桜龍高校は2学期の終業式を終え、生徒達は帰宅を始めていた。今夜はクリスマスイブ、友人や特別な人と過ごす者もいれば、独り身で嫉妬に狂う者もいるであろう、年に一度の聖なる夜。
しかし、恋人が何か重大な出来事に巻き込まれているであろう事を察しているしのぶは、祝い事を気にしているような気分にはなれずにいた。
「先輩、なんしに行ったっちゃろう……」
『事情を知っていそうな人に聞きに行く?』
「そげん人どこしゃぃ……あっ!蟠龍くん!」
『うん、彼なら生徒会の皆と同じクラス。それに、確か終業式の時に見かけたよ』
現在DGA絡みで起こっている事態を、この学校で知る唯一の存在であろうトウリ。彼に話を聞くべく、しのぶと∞は1年2組を訪ねる事にした。
「あ、ドーラちゃん!マロンちゃんにジュラ子ちゃんも!」
「む、しのぶか。お主達も気になる事があるようだな」
『3人は何故ここに?』
「何だか嫌な気配を感じるでし……距離はとても遠く感じるのに、ゾクゾクするような悪意を」
「Creatureの気配なのは間違いありません。ですが、こんな
未だ知る由もないものの、彼女達は、無意識的に禁断の星が発する気配を感じ取っているようだった。
「護守サキトはどうした?」
『朝からDGAの仕事で、学校には来てないよ』
「何だかばり深刻そうな雰囲気やったけん……うちも心配で」
『すみません、自分ちょっと呼ばれている所がありまして……!』
『蟠龍くん!?ちょっと待ってください!』
「あら?」
教室の引き戸が開きトウリが出て来る。ちょうど扉の前にいた5人とは鉢合わせする形となった。
「うあ、皆さんまで……!」
「その様子では、やっぱり何かあるようでしね」
「あ、アオハル組の皆だ!」
「どうも蟠龍はんがそわそわしとったから、話を聞こうとしてたんやけど……」
「トウリくん、ナニか言いにくい事情でもあるのデスか?」
「うぬぬ……それはちょっと……」
なるべく一般生徒に怪しまれないよう、皆が下校するのを待とうとしていたトウリであったが……ある意味それが仇となり彼女達に捕捉される結果となってしまった。
「ごめんなさい、ばってん、うち先輩ん事が心配で……何か大変なことになっとったら……!」
「うー…………あー……分かりました、分かりましたから……皆さん裏門で少し待っててください、後で話しますので……」
涙目になってまでそう願われては男としてはどうしようもない。DGAから後で色々と言われるだろうが、先輩の身内とも言える相手に黙っておく事への罪悪感が勝ったのであった。
「はい、もしもし……すみません、桜龍高校の裏門に回して欲しい車なんですが……ええはい、その、大型車両にしていただけると……ええ、はい、申し訳ありません……」
そして、15分ほど彼女達が裏門で待っていると……濃緑色の1t半トラックがやって来る。
「こちらです、皆さん乗って下さい!」
「じ、自衛隊の車両か!?わらわ達をどこへ連れて行く気なのだ!?」
「市内の広域防災基地までです!」
「お、思ったより凄い大事に関わってしまったのでは……?」
「聞かずニ後悔スルより聞いて後悔デス!行きマショウ!」
幌付きの荷台に11人が乗り込むと、1t半トラックが発車し彼女達は揺れと寒さに晒されてゆく。
「うう、あまり快適ではないでし……」
「我慢せい。さて、一体何が起こっておるのだ?」
「……先々週生徒会の皆さんに一度、予想として話していた事が、現実になりました」
トウリがホログラフモニターを展開し、以前生徒会メンバーにも見せたカードの画像と同時に、NASAから提供された小惑星の観測映像を映し出す。
「これは!」
「前に言ってた、地球を破壊出来ちゃうクリーチャー!?」
「現在時刻は11時半、あと6時間半でこいつが地球に到達し全てを破壊すると予測されています。それを迎撃するため……サキト先輩は先程、宇宙へ上がりました」
『宇宙に……』
「それよりも、あと6時間半で世界が終わるだと!?」
「それを防ぐべく、DGAは作戦を開始しています。地球に被害が及ばないよう、宇宙空間でドルマゲドンXを迎撃し破壊する……そのために、先輩とドギラゴンは、命懸けの戦いに向かっているんです!」
* * *
「ぬ、ぉおぉぉおぉ……っ!」
サキトを乗せた《“
やがて空の色が青から黒へ変わり、星が見えて来た。地球の重力とブランドが生み出す遠心力に釣り合いが取れ、無重量状態となる。
「っはぁ、はー……っ。こちら護守サキト、衛星軌道に到達しました」
『こちら
「これから再加速し、第二宇宙速度へ到達後禁断の星へ向かいます」
『幸運を祈ります』
一時的にロケットブースターを切った“轟轟轟”ブランドに、所定のポイントに到達したタイミングで再点火。地球の重力を振り切り、地球へ接近する禁断の星へと飛んで行く。
しかしそこで、一つの凶報が入った。
『NASAの観測所より連絡!禁断の星が、加速しています!』
『何だって!?』
「こっちの動きを感知されたか!?予定地点より地球に近い宙域で接敵する事になるな……ん!?」
現在の距離からでも視認できる、巨大な禁断の星。そちらの方向から、何かが──────。
「うぉおっ!?」
宇宙空間では遠近感が狂う。凄まじい速度で正面から接近してきた物体群に気付いたサキトは、“轟轟轟”ブランドの軌道を操作してかろうじてそれらを回避した。
「っ!?今のは!!」
すれ違うように地球へと向かった複数の物体……否、その正体を一瞬だがサキトは見た。
「緊急連絡!ドルマゲドンの尖兵……イニシャルズをはじめとしたクリーチャー群が地球へ向かった!降下地点の予測を!」
『キャッチしました!軌道計算……これは!』
宇宙センターと地球周辺の観測衛星がキャッチしたデータが即座に各国のスーパーコンピューターに転送され、地球へ向かう反応の降下予測地点を即座に割り出す。そしてその先は、ある意味で予想通りに……想定される最悪の位置であった。
『クリーチャー群の降下目標は東京多摩地区、栗茶市と推定されます!』
「ちぃっ、狙いは……マナ転送設備か!」
* * *
トウリ達は栗茶広域防災基地へ着くと、施設内に案内された。一度はトウリ以外の同行してきた10人が止められそうになったが、DGAの協力者という事にして通行許可を貰っている。
会議室の一つがモニタールームとなり、作戦の進行を人々が固唾を呑んで見守っていた。
「ここで一体何するん?」
「作戦の最終段階時、宇宙で戦う先輩へと必要なマナを送ることになっています。作戦の鍵は先輩とドギラゴンによる、同化から一気呵成に打ち破る戦法ですが、そのためには先輩だけでは足りない大量のマナをここから供給する必要があるんです」
「ジュラ子達が手伝える事はありますの?」
「そうですね……あるとしたら、各地から集結した実働部隊の皆さんと一緒にマナ供給を手伝って貰うか、それとも──────」
その時、建物の外から爆発音が轟いた。
「なっ!?」
「どうした!状況報告!」
『緊急事態!銃火器を持った熊のような動物が現れ、施設に攻撃を!うわぁあ!?』
「馬鹿な、敵襲か!?こんな時に!」
『JAXAから緊急連絡!禁断の星からクリーチャーが多数放たれ、地球へ向かっています!降下予測地点は……栗茶市です!』
「作戦が漏れたのか!?く、自衛隊員は下がらせろ!ここはやむを得ん、DGA実働部隊員で迎撃に当たるしかない!」
低パワーの一般クリーチャーであればともかく、侵略者やイニシャルズといった相手となると一般的な銃火器では対処が難しいというのが現状だ。このままでは折角集めた実働部隊員が迎撃に出なくてはならなくなるだろう。
「く……仕方ない、皆さんはどこかに退避を───」
「否、このような時こそ儂らの出番であろう?」
「は──────まさか!?」
「や、やるのか!?わらわ達が迎撃を!?」
「確かに、DGAの皆さんのmanpowerをここで必要以上に使わせるわけには行きませんわね」
『私達が適任だね』
「だ、大丈夫でしょうか、DGAの人達はともかく自衛隊の方に見られるのは……」
困ったようにモニタールームにいる、自衛隊の将官と思わしき男性を見るアーシュ。彼の側も彼女達を見て……少しばかり逡巡した後、施設全体に放送をする。
『これより当施設は厳戒態勢に移る!施設への襲撃者を迎撃するために、
『りょ、了解!?』
放送を切るとアーシュ達に向き直り、彼は頭を下げてきた。
「事情を詳しくは知らないが、DGA同様一般の者には知られたくない事があるのだろう。我々としても彼奴等に対抗出来んのは歯がゆいが……今は力をお借りしたい」
「あ、頭を上げてください!大丈夫です、お気遣いありがとうございます!」
「それじゃあ行きマショウ!『全部急げ』デス!」
「『善は急げ』か!?ええい言ってる場合ではない、行くぞー!」
「DGA実働部隊員も集まった内の2割を防衛と警戒に回します!宇宙から来るもの以外にも施設内に侵入した敵がいるかもしれません!」
慌ただしくDGA側のスタッフが動き始める。トウリはまだ動けない、最終防衛ライン担当として力を温存させなければならないためだ。
『モニターもあるから、護守先輩が心配ならしのぶはここに残っても大丈夫だよ』
「……ううん、うちも戦うばい!先輩ば信じて……先輩ん勝利んために、ここば守らな!」
『分かった。それじゃあ、行くよ』
宇宙と地上、二つの戦場で戦いが始まろうとしている。
* * *
「こちら護守サキト、禁断の星に接近!護衛部隊を展開する!」
戦闘宙域が近付きつつある。サキトはシールドを展開し、護衛として預かったクリーチャー達を解放した。
防御部隊のクリーチャーはアンナの《支配の精霊ペルフェクト/ギャラクシー・チャージャー》を筆頭に、《「
攻撃部隊のクリーチャーはリュウの《「無月」の頂 $スザーク$》を筆頭に、《超神星プルート・デスブリンガー》《闘流星ナイトスクリーマー》《超神龍バイラス・テンペスト》《超神星ライラ・ボルストーム》といった高パワー、かつ破壊効果持ちが5体。
進化GVのフェニックスという、通常の対クリーチャー戦ではお目にかかれないであろう超重量級クリーチャーが味方となっている事にサキトは少しばかり感慨深く思う。
「これで準備は整った、作戦を第二段階に移行……っ!?」
突如、展開していたシールドの一つが燃え上がり消滅する。そして、人型の何かがサキトへと──────。
『「戒律の大弓」でブロック!このクリーチャーは火文明のクリーチャーとのバトルでは破壊されない!』
即座に防御部隊が動き、シールドへの攻撃を防いだ。サキトの残り4枚のシールドは、地球を守る盾。ここでその多くを失うわけには行かない。
『待っていた……こんなに仲間が多いのは想定外だけれど』
「レッドゾーンZか!」
『この星の終焉、邪魔はさせない。目障りな有象無象は、排除する』
「戒律の大弓」を蹴って距離を取るレッドゾーンZ。周囲には禁断の星から剥離したらしき岩塊が浮かび、足場となっている。
そして周囲にはまだ休眠状態と思しき小型のイニシャルズ達数体と、禁断の星を守る番人たる、槍を持たない白い巨人──────ドキンダムXが、数体!
「させるかよ、禁断の星は……俺とドギラゴンが打ち砕くッ!」
デュエルフィールドが拡大してゆく。禁断の星全体を覆うほど大きくなったそれはサキトに多少の負担を強いるが……戦闘には支障ない。
しかし、禁断の星が持つ力が大きすぎる故か、一般人に対する隠蔽効果が効果を発揮していないことにサキトは気付かずにいた。
現在深夜23時を迎えようとする米国の夜空に、月と並ぶ巨大な小惑星…………禁断の星が浮かんでいた。
不吉な予感に多くの物が祈りを捧げる中──────地球の存亡を賭けた、決戦が始まる。
「──────デュエルッ!!」