それはそれとして中々に強いのではないか?
再び相対する2人のサキト。果たして向こう側のサキトの目的とは。
「──────っぶはぁ!?」
漆黒の闇の中、サキトとアオハル組の4人はようやく視界が機能する空間に出た。黒い球状の空間に突入したところで、水中に飛び込んだかのような抵抗を感じ呼吸が苦しくなり……そのような感覚が10秒ほど続いたところで、この場へと出て来れたのだ。
「何でしかここは、妙に息苦しいでし……っ」
「泥のpoolに浸かっているようですわ……」
「闇と水のマナが空間に満ちているみたいだな……皆はドラゴン化を解かないように気を付けて」
闇のマナは、適性の無い人間が触れれば身体に悪影響を及ぼす。命を脅かされる危険性もあるだろう。クリーチャーの力を持つ彼女達でなければ、この空間に入る事すら出来ないはずだ。
『そのマナをこの空間に蓄積させているのは、何か目的があるのかも』
「彼奴の目的が何であれ、儂らはしのぶを助け出し彼奴を倒さねばならぬ」
「先輩、しのぶの居場所は分かりますの?」
「……いかんな、デュエマフォンで反応が拾えない。空間内のマナが濃すぎるせいか」
「うむむむ……げひ?何か妙な感覚がするでし」
「何だって?」
マロンが目を瞑ってその感覚に集中すると、この空間に漂うだけのマナとは全く異なる物を感じ取る。それに従い、彼女は指で上方を指した。
「あちらの方向から、固まった強い力を感じるでし!」
「Good job!お手柄ですわマロン!」
「宿禰さんの持つロマネスクの力か……?何にせよ、向かうべき方向が分かったのはありがたい!」
「よし、行くぞ皆!」
《龍仙ロマネスク》はマナの流れを操り、大地へと流す力を持つドラゴン。その力の応用により、空間内のマナとしのぶ及びサキトが持つマナを識別する事が出来たのだろう。
水中を泳ぐように、5人は闇の中をマロンが指した方向へ進んで行き……数分と経たないうちに、開けた広間のようになった場所へ出た。
『はぁ、はぁ……ここは?』
「先輩、∞ちゃん!皆!」
「っ、しのぶ!!」
「無事か!?」
マロンが感じ取った通り、そこにはしのぶがいた。空間そのものに縛り付けられているかのように固定され、身動きが取れずにいるようだった。
そしてその隣に、もう1人のサキトが立っている。ドギラゴンXの鎧を今は解除しているためか、胸と両脚に突き刺さった宝石が露出しており──────両腕に、砕けた宝石の破片が覗いている事にもサキトは気付いた。
「うぬの目的が何かは知らぬが、しのぶを解放して貰うぞ!」
『───こと、わる。彼女は……連れて行く。そして、世界をゼロにする』
「ふざけるなよ……お前の目的は、っ!?」
『先輩、どうしたの?』
サキトが頭を抑え、膝を付く。そして同時に『あちら側』のサキトも頭を抑える。2人のサキトの間で、何かが起こっているのは間違いなかった。
「ぐっ、大丈夫……奴の目的は……っ」
「何か感じ取ったでしか!?」
「いや……奴との記憶の共有が起こったみたいだ……っ!」
「彼のpurposeが分かりましたの!?」
「ええ、奴は……」
その瞬間、彼らの居る空間自体が揺れ動き始めた。
「な、なんが起こっとーと!?」
『───間もなく、全てが終わる』
「なんだと!?」
「奴の目的はただ一つ。あの超次元の穴から流入させた、この空間に満ちるマナを収束させて──────」
『あちら側』のサキトの掌の上に、マナが集まってゆく。あの球状の闇すべてのマナが1点に集まれば、計り知れないエネルギーを生み出すだろう。それを──────。
「この星の核に撃ち込み、全てを吹き飛ばす気だ!ドルマゲドンがそうしようとしたように──────!」
* * *
「……!?何だ!?」
「どうしたんですか!?」
「あの黒い球体……少しずつ縮んでいる……!?」
「……なんだか、嫌な感じ」
「あっ!?蟠龍くん、見てください!」
「会長?何を……何だ、あれ!?」
「なんか、渦巻いてるみたいに見えるね……」
まず地上で歌い続けるJack-Potと、それを護衛するテルタカがその異変に気付く。続いて、展望室で戦い続けるドラ娘生徒会とトウリ、初もそれに気付いた。
『緊急連絡!目標地点のマナ濃度が変動中!1点に集中するように流れ始めています!』
「どういうことですか、っぬうぁあ!」
『中心部の状況が観測不能となっており、詳細は分かりませんが……何らかの危険な動きである事は間違いありません!』
「く、こっちも戦闘で手一杯です……っ!」
応援に行けるものなら行きたいが、フィールド内各地に散らばっていた《轟音 ザ・ジェットV》が彼らを足止めするべく集結して来ていた。
「頼みますよ、先輩……っ!」
* * *
「彼奴の目的は、世界を滅ぼす事だと!?」
「間違いない。禁断の使徒にされ、精神を汚染されている奴の目的は、ドルマゲドンのそれと同じとなっている!」
「ど、どうするでしか!?どんどん掌に集まっている力が強まってるでしよ!」
『まずいね、こうなるとマナ自体をどうにかするしか無さそうだけど……』
「そげん方法、どこしゃぃあると!?」
超次元の穴を通し、平行世界から供給された莫大なマナがこの空間には満ちている。攻撃して妨害しようものなら、収束中の不安定なマナが解放され全員吹き飛ばされるかもしれない。
「くそ、打つ手は、打つ手……は……」
打開策を絞り出そうとして周囲を見回し……ふと、サキトの目はジュラ子を見て止まった。
「……あぁっ!あった、かもしれないっ!リューバーさん!」
「What's up!?ジュラ子がどうかしましたの!?」
「イチかバチかですが、ドラゴンの力を解放してください!全力で!今すぐに!」
「わ、分かりましたわ。ジュラ子、full powerで行きますわよ!!はぁぁああぁあっ!!」
サキトの指示に従い、ジュラ子がその身に宿す《超竜バジュラズテラ》の力を解き放つ。瞬間、炎が空間内を奔り──────。
『───っ!?何だ……?』
『あちら側』のサキトが収束していたマナが……いや、それのみならず、空間に満ちていた闇と水のマナ全てが掻き消えていた。
「おおっ!?息苦しい感じが消えたでし!」
『何が起こったの?』
「リューバーさんのドラゴンの力……《超竜バジュラズテラ》は、強烈無比で豪快な能力を持っています。それが起動したお陰で、ひとまずの危機は去った……っ!」
「どういう事だ!?」
『──────そう、か。超竜、バジュラズテラの能力……』
「『全てのプレイヤーの、ドラゴンではないカードを全て、マナゾーンから墓地へ送る!』」
そう、バジュラズテラという、ドラゴン以外のクリーチャーを使うデッキにとって天敵となり得る力。相手を機能不全に陥らせる事も多々ある、強力なマナ破壊の能力だ。
この空間に存在していたマナ全てが、その力によって消滅したのだ。再び同じように地球を破壊するマナを溜めるには、今暫くの時間がかかる!
「ひゃぁあっ!?」
「『しのぶ!』」
『──────!』
マナが消え去り空間が不安定になったためか、固定されていたしのぶが解き放たれ……闇の球体の消失と共に空中に投げ出され、落ちてゆく。あちらのサキトが手を伸ばしたが掴み切れず──────サキトと∞が、彼女を救うべく飛ぶ。
ゲンムエンペラーの黒い翼が、そして、ドギラゴンの炎の翼が2人の背に広がり、タワーの間を落下していくしのぶの両手を…………掴んだ!
『しのぶ、大丈夫か!』
『無事で良かった……』
「先輩、∞ちゃん!来てくれるって、信じとったばい!」
3人は空中でしっかりと抱き合う。救い出したことに安堵するが、まだ安心できる状況ではない。
「あっ!先輩、後ろ!」
『うぉっ!?』
『──────!!』
あちら側のサキトが襲い掛かって来たのを、身体を捻りギリギリで躱す。目的は一時挫かれたとしても、そのまま終わる気は無いようだった。
『帝王坂さん、しのぶを両タワーの間に降ろしてやって欲しい!』
『分かった、先輩は?』
『奴を迎撃する!』
「儂らも手伝おうぞ!」
ドーラ達も自力で空を飛び、サキトと合流する。彼女らもドラゴンの力を使う事で飛行が可能なようだった。飛行型の敵が別の個所に引き付けられている今が好機であろう。
『く……っ、奴が紺青色の光を纏っている間は触れないで!戦った相手を葬る能力が付与されているっ!』
「先に∞を倒した力か!分かった!」
「我が輩はあれと戦うのは難しいでしが……あの穴を閉じれないか試して見るでし!」
「ジュラ子はマロンをsupportしますわ!」
サキトとアオハル組がそれぞれの役割に分かれ、あちらのサキト───ドギラゴンXに相対する。奴はすぐさま紺青の光を纏い、突撃して来る!
「ぬぅうっ!?く、どうした護守サキト!動きが鈍いぞ!」
『さっきからこいつの記憶が流れて来て、頭が痛くて仕方ないんですよ!っどわぁっ!?』
頭痛に耐えながらサキトはドギラゴンXの攻撃を回避し続ける。彼の頭の中には、あちらの記憶がフラッシュバックし続けて行く。
『ぐ、ぅ──────っ』
『条件はあっちも同じのようだが、禁断の力に突き動かされてるせいか動きが鈍らない!』
「ええい厄介な!」
ふっ、と、紺青の光が消え、その隙にサキトが《王道の革命 ドギラゴン》の鎧を纏った状態で殴り付ける。同化状態の戦闘では最初からシールドが存在しないため、この形態は常にフルスペックで戦う事が出来る!
『しかし、なんだこいつの記憶は……っ、ほぼしのぶの事しか流れて来ない!』
あちら側のサキトとの接触で垣間見える記憶は、ほぼ全てがしのぶとの思い出ばかり。古い記憶、それも他の人間に関わる記憶が殆ど見えてこない。
いくら精神をやられていると推定されるにしても、記憶が擦り減り過ぎている。
『それに、こいつはどうやってスレイヤー付与を使っている……っ!?』
「どういう事だ!?」
『ドギラゴンXの力、戦闘した相手を葬る能力の付与は本来「自身の手札を捨てた時」に発動するもの。手札が存在しない野良クリーチャーやクリーチャー憑依状態、そして同化状態では本来使えない筈!』
「だが現に使ってくるではないか、ぬああ!?」
そう、ドギラゴンXの力は本来コストが伴う。それを扱っている以上は、何かを代わりに消費しているはずなのだ。
『──────砕く』
『まずいぞ、また来───っ!』
頭痛が酷くなる。そして同時に──────流れて来る記憶に、虫食いが生まれ始めた。
『(記憶……知識、手札──────そういう事か!?)』
「ぬぅうっ!何か分かったのか!?」
『ああ、奴は碌でも無い呪いをかけられてる。奴を禁断の使徒に変えた、ドルマゲドンの奴によるものだろう……』
スレイヤーの能力を付与し、猛攻を仕掛けてくるあちらのサキトをかろうじて回避し続けながら、サキトが自らの推理を口にする。それは、極めて悪意的な代物だった。
『奴は、能力の代償として自身の記憶を──────それも、親しかった人間に関わる物を優先して、消去されているんだ!!』
デュエマにおいて、そして前身たるMTGにおいて、手札は「プレイヤーの知識」とされています。
「知識」や「記憶」といった「頭脳」に関わる名前を持つカードが水文明には多く、叡智を司る文明というイメージの元となっています。
そしてそこから、手札を自ら捨てる=不要な知識や記憶を切り捨てる、というイメージになりこうして盛り込みました。