“──────今朝栗茶駅周辺の路上で発見された遺体の身元は、同時に発見された遺留品などから市内に住む広告業の「佐間野リョウ」さんのものであることが判明しました。遺体の損傷の激しさから、警察は──────”
放課後に部室でスマートフォンを使いニュースを見る。昨晩、ゾーンの中へ置き去りにせざるを得なかった犠牲者の腕は、朝になりゾーンが消えた事で元の街へと放り出されたようだった。
「広告業」は今のご時世、動画配信者の事を指す場合が多い。バックアップスタッフが女性から何とか聞き出した情報とも一致した。
もしスマホでゾーンの事などを配信などしていたら厄介だが……。
「その辺は向こうが処理してくれるか……でも、やるせないな」
好奇心は猫を殺すと言うが、それで済ませるにはゾーンの危険性は一般人にとって高すぎる。街中に突然のデストラップが現れるような物だ。
「副部長、何見てるんすか?」
「あ、今朝のニュースの続き?副部長もこういうの見るんですね」
「ああ、まあね……市内の事件な訳だし、物騒だから」
「都心の方でも似たような事件あるって聞きますよぉ、犯人がこっちにまで来てるんでしょうか」
サキトへ部員達が話しかけて来る。身近な市内で謎の事件が起こり、皆浮足立つのも当然と言えた。
真相を知る身としては、明かせる情報が無い事ももどかしい。
「ともかく、夜は極力出歩かない方がいいと思うよ」
「大丈夫!うちの部は皆夜は勉強とゲームで外出しませんから!」
「胸を張って良いのかイマイチ分からん台詞だなぁ」
そうして駄弁っているところへ、一人の部員が近付いて来る。ある意味サキトも目当てとしていた一人……帝王坂∞だ。
『護守先輩、少し話があります』
「ん……今ここで聞いた方が良いかな」
『出来れば別の所で。案内します』
「「「えっ」」」
「分かった。それじゃあお願いするよ」
「「「えっ」」」
「あ、∞ちゃんうちも行くけん!」
彼女に連れられて部室を出ていく。扉が閉まると同時に、驚き目を見開いていた部員達が沸き立つ。
『なっなんだ!?告白か!?』
『バカな!ゲームにしか興味無さそうな帝王坂さんだぞ……!』
『というかそれならいくらなんでも蒼斬さんを付いてこさせないでしょ!?』
『まさか3人d』
『高校生がエロゲ脳になってんじゃねー!』
『いやぁ、案外副部長みたいなのが女遊び激しかったり───』
「廊下にまで聞こえてるぞアイツらぁ……!」
頭を抱えるサキトであった。客観的に見て今前を歩く二人は学校でも有数の美少女と言えるのは分かるが、すぐそっち方面に発想を飛躍させるのはいかがなものか。
第一、これからするのは間違いなく色気のある話では無い。帝王坂∞も、昨日の出来事を見ているのだから。
* * *
校舎の屋上、出入り口から陰になるところを見繕って3人で座る。
ここならとりあえず人目には付かないだろう。
『それじゃあ、昨日のことについて聞かせて欲しい。護守先輩は何者なのか』
「あーうん、二人とも一応他言無用で頼むよ」
そうして、昨日校長と生徒会役員達に話した説明を二人にも行う。ゾーンでの戦いを共に体験したしのぶの言もあり、∞にも話を飲み込んでもらう事ができた。
『そのDGAという組織は、公的なものですか』
「あー、市役所の一室で説明受けたくらいだから、たぶん公的機関と繋がりはある……と思う」
「お役所仕事なんやなあ」
「そうだ、帝王坂さんにも写真お願いして向こうに送っておかないと。君もドラゴンの力を悪用したりはしないだろう?」
『しません』
「それじゃあ……はい、これでよしと」
写真と付与されたドラゴンのデータを添付し資料を作ってゆく。その過程で出したカードの画像を見てため息を吐く。
「ゲンムエンペラー……お高いんだよなぁ」
「何ん話と?」
「ああいや、帝王坂さんが持ってる力の元になったドラゴンの話。あんまり気にしなくても構わないから。それで、生徒会メンバー以外にドラゴンの力を持ってる知り合いとか………いるかな」
『同じように組織に報告しておきたいと』
「そういう事」
『美術部の宿禰マロン、テニス部のジュラ子・リューバー、空手部の伍代ドーラの3人』
「ありがとう。しかしまあ……生徒会メンバーもそうだけどちょっと変わった名前が多いな」
目の前にいる∞はちょっとどころではない変りようだがそれは一旦置いておく。
「知り合いなら付き添ってくれると助かるけど……」
『私は部室に戻ります』
「うちは∞ちゃんについてるけん」
「ですよねー。呼び出したりは出来ないかな」
「皆部活動ん事以外は我関せずって感じやけん、難しかて思う」
「仕方ない、まあ俺だけで当たって来るから、他のゲーム部員には伝えておいてくれ」
残り3人の所属をメモして向かう事にするサキト。生徒会メンバーと違い互いの交流が少ない彼女達相手は、先が思いやられそうであった。
* * *
「すみません、1年のリューバーさんいらっしゃいますかー?」
「あれ、どちら様?」
「2年の護守です。知り合いから言伝を頼まれてて、呼んできていただけると助かります」
「はーい。リューバーさーん」
先ずはテニス部。部員に話しかけると、練習中の彼女をすぐに呼んできてくれる。
「What?どちら様ですの?」
「ゲーム部から来ました護守サキトです。帝王坂さんからの紹介で……その、彼女から事情を伺ってまして」
「Oh,I understand.すみません先輩。ジュラ子は少し休憩に入りますわ」
ドラゴンやらクリーチャーやらの単語を出さずに用件が通じたのは行幸であった。
テニスコート傍の木陰で事情を説明する。
「というわけでして……」
「All right.ジュラ子の写真と、ドラゴンのPowerを見せてあげますわ!」
頭に二本の角が生え、右腕に付けた腕輪に攻撃的な刃と棘、そして鎖付き鉄球が現出する。
「《超竜バジュラズテラ》……なるほど、強力なドラゴンの力だ。ありがとうございました」
「You are welcome.もし一緒にクリーチャーとFightすることがあれば、その時はよろしくお願いしますわ」
一人目は比較的話が分かって助かったと言える。続いてサキトは美術部へ向かう事にする。
* * *
「……あのこれ、どのくらいやればいいんですかね」
「あと20分くらいでし!」
「それはちょっときっついんですが!?」
美術部へ行くと目的の宿禰マロンはすぐに見つかったのだが、当初絵を描くのに夢中で話を全く聞いてくれない。
モデル役が用事があるので今日はこれ以上無理と言い出し、やっと作業を終えて話せると思ったら……。
『あ、ちょうどよかったでし!代わりのモデルをやってもらうでし』
『は?』
モデル役の取っていた複雑な立ちポーズを取らされ、そのまま動くなと言われて約10分。
既に身体が震えているがあと20分動くなと言われるのはかなり厳しい。
「座ってるならともかくこのポーズで20分は……!」
「げひー!素晴らしいゲージュツになりそうでし!」
「聞いちゃくれねえっ!?」
これも仕事のためと言い聞かせて耐えるサキト。マロンの性格上完成するまでは話は望めないであろう。
「……や、っと終わった……っ!」
「ふー、いい出来でし!ところで誰でしか?」
「ん゛ん……っ、蒼斬さんと帝王坂さんに紹介されて来まして……!」
ここで怒っても何にもなるまいと抑え込む。他の部員は先に帰ったためその場で事情を説明すれば彼女も承諾してくれた。
「そうそうこの力を使う事は無いと思うでしが、そういう事情ならとくと見るがいいでし!」
「おお……《龍仙ロマネスク》か」
髪留めが変形し、力の元となったドラゴンが背負う装甲のように変わる。
直接戦闘でのパワーはそれほどでも無いが、特殊能力を生かしたコンボで一時代を築いたカードだ。
「ふー……ありがとうございました。それでは」
「気が向いたらまたモデルにしてやるでし」
「折角ですが遠慮します」
二度は体験したくないとばかりにそそくさと去っていく。
残るは空手部、伍代ドーラに会いに行かねばならない。
* * *
「よかった、空手部は練習終わりに間に合ったか……!」
時間を取られ既に帰った後となっていたら当人を捕まえられない所だったが、サキトはギリギリで間に合ったと言える。
「はぁ、はぁ……ふぅ。すみません、一年の伍代さんはいますか?」
「む、文化部の先輩か?儂に何か用か」
「わ、わし?ああその、蒼斬さんと帝王坂さんに紹介されて来まして」
「ほう……?まさか、あの落書き絡みかのう?」
「落書き………?俺はこういう者でして……」
DGAの説明とドラゴン娘としての情報を欲しい旨はすんなりと伝える事が出来た。
「なるほど、そのために儂らアオハル組に声をかけて回っていたと」
「アオハル……ですか」
「部活動に邁進し青春を謳歌する。素晴らしい事であろう?」
「そりゃまあ勿論。俺もゲーム部の活動は好きですし楽しいですよ」
「それは何よりだ……なっ!」
「のわぁっ!?」
不意打ち気味に顔面目掛けて拳が放たれる。サキトはギリギリの所で反応し拳に対し掌で受ける事が出来た。
「何すんですかいきなり!?」
「ほほう、寸止めする気ではあったが、儂の拳に反応できるとはな。格闘技の経験はあるのか?」
「全くないですが!」
「それですぐさま反応できるのは大したものよ。良かろう、儂のドラゴンの力を見てゆくがよいわ」
ドーラの頭に3本の大きな角が生えてゆく。その形状はサキトにとっても小学生時代から見覚えのあるものだ。
「《龍世界 ドラゴ大王》……!中々大物なドラゴンの力を持っているとは」
「ほう?お主はこのドラゴンの力の元を知っておるのか」
「伍代さんも、この学校にいる他のドラゴン娘の皆さんも、そして悪さをするクリーチャー達も……俺の大好きなカードゲームに描かれたものが実在し、この世界にやって来ているわけですから。人を襲ったりするのはやめて欲しいところですけどね」
「なるほどのう。さて、見せてやった代わりに約束せい」
「や、約束?」
サキトが聞き返すと、ドーラは指を差して不敵な笑みを浮かべる。
「いずれお主が拳を交わせるようになったならば、儂と勝負せい」
「それって………ドラゴンの力込みとか言いませんよね」
「分からんぞ、お主も流星アーシュやサーヴァ・K・ゼオスのようにその身で戦えるようになるやもしれん」
「………い、一応考えておきます」
ほぼあり得ない………と思いたいが、万に一つの可能性くらいはあるかもしれない。厄介な子に目を付けられたと思わざるを得ないサキトであった。
まあ何はともあれ、現状確認できるドラゴン娘達全員をDGAへと報告する事は出来た。一先ずは、他の実働部隊員が接触してトラブルになる事は避けられる………はずである。
「そういや、まだ会ったことは無いけど……この栗茶市の実働部隊員、どんなデュエリストなんだろうな……」
DGAに入って日の浅いサキトは、バックアップスタッフ以外にはまだ直接顔を合わせていない。
この栗茶市には、実働部隊員として──────あと二人、真のデュエリスト候補たる人間が存在していた。
彼らとの邂逅の時もまた、少しずつ近付いている。