丸々しのぶちゃんとの絡みなのは作者の趣味でございます。
暗い空。
荒廃した街。
感じられる嫌な空気。
夜ごと現実世界に現れる、境界線の向こうの地獄の領域。それが───
「初めて見た……これが
現在最も警戒すべきクリーチャー災害、『ゾーン』である。
この領域に迷い込めば、十中八九命は無い。
抗えるのは才ある決闘者のみ──────
「ともかく、クリーチャーに出くわす前に起動しておかないと」
『Dueltector summoning』
デュエマフォン・アプリを起動させデュエルテクターを装着する。
ゾーン内においてはシールドで身を守り、クリーチャーと常に戦えるようにしておかなければ危険だと事前に説明されていた。
気を引き締めて行かなければ──────
「うわっ、ここなんなん!?」
「ブッ!?」
後ろから聞こえて来た声に思わず噴き出す。
振り向けば踏み込む直前に話していたしのぶが共に入って来てしまっている。
「説明しなかったのも悪いけど、何でついて来たのか!?」
「焦っとったけん、何かありそうやて思うたばい。副部長しゃんな、普通ん人とは違うとは分かっとったけん」
「いやまああるのは確かだけど……ええい、すぐ引き返すか離れないようついて来るか、どっちかで頼みます!」
アプリのモードを切り替えると、レーダーのような画面が表示される。ゾーン内に迷い込んだ人間の反応を感知できるというものだ。
真後ろのしのぶ以外に、前方に二人ほどの反応がある。早めにそこへ向かわなければ……と思ったその矢先。
「きゃぁああぁぁぁあぁぁああ!!」
「拙い……!」
全速力でその方向へ向かう。デュエルテクターはサキトの身体能力を増強させ、瓦礫の山を軽々と越えて現場へと向かえるようにしていた。
しのぶも自らに宿るドラゴンの力を使ったか、慌ててそれについて行く。
そこには、今にも女性に襲い掛からんとする、人型に近いフォルムの大きな怪物──────
「でえらぁあっ!!」
『グォォオォ!?』
横っ面にタックルを食らわせる。シールドがクリーチャーとサキトの間に展開され、斥力を発して女性から遠ざける事に成功した。
「大丈夫ですか!」
「りょ、リョウが、リョウがぁあぁぁ!」
半狂乱になった女性が指さす方向を見る。そこにあるものは、カメラが起動したスマートフォンを持った……
「ひっ」
「う……っぐ」
しのぶが慄き、サキトもこみ上げる物を堪える。
目の前の怪物の口からは、赤い雫が滴り落ちる。間違いない、こいつが
デュエマフォン・アプリが示す情報では、こいつの名は……。
「《ガルデス・ドラグーン》……闇のクリーチャーか」
「ど、どうすると!?」
「ともかくこの人を連れてさっきの道からゾーンの外に出る!こいつは俺が引き付け──────」
ガァンッ!!と激しい衝突音が鳴る。
サキトが張った周囲を守るシールドに、何かがぶつかって来たのだ。
「っ、今度は何だ!?」
「あ、あそこ!速そうとがおる!」
しのぶが示す方に、両腕に刃を生やした細身の竜人が立っていた。
《サイレント・ドラグーン》……ガルデスと同じく、闇文明の“ティラノ・ドレイク”という種族のクリーチャーだ。
「前言撤回、両方どうにかしないと逃げるのも難しいな……」
「何よ、何なのよこれぇぇっ!!」
「落ち着いてくれ……と言っても無理か、仕方ない」
サキトがアプリを操作した後にスマホの画面を女性に見せる。
すると狂乱していた女性がすぅっと大人しくなり、地面に座り込んだ。
「そ、そん人に何ばしたと!?」
「少し寝て貰っただけだから大丈夫、数時間で目を覚ます!」
女性を寝かせたらすぐにアプリでバックアップ要請を送る。これでバックアップスタッフがゾーンの外側に来て待機してくれるはずだ。
「蒼斬さん、可能なら戦ってもいいが、無理はしてくれるな。こういうタイプのクリーチャー相手は初めてだろう」
「大丈夫ばい、うちも少しは手伝うけん……!」
「分かった……じゃあ行くぞ!」
かくして、命懸けの戦いが始まる。
「手札が重い……!カツキングをマナゾーンへ!」
3色のマナとしてチャージされるものの、多色マナは基本的にはチャージしたターンには使えない。
「蒼斬さんはともかく早い方に専念を!最悪シールドで防げるから俺を盾に使っても構わん!」
「分かったばい!」
直後、2体が襲い掛かって来る。
シールドに拳を叩きつけ、刃を突き立てて来るが、シールドはすぐには壊れない。
「ゾーン内はシールドの硬度が上がるのか?もしくはデュエリストからマナを受け取って無いからか……いずれにせよ時間は十分稼げる!」
「よし、行くばい!」
自身に宿るドラゴン《斬隠蒼頭龍バイケン》の力を使い、二本の忍者刀を出現させてしのぶがサイレント・ドラグーンを斬り付ける。
片腕を切り落とされ、どす黒い血が噴き出した。
「ひっ、血が!?」
「っ、蒼斬さん下がれ!攻撃をしのぐだけでいい!!」
ドラゴンの力を与えられていようと、心は普通の女子高生。生き物を傷付け肉を裂く感覚と血飛沫は精神に来るだろう。
「ドロー……っ、サイバーエクスをマナゾーンへ!こっちに来い、クリーチャーども!」
『グオォオオオ!!』
ガルデス・ドラグーンが、まるでリーゼントのように伸びた角から閃光を放つ。
それに貫かれ、シールドが1枚破壊される。
「ちぃっ!来たのは……!よし、運が向いてきた!」
「反撃、できそうと?」
「ああ、これなら行ける……しかし長居すると拙そうだ」
周囲に何匹かクリーチャーの反応が近付きつつある。突破できる数の内に、目の前の敵を倒しどうにかする必要がある。
「俺の、ターンっ!ホーリーグレイスをマナゾーンへ!そしてぇっ!」
手札から、竜の頭骨と大きな爪を装備した青いネズミが描かれたカードを晒す。
それは、かつてデュエマの大会において、ドギラゴンと共に暴れ回った相棒と言えるカード。
「《“
廃墟の戦場に大爪を携えたネズミが降り立つ。
これだけなら、自壊デメリットを持つ速攻アタッカーでしかないように見える。しかし、チュリスの真価はここからだ。
「チュリスでガルデス・ドラグーンに攻撃!これで、『コスト5以上』の『ドラゴン』ギルドであるチュリスによる攻撃という条件が満たされた!」
ドラゴンの化石を身に着け、鎧とする者達、「ドラゴンギルド」という種族。
本物のドラゴンではない彼らだが、デュエマのルール上『ドラゴン』を名に含む種族名であれば他のドラゴン系種族と同じくドラゴンに関する効果の恩恵を授かる事が出来る。
それを活かした戦法の一つが、これだった。
「革命チェンジだ!現れろ、蒼き守護神 ドギラゴン閃ッ!!」
高く跳び上がったチュリスが、英雄竜とバトンタッチする。
強力な力を持つドギラゴンを早期に呼び、同時に自身は手札に戻る事で自壊のデメリットを帳消しにする。彼らの相性は抜群だ。
『ギァァアアァアァァッ!!』
「……かっこよか」
「ドギラゴン閃のファイナル革命、発動っ!デッキの上から4枚をめくり、その中から進化ではない多色クリーチャーを、コスト6以内の範囲で2体まで場に出す!」
4枚の中に多色は2体。マナ加速のボルシャック・栄光・ルピアと、これまたドギラゴンと相性が良かったカツキングだ。
「よし、カツキングをバトルゾーンに!効果で山札の上から5枚めくり、その中の1枚を相手に見せて手札に加える。その他の4枚は好きな順番でデッキの1番下に!手札に加えるのは《蒼き王道 ドギラゴン
『オララララララァ!』
「ドギラゴンで、ガルデス・ドラグーンを攻撃だっ!!」
ドギラゴン閃の刃が奔る。力の差は歴然、ガルデス・ドラグーンを一刀のもとに切り伏せた。
「カツキングのマッハファイター能力!場に出たターン、相手クリーチャーをタップしていなくても攻撃出来る!サイレント・ドラグーンに攻撃っ!」
カツキングの拳がクリーチャーを吹き飛ばし、瓦礫へと叩きつけた。
「やった!これで2体とも倒したばい!」
「よし、このまま撤収……と行きたいが、この人を抱えて行かないと」
寝たままの女性を抱えて動くのはいくら身体能力が上がっていても大変だ。
両手が塞がれば、クリーチャーの攻撃に対処が難しくもなる。
「どうするkわぁぁあぁあ!?」
「副部長しゃん!?」
突然の浮遊感。何事かと身構える間もなく、何かふさふさとしたものの中に女性と共に落下する。
「きゃぁあぁ!?」
「蒼斬さん!?どわっぶ!」
続けてしのぶも放り上げられ、サキトの上に落下する。
彼らが落ちたのは……ドギラゴン閃の鬣の中だった。
「いきなり何ばするとこんドラゴン!?」
「いや、まさか……うぉっ!」
ドギラゴンがその四肢で駆け出す。みるみるうちに彼らが入って来たゾーンと人間界の境界線が近付いて来る。
「いかん、待ち伏せ……っ、蒼斬さんしがみ付いて!」
「うひゃぁぁっ!?」
境界線近くに足止めするよう現れたサイレント・ドラグーン2体を、一瞬でドギラゴン閃が斬り捨てる。
そして頑強な爪で踏ん張り急停止すると、3人を下ろすように頭を下げてくれた。
「い、今の全部こんドラゴンに命令したと?」
「いや全く……もしかして」
自主的に助けてくれた、のだろうか。カードに描かれたクリーチャーである彼が、自らの意志で。
「ドギラゴン……」
『…………』
言葉は分からない。ただ、早く行けとその首で境界線の方を示された。
「………ありがとう!いつか、君と話せる日が来るのを、願ってる!蒼斬さん、行こう!」
「うん!早よ行こう!」
かくして彼らは、人の世界へと帰還する──────
* * *
ゾーンから出た途端、やって来ていたバックアップスタッフに彼らは囲まれた。
小道を封鎖して天幕も張り、戻って来た彼らが民間人の目に留まらないよう防いでくれていた。
「大丈夫か!?」
「ええ、何とか………民間人を1名救出できましたが、1名犠牲者が……すみません、一部とはいえ、遺体も回収できず」
「いや、初めてゾーンに踏み込んだんだ。全て完璧とは行かないのは当然だよ」
「よく無事で戻って来た……!」
気を張り続けていたサキトは、ようやく人心地が付く気分になった。
「ところで……そちらの彼女は」
スタッフたちが警戒の目でしのぶを見る。彼らも簡易的なクリーチャー感知機器を持っており、ドラゴンの力を顕わにしていた彼女がそれに引っかかったようだ。
「蒼斬さんは大丈夫です。うちの学校の生徒で、クリーチャーの力を付与されてはいますが……悪用はしない人だと思います、たぶん」
「むしろ部活にも生活にも邪魔で困っとーと……」
「なるほど、では一応危険人物ではない事をデータとして登録しておきます」
「よろしくお願いします。あと、この人のケアも……」
「ええ。それではお疲れ様でした!」
スタッフ達が被害者の彼女を連れ撤収していく。クリーチャーの数を減らしたためか、背後の境界線は少しずつ後退しているように見えた。
残されたサキトとしのぶは、ため息を吐いた。
「はぁ……とりあえず、家まで送って行くよ。色々疲れただろう?」
「あ、ありがとうごじゃいます」
様々な物を見て疲弊していたしのぶは、素直に頷いた。
家は幸い近場らしく、連れ立って歩きながら帰る事となった。
「……副部長しゃんは、いつもあげん事ばしとーと?」
「いつも、というか……この間の土曜にやるようになったばかりだよ。ただ、これからは本当に“いつもの事”になるかもしれないかな」
「えずうなかと?」
「えずう……怖い、って意味だっけか。そりゃまあ少しは怖いよ。けれど……」
一拍置いて天を仰ぐ。何かに思いを馳せるように。
「訳も分からず抵抗も出来ず、もっと怖い目に遭う人達の数は……俺達が頑張れば減らせるはずだからな」
「副部長しゃん、ちょっとつやつけすぎばい」
「つや……なに?」
「格好つける、って意味ばい」
「ひでえ、結構真剣に言ってんだよ俺は……っと、ここらへんだっけかな」
「うん、送ってくれてありがとうごじゃいます」
彼女の家の前まで無事辿り着いた。一先ずはこれで安心だろう。
「あんなの見て夢見が悪いかもしれないけど、スポーツは身体が資本だろうし今日はゆっくり休んだ方がいいよ。それじゃあ」
「ありがとう、護守先輩。ならね~」
別れの挨拶を交わしてサキトも帰路に就く。すっかり遅くなってしまった言い訳を考えなければ。
「……そういや、初めて蒼斬さんに先輩って呼ばれた気がするな」
色々と変わった後輩の友達と、少しは仲良くなれたのだろうか?
本二次創作ではLost本編と異なり、ゾーン内部でクリーチャーを駆除するとゾーンの拡大抑制、或いは縮小が起こるとしています。
ある程度は苦労に見合う報酬があったような形にしたい……!