「巨大隕石?」
「そうそう、アマチュア天文家の間で話題になってるんだって。地球に近付いて来る巨大な小惑星が」
──────2024年12月10日。
レッドゾーンZとの遭遇戦から1週間、桜龍高校は期末テストを控え生徒達は勉強に専念する日々を過ごしている。
そんな中、学生たちの中で広まっている噂が、所謂「世界滅亡」系の噂だった。
「世界が終わるならテストなんて無くても良いのになー」
「馬鹿言ってないで明日からの期末に備えろっちゅうの。そんな世界が終わったりする訳ねえだろ」
「あー、めんどい……」
誰も彼も、本気で世界滅亡など信じてはいない。ある日突然全てが滅びる等という事は、あまりに非現実的であると誰しもが思っていた。
桜龍高校生徒会の面々も、そのような噂よりも目の前のテスト勉強の方が余程重要であった。
「ありがとうございます、自分の分も勉強見て貰って」
「わらわ達にとっても教える事が改めての復習にもなるからな。全く問題ないぞ」
「朕はやっぱり古文と現代文が大変デスね……」
「それと家庭科以外はそれなりの成績ではあるのだな……まあ留学許可が下りるのだから当然ではあるのか」
桜龍高校の生徒会室。彼女達は、テスト期間1週間前からトウリを加え、アーシュ・メガ・ギャイとすず・ゼオス・トウリの3人2組で卓を分け試験勉強を行っていた。
他の男子生徒達からは羨ましがられたが、真正面から下心無く勉強を教えて欲しいと頭を下げに来て、認められた者はトウリのみであったため、当然の帰結である。
それ以外にも一つ理由があるにはあったが……。
「ん~!かいちょーありがと!これでたぶん今回の期末も大丈夫!」
「アーシュはんとすずのお陰で、だいぶ捗ったわ。やっぱり学年主席と次席の2人は頼りになるな」
「お役に立てて何よりです。今回は試験勉強の邪魔もあまり入らなかったですしね」
「うーむ……それなのだが、最近妙に事件が少なくないか?」
「ん……ああ、あちら絡みの案件ですか」
そう、ここ2週間余り、桜龍高校近辺でのクリーチャー出現頻度が極めて下がっていた。たまに出た場合も校外で、イニシャルズや侵略者の中でも危険度の高い者が主体のためDGAが率先して狩り、アーシュ達の出番が無いというのが実情であった。
「軽い騒ぎを起こす程度のは殆どおらんくなったな……理由でもあるんかな」
「イツからクリーチャーの出現が減っテるのデショウ?」
「やはり2週間前……例の禁断とか言っていた奴が出てからだな」
この状況は11月末、ギュウジン丸達との決戦から始まっているためどうあっても関連を疑ってしまう。
「……」
「トウリくん?ナニか思い当たるコトでもあるのカシラ?」
「ええまあ……最近流れてる噂が仮に本当ならですが、クリーチャーの出現が減っている原因かもしれません」
「噂って、あの巨大隕石で人類が滅ぶーみたいなアレ?」
「大げさな噂やと思ってたけど」
「正直外れていて欲しい予想ですけどね……」
そう言うと、取り出したスマホで一つの画像を彼女達に見せる。巨大な小惑星に半ば埋まっている、謎のクリーチャーの姿。それは知識の無い彼女達から見ても、邪悪な存在だと確信できるものであった。
「『禁断の星』……星そのものが、封印された巨大なクリーチャーというものですね。先輩の相棒、ドギラゴンが最後に戦った、革命ファイナル編のラスボスです」
「ほ、星そのものですか?」
「はい。もし封印が解ければ……地球そのものを破壊出来る程の、巨大なクリーチャーが現れます」
想像しただけで、アーシュ達の背筋に怖気が走る。それほどのクリーチャーが本当に現れたら、どうなってしまうのか。
「……なるほど、クリーチャー達がいなくなっているのは、地球が滅ぶ前に奴らの世界へ逃げだしているとすれば辻褄が合うという考えか」
「なのでまあ、外れていて欲しい予想ですが……DGAの方でも情報を集めているようなので、そろそろ自分にも何か話が来るかなとは思っています」
「もしこのクリーチャーが地球を襲ったら……勝てマスか?」
「自分とサキト先輩はどうにか、条件次第では勝てないことは無い……とは思いますが、地球に被害を出さず勝つには作戦が重要になりそうですね」
凄まじいパワーと耐性を抜けて、最終禁断クリーチャーに3度の致命傷を与える。それも、地球への被害を出さないためには、1ターンで決着を付ける必要があるだろう。
それに加え、戦闘するのであれば宇宙空間で活動する必要も出て来るだろう。そういった条件を満たすため装備の調整や宇宙へ上がる手段も必要だ。
「何はともあれ、必要なのは情報です。何が起こっているのか、正確な情報を待たないとですね」
そう言ったものの、トウリはやはり、嫌な予感が拭いきれないのであった。
* * *
『Contract armor awakening.』
「『行くぞ……《蒼き王道 ドギラゴン超》ッ!』」
放課後、日が落ちかけた栗茶市のとある寺の墓地にて、サキトが1体のクリーチャーと戦っていた。
黒い法衣と翼をもち、多くの怨念を身に纏う金の悪魔《超不死 デスマトメル》。強力な力を持つ不死の侵略者であり、厄介な能力を持つクリーチャーであったが……。
「破壊耐性はあるが、それならばお前をマナに還元するのみ!ドギラゴン超の力を、喰らえぇぇっ!!」
『グゥォオオアァァアアア!?』
サキトが振るう拳の動きをトレースするが如く動く光剣が、悪魔の五体を貫く。そこから闇のマナへと変換され、デスマトメルは世界へと還って行った。
「ふぅ……この力の慣らしにはちょうど良かったですかね」
『ああ。しかし、レッドゾーンZとの戦いがあってから、サキトのマナが大きく増大するとはな』
「注がれた侵略ウイルスが作用したんでしょうかね……?」
侵略ウイルスに侵され、長時間レッドギラゴンの力を纏い続けていた後遺症が無いかDGAで検査をされたのだが……むしろ身体の調子は良くなり、同化戦闘可能時間が伸びた上ドギラゴン超の力を使えるようになったため、今のところは良い傾向にある状態であった。
始末を終えフィールドを解いた所で、スマホに着信が入る。見れば、DGA本部からの連絡であった。
「はい、栗茶市実働部隊、護守サキトです」
「本部より隊員の皆さんに伝達事項があります。本日18時に、各自治体に設けられた支部の会議室にお集まり下さいとの事です」
「了解しました。何か動きがあったというわけですね」
「そうなります。それでは」
用件が伝え終えられるとすぐさま通話が切れる。時刻は現在16時半、あと1時間半程の時間があった。
「とりあえず学校まで行ってトウリを拾って、市役所へ行くとして……しのぶには伝えておくべきかな」
サキトとしのぶは学年が違うため、期末テストの勉強に付き合うことは出来ず、現在の期間は2人の時間はお預けとなっていた。こればかりは学生である以上仕方ない事である。
「……あ、もしもし?しのぶ?今どこにいる?」
『先輩?うちは今∞ちゃんと一緒に図書室でテスト勉強中ばい』
「そうか。ちょっとこの後予定が入ったんで、今日は帰り家まで送れそうになくなってな。帝王坂さんと2人で気を付けて帰って欲しい」
『お仕事が入ったんやね?分かったっちゃん、気ば付けんしゃい先輩!』
「ん、気を付けるよ。それじゃまた明日」
通話を終えると今度は母に連絡する。少しばかり今夜は帰りが遅くなりそうだ。
* * *
「……護守、先週は災難だったそうだな。個人的にクリーチャーから狙われるとは」
「それも男として、とはね?」
「茶化さんでください天道さん。ともかく、今日はそれ絡みの話もありそうですね」
「データ提供したんでしたっけ?」
「ああ、あちらの手に落ちていた間も、コントラクトアーマーに連動してデュエマフォン・アプリは起動しっぱなしだったからな。そこから何か情報が拾えるかもしれんって事らしい」
市役所の会議室に集った、4人の栗茶市別同部隊。手元に置いたスマホからはホログラフによる今回の会議、そして伝達事項に関する資料が送られて来るようになっていた。
『各支部実働部隊の皆さま、お集まりいただきありがとうございます。本日は2つの伝達事項があります』
大型モニターに本部の職員が映る。その表情からは、伝達事項はあまり良い知らせでは無い事が察せられた。
『まずは1つ、先日栗茶市実働部隊の護守隊員がクリーチャーに拉致されていた際、端末が記録していたデータの編纂が終わりました。手元に送信した資料をご覧ください』
各端末からホログラフの資料が投影される。レッドギラゴンとしてレッドゾーンZの傍にいたであろう間の映像記録、音声記録から拾えた情報らしい。
「ふむふむ……侵略者やイニシャルズ達についての情報かな」
『文脈からの推測も多いので、概ねこういった事だろうという程度の情報ではありますが……まず、彼らは皆、過去の記憶……背景ストーリーにて退場するまでの記憶を保持した状態で、現代の超獣世界に復活しているという事です』
大雑把に言えば、彼らが一度死ぬまでの記憶を持った状態で、復活させられたという事。ある意味で、ドギラゴンの契約者であるサキトが狙われ続けた最大の要因と言えるだろうか。
『そして、最初に復活したのがギュウジン丸、そして彼は禁断2種が復活時に即活動再開しないよう再封印を仕掛けていた事が分かりました』
『成程、かつてと同じ末路を辿らずに済むよう模索していたわけですね』
『そして超獣世界ではなく、こちらの人間世界へと侵攻を始め、その中で過去の侵略者達を次々に復活させていったものの……どうしても1体復活しないものがいた、という事が判明しています』
「……《轟く侵略 レッドゾーン》」
そう、ドギラゴンの最大の宿敵、最速の侵略者たるレッドゾーンの不在。これは、侵攻の速度を著しく遅らせた要因の一つであったと推測されている。
『何故蘇らなかったのでしょうか?』
「条件を満たせなかったか……はたまた、どこかでまだ生きているとか?」
『そこに関しては不明ですが、それにより桜龍高校襲撃時に現れたデッドゾーンは、レッドゾーンNeoを改造した代用品であったことも判明しています』
「なるほど、あの時正常なデータが表示されなかったのはそのせいか」
桜龍高校への襲撃時に起こった、敵データが表示出来なかった不具合。あれはそもそも、オリジナルのレッドゾーンではない素体を使った、本来存在しないクリーチャーであった事が原因であったのだ。
『そして、統括していたギュウジン丸が葬られ、禁断が撃破された現在は、レッドゾーンZが侵略者とイニシャルズを統括する立場になっている……と』
『はい。こちらの情報はここまでです。そして、第2の伝達事項ですが……』
モニターに、地球の軌道らしきものが表示される。そして、その軌道と交差するようように描かれた一つの曲線、そして……その元に表示された、1つの星。
『こちらは先月24日、米国から各国政府へ提供された資料です。日本時間で24日18時、突然現れた小惑星の軌道計算図となっています』
『おい、まさかこれは……』
「……地球への、衝突軌道にあると?」
『はい。米国は今週中にも、この小惑星を破壊するため選抜したチームをロケットで打ち上げ、核爆弾を複数個内部へ仕掛けて破砕する作戦を実行するとの事ですが……』
「ああ、アレだね。ア〇マゲドン作戦」
かつての名作洋画で行われた、地球を滅亡させる小惑星の衝突回避を目的とした破砕作戦。それを現実に行おうという計画のようだが…………。
『今月9日の20時、こちらでも観測機器により小惑星を確認していた際……小惑星から、
『馬鹿な、小惑星の現在位置は100万km以上も離れているんだぞ!?そんな位置から検知できるクリーチャー反応なんて……!』
「……小惑星そのものから、クリーチャー反応が出たという事で良いのですか?」
『はい。正しく事態は最悪と言えます。この小惑星は間違いなく、あの災厄──────』
「最終禁断クリーチャー、《終焉の禁断 ドルマゲドンX》…………!」
──────世■最■の日まで、あと14日。