「本当にここで大丈夫なんですか?」
「ええ、これまでの行動パターンを見る限り、この時間に対象はここを通過します」
──────2024年12月2日、午後22時頃。
首都高の一角、封鎖されバリケードが設置された路上にてサキトとDGA職員が会話していた。
──────深夜に高速道路を疾走する、人型のナニカ。ここ1週間ほどの間に、都内の高速道路で目撃情報が多発していたそれは、事故を幾度も誘発させ謎の怪異として噂となっていた。
DGAが調査したところ、クリーチャーである事は確定したのだが……あまりの速度にデュエラッドやデュエモービルでも追いつけず、各所の実働部隊でもそれを捉えられずにいたのだ。
「それで、俺にお鉢が回って来たと?」
「ええ。待ち伏せするにもそのクリーチャーを止められなければいけません。そこで、クリーチャーと同化しての戦闘を一番多く経験している護守隊員であれば、相手に接触し脚止めが可能であると我々は判断しています」
「まあ頼られるのは別に構いませんが……」
「班長!そろそろ時間です!」
「では、お願いします。お気を付けて」
「了解……っと」
『Duel field expansion. Contract armor awakening.』
デュエルフィールドを最小限に展開し、ドギラゴン閃の鎧を身に着けて備える。目を瞑り感覚を研ぎ澄ますと、猛烈な速度で気配が近付いて来るのを感じる。
『この気配は……』
「知っている相手ですか?」
『恐らくは、ではあるがな。轟速の侵略者達から感じる気配だ……!』
「なるほど、確かに目撃情報との特徴は合致しそうですね──────来る!」
両手を前に翳し、相手を捕まえ受け止める姿勢を取るサキト。前方から、空気を引き裂き何かが走って来る音が聞こえて来た!
「ど……っせぇいっ!!」
猛スピードで突進してきた相手を、両手でどうにか掴み踏ん張るサキト。数メートル後退させられるが、デュエルフィールドを展開して閉じ込める事に成功した!
「何だ……っ!?」
正面から組み合うような体勢で止まり、それによって漸く相手の姿が確認できた。
顔は、銀髪に赤い瞳を持つ美しい少女。上半身は赤いスーツのような物を纏っているように見えるが、胴体の下半分は機械が剥き出しとなり、くるぶしから先は足の代わりに車輪となっている、アンドロイドのような姿。
「こいつ、は……っ!レッドゾーンZ!?金トレ版の!?」
『…………』
《熱き侵略 レッドゾーンZ》。背景ストーリーにおけるドギラゴンの宿敵、レッドゾーンから生み出されたクローンの1体だ。ただし、元の人型ロボットのような姿ではなく、クリエイターコラボで生み出された金トレジャー版、擬人化された姿の物だ。
『ようやく会えた……ドギラゴン』
「何?」
『貴方が来るのを待っていた』
「どういうこと、だっ!?」
レッドゾーンZが両手を大きく広げ、その手を掴んでいたサキトは無理やり腕を開かされ互いの距離が縮まる。そして、敵である彼女が──────脈絡もなく、サキトの唇を奪った。
「んむぐ!?!!???!?!?」
『ん……』
無表情のまま彼の口を開けさせ、舌をねじ込み吐息を吹き込んで来る彼女の行動に訳も分からず目を白黒させるサキト。混乱しながらも彼女を突き飛ばし、距離を取った。
「な、ななな何考えてんだコイツはっ!?」
『これでよし。目的は達成した』
「何を言って……っ!?」
突如膝を付くサキト。身体が熱く、心拍数が上がり、視界が赤く染まってゆく。
「な、んだ、これは……っ!」
『まさか、この症状は……っ!』
サキトと同様に、同化しているドギラゴンも苦しみ始める。そして、彼は自身を苛む症状を、かつて一度味わった事があった。これは、かつてランド大陸にばら撒かれた……。
「『侵略、ウイルス……っ!?』」
『そう、それもギュウジン丸が新たに作り上げた、改型最終侵略ウイルス』
クリーチャー達を欲望のままに動く侵略者へと変えた、ギュウジン丸らジ・アンサーが生み出した悪夢のウイルス。それが、侵略ウイルスだ。
先程のキスで体内にそれを注ぎ込まれたサキトとドギラゴンは、その力に蝕まれてゆく。
『これに感染してしまえば、どれほどのクリーチャーであっても、抗うことは出来ない』
「ぐ、ぅぁ……っがぁ……っ!!」
意識が薄れ、破壊衝動が高まって行く。自身の身体が、抑えられない──────。
『──────これで貴方も、私達の仲間』
『──────がぁぁぁぁああぁぁぁあぁあっ!!』
──────その日の晩、封鎖されていた首都高の一部が突如として損壊した。一般には事故として発表されたが、その真相を知る者は……表の世界にはいなかった。
* * *
「先輩が、行方不明……ですか?」
──────翌日、2024年12月3日。
昼休み、桜龍高校の生徒会室に、しのぶと∞が訪れ異常事態を彼女達に共有していた。
「うん、今日は朝から学校でも先輩に会えんで、欠席しとーって言うけん電話したら全く出てくれんで」
『先輩の家に電話したら、お母さんが昨日の夜DGAの仕事で出てから帰ってこないって』
「ちょっ、まずくない!?」
「あの先輩が帰ってけえへんって、間違いなく大事やん!」
『DGA側に聞いてみたけど、まだ捜索中みたい』
「その言い方であれば、死んではいないのだな?そこだけはまだ安心できるが……」
「トウリ君に何か指令が来てルかも知れマセン!聞きに行って見まショウ!」
昼休みの時間中に、トウリを探して回る7人。幸いにして、中庭で弁当を食しているところを見つけ、話を聞き出すことが出来た。
「DGAからですか?ええと……一応来ていますね。放課後になったら、別の実働部隊の方が拾いに来てくれるそうです」
「先輩の捜索任務ですか?」
「いえ、昨晩出たというクリーチャーの再迎撃だそうです。特例で市外への出張と言う形になるそうですが……」
『それが先輩と昨日遭遇したクリーチャーなら、行方を探る手段にはなりそうだね』
「あ、それと、あちらから1人同行して欲しい方が指名されていますね」
「指名デスか?」
「ええ、それが──────」
メールの文面を見せるトウリ。そこには、1人の生徒に同行を求めるよう指示されていた。
──────その日の放課後、桜龍高校の裏門に1台の車がやって来た。
その車は暫し停車した後、2人の生徒……蟠龍トウリと蒼斬しのぶを乗せ、何処かへ走り去っていった。
* * *
「さて、それではよろしく頼むよ、後輩君」
「こちらこそ、よろしくお願いします。天道さん」
昨夜とは異なる首都高の路上。招集を受けた天道アンナと蟠龍トウリが、作戦のため路上で迎撃準備を整えていた。
「ほんなこつ、うちもおって構わんとね?」
『ああ。サキト君に起こっているであろう事態を推測するに、恐らく君の力が必要になるはずさ』
更に、後方にはしのぶが待機しており、今回の作戦立案に関わった萱野シンヤとアプリのモニター越しに話している。
シンヤは昨晩起こった、サキトとクリーチャーとの接触と、その直後に起こった彼の異変に関する観測データを収集・統合し、ある程度の事態の解明を行っていた。
『感情、情熱、そして愛!そういった物が力となるのも、サキト君と相棒が得意とする、火文明の特色だからね。その身に宿すマナが乱れている彼を元に戻すには、君が鍵になるだろう!』
「そ、そげなとなんやろうか……」
『それと、今回は秘密兵器も用意したからね。いざという時はしのぶ君に使って貰う事になるよ』
「秘密兵器?それってどげん物なんか?」
『それは使う時になっての……おおっと、反応アリ!君達の居る地点に向かってくるよ!これは……サキト君も件のクリーチャーと一緒にいる!』
その言葉に、場の空気が一気に引き締まる。アンナとトウリはコントラクトアーマーを起動させ、戦闘準備を整えた。
『あと10秒で接触するよ!9、8……更に加速した!?構えて!』
「「ッ!!」」
直後、凄まじい衝撃が彼らを襲った。デュエルフィールドを突き破らんとする程のスピードで突っ込んで来た赤い影を、アンナがアルファリオンの4つ腕でどうにか受け止めた!
「成程、これは厄介なことになっているね……っ!?」
『また、邪魔者……』
突進してきた赤い影を抑え込んだアンナであったが、横からもう一体の影が強襲してくる。拳が脇腹に叩き込まれようとした瞬間、そこに大きな龍の腕が割って入る!
「させないっ!」
「助かったよ後輩君!その姿は……」
「《ボルシャック・モモキング・クロスNEX》!ここに参ジョーっ!!」
下腕部を龍の腕の如き手甲で覆い巨大な剣を片手で振るう、モモキングのスター進化形態の1つ《ボルシャック・モモキング・クロスNEX》!その腕でレッドゾーンZを払うと剣を構え、油断なく2体の相手を見据える。
アンナは掴んでいた手を振り払われ、少し距離を取りながら4本の剣を構えた。
レッドゾーンZと共に現れた、その相手は…………。
「嘘、そんな、先輩……っ!?」
『グゥゥァァァアあぁぁああぁあッ!!』
それは間違いなく、ドギラゴンの鎧を纏う護守サキトであった。しかし、その姿は常なる物とは全く異なる。
より機械的に変わった赤き鎧、各所にある車輪のようなパーツ、背から伸びる紫炎噴き出す翼、肩口から伸びるロボットアームに接続された二振りの剣。そして、正気を失った紫闇の瞳。
それは、堕ちたる火の国の王、赤き魔竜──────《燃える侵略 レッドギラゴン》!!
──────■界■■■日まで、あと21日。
──────最終章、開幕。