます。そしてもう一つ必要になるのが、こちらの『デュエルテクター』」
「わらわたちも見たあの防具だな」
「これを身に着ける事で、真のデュエリストとしての能力が一時的に底上げされるとの事です。これでようやくクリーチャーの実体化が可能になる訳ですね」
「なるほど、大体のことは分かったわい。ワシらとは異なる方法でクリーチャーによる被害を止めようとする者たちがおったとはのう」
納得した様子で頷く校長を見ながら、サキトは映像の投影を終えて生徒会メンバーへ向き直る。
「それじゃあ今度は、そちらの事情をお聞きしてもよろしいかな」
「あ、はい。それじゃあ私から……」
アーシュの口から語られ始めた、ここ1週間の出来事……校長にドラゴンの力を付与されて学校生活を脅かすクリーチャーと戦う羽目になった事に、生徒会メンバーとしてメガ、ギャイ、すず、ゼオスの4人が加わった事。
そして、生理現象や感情の起伏によって不意にドラゴン化してしまいそうになり苦労している事……。
「この前通学中に電車でツノやしっぽが出ちゃったりしてさ~」
「メガはたまに火ぃ吹いたりするし、こんなんじゃいつ大事になるか気が気やないわ」
「わらわは席が最前列だから授業中は特に気を付けてはいるが……」
「見マチガいだと思ってル間に隠すのがタイヘンなのよネ」
「皆さん苦労してますね……」
クリーチャーの力を使えるだけなら便利と思っていたサキトも、自分で意識せずに変身しかけてしまうという事を聞いては羨ましいとは思えない。日常生活にも難儀するのは流石に御免であった。
「まあ、今後は校内で何かあった場合は俺も皆さんを手伝いましょう。部の事もあるので生徒会入りは難しいですが」
「ふむ、少々無理をすれば君もドラゴンの力を……」
「お断りします、というか無理をすればって彼女達より条件厳しいんですか」
「今のところは何故か少女の方が付与をさせやすくてのう?」
「今日会った5人もそうだったですけど、ドラゴン『娘』ばっかりなのも一応理由があるんですね……」
ドラゴンの力との相性もあるのだろうか、サキトにとっても興味は尽きないが何らかのリスクがありそうな言いようでは断る一択である。
「アナタがドラゴンの力を得たら……ドラ娘の逆デ、ドラ息子カシラ!」
「すげえ人聞きの悪い響きに!」
「ゼオスはん、それだと悪口みたいになるからもうちょい別の言い方にした方がええよ」
「アラ、そうナノ?」
「まあともかく……ちょっと皆さんの写真撮って良いですか?」
え、と彼女達が固まる。
「ボク達の写真撮ってなにに使うの?」
「ああいや変な事ではなく、DGAに写真と名前を送っておきたいなと……皆さんの安全のために」
「ええ、何か危ないんですか……!?」
「ふむ、先に向こうに周知させておく事で、街中で護守くんの同僚に諸君らが会ったとしても危険なクリーチャーとして攻撃されないようにしたいんじゃな」
「まあそう判断されるとは限らないですけど、念のために」
「それなら仕方ないワネ」
そうして一人一人写真を撮り、名前と所属学校を添えた資料を作っていく。
あらかじめ作っていた、今日起こった校内でのクリーチャー騒ぎと倒したクリーチャーの報告書と共に送信を完了させる。
「これでよしと。皆さんありがとうございました」
「うむ。それでは皆、遅くなる前に帰るのじゃぞ」
「はー、ほんま今日は疲れたわ」
「それじゃセンパイ、またねー!」
校長室からぞろぞろと出ていく6人。一応最後にサキトが一礼しながら扉を閉じた。
「ふむ……あの技術を作ったのは、あやつらかのう……?」
* * *
下校途中、サキトは駅周辺のカードショップを見て回っていた。一昨日の新弾で出たカードの価格等は落ち着いてきたかを見るためであったが……。
「ドギラゴンのシングル価格がえらく高いな………シク版には手が出ねえわこれ」
ドリームレアは数箱に1枚という封入率らしく目当てのカードは凄まじい値段となっていた。
「……DGAの方から給料出るって言ってたしそれで……いやいや流石に無いか……?」
「あ、副部長しゃん」
「ん?」
声をかけられそちらを見れば、学校でのクリーチャー騒ぎの際にも会った少女……蒼斬しのぶがそこにいた。
水泳部でありながら新入部員の帝王坂∞に付きまと……付き添っている事が多いためサキトもすっかり彼女の顔を覚えている。それに……。
「何故かいっつも水着姿だから余計頭に残るんだよなぁ……」
「どうかしたと?」
「いや何でも。蒼斬さんが帝王坂さんと一緒じゃないのは珍しいな」
「∞ちゃんがやっとーゲームがどげんもんか知りとうして、隣のゲームショップに寄ってみたと。何だか他ん人はびっくりしとったけど」
「そら驚くだろうなぁ………」
サキト自身も彼女がゲーム部に水着姿で顔出しするのにまだ慣れていないわけで、面識が無い人間なら猶更であろう。
「まあまだ水泳部は本格的な練習始まってないから良い……いや良いのか?………良いけど、あまり他所の部に入り浸るのはあまり良く思われないんじゃないか」
「練習が始まったらそちらに力ば入るーばってん、練習が無か日は来てよかよね?」
「まあ、トラブルを持ち込まなければ……」
「やった、お墨付きばもらえて嬉しか!」
「……まずったかなぁ……?」
何か大義名分を与えてしまったように思えてならないが、まあ悪い事にはならないだろうと思い直す。
それはともかくとして。
「カードゲームの方は興味あるかな?今なら格安でなかなかに強い入門用デッキが出てるけど」
「しゃっと勧誘に切り替えたね……?んー、∞ちゃんが手ば出すなら考えようかな」
「なら明日辺りお試し用のを持っていくよ。それで、今日はもう帰りかな?」
「そんつもりばい。ならね……あれ?」
しのぶが首を傾げる。その目線の先には、薄暗い小道がある。
「あそこ、何だか光っとーごと見えるばってん……」
「光ってる?……まさか」
サキトもそちらを見ると、路面に紫色に光るラインとその向こうに暗い景色が見えた。
「……ありゃ……もしかするとまずいな」
「あ!ちょっと!」
小道へと駆け出すサキト。スマホを取り出しながら、その境界線を踏み越える。
瞬間、砂埃を含む風が彼の頬を撫でた。
「やっぱり、ここがDGAに説明された……
彼の前に、破壊され荒廃した街並みが広がっていた。