最後に待つのは、クリーチャーとはまた異なる神秘のお話でもあります。
「昨日の夜なんか変な耳鳴りとかしたけど何だったんだろ?」
「私はなんかめまいが……」「僕はなんか気持ち悪い感じがしたなぁ」
「(やべえ……皆も影響出てたのか、早めに始末出来てて良かったかもしれん)」
──────2024年11月22日、4日間に渡る修学旅行も、今日で最終日となる。
昨晩騒動のあった福岡市内のホテルだが……サキト達がジェルヴィスとエンカウントしていた頃、従業員たちが謎の体調不良を訴えていた事が判明した。
ホテルの各階層にD2フィールドの残滓と思われる空間異常の反応が検出されたため、ジェルヴィスは《Dの天牢 ジェイルハウスロック》をホテル全体へと構築しかけていた事が推測された。
もし完成していれば、宿泊客と従業員の全てが監獄に閉じ込められて監禁人数が一気に増加、ジェルヴィスは手が付けられない強さになっていただろう。
「さてと、こっから少し歩きか」
「そろそろ受験シーズンも近付いてきたからか、結構人がいるなぁ」
もしもの話はさておいて、ホテルを後にして観光バスで移動してきた彼らは今、「太宰府駅」の駐車場にいた。
太宰府天満宮。天神様、菅原道真公を御祭神として祀る、天満宮の総本社である。学問・厄除けの神様として祀られているため、中学・高校の修学旅行で訪れる個所としては鉄板の一つであろう。
「今日はほんとに真面目にしとけよー、道真公は怒らせるとちょっと洒落にならんからな」
「またまたぁ、祟りなんて本当にあるわけ───」
「
「怖えよ護守!?何だよ?何かマジであんのかよ!?」
「え、何。マジトーンで言われると不安になるからやめてくれよ」
……DGAの仕事を始め、生徒会のメンバーと色々情報交換していてサキトが気付いたことだが、どうやら
そんな例もあるのなら、怨霊や祟り神が実在していてもおかしくはない。触らぬ神に祟りなし、そういったリスクはなるべく避けておきたい所であった。
「とりあえず、歩きながら食べられる軽食でも買って先に竈門神社の方でも行こうぜ」
「こっから徒歩で30分強か、そっちはどんな御利益だっけ?」
「縁結びだってよー、それも恋愛絡みだけじゃなく友人や良い仕事との縁にもご利益があるってさ」
「なるほど、それは良いな。時間的にも余裕はあるし行ってみるか」
そんなわけで、サキト達の班は参道を通り竈門神社へ向かう……その途中、彼らは名物の「梅ヶ枝餅」を買い食べ歩くのであった。
「おお、美味い!でもなんで梅なんだっけ?梅の花が入ってる訳でもないのに」
「ガイドに書いてある、飛梅伝説からだな。大宰府への左遷が決まった道真公が京都の梅に語り掛ける歌を詠んだら、一夜で梅の木が太宰府まで飛んでいったっていう話だってさ」
「それで太宰府天満宮で授かれる御朱印やお守りも、梅の花がモチーフになってるんだと」
「へぇ~……」
そんな会話を続けながら、彼らは神社へと辿り着いた。
「こっちも人がいるなー、やっぱり縁結びは魅力的か」
「彼女がいる護守は必要ないだろうけどなぁ!!」
「仕事の縁が貰えるなら要るわ!」
天満宮の本社よりは小さくとも、この竈門神社も立派な社がある。3人は手水舎で手を清めてから社へ行き、賽銭を入れた。
「「「……」」」
そのまま目を瞑り、手を合わせてそれぞれの良縁を祈願する。本当に御利益があるかは分からないが……何か良い事はあるだろう。
* * *
「あら、3人は内山エリアへ行っていたのね」
「Jack-Potの皆さんもこれから太宰府天満宮参りですか」
「お土産を先に見繕ってたらこんな時間になっちゃったわねー」
天満宮の手水舎前でサキトの班はJack-Potの4人と鉢合わせする。サキトは今日は別行動でもしようかと考えていたのだが、結局タイミングよく出くわして同行する事となってしまう。
「うー、何だかピリピリ来るぜ……」
「静電気かなんかですか?」
「いや、何か変な空気を感じてる。ザーナやしゅうらも同じ」
「ふぅむ……」
……ドラゴン娘としての力に、神社の神聖な空気が反応しているのだろうか?そう考えるも確証は無く、この場で言うわけにもいかないので口には出さずそのまま手を清めて行く。
「残念ながら本殿は改修工事中で、ワタシたちが参拝できるのは『仮殿』になってしまうのよね」
「えー、本殿の改修終了予定は再来年か……機会があれば改修し終えた本殿を見に来るのも良いかもしれませんね!」
「その頃には俺らも卒業済みか……たぶん」
「おいたぶんはやめろ、ダブりなんて流石に避けてえぞ」
「……ちょっと本気で祈ろう」
中等部からエスカレーター式に進学できる桜龍高校だが、流石に高等部では成績と出席日数で進級出来るか否かが決まる。来年2年生をもう一度やる等と言う事態は避けたい所であった。
気を引き締めながら、朱塗りの楼門をくぐり彼らは本殿前に建てられた仮殿へと向かう。
「おぉー……屋根に草木が植えられてる……」
「これが仮殿かぁ、屋根の上に森が出来てるみたいでワクワクするなぁ!」
天満宮周辺の杜がそのまま移って来たかのような、緑で覆われた屋根が仮殿最大の特徴だ。
そこには既に独自の生態系が出来上がっていると言われており、現在はススキが見頃となっている。
「それじゃあ、こっちが先にお参りさせて貰うよ」
「どうぞどうぞ、俺ら3人はその後で大丈夫ですんで!」
まずはザーナ達4人がお賽銭を入れ、彼女達それぞれの願いを祈願する。それが終われば、今度はサキト達の番だ。
「お賽銭はこれでよし、と……」
手を合わせ、無事の進級と進学を祈る。そうして暫く静かに目を瞑っていると……。
不意に、世界から音が消えた。
* * *
「ん……?何だ───っ!?」
周囲を見ると、彼の周りに居た人々すべてが、金箔に包まれたかのような姿で停止しているように見えた。動けるのはサキトのみ……ではなく。
「な、何!?どうしたの!?」
「ピリピリは無くなったけど、何かやな感じだぜ……!」
Jack-Pot4人も動けていたが、彼女達全員にドラゴンの特徴が表れていた。つまり……。
「昨日に続いてまた襲撃なの?」
「そういう事かしら。モテるわね護守くん?」
「ちっとも嬉しくねえモテ方なんですが……っどわ!?」
後ろから殺気を感じ、慌てて飛び退いた所を巨大な錫杖が掠める。振り向けばそこには、金と青紫の鎧で身を固めた、まるで閻魔大王のような意匠を持つ巨体のクリーチャーの姿。
その上そこにあるはずの仮殿が、赤と金を基調とし、仏像っぽくなった謎のクリーチャー像を祀った社に変えられている!
「《D2J2 ヴィスエンマ》!?この野郎、とんでもねえ罰当たりな事してねえか!」
『ハハハハ!網を張っていて正解であったわ!ジェルヴィスの仇討ちよ、ここで死ねい!ドギラゴンの契約者とその仲間よ!』
「ぬああ!?4人とも下がって!」
慌ててコントラクトアーマーを起動させ、ドギラゴン剣の鎧を纏って応戦する。しかし、どうにもその動きは防戦一方だ。
「やべえぞ、一方的にボコボコにされてる!反撃できねえのか!?」
「あのクリーチャーの能力のせいよ。ヴィスエンマは、社を上書きしているD2フィールド……《Dの光陣 ムルムル守神宮》がある限り、全てのバトルに勝利するわ」
「つまり、無敵ってことなの!?」
「デュエルで戦えたなら、彼にも突破口があるけれど……この状況は、周りに人が多すぎるわ。シールドを割られた瞬間、破片が周りの一般人にも降りかかって大怪我をさせてしまう!」
「絶体絶命、まずいな」
しのぶを庇ってデュエルした際は、サキトの後ろにいた彼女を庇えば問題無かった。しかし、不特定多数の参拝客が周囲にいる状態では、シールドの破片から彼等を守り切る事は不可能だ。
下手に動くと、その場合もヴィスエンマの攻撃に周囲の参拝客が巻き込まれる。そのまま錫杖で幾度も打ち据えられ、サキトの纏う蒼い鎧がひび割れてゆく。
「こなくそ……っ!」
「とにかく、気を反らすくらいは出来ない!?」
「距離を取って、周りに人がいない場所から遠距離攻撃すれば……」
「そんなこと言っても、オレらはドラゴンの力で戦ったこと全然無いぜ!?細かい狙いを付けられるか!?」
「楽器は無いし、何より水晶がいないから、生徒会の皆が言ってたような歌で力を与える事も出来ない……!」
正に万事休す……かと思われた。
『これでトドメよっ!』
「く……っ!」
『喰ら……っがガガガガが!?』
ヴィスエンマが大きく錫杖を振り上げた、その時だった。
突然、その錫杖へと天から雷が落ちて来た。
「な、何だ!?急にゴロゴロって!」
「……見て、社の方が」
気付けば空は黒雲に覆われ、稲妻が社を上書きしたムルムル守神宮へと何度も落ちて、その個所から元の仮殿が姿を取り戻してゆく!
『おのれ、一体何が……っ!』
「あ、あれは……っ」
仮殿の前に、何者かが立っていた。衣冠束帯姿に太刀を佩き、笏を手にした……。
「っ!この不届き者はすぐに始末します!どうか怒りをお鎮めを……っ!」
その正体を察し思わず身震いしたサキトは、怒りの矛先がこちらに向かぬよう礼を払う。すると……。
──────境内での刃傷は許さぬ。殺さずして、この不届き者を消すがよい。
「っお゛ぁっ!?」
サキトの身に雷が落ちる。しかし痛みは無く、全身にスパークが走ると共にひび割れ破損した鎧と剣が修復され……別の形へと変わってゆく。
騎士を思わせる鎧は、より近未来的なプロテクターの如く。両腕、両肩、両脚にはドギラゴンの剣に刻まれていた『竜』『星』『紅』『王』『鬼』『勝』の文字が現れる。
「おぉおおぉぉ……っ!」
『これは……っ!サキト、行くぞ!』
「『蒼き王道ッ!ドギラゴン超ッ!!』」
新たな鎧、ドギラゴン超の鎧を纏ったサキトが跳ぶ。迎え撃たんとしたヴィスエンマだが、その錫杖を一刀両断すると、サキトの両腕から翠に輝く6本の光刃が飛び出し……ヴィスエンマの五体に食い込んだ。
『ば、っバカな……!』
光刃に触れた個所から、ヴィスエンマの身体がマナへと還元され消滅してゆく。数秒と経たず、ヴィスエンマの痕跡はこの世から消え去った。
「っはぁ、はぁ……っ!」
「護守くん!大丈夫!?」
消滅と同時にコントラクトアーマーは解け、周囲の様子も元に戻って来た。少々負担が大きかったか、マナと体力を消耗したサキトは地面にへたり込む。
「んぁ、何だ?護守、体調不良か?」
「先生呼んだ方が良いか!?」
「い、いや大丈夫、何でも無いよ」
無事元に戻った班の男子に話しかけられ、サキトはどうにか立ち上がる。
「まあ、なんだ。ちょっとばかし……天神様の威光に触れたってだけだ」
「「???」」
* * *
「ふぅ、色々あったけど、修学旅行もこれで終わりか……」
あの後は何事もなく、福岡空港にて、無事羽田行きの旅客機に乗り込んだサキト達は離陸の時を迎えていた。
菓子を中心にいくつかのお土産を携え、鞄に詰め込んだ。3時間もすれば東京の自宅へと帰り着けるだろう。
『2度もマスター・イニシャルズの襲撃を受けるとはな』
「(やっぱり、色々とマークされてると思った方が良いのかな)」
『ああ、間違いあるまい。そして、これまで襲って来た侵略者やイニシャルズを葬って来た数を考えれば……そろそろその戦力も減って来ている以上、裏で関与している者が出て来てもおかしくは無い』
「(決戦の時は近いかも、ということか)」
侵略者絡みで想定される相手は、一応心当たりはある。とはいえ、イニシャルズがそれに協力しているのか、偶々同時期に襲撃しているかはまだ読み切れない所もあった。
そして、イニシャルズの力の大元たる『奴』は──────。
「(仮に戦うとしたら、間違いなく、激戦になるだろうな………)」
* * *
「あー、しのぶ?来年の修学旅行がもし俺らと行き先同じなら………天満宮では絶対、失礼のないようにな?」
「??? わ、わかったばい」
その後。無事家に帰り付き、4日ぶりに会ったしのぶに対して、サキトは最初にこう伝えたそうな。
修学旅行編終了!
作中11月も終わりが近付き、次なる大きなイベントがいよいよ起ころうとしています。