ドラゴン娘と決闘者   作:偽りの名 ニーサン

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2月といえばやはりこれ。
ちょっとばかし真面目寄りな話が続いたので息抜きになりますよう。


Exep.8:ドラゴン娘とバレンタイン

「おー、用意してきたんだ?」

「まあねー、そっちは誰にあげるの?」

「ふふふ、内緒」

 

──────2025年2月14日。

今日は年に一度の一大イベント、バレンタインデーだ。日本では誰もが知る、想い人へとチョコレートを贈る日である。

近年は意識の変化などもあり、義理チョコが廃れて来たり、友チョコや自分チョコ等が増えつつあるが……それでもやはり、男子という物は貰えるかどうかに一喜一憂してしまうものであった。

桜龍高校においてもそれは変わらず、校内全体がどこかそわそわした空気に包まれている。

 

「そう!俺も女子からチョコが欲しいのだ!」

「そっかー、頑張れ」

「反応が薄いぃっ!」

 

喚くクラスメイトの言葉をスルーして昼食に向かおうとするサキト。彼は基本、このイベントに関しては我関せずというスタンスであった。

 

「分かるか!分からんだろうなぁこの気持ち!バレンタインチョコの甘さを知らんこの苦しみが……っ!」

「今日の帰りには売れ残りがセールになってるだろうしそれを買って食ったらどうだ?」

「出来るかぁそんな虚しい真似がっ!」

「なんかで統計取ったらしいが、そもそも最近は本命チョコ贈る女子は7.7%くらいだって言うぞ。世の中貰えない方が多いんだからそう僻まんでも」

「確定で1個貰えるお前が言うと嫌味ったらしいんじゃぁぁぁぁ!!」

 

血の涙でも流しそうな表情でサキトに掴みかかって体を揺するクラスメイト。その言葉を聞いて、サキトは急にはっと気づいたような表情になった。

 

「…………そっか、今年は母さんからじゃないチョコ貰えるんだな」

「ちきしょう!去年まで碌に貰えてなかった同士だったってのに、俺とお前で何が違ったっていうんだぁぁ!?」

「顔」「品性」「力」「度胸?」

「外野はだーってろっ!!!」

「護守が付き合ってるのって水泳部の後輩だろ?蒼斬さんって子。お前も身体鍛えて不審者から女の子守れるような強い奴になればワンチャンあるかもしれんぞ」

「はっ!そうか、卒業までに身体を鍛えればきっと……あのしゅうらさんにも!」

「「「「うぬぼれるなよ」」」」

「ひでぇ!?」

 

いきなり高く果てしない望みを言い出した彼に、周囲から総ツッコミが入る。校内のみならず外部でも人気を集めるJack-Potの彼女相手に告白出来れば、それはそれで大した度胸であろうが……。

 

「まー諦めなければ何か良い事あるだろ。それじゃあ俺は昼飯の約束があるんで」

「ちくしょう!これが彼女持ちの余裕だっていうのか…………っ!」

「そーいう嫉妬剥き出しとがっつく態度止めればもっとお前もマシになるだろうに……」

 

そんないつものやり取りをどこか楽しみつつ、サキトはいつもの場所へ向かうのであった。

 

 

* * *

 

 

「先輩!∞ちゃん!ハッピーバレンタイン!」

『ありがとうしのぶ。私からも、しのぶと先輩に友チョコを持ってきたよ』

「おお、帝王坂さんからも貰えるのは予想外だったな……」

 

2学期以降恒例の食事場と化している空き教室で、サキト・しのぶ・∞の3人は昼食を摂った後にバレンタインチョコの受け渡しをしていた。

 

『先輩は頼りになる大事な友達だと思ってるよ。だからこれからもよろしくね』

「ん、ありがとう。こうして2個も貰えるとはなあ……」

「先輩、あんまり貰うた事無かと?」

「趣味が趣味だからそりゃね。それじゃあ早速頂かせて貰うよ。帝王坂さんのは市販品かな?」

『うん、自分で作る時間はあんまり無くて』

「得手不得手もあるからね。……ん、美味い」

「ほんとだ、ばりうまかよ!」

 

∞のチョコはそれなりの値段がするもの故か、中々に美味しいものであった。上品な甘い香りと味が口内を満たしてゆく。

 

『よかった。それじゃあ、しのぶのをいただくね』

「……2人ともハート型か、しのぶらしいな」

「うちの愛情ばいっぱい詰めたけん、喜んでくれるとうれしかけど……」

「手作りは初めてかな?まあよほど手間をかけるチョコ菓子とかでなければたぶん大丈夫さ」

 

そう言って、一度飲み物で口内をリセットしてから躊躇いなく食べるサキト。しのぶのチョコも奇をてらわず直球勝負、ミルクチョコの甘い味わいが口の中へ広がった。

 

「うん、美味いよ。ありがとうしのぶ、手作りチョコ貰うのなんて初めてだし、とても嬉しい」

「ほんと!?良かったぁ」

『ハート型なのはともかく、私の分も美味しい。ありがとう』

「えへへ、2人とも口に合うたごたって良かったばい」

「来月にはちゃんと2人ともにお返しするから、期待はし過ぎずに待っててくれ。……手作りはちょっと難しいけど」

「大丈夫ばい、こげなんな気持ちが大事やけんね」

『うん、楽しみにしている。さてと、後はドーラ達にもあげにいかないと』

 

サキト達のバレンタインは、こうして平穏に過ぎてゆくのであった。

 

 

* * *

 

 

「んん……よし、ゼオスさん!」

「アラ?トウリくん、それは何カシラ?」

 

1年2組の教室にて。昼休みが始まったばかりのタイミングで、生徒会室へ向かおうとしたゼオスにトウリが声をかけた。手には小さな包みを手にしており、それを渡さんとしているようだ。

 

「その、ゼオスさんの出身的にこちらから渡すのもアリかと思いまして……バレンタインのチョコです、受け取っていただけると嬉しいです」

「まあ!ありがとうトウリくん!とっても嬉しいワ!」

「それなりに奮発したので、お口に合えば幸いです」

 

女性側がチョコを渡すという形式が主なのは日本と一部アジア圏のみであり、この習慣が生まれた欧米では男女問わず恋人や親しい人に贈り物を贈る日である。

そのことを意識していたトウリは、祝日であった11日に市内の菓子店を回り、彼女に送るためのチョコレートを用意していたのだ。

2人の関係はクラス内では新たに来た1人以外には既知となっており、祝福する者、妬む者など様々な反応が見られる。

 

「あ、蟠龍っちはゼオスっちと付き合ってるんだ?」

「あ、原戸さんはまだ知らなかったっけ?そうそう、先月からお付き合い始めたんだって」

「色々と人気者な2人だから周りの反応も凄かったよねえ」

 

そう、トウリは容姿、剣道の実力、その物腰、そして実家の太さなどもあり複合的な理由で意外と女子人気もあるのである。

それを射止めたのが留学生であるゼオスというのは、意外な目で見られたものである。

 

「それでは、生徒会の皆さんと昼食や友チョコ配り合いもあるでしょうし、自分はこれで」

「あ、待ってトウリくん!朕もアナタにバレンタインのチョコレート、()()()()()()()!」

 

その言葉を聞いた瞬間、近くの生徒達が一斉に後ずさった。

 

「作っ……て、手作りです……か?」

「ええ!男の人にあげるのは初めてネ!」

「わ、分かりました……頂かせて貰います」

 

彼女が鞄から取り出した包みを受け取るトウリの額には、冬だというのに汗が滲んでいる。

 

「え……何?そんなやばたんなの?」

「ぜ、ゼオスさんはその……ちょっと料理が、ね?」

「今月は調理実習まだだもんね……原戸さんも見たらびっくりするよきっと」

 

サーヴァ・K・ゼオスは所謂メシマズである。その腕前は2組のみならず、合同で調理実習が行われる事もあり1年生全体に知れ渡っていた。当然トウリが知らない筈も無く───。

 

「……ゴクッ」

「は、蟠龍!蟠龍!骨は拾ってやるからな!」

「安心して逝け!」

「い、いいいいくらなんでも失礼じゃないか」

「声震えてんぞ」

 

色々な意味でドキドキしているトウリ。包みを開けば、見た目は普通の一口サイズに固めたチョコレートが数個出て来る。

 

「た、たぶん大丈夫ですよ……私達も作る練習の時お手伝いと指導をしたので…………!」

「それに湯煎して溶かしたチョコを型に入れるだけならそうそう失敗は……うん、せえへんよ」

「勝手にアレンジを加えていなければな……」

「微妙に安心しきれないんですが……いただきます!」

 

意を決してチョコを食べるトウリ。少し固めのチョコを口内で砕くと、独特の風味が広がり……広がり……?

 

「不味いとか食えないとかではない……んですが───なんか風味が薄い感じがします!」

「あ、アラ?何か間違っちゃったカシラ……?」

「……あっ!ゼオスさん、もしかして湯煎の時お湯を沸騰させましたか?」

「ええ、火力は正義デス!」

「明らかにそのせいではないかー!湯煎は50~60℃のお湯でやらねばチョコの風味が飛んでしまうのだぞ!?」

「あちゃー、本番もやっぱり一緒に手伝った方が良かったかもね」

 

初心者がよくやる失敗の一つである。他にも湯煎では無く鍋で直接火にかけて黒焦げ鍋を生産したりという失敗もありがちなもの。菓子作りはレシピと手順を順守する事をお勧めする。

 

「ま、まあちゃんと全部頂きますので、安心してください」

「まーゼオスっち、来年までにもっと練習して良い物作ればいーんじゃない?」

「ハイ!必ずリベンジしてみせマス!」

「不安だ……」

 

 

* * *

 

 

所変わって、栗茶市のとあるマンションにて。

 

「これは?」

「旦那のために勉強して作ったのさ!食べて、くれるかい?」

 

大学から現在住むマンションに帰ったところで、ダビッドアネキに出迎えられたリュウ。彼女に渡された包みを見て、彼は訝しげな表情を見せた。

 

「……俺が食べられるものだろうな?」

「だ、大丈夫だよ!あたしだってクリーチャー世界の食べ物では人間が食べられなかったり、嫌がる物があるって知ってるさ!ちゃんと人間世界の食材で作ったからね!」

「そうか、それは疑って悪かったな。……チョコレート?」

 

包みの中身は、丸い形状のチョコレートが多数収まった袋であった。

 

「所謂ボンボンショコラという奴か?初めてにしては出来が良さそうだ」

「旦那のために頑張ったからね」

「なら、ありがたく頂かせて貰う」

 

早速袋の封を開け、1個を口に運ぶリュウ。口内で丸いチョコレートを割ると、中からソースが流れ出て──────。

 

 

あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!?!?!??

 

 

 

──────翌日、カードショップ『クラインスペース』にて。

時間が空いたため店を訪れた天道アンナは首を傾げていた。

 

「おや?この時間に井星くんがいないのは珍しいね」

「あー、昨日彼女さんから送られた激辛ソース入りチョコを食べて救急搬送されたそうでね」

「えぇ……?」

 

何とも言えない欠勤理由に、思わず呆れた声を出してしまうのであった。当人にとっては笑い話ではないのだが、傍から聞くだけではギャグの類に思えてしまう。

 

「こんにちは護守くん。井星くんは彼女さんと仲違いでもしたのかい?」

「いやぁ……火文明の人なんで根本的な味覚の違いが原因の可能性が高いかなと……」

「あぁ……そういえばそんな事を前に言っていたね……」

「ソニック・コマンドだからってエンジンオイル入りとかでは無かった分、人間界の食文化に馴染もうと頑張ってるとは思いますがね……」

 

激辛食品は命に関わる場合もあるため、食べる際は無理は禁物である。皆も気を付けよう。




そんなこんなで三者三様のバレンタインでした。
サキト:オーソドックス。最も絡みがあるしのぶと∞からそれぞれ本命チョコと友チョコを貰う話。
トウリ:若干ギャグ。ゼオスさんがメシマズ故致し方無し。彼女の料理の腕前は本家のショート動画をチェックだ!
リュウ:オチ担当。火文明メシって火を噴く(比喩)か火を噴く(直球)かの2択というイメージがあります。南無。
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