『グゥウゥゥゥウォォォオオオオォオォォオオッ!!』
「来るよ!蟠龍くん、構え───」
「サキト先輩、今止めま───」
サキトが咆えた次の瞬間、アンナとトウリの2人が空中に打ち上げられる。赤と紫炎の軌道がフィールド内を縦横無尽に走り、2人が空中でボールのように跳ね回る。
「あぐっ……!」
「が、っふ……!?」
「2人とも!!」
トドメとばかりに、路面に叩き付けられる2人。彼らを守るアーマーには小さく罅が入り、無視できないレベルでダメージが入っている。
『くぅ、何と言うスピードだ……単純なクリーチャーのパワーでは、天道アンナ君と蟠龍トウリ君が上のはず。だというのにあまりの速度に翻弄され、一方的にダメージを受けている!』
「くは……っ、一発一発は軽くても、これだけ連打されると少々痛いね……!」
アンナとトウリはどうにか立ち上がり対抗しようとする。しかし、レッドギラゴンの力で暴走するサキトの速度を、捉えるのは至難の業だ!
「蒼斬さんは下がってくださ……っ!危ない!」
『邪魔者は……消す』
「あ、っ!?」
レッドゾーンZが瞬時に距離を詰め、腕を振り翳す。ギュウジン丸のボディをも貫いた機械の腕が、しのぶへと振り下ろされ──────。
「『ふぅんっ!!』」
『!!』
間一髪、何者かが間に割って入った。両手足は藁に包まれ、腰回りと背中には鳥の翼を模した模様の書かれた木の板が身体を守る様に浮遊している。頭の周囲には、トーテムポールの顔のようなものが衛星の如く浮かび回転する……奇妙な姿をしていた。
「ふぅ危ない。間に合って良かったよ、蒼斬しのぶ君」
「その声……シンヤさん!?」
「その通り!念願叶って漸く……僕も彼と契約を結べたよ!ああ、この感覚は素晴らしいね……癖になりそうだよ!」
「そ、そうなんや……」
萱野シンヤ、その相変わらずの変人ぶりに若干引くしのぶであったが、彼が後ろ手に何かを投げ渡して来たので慌ててそれを手に取る。
「うわわ!こ、これ何なんか!?」
「開発していたサポート機能の完成品プログラムが入っているデバイスだよ!それを君のスマホに繋げば、僕たち実働部隊が使っているスマホと同様にクリーチャー世界の技術で改造される!」
「えぇっ!?」
「プログラムをインストールすれば、サキト君を助けるための力となるはずさ。とはいえ所有物を弄られたりしたくないなら無理にとは言わないよ!それに、今の彼を相手にするのはやはり危険だからね!」
『邪魔、そこを退いて』
「それは無理な相談だね!」
浮遊するワラシベイベーの複数の顔がレッドゾーンZを囲むと、それらが全てシンヤの分身のような物へと変わる。異なる点は、本体は頭部がバイザー付きヘッドギアを被ったシンヤ本人の顔であるのに対し、分身たちの頭部はトーテムと化している所だ。
「僕が最大限時間を稼ごう。その間に君がそれを使うか、もしくは……他の実働部隊員を集めて彼らを撃破、捕縛するからね。さあ、幻影ショーの始まりだ!」
『鬱陶しい……!』
幻影の侵略者たるワラシベイベーの力を使い、分身を更に増やしながら光る手のような物を飛ばし攻撃するシンヤ。対するレッドゾーンZは、全て殴り倒せば問題無いとばかりに、高速の一撃離脱を繰り返し幻影を掻き消してゆく。消される速度と新たな幻影が補充される速度は、今の所拮抗している。
「危険、かもしれん……ばってん」
受け取ったデバイスを握りしめ、覚悟を決めたようにデータ転送用のケーブルを自身のスマホへ接続する。
「先輩に助けてもらうだけやなくて、うちが先輩ん事ば助くる番やけん!」
「OK!読み込み終わったら、デバイスに張り付けてある袋からカードを取り出し、アプリのカメラで読み込むんだ!」
『ォオオォオオォオオッ!!』
「行かせないよ!」
「蒼斬さんが鍵なら、準備が出来るまで自分達の手で守り抜きます!」
レッドギラゴンの神速相手に慣れて来たか、剣と爪の連撃に傷付きながらもアンナとトウリがサキトの攻撃をしのぶへ届かせないよう、それぞれの得物で受け凌いでゆく。
シンヤは多数の幻影を活かし、車輪で加速させた足で蹴りを食らわせて来るレッドゾーンZをどうにか捌いて行くが、徐々に幻影が消される速度が上回りつつあった。
「こんカードは……」
しのぶが手に取ったカード、そこに描かれているのは、人型に近い体形のクリーチャー。白い身体に光の槍と大盾を手にしている。30秒としないうちにデータの読み込みとセットアップが終了し、しのぶのスマートフォンが生まれ変わる。
「アプリで写して……こう!?」
すぐさまアプリを起動させ、カードをカメラに写し読み取る。プログラムのコードのようなものが画面から空中に浮かび上がり、しのぶの身体に巻き付いてゆく。
『ウグァァアァアアッ!!』
「くっ!?拙い!」
「蒼斬さん!」
2人の防御をレッドギラゴンがこじ開け、青く煌めく刃がしのぶに迫り──────。
『Add new creature power.』
その刃を、青と金の大盾が防いだ。
『グ……ッ!?』
「おお!?あの盾は……!」
「シミュレーション通り、無事成功だね!」
しのぶの身体を覆う光が収まり、その装いが露わになる。左手に携えた盾が剣を防ぎ、右手は光の槍を手にしていた。白い競泳水着のような服に、背には金色に輝く翼。そして、時計のようなマークが浮かぶ星形の胸当てが胸部を守っている。
「蒼斬さんのあの姿は……《天革の騎皇士 ミラクルスター》!?」
予想外の変化に警戒してか、サキトが後方に飛び退いてしのぶから距離を取った。しのぶの方はと言えば、無意識の動きでレッドギラゴンの一撃を防いだことと自分の姿に驚いている。
「こ、こりゃどげんことね!?一体何が起こっとーと!?」
「しのぶ君に、一時的に更なるクリーチャーの力を付与したんだよ!これで、サキト君の動きに対応出来るはず。やり方は頭に浮かぶと思うよ……っうおわ!?」
『予想外……ここで仕留める』
レッドゾーンZがついにワラシベイベーの幻影包囲を突破する。しのぶを葬ろうとするが、それをトウリが割り込んで龍腕で弾いた!
『歴史の継承者、モモキング…………そこを退いて』
「させないっ!ここからは自分が相手だ!」
ボルシャック・モモキング・クロスNEXの力を纏うトウリが、シンヤと共にレッドゾーンZの脚止めに入る。そろそろ戦闘時間も4分を超える、これ以上はアンナの同化時間が危険域と言えた。
「……うん!天道さん!うちに合わせて!」
「いけるのかい?」
「大丈夫ばい!」
『グガァァァアッ!!』
再びレッドギラゴンが神速で動き出す。赤い軌道が2人に迫り──────。
「『戻れ』、っ!!」
瞬間、しのぶとアンナ以外、世界がセピア色に染まった。
* * *
セピア色の世界の中、ゆっくりとした動きで……サキトが後退してゆく。
「これは……もしや、時間が?」
「う、うん、巻き戻っとーごたーばい……!」
しのぶとアンナ以外の全てが、逆行して行く。これこそミラクルスターの持つ奇跡の力の一つ、『タイムリバース』!ミラダンテの起こすタイムストップには劣るとしても、この奇跡を起こす秘術は凄まじい効力と言えよう。
「長うは続かんけん、先輩ん動きば……!」
「分かったよ!行くよ、聖霊の剣!」
速度が遅くなったサキトの動きを捉え、アルファリオンの剣4本が彼を囲むように路面に突き立つ。そして、タイムリバースの力が切れる。
『グゥ、ッガァア!?』
「よし!」
4本の剣が魔法陣を作り、サキトの移動を完全に封じた。そこへ、しのぶが一気に距離を詰める!
『ゥウウゥッ!』
「先輩!」
二振りの剣で迎撃しようとするも、自慢の移動速度を殺されたレッドギラゴンでは彼女を止めることは出来ない。しのぶは、盾と槍を剣に向けて投げ付け弾き……。
「先輩、もう大丈夫やけん、目ば覚まして……!」
『ム、グ!?!!!?!??』
自らも魔法陣に捕らわれ縛られる事を承知で、飛び込むようにサキトへ抱き着き……彼に口付けする!
「お、おお……お熱いね……!」
「そんな感想言ってる場合ですか!?っまず、うわっ!!」
「くぅっ!?」
限界時間を迎えたトウリとシンヤが弾き飛ばされ、同化が解ける。レッドゾーンZが動けないサキトとしのぶへ迫り、その機械の腕を振り翳す。
『不愉快……!』
凄まじい速度を持って突き出された腕が、しのぶの頸を取らんとして……下から伸びて来た腕に掴まれ、止められた。
『ッ!?』
「ぐ、ぬぅぅあああ!!」
サキトが雄叫びを上げ、彼を覆っていた鎧に罅が入ってゆく。その隙間からオレンジ色に燃える炎が噴き出すが、彼を抱きしめているしのぶは不思議と熱を感じなかった。そして、鎧の表面が細かな灰と化し、弾け飛んだ。
風が灰を吹き散らす。その下から現れたのは……白と朱の鎧、蒼い外套の姿!
「…………しのぶ?」
「───先輩、良かった!起きたんやね!」
無事戻って来たサキトに、より強く抱き着くしのぶ。その様を見て安心したのか、アンナも同化が解けサキトを拘束していた魔法陣と剣が消え去った。
『こんなことで、元に戻るなんて……先に消すべきだった!』
「っうぉ!?」
腕を掴まれたまま、蹴りを二人に食らわせようとしたレッドゾーンZの動きを見て即座にサキトは手を離し、しのぶを抱えて距離を取った。
「しのぶ、その姿は……」
「彼女達ドラゴン娘に、追加で相性の良い文明のクリーチャーの力を付与するサポート機能さ!君達のお陰で無事完成したからね、早速活用して貰ったよ!」
「俺達のお陰って…………」
「いくつかのカードでのサンプル試用データ、とても助かったよ」
一瞬考え込むサキト。そして、思い当たる節に行き着くと顔を紅潮させて怒り出した。
「アンタ
「お陰で文明が一致するクリーチャーほど相性がいい事とかが分かったよ!本当にありがとう!」
「ざけんなこの野郎!?」
「そんな事しとったん!?」
少しばかり頭を抱えた後、レッドゾーンZへと向き直る。
「ともかく、よくも色々とやってくれたな。レッドゾーンZ……ここで仕留めさせて貰うぞ!」
『……全く、残念。ドギラゴン、貴方には私達と共に来て欲しかったけれど』
突如、首都高を覆っていたデュエルフィールドの天井が破れる。そこから何かが降って来て、レッドゾーンZの傍へと落下した。
炎を吹き散らし、排気音を轟かせるバイクのような形の何か……間違いなくクリーチャーだ。
「《轟改速X ワイルド・マックス》!?またイニシャルズか……っ!」
『あの侵略ウイルスも、改造して私の目的に使える量はもう無い。だから、今回はもう退く』
「ひゃぁっ!?」
『終焉の日はもうすぐ。さようなら、ドギラゴン』
轟炎を撒き散らし実働部隊員達の目を晦ます。視界が明瞭になった時にはもう、2体は捉えられる距離から離れていた。デュエルフィールドも消え去り、同化が解けた状態ではすぐには追いかけられないだろう。
「……く、逃がしたか」
「何か意味深な事だけ言って去っていったね……」
「サキト先輩!身体は大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。正直何があったか……奴に口移しで侵略ウイルスを取り込まされた後の記憶が曖昧で」
「……先輩?」
しのぶがサキトの手を強く握り……そのまま凄い力で締めて来る。
「え、ちょ、し、しのぶ……?」
「一体何があったんか、教えてくれるよね……?」
「ちょ……っちが、疚しい事は何も!」
「ふ ぅ ん ?」
「あーあー、私はトウリ君を家まで送って行くからここで失礼させて貰うね」
「せ、先輩……お疲れ様でした」
「では僕も失礼するよ。近くには休憩できる施設もあるからそこでたっぷり話し合ってくれたまえ!」
「ちょっ待っ」
そそくさと去ってゆくアンナ、トウリ、シンヤ。犬も食わないとはこのことか。
「全部上書きしちゃる──────!!」
「だからなにもしてな、わ───っ!?」
──────■界■■の日まで、あと21日。
愛は強し。そして同時に……色々と難しいですな。
無事ヒロベスのしのぶちゃんと∞ちゃん確保できました。うーんしのぶちゃんの制服姿が可愛い。