「……?」
「どうかしたと、先輩?」
「いや……なんだか何かに見られている気がして」
──────2025年2月22日。
連休を目前にした土曜日、この日の午前授業を終えれば2日間の休みが待っていた。サキトとしのぶの2人は朝の通学路を会話しながら歩いていた。
「見られとーって、何に?どげん感じと?」
「何だろうな、若干クリーチャーっぽい気配、みたいな物を感じるような?」
「それなら、いつも使うとーアプリで分かるっちゃないと?」
「それが、クリーチャーの反応は潜んだり様子を伺っている状態だと感知しにくいみたいでさ。前も尾行されてた時は一切反応しなかったろ?」
「そういやあそうやったね」
思い出されるのは、2学期初めに秋葉原へ出かけた時の事。あの時も、クリーチャーの尾行にデュエマフォン・アプリのクリーチャー感知機能は反応しなかった。
「害意がない奴なら良いが、どうにも良くない感じの気配はするんだよな……」
「それって、ドギラゴンとひとつになったけん感じるごとなったっちゃろうか?」
「たぶんそうなのかな。ともかく、姿を現すまではこっちから出来る事は無さそうだ」
敵なのかそうでは無いのかも、ひとまず相手を見てみなければ判断は出来ない。一旦は様子を見てみる事にした。
「しのぶは今日は部活は?」
「今日は無かよ」
「それじゃあ……今日明日はうちに来ないか?」
「へっ!?」
「宿題をうちでやって、その後2日間一緒に過ごす……駄目か?」
「う、ううん、よかよ!……2日間も一緒……えへへ」
顔を赤らめ息を荒くするしのぶ。2日間のサキトとの、恋人との生活を思い浮かべ、興奮しているようだった。
「まあ何はともあれ、今日の学校も無事に終えないとな」
「うん!それじゃあ、早よ行こう!」
桜龍高校へと急ぐ2人。その後ろを、いくつかの影が追いかけてゆくのであった……。
* * *
「猫の鳴き声、ですか」
「なーんか今日はそこかしこから聞こえるんだよねー」
3時限目を終え、4時限目の行われる教室に移る最中。アーシュとメガは、今日の授業中に時折耳にしたものについて話し合っていた。
「確かに、最初は誰かの着信音とかかと思ったけど、なんか違いそうな雰囲気やんな」
「ギャイちゃんも聞いたんですか?ちょっと気になりますね……」
「うーん、校内に入り込んでるのかな?見かけたら保護した方がいいのかも」
基本警備員が見回っているとはいえ、猫はあちこちに入り込む事が得意だ。目を盗んで校内に入って来るくらいは普通にあり得るだろう。
「でも、猫の日に猫が学校に入って来るって、なんだか面白いね!」
「そういや今日は2月22日やったな……」
「すずちゃん、ドウシテ2月22日が猫の日なの?」
「にゃんにゃんという猫の鳴き声に因んでいるのだが……まあ外国の人間には伝わり辛いだろうな」
英語圏において猫の鳴き声は「mew(ミュー)」もしくは「meow(ミャオウ)」と表現される。
犬であれば「Woof woof(ウーフ・ウーフ)」、「Bow-wow(バウワウ)」と表現されたりと、猫に限らず動物の鳴き声、いわゆる擬声語の表現は言語によって異なるため、日本語の語呂合わせでは通じない事も多々あるのだ。
ちなみに「世界猫の日」というものも存在し、そちらは8月8日となっている。
「とりあえず、皆さんそろそろ移動して──────」
その時、上の階からガラスの割れる音が鳴り響いた。同時に、生徒達の悲鳴が聞こえて来る。
「何ですか!?」
「上の階からです!この感じだと、たぶん廊下から!」
「蟠龍くん!もしかしてクリーチャーなの!?」
「そうみたいです、今自分の端末にも反応が……うわ!?」
反応が上の階に、そして校内のあちこちに大量に出現している。これまで息を潜めていた者達が、一気に姿を現して来たようだ。
「数が多すぎて反応の特定が……っ!先輩からメッセージです!」
「あ、私達にも!」
「『生徒の避難誘導願います、クリーチャーは俺がグラウンドに惹き付けて一網打尽にします』やって!」
「大丈夫なのか?やたら数がいるようだが……」
「先輩のデッキであれば、恐らくは……場合によっては自分より相性が良いかもしれません」
「それじゃあ、朕たちは生徒の皆さんを体育館に集めマショウ!そのうえで、見られないように気を付けながら数を減らしてお手伝いネ!」
「よし、それで行きましょう!」
すぐさま生徒会室へ急ぎ、放送ブースから校内放送を行うアーシュ。生徒達はアナウンスに従い、体育館へと移動を始めた。アオハル組やJack-Potのメンバーもスムーズな誘導を手伝っている。
「せぇええいっ!!」
時折生徒達に飛び掛かって来るクリーチャーもいたが、それらはドーラ、ゼオス、トウリが素のフィジカルで撃退してゆく。
幸いにして、襲い掛かって来たクリーチャー達はそう強くは無く、ドラゴンの力を抑えても倒せる程度であった。
「こいつら、《ミケニャンコ》に《ニジイロ・ホラニャン》、ネコ型のファンキー・ナイトメアばかりですね」
「こやつらはどのようなクリーチャーなのだ?」
「闇文明のクリーチャーで、“動くぬいぐるみの軍団”ってところです……ネコ型ばかりなら、統率している者に心当たりはあるんですが」
「どんな相手ナノ?」
「それは……」
『にゃーっはっはっは!出て来たなドギラゴンの契約者!覚悟するがいいわぁ!』
グラウンドの方向から、クリーチャーらしき大声が響いてきた。サキトが相手と接敵したようだ。襲い掛かって来ていたクリーチャー達も、続々とグラウンドへ向かってゆく。
「っ!先輩がグラウンドに出たようです、後は皆さんの誘導を!」
「本当に先輩に任せて平気なん!?」
「この程度の相手なら、恐らくは。頼みましたよ、先輩」
* * *
「しのぶ達も誘導は終えたようだな。さて……前倒したはずのお前がなぜここにいる……《デュエにゃん皇帝》」
大量のネコ型ファンキー・ナイトメアを操り仕掛けて来たのは、2学期初めに倒したはずの《デュエにゃん皇帝》であった。今頃になって再度侵略者が襲ってくるとは。
『にゃっはっは!知らんのかにゃ?「猫に九生あり」!ワシは何度倒れようと再び蘇り恨みを晴らしてくれるニャー!』
「そりゃ迷信だろうが!闇文明は生死を操る類の術も多いとはいえなあ!」
『ともかく、リベンジをさせてもらうにゃあ!ワシらの総攻撃を受けてみいやぁ!!』
「上等だ……っ!」
今のサキトはデュエルフィールド無しでもクリーチャーを呼び出し、戦う事が出来る。念のため身を守るデュエルテクターに身を包むと、5枚のシールドが展開され彼の戦闘準備が整えられた。
「デュエル!俺のターン、王道の革命ドギラゴンをマナゾーンへ!」
『行けい、ワシの精鋭たちよ!!』
『『『『フシャァァァァアアアァアアァア!!』』』』
総勢20体のファンキー・ナイトメア軍団。《ミケニャンコ》《ステニャンコ》《センドウ・ニャンコ》《ニジイロ・ホラニャン》《ニャンダフル・ニャン》といったネコ型の小型クリーチャー達がシールドへ突撃してくる。
『こやつらであれば並のブロッカーは相討ちを取って貴様を攻撃出来るニャぁ!さあ、覚悟せいやぁぁぁ!!』
「シールドチェック!1枚目トリガー無し、2枚目ハムカツマン!G・ストライクでデュエにゃん皇帝を攻撃不可に!3枚目……よし、これで終わりだ」
『にゃにぃ?』
「シールドトリガー《光鎧龍ホーリーグレイス》!こいつを召喚し、全員タップさせる!」
『ぎにゃぁぁ!?小癪なぁぁ!!』
シールドを2枚残した状態で、光の龍が飛び出し敵群の眼を晦ませる。これで隙が生まれ、反撃の手を打つ事が出来るようになった。
「俺のターン、来い!ドローッ!!」
デッキから引いたカードは、まさにこの場面に最適なもの。決着の準備は整った。
「やたら数を揃えたのが悪手だったな。これで全員吹っ飛ばしてやる」
『にゃんだと?』
「《龍装者 バルチュリス》をマナへ送り……相手クリーチャーが21体いることにより、このクリーチャーのコストを1まで軽減!出でよ……」
炎が噴き上がり、その中から彼の持つ対多数戦のエースが姿を現す!
「──────《メガ・マグマ・ドラゴン》!登場時能力により、パワー5000以下のクリーチャーを全て破壊!」
『にゃんとぉっ!?』
「スレイヤーを持っていようが、戦闘ではなくカード効果で破壊されれば無力!加えてデュエにゃん皇帝とホーリーグレイス以外のこの場のクリーチャーは全て5000よりパワーが低い!一掃せよ!」
メガ・マグマ・ドラゴンが炎を噴き出し、一斉にネコ型クリーチャー達が焼き尽くされてゆく。混ざっていた《ニャンダフル・ニャン》は味方が破壊される度にパワーを上げる能力を持っていたが、この力は他のクリーチャーと同時に葬られては効果を発揮することは無い。
あっという間に、デュエにゃん皇帝のみが残される事となった。
『馬鹿にゃ!おのれぇぇ!』
「さあトドメだ、ホーリーグレイスでデュエにゃん皇帝に攻撃時……革命チェンジ!」
ホーリーグレイスが突撃するとともに、サキトの身体からドラゴンの像が飛び出した。翼を持たない灰色の鱗の竜は、実体化すると同時に朱い鎧と蒼い外套を纏い、七支刀をその口に咥え構える。
ドルマゲドンとの戦い以降、サキトと一体化した彼の相棒が、一時的に戦場へと帰還する──────。
「《蒼き守護神 ドギラゴン閃》!」
『行くぞ!サキト!』
桜龍高校のグラウンドへ降り立ったドギラゴンがデュエにゃん皇帝を睥睨する。ドギラゴンの降臨を許したことで、勝ち目がほぼ失われたデュエにゃん皇帝は狼狽した。
『お、おのれ……だがワシは不滅!ここでドギラゴンに斬られようとまた復活してくれるわ!』
「それはどうかな……ファイナル革命発動!デッキの上から4枚をめくり、その中からコスト6以下の多色クリーチャーを場に……よし、ドンピシャだ!」
サキトのデッキから捲られたカードから、もう1体のドギラゴンが飛び出す。奴との戦いを終わらせる切り札だ。
「《蒼き王道 ドギラゴン超》!登場時能力により、デュエにゃん皇帝!お前をマナに還元する!」
『にゃぎゃぁ!?』
「デュエにゃん皇帝の能力は、破壊された際に誘発する!だがマナへ還元してしまえば不発、そして……死ではないマナへの還元であれば、また蘇って来る事もあるまい!」
『い、嫌だニャァァァァァァ!!憎きG.O.D.も消えたというのに、ワシの野望がぁぁぁぁ!?』
そうしてドギラゴン超に一閃され、デュエにゃん皇帝は完全に消え去ったのであった。
* * *
「ふぅ、これでよしと」
多少荒れたグラウンドをドギラゴンとメガ・マグマ・ドラゴンに手伝って貰い均し終えると、4限目の授業時間が終わるチャイムが鳴り響いた。結局4限目はクリーチャーの襲撃で潰れてしまったが、まあ致し方ない。
「お疲れ様です、先輩。大丈夫でしたか?」
「おお会長。大したことは無かったよ、以前戦った奴が復活しただけだったしな」
「ええ……それ本当に大丈夫なんですか?」
「まあもう復活はできまいよ。まあ万が一また来ても倒すだけだけどな」
授業時間が終わり、土曜の授業はここまでだ。多くの生徒はこのまま帰るか、軽く昼食を摂って部活に勤しむだろう。
「それじゃあ、俺はこのまま帰らせて貰うよ。折角の連休の始まりだから、帰って楽しまんとな」
「あ、お疲れ様でした!」
こうして、この日の騒動は幕を閉じた。明日明後日の休日が潰れるような事件が無い事を願いながら、サキトは荷物を取りに教室へ戻るのであった。
作中2月22日に合わせ、デュエにゃん皇帝復活!そしてデュエにゃん皇帝散る!
コミカルなキャラゆえ多少弄っても問題無いのが強みと言えましょう。
ドギラゴンはこうして任意で出て来る事も可能であり、今後もデュエルに支障はありませぬ。
灰色の鱗は、一部デザイン画などにある装甲無しの素体ドギラゴンになります。装備なしだと結構地味というか、コモドオオトカゲみたいなドギラゴンもギャップがあって好きですな。