新たな禁断の危機が世界に迫る。
東京都・新宿区───午後0時半。
平和な春の日の最中、道行く人の誰かが『それ』に気付いた。
「あれ?都庁のとこ、何か変なモノが見えない?」
東京都庁第一本庁舎。その上部、南北2つのタワーの間に、黒い塊のような物が浮かんでいた。
遠くからでは良く見えないが、そこから何かが降っているように見える。
「あれ?ほんとだ」
「一体何が──────」
その時、スマートフォンが高い警戒音を鳴らした。2025年に入り、クリーチャー災害が表沙汰となり導入された『クリーチャー災害速報』だ。緊急地震速報と同様に、不安を煽る大きな音声が鳴り響き、近隣にてゾーン発生や危険なクリーチャーが出現した場合に警告するシステムとなっている。
「え、これヤバいんじゃ?」
「警報地域は……都庁周辺!?それじゃアレって!」
「に、逃げろ!」
都庁周辺から、人々が一斉に逃げ出してゆく。都庁からも都知事や職員たちが避難してゆく中、庁舎内にクリーチャー達が侵入し始めた。
人々がパニックに陥る中、災禍の中心…………都庁のタワー間に浮かぶ、闇の塊と呼べる何かの中。
そこに、『彼』はいた。閉ざされた暗闇の中、しのぶを拘束しながらただ、立っている。
「こげん所に連れて来て、うちばどげんする気と……?」
攫われた時は何かされるかと思っていたが、今のところ彼はしのぶを拘束した後は、何もしなかった。ただじっと、しのぶを見つめていた。
「…………ほんなこつ、先輩と…………?」
『──────』
彼は応えない。ただ、彼女を見つめ──────時折、涙を零しているようだった。
* * *
「先輩、大丈夫なんですか?」
「問題ねえ、このくらいの傷……っ!」
栗茶市役所の一室、先刻襲撃を受けたドラゴン娘達と共にサキトとトウリはいた。四肢と腹部を貫かれたサキトは病院で傷を塞いだのだが、そのままこちらへやって来ていた。
「ドギラゴンのお陰ですぐ塞がる、この程度は問題ない……っ」
「先輩、どんどん人間離れしてへん?」
「…………正直最近はドラゴン娘の皆よりもあちら寄りになってるとは思ってる」
ドギラゴンとの一体化により怪我がすぐ治ったり病気になりにくくなったのは便利ではあるが、彼の身体がクリーチャーに近付いているとも言える。今後どうなるかは未知の領域であった。
「それで、自分達がこうして集められたという事は、深刻な事態になりつつあるという事でしょうか」
「儂らは早くしのぶを助けに行かねばならぬというのに……!」
『その気持ちは分かりますが、まずは現状の説明をしなければなりません。こちらをご覧ください』
スクリーンに映像が映し出される。そこには今現在、新宿区を中心に起こりつつある異変の中継が流されている。
「こ、これは……」
『30分前、都庁にあの球状の闇が表れた後、そこから小型のイニシャルズ・クリーチャーが多数出現しています。小型とはいえ禁断の使徒、積極的に人間を襲うため危険度は通常のクリーチャーよりも高いと言って良いでしょう』
「だいぶ大事になってるでしね……」
「もうニュースにもなってるよ!都庁周辺は避難命令が出てるって!」
現れたイニシャルズ達が既に暴れ回っており、新宿の都庁周辺は既に被害が出つつある。しかも、このイニシャルズ達は徐々に行動範囲を広げようとしていた。
『あの闇の中心部からは、ドギラゴンXのクリーチャー反応が検出されました。あの内部に開いているであろう「超次元の穴」の傍に元凶たる護守隊員の平行同位体、そして攫われた蒼斬しのぶさんもいると思われます』
「でしたら、Rescueしに行くべきですわ!」
「ところで、『平行同位体』って何デスカ?」
「平行世界での同一人物、同一存在という意味合いだな。しかし、何故そんなものが唐突に?」
『そこについては、「彼女」に語って貰いましょう』
DGAスタッフがモニターを切り替えると、画面に銀髪の少女が映る。彼女の顔を知るサキトは驚愕する。
「レッドゾーンZ!?生きていたのか!?」
『……何者なの?』
「以前先輩が暴走させられた時、そして禁断の星との決戦の時に戦ったクリーチャーです。ドルマゲドンの自爆で吹き飛んだと聞いていたんですが……」
『その通り。漸く話せた、サキト』
表情に乏しい彼女ではあるが、今は心なしか嬉しそうに見える。しかしサキトの方は困惑したままだ。
「いや、いやいやあの時確かに消えたはず……どうして記憶もそのままに生きてるんだ!?」
『あの時、私は未練がましく貴方に手を伸ばそうとした。そのせいかは分からないけれど……私のマナの欠片が、貴方に触れる事が出来た。そうしたら、その欠片と共に私は貴方にしがみ付く事が出来た。殆ど消えかけの状態だったけれど』
そう言われたサキトは、当時の事を思い出す…………確かに、彼女が最期を迎えた時、赤い光の粒子がサキトに触れていた覚えがある。
「───あの時かぁ……」
『その後は、より適した依り代として、マナで動く貴方のバイクに引き込まれて……こうなった。声が発せられるようになったのはつい最近で、自力でバイクを動かせるようになったのは今朝の事』
「たまにノイズが走って名前を呼ばれた気がしたのもそのせいか!」
「い、今は味方、なんですよね……?」
『今はサキトの、そして人間の味方。気軽にゼッちゃんとでも呼んで欲しい』
「思いの外軽いなオイ」
ジョークのつもりであろうか妙な事を言いだすレッドゾーンZ。スタッフが咳ばらいをすると、本題に入り始めた。
『今日の未明、今報道されているあの場所に、超次元の穴が開いた。そこから「あちら側」のサキトが侵入してくると共に……私に謎のメモリーが流れ込んで来た。推測ではこれは「平行世界の記憶」』
「……まさか、俺が今朝見た夢も」
『恐らく同じ現象が起きている。どのような夢だった?』
『先輩は、しのぶを殺してしまった夢だって言っていたけれど』
『それなら間違いなく、私と同じ平行世界の……つまり、あそこに居るあちら側のサキトの記憶になる』
「でもそれなら、ワタシ達他の人間にもその記憶やヴィジョンが見えてもおかしくは無いはずよ?」
『それはあり得ない。なぜなら──────』
『あちら側は、サキト以外の人類も地球も──────残っていないから』
* * *
『オォォオオォオオォオォッ!!』
2024年12月24日。地球衛星軌道の内側にて、禁断の星が爆発を起こし……超巨大なクリーチャー、《終焉の禁断 ドルマゲドンX》が姿を現す。
本来阻止するはずであったDGAの実働部隊員達は、最も同化戦闘に熟練していた護守サキトが敵側に回った事、そして禁断の使徒達による襲撃で戦力を減らされていった事により……迎撃作戦に失敗する。
『──────』
『これで終わり。この星は、終焉する』
ドルマゲドンXの巨腕が、地球へと振り下ろされる。直撃した街は、発生した高熱と衝撃波により瞬時に吹き飛ばされてゆく。
腕が核へと到達すると、地表の各地から灼熱のマントルが噴き上がり、世界の全てが焼かれて行き──────大爆発を起こした。
世界最後の日。禁断の到来により、地球は…………その宇宙から消え去った。
『次は何処の星、どんな生命体を───』
『グ、オォ!?』
地球を破壊し、再び休眠状態へ入ろうとしていたドルマゲドンに、突如として異変が起こった。四肢と頭部の禁断コアが突然弾け飛ぶ。そして、身体の内部から光が漏れ出し…………正中線に沿って、
『これ、は──────!?』
『──────!!』
ドルマゲドン自身が、大爆発を起こさんとする。その瞬間、禁断の執念故かそれとも偶然か──────禁断コアの破片、赤い結晶体がサキトへと幾つも突き刺さる。
『ガ、ァアァァァッ!!』
『ドギラゴ──────』
そして、全てが光に包まれ…………ドルマゲドンXは爆発、消失した。
自らの生命以外、全てを失った──────『護守サキト』を残して。
* * *
『流れ込んできた記憶は、ここまで。恐らくその瞬間に超次元の穴が開き、あちら側のサキトがこちらにやって来た。多少、時間軸にズレは生じたようだけれど』
「何でそのドルマゲドン?ってのは爆発したん?内部から斬られたって言ってたけど」
『推測では、こちら側でドルマゲドンXが打ち破られた事が原因。サキトがドギラゴールデンの力でドルマゲドンXを真っ二つにした瞬間、平行世界の壁を越えてあちら側にその影響が波及したと思われる』
「そんな事、あり得るの?」
「まあ、超獣世界においては前例は一応ありますね…………終末王龍大戦の折に。一王二命三眼槍なら、それについても直に見た事があるはず」
王来篇の最終決戦、最強最悪の『ディスペクター』《
『鬼の歴史』側でバラモルドを打ち破った鬼槍の主──────デモニオの王『ジャオウガ』の一撃が、平行世界の壁を穿ち『龍の歴史』側のバラモルドに影響を及ぼしたのだ。
それと同じ事が、『こちら』と『あちら』のドルマゲドンXに起こったのだろう。
「あちらの先輩に刺さっていたあの赤いCrystalは、あのドルマゲドンの核の破片なのですわね」
「奴の生命力の源であったのならば、ドギラゴン同士のぶつかり合いで奴のみが無事行動出来たのも当然というわけじゃな」
「幾つかの破片が刺さっているってことは、奴を倒すには破片全てを破壊する必要もあるって事か」
『それにしても、何故あちらの先輩は正気に戻れず、しのぶを手にかけてしまったの?』
『そこについての記憶も見れた。どうやら、あちら側では蒼斬しのぶに別のドラゴンの力を付与した装備が作られなかったみたい』
「…………なるほど、確かにあれ無しでは先輩を正気に戻す手が足りなかった可能性はありますね」
萱野シンヤが開発を主導したであろう、『ドラゴニックエンチャンター』。あれがもし存在しなければ、こちらの世界も同じ運命を辿っていたかもしれないのだ。それはつまり──────。
「…………つまり何だ、しのぶとコスプレ[封印]してなかったせいであっちの世界が滅んだって?」
「ぶっ!?」
「なななななに言ってるんですか先輩!?」
「認めたくないけど、あのアイテムの開発経緯にそれが深く関わってるんだよ…………っ!!」
「やだなあ[封印]が世界の命運を左右するとか!」
「あ、愛が世界を救ったっていう美談にしておけばセーフだと思うわ…………たぶん」
物は言いようである。
『さて、では本題に戻りましょう。現在新宿に出現した超次元の穴から出現するイニシャルズ達は、周辺の区に行動範囲を広げつつあります。これらを排除するためには、イニシャルズ達の統率者であろうドギラゴンX……あちらの護守隊員の撃破が必要となると推測されます。我々DGAは侵攻を食い止めていますが、敵の最終目的が何であれ攻勢に出なくてはなりません』
「具体的には?」
『最優先すべきは球状の闇内部へと人員を辿り憑かせる事。故に、少数の人員による一点突破作戦となるでしょう。人員は護守隊員と蟠龍隊員、そして新宿区担当の実働部隊員による陽動を想定しています。各自治体の守りをおろそかには出来ないため、都内の実働部隊員は各自治体から1名ずつ侵攻の阻止に回っており、それ以上の人員追加は現状難しいでしょう』
「成程……」
「──────その作戦、儂らも加わりたいのじゃが、構わぬか?」
ドーラが口を開く。彼女と周りに座るアオハル組の皆は、既に覚悟を決めた面持ちであった。
「一応一般人の皆さんを巻き込む訳には……と言いたい所ですが、こればかりは言っても聞いてくれないでしょうね」
『しのぶは大事な友達だから、自分達で助けに行きたい』
「ええ、指を咥えて見ているだけなんて、
「我が輩達の力を見せてやるでし!」
「借りも返してやらねば気が済まぬ。決して足手纏いにはならぬから、儂らも共に戦わせてくれ!」
『……成程、了解しました。そうなると、護衛の人員は増やす必要がありますね』
ドーラ達が参加を決めた事により、生徒会メンバーとJack-Potの面々も互いに顔を見合わせ頷いた。彼女達も共に戦うつもりだ。
「私たちも、出来る限り力になります!ドーラさん達の為に!」
「わ、私は応援くらいしかできないかもしれないけど……皆さんの助けになるなら!」
「……ねえ、DGAの開発してるものに、何か良い物ある?」
「原戸さん?」
「せっかく皆あげあげなのに、あーしも何かしないのはなしっしょ。なんで、シューラっちを抑えられる系のなんか無いかなって」
『……開発部から、短時間であればクリーチャーの制御を可能とする道具の試作品は提出されています。データ取りとしても有用かもしれません、一時貸与しましょう』
「やった。それじゃあ蟠龍っちに生徒会の皆、なるたけがんばるからよろー」
皆の意志は固まった。平行世界よりの侵略に立ち向かう戦いが、始まろうとしている。
「──────必ず助け出す。無事でいてくれ、しのぶ…………」
バトルものにおいて東京は碌な目に合わない、皆知ってるね!新宿がえらい事になっていますがまあ良くあることです。
次回、戦いの火蓋が切って落とされる!