「ギャイ!そっちに行ったよー!」
「ええい、こいつらすばしっこ過ぎる!」
──────2024年4月24日。
放課後の桜龍高校の校内を、我が物顔で跳梁する緑の影があった。
両腕に大きな刃を装着し、軍服を纏った鼬の獣人……《獣軍隊 カマイタチ》
火の着いたトーチを振り回す、同じく軍服姿のアライグマの獣人……《獣軍隊 ベアッサー》
2体のゲリラ・コマンドが、すばしっこい動きで跳ねまわる。
幸い殆どの生徒は下校し、部活中の生徒も不審者が入ったという情報で体育館に避難したため見られる心配はほぼ無いが、ドラ娘生徒会はそのトリッキーな動きに翻弄されていた。
「はぁ、はぁ……!もう何なんですかあのクリーチャー!」
「護守の奴はまだなのかー!?」
「まだ、アレを呼び出した大元フタリと交戦中みたいヨ?」
サキトの方は、その2体よりも上位のクリーチャーに憑りつかれた二人の人間をデュエルフィールドに閉じ込めたものの配下を取り逃がしてしまったという状態で、決着を急いでいた。
* * *
「革命チェンジしたドギラゴン閃のファイナル革命!デッキの上から4枚めくり……カツキングを場に!そのままドギラゴン閃で《超獣軍隊 ゲリランチャー》に攻撃!」
『ぎゃぁあぁぁぁああ!!』
「カツキングで《超獣軍隊 フォックスリー》に攻撃!革命チェンジ、《蒼き団長 ドギラゴン剣》!叩き斬れぇぇええ!!」
『ぎょぇえぇぇええぇ!!』
* * *
「こういう時こそ先輩のスマホで逃げられなくしたいのにー!」
「4体もいた上やたらすばしっこいからしゃあないわ……っあかん、前!」
追われる2匹の前方に、黒いスーツ姿の人が立っていた。学外からの来客だろうか、首から来校者証を下げている。
カマイタチが刃を振りかざし、その人へ迫る。
「だめっ、危ない──────!」
「おっと……後輩くんがいる学校に様子を見に来たけれど、中々愉快な所のようだね」
『Duel field expansion. Dueltector summoning』
手にしていたスマホを翳すと、黄色い光の幕が瞬時に広がってゆく。
戸惑い動きを止めたクリーチャーの前に、淡黄色の装甲を纏った女性が立ち塞がった。
「あれは、先輩と同じ!?」
「実働部隊とかいうのの一人か!」
彼女の前に5枚のシールドが展開され、身を守る盾となる。
手札を見ると軽く微笑み、手札の1枚を盤面へと置く。
「私のターン、《閃光の神官 ヴェルベット/フェアリー・パワー》をマナチャージ。さあ、かかって来たまえ」
『援護するであります!』『キシャシャシャ───!』
ベアッサーとカマイタチが立て続けにシールドへ攻撃する。手榴弾が1枚の盾を、鋭い刃が2枚の盾を──────
「ふふ、来たね。シールドトリガー……《光開の精霊サイフォゲート》をバトルゾーンへ。そして……呪文《ヘブンズ・ゲート》を発動。光の進化クリーチャーではないブロッカーを2体、手札からバトルゾーンへ」
金色の鎧を纏う天使が現れ、更に光の門が開き、手札から更なる天の御使いが舞い降りる。
「《支配の精霊ペルフェクト》《星門の精霊アケルナル》をバトルゾーンへ。更に、サイフォゲートの登場時能力発動。手札から光の進化クリーチャーではないブロッカーを1体バトルゾーンへ……来たまえ、《闘門の精霊ウェルキウス》」
天使の軍団は連鎖を加速させる。サイフォゲートの能力で、光の剣を手にした白い鎧の天使が舞い降りる。
「ウェルキウスの能力発動。このクリーチャーが出た時、または自分のクリーチャーがバトルに勝った時、カードを1枚引く。その後、「ブロッカー」を持つクリーチャーを1体、自分の手札から出してもよい……ふむ、二体目のアケルナルをバトルゾーンへ」
手札が補充され、そこから更に下半身が巨砲となった銀の天使が現れる。
「一瞬デ5体もクリーチャーが出てくルなんて!?」
「うう、なんという圧力……」
カマイタチ達よりも遥かにパワーの高い天使が立ちはだかり、その圧力に怯み後ずさる。
しかし、最早彼らに逃げ場は無い。
「私のターン……では、《「根性」の頂 メチャデ塊ゾウ》をマナゾーンへ送り、呪文《巨大設計図》を発動。山札の上から4枚を表にし、その中からコスト7以上のクリーチャーを全て手札に。残りは好きな順番で山札の下へ送る……ふむ」
一気に3枚のクリーチャーが手札へ加わる。先のターンに4体ものブロッカーが手札から繰り出されたというのに、再び手札が4枚まで補充される。
「折角だ、私の相棒を見せてあげよう。バトルゾーンに5体のエンジェル・コマンド……サイフォゲート、ペルフェクト、アケルナル2体、ウェルキウスが存在する事により、彼はコストを支払わずに召喚できる。サイフォゲートから進化し、降臨せよ───」
サイフォゲートが光に包まれ姿を変える。4本の腕に剣を持つ、白き鎧の大天使。その名は──────
「《聖霊王アルファリオン》!さあ、裁きの時だよ」
アルファリオンとウェルキウスが剣を振り上げる。獣達に為す術はない、自らに振り下ろされる剣を見ている事しか出来なかった。
「浄化完了……だね」
* * *
「皆さん!逃げた連中は……あれ」
追い付いてきたサキトがそこにいた人影に気付く。
直接対面した事は数えるほども無いが、その顔は良く知っている相手であった。
「天道、アンナさん……」
「あっ先輩。やっぱりお知り合いなんですね?この人が今クリーチャーを退治してくれて」
「えっマジで!?」
「いや知らんかったんかい!」
「こないだスカウトされた後他の実働部隊メンバーとはまだ会ってなくて……まさかこの人とは」
興味深そうな表情を浮かべながら彼女がサキトへと近付いて来る。
「始めまして……じゃないね、確か前に大会で会っていたかな」
「カードショップ、クラインスペースで一度。覚えて貰ってるとは」
「活きのいい新人だったからね。では改めて」
一歩下がり、その場にいる6人を見て彼女は一礼する。
「DGA栗茶市実働部隊所属、天道アンナです。どうぞよろしく、後輩の皆」
* * *
「へー、アンナさんってここのOGなんだ!」
「ふふふ、DGAの後輩が二重の意味で後輩だったのは私も驚いたよ。それにこんな愉快な後輩達もいるなんてね」
サキトとアンナは生徒会室へと招かれ、生徒会メンバーから質問をされている。その中で、彼女が元桜龍高校在校生であった事が判明したのである。
「アンナサンのご趣味は何デスカ?」
「いやお見合いか貴様」
「ふふ、デュエマを少々……かな」
「天道さんもノらんでいいですから」
「今日はこの学校に何しに来たん?」
「後輩が私と同じく真のデュエリスト候補になったと聞いたから、一度見ておきたくてね。クリーチャーと出くわすとは思わなかったけれど」
物腰柔らかな彼女の態度はすぐに彼女達の警戒を解く。先にサキトからDGAの事を聞いていたこともあり、ドラゴン娘の事を隠さなくて良いと判断した事も大きな要因となっている。
「さっき言ってましたけど、元々お知り合いなんですね」
「知り合いというか、一度カードショップで対戦したくらいだけどね」
「天道さんは貴重な女性デュエリストで、今やその実力もあってデュエマのコミュニティでは有名になってるよ」
「対戦したっていうけどどっちが勝ったの?」
「俺の完敗でしたよ。初心者だったのを加味しても見事なボロ負けだった」
「だけど、デッキの特性を考えて迷わず踏み込んで来た……あの時の思い切りの良さは大したものだったよ」
目を細めてアンナは当時の事を懐かしむように語る。しかし……
「一皮剥けたばかりの彼が、必死になって私に向かって突き立てて来る初々しい初体験……とても喜ばしかったよ」
「いや何だその言い回しは」
「あの時もですけど、意味深に聞こえる言い回しで後輩をからかうのはよしてくださいよ」
「あはは、済まないね。君を見ているとつい懐かしくなってしまってね……」
このように、好みの後輩をからかう悪癖があった事を当時の対戦後にサキトは知っていた。
凛々しい系の美人にやられるものだから、基本男ばかりのカードゲーマー達にとってはたまったものではない。思考を乱されて討ち取られる者も多かった。
「さて、彼の報告にあったけれど、君達生徒会メンバーは皆ドラゴンの力を持っているんだったね」
「は、はい!その、時々何かの拍子に角や尻尾が出てしまって困っているんですけど……」
「そうだね、動揺や焦りによってバランスを崩してしまうのが原因の一つだろう。であれば、まずは心に余裕を持つことだ」
「余裕?」
「ああ。余裕を忘れず、日々を楽しみ、心を豊かにする。そうして精神を安定させて行けば、ドラゴン化に悩まされる事も減ってゆくだろうね」
「おお……思ったよりちゃんとしたアドバイスやった」
「ありがとうゴザイマスね、センパイ」
「なに、可愛い後輩達のためさ……さて、護守くん」
「何です?」
話を一段落させると、彼女はデッキケースを取り出し机に置く。
「久々の再会だ、折角なら一戦どうだい?」
「……今ちょっと対人戦用のデッキパーツ持ってきてませんよ?」
「対クリーチャー用で構わないよ。今回は息抜きのお遊びのような物さ」
「はあ……会長、テーブル借りて大丈夫ですか」
「あ、はい!どうぞ!」
長机を2つ横に並べ、2人が対面に座る。スマホに入れておいたコイントスアプリを使い、先攻を決めんとする。
「表!」
「裏……ふむ、護守くんが先手だね」
デッキを置き、シールドを揃え、手札を構える。2人ともその動作に淀みはない。
そうして、彼らの決闘が始まる。
「「デュエマスタート!」」
アンナ登場に伴い、キャラ設定を更新しました。